【親子問題】子に渡したお金を生前贈与として扱うことはできる?
成人した子への仕送りを止めると伝えたところ、子から「それなら生活保護を申請する」と返されることがあります。親としては、子を突き放してしまったような気持ちと同時に、「役所から何か言われるのではないか」「結局は仕送りを続けるよう求められるのではないか」という不安を抱えやすい場面です。
この記事では、仕送りを止めた後に子が生活保護の申請を口にしたとき、親の立場で押さえておきたい法律上の位置づけ、扶養照会への向き合い方、子への伝え方を順に整理します。
生活保護の運用は、厚生労働省の通知や各自治体の福祉事務所の判断によって細部が異なります。本記事は2026年10月時点で確認できる法令と通知をもとにした一般的な説明であり、個別の結果を保証するものではありません。
まず確認したいこと|生活保護の申請は子自身の権利
生活保護は、生活に困窮する人に最低限度の生活を保障するための制度で、申請に基づいