【親子問題】生活費を一切入れない子に、家賃を請求することはできる?
この記事は、成人して収入のある子が、親の持ち家などで同居している場面を前提にしています。未成年の子や、心身の不調などで働くことが難しい子の場合は、考え方が変わります。
成人して働いている子が、実家で暮らしながら家に生活費を入れていない。食費も光熱費も親が払い続けていて、そろそろ負担を求めたいと思いながら、言い出すと機嫌を損ねそうで先送りにしている。こうしたご相談は、親子問題の中でも珍しくありません。
この記事では、働いている成人の子に家計の負担を求めることが法律上どう位置づけられるのかを確かめたうえで、切り出す前の準備、話し合いの進め方、まとまらないときに取れる手段を順に整理します。
働いている成人の子に、家にお金を入れる義務はあるのか
まず前提として、法律の側から見た関係を確認しておきます。結論から言えば、「家にお金を入れる義務」が法律で直接決まっているわけではありません。ただし、親が子の生活費を負担し続けなければならない義務があるわけでもありません。
扶養義務は「必要な側」と「余力のある側」の関係
民法では、親子は互いに扶養する義務を負うとされています(民法877条1項)。もっとも、これは一方が自分の力では生活できず、他方に援助する余力があるときに問題になる義務です。子が働いて収入を得ているのであれば、親が子の生活を支えなければならない理由は、通常はありません。
反対に、親の側も、自分の収入や年金で暮らせている限り、子に扶養を求める立場にはなりにくいといえます。つまり、働いている子との同居で起きているのは、扶養の問題というより「一緒に暮らすための費用をどう分けるか」という共同生活の分担の問題です。扶養義務の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかでも解説しています。
取り決めがなければ「約束違反」にはならない
同居を始めるときに生活費の分担を決めていなかった場合、子がお金を入れていないことは、法律上の約束違反にはあたりません。子の側から「親が出してくれるものだと思っていた」と言われることもあり得ます。
また、親が自分の家に子を無償で住まわせている関係は、一般に「使用貸借」(民法593条)と整理されます。使用貸借では、住む側は建物の通常の必要費を負担するとされています(民法595条1項)が、どこまでが「通常の必要費」かは家庭の事情によって幅があり、そこから直ちに毎月の生活費の支払いを求められるわけではありません。
そのため、現実的な出発点は、これから先の分担を話し合って決めることになります。過去の分をさかのぼって請求するよりも、今後のルールを作るほうが、親子関係にとっても負担が少なく済むことが多いといえます。
切り出す前に整理しておきたいこと
話し合いがうまくいかない理由の一つは、「お金を入れてほしい」という気持ちだけが先に出て、何にいくら必要なのかが伝わらないことです。切り出す前に、次の点を手元で整理しておくと、話の筋が通りやすくなります。
| 整理しておくこと | 確認の内容 |
|---|---|
| 家計の実額 | 食費、水道光熱費、通信費、日用品などのうち、子の分にあたる金額の目安 |
| 住まいの費用 | 住宅ローンや固定資産税、修繕費など、家そのものにかかっている費用 |
| 求める目的 | 家計の負担を公平にしたいのか、将来の独立に向けた練習にしたいのか |
| 親が担っている家事 | 食事の用意、洗濯、掃除など、子の分まで親が引き受けていること |
| 夫婦・家族の方針 | もう一方の親や、ほかのきょうだいと考えが一致しているか |
とくに大切なのは、もう一方の親との方針をそろえておくことです。一方が負担を求め、もう一方が「無理に言わなくてもよい」とかばう形になると、子はかばう側に頼り、話し合いが進みにくくなります。夫婦で考えが分かれている場合の整理は、【親子問題】夫婦で方針が割れる|一方の親が子をかばうときで取り上げています。
どう切り出すか|話し合いの進め方
ここからは、実際に子に話を持ちかける場面での進め方を見ていきます。
落ち着いて話せる時機と場所を選ぶ
口論の直後や、子が仕事で疲れて帰ってきた直後は、どうしても感情的なやり取りになりやすいものです。「来週の休みの日に、家のお金のことで少し話したい」と前もって伝え、時間を取ってもらう形にすると、子も心づもりができます。家族全員で囲むような場にすると、子が責められていると受け止めることもあるため、話す人数にも配慮が必要です。
気持ちではなく、数字で伝える
「いつまで甘えているのか」といった言い方は、子の反発を招きやすく、肝心の中身が伝わりません。準備した家計の実額をもとに、「食費と光熱費で、あなたの分は月にこのくらいかかっている」と具体的に示すほうが、受け止めてもらいやすくなります。子の働きや努力を認める一言を添えることも、話し合いを続けるうえで意味があります。
金額と名目、支払い方を決める
金額は、いきなり実費の全額を求めるのではなく、子の収入や貯蓄の目標も聞いたうえで、段階的に引き上げる形も考えられます。支払いの日と方法(手渡しか、口座への振込か)も決めておくと、うやむやになりにくくなります。
なお、名目を「家賃」として住まいの対価を受け取る形にすると、使用貸借ではなく賃貸借と評価される余地が出てきます。賃貸借になると、住む側の権利が強く保護される場面があるため、同居を将来どうしたいのかも踏まえて名目を選ぶことが望ましいといえます。迷う場合は、生活費の実費を分担するという形にとどめておくのが一つの考え方です。
決めたことは書面に残す
話し合いで決まったことは、簡単なものでもよいので書面にしておくと、後になって「そんな約束はしていない」という食い違いを防ぎやすくなります。親子間の書面が持つ意味と限界については、【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界で解説しています。
話し合いがまとまらないときに取れる手段
話し合いを持ちかけても応じない、約束しても払われない、といった状況が続くこともあります。その場合でも、いきなり家から出ていくよう求めるのではなく、段階を踏んで考えることが大切です。
親が代わりに払っているものを本人に移す
携帯電話の料金や各種のサブスクリプション、保険料などを親が払っている場合、これらを子の名義や子の口座からの支払いに切り替えることは、親の側で進めやすい方法です。生活費を「入れてもらう」のではなく、「親が負担している分を減らす」という発想です。具体的な手順は、【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るかや【親子問題】子の携帯料金やサブスクを止めたい|名義と契約の整理を参考にしてください。
同居そのものを見直す
負担の話がどうしても進まない場合、同居を続けるかどうかを考えることになります。使用貸借は、期間や目的を定めていない場合などに解除の余地があります(民法598条)。ただし、親子間では、同居の経緯から黙示の目的が認められるかどうかなどが争われることがあり、解除が認められるかは事案によって異なります。また、同居を続けながら裁判で退去を求めることは、家族にとって大きな負担になります。
この点については、【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで詳しく整理しています。なお、鍵を替えて締め出す、荷物を外に出すといった実力での対応は、自力救済として問題になるおそれがあります(【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界)。
現実には、裁判で争うよりも、子が自分で住まいを借りて独立する道筋を一緒に描くほうが、親子双方にとって落ち着いた形になることが多いといえます。独立までの段取りは、【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順をご覧ください。
暴言や物に当たる行動が出ているとき
お金の話をきっかけに、大声を出す、物に当たる、手を上げるといった行動が出ている場合は、話し合いの進め方より先に、家族の安全を優先する必要があります。記録の残し方や相談先については、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録で解説しています。また、生活費を入れないだけでなく、親に金銭を求めてくる状況であれば、【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけもあわせてご覧ください。
弁護士が間に入るという選択
親子の間では、どうしても過去の経緯や感情が絡み、親が直接話すほど話がこじれてしまうことがあります。弁護士が親の代理人として間に入ると、家計の負担や同居の今後について、第三者の立場から筋道を立てて子に伝えることができます。
当事務所では、親子問題について、自立支援カウンセラーとチームを組んで対応しています。弁護士が親の側の窓口となって要求や衝突を受け止める一方、カウンセラーが子の住まい探しや仕事、日々のお金の管理などを支え、子が実家を出て暮らしていけるよう伴走します。親と子がそれぞれ自分の生活を立て直すことを目指す取り組みです。サービスの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
よくあるご質問
これまで入れてこなかった生活費を、さかのぼって請求できますか
同居を始めるときに分担の取り決めをしていなかった場合、過去の分をさかのぼって請求することは難しいことが多いといえます。これから先の分担を決めることに力を注ぐほうが、現実的です。
子の給料の額を確かめてもよいですか
成人した子の収入は、本来は子自身が管理するものです。金額を決める目安として子に尋ねることは差し支えありませんが、給与明細や通帳を無理に見るといった方法は、関係を悪くするおそれがあります。子が答えない場合は、家計の実費をもとに金額を示す形が考えられます。
お金を入れないなら、食事や洗濯をやめてもよいですか
成人した子の家事を親が引き受け続ける法律上の義務はなく、親の負担を減らすために見直すことは一つの選択です。ただし、話し合いの前に一方的にやめると、対立が深まることもあります。「生活費を分担しない場合は、自分の食事や洗濯は自分でする」といった形で、話し合いの中で選択肢として示すほうが、受け入れられやすくなります。
まとめ
- 働いている成人の子について、親が生活費を負担し続けなければならない義務は通常ありません。
- 同居の費用の分担を決めていなかった場合、まずは今後の分担を話し合って決めることが出発点になります。
- 切り出す前に家計の実額と夫婦の方針を整理し、気持ちではなく数字で伝えることが大切です。
- 決めたことは書面に残し、名目を「家賃」にするかどうかは同居の今後も踏まえて選びます。
- 話し合いがまとまらない場合は、親が負担している費用を本人に移すことや、独立に向けた段取りを検討します。
家にお金を入れてほしいという話は、親にとっては当然の願いでも、子にとっては生活の見直しを迫られる話でもあります。言い出しにくさを抱えたまま負担を続けるよりも、早い段階で状況を整理し、親子それぞれが無理のない形を探していくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


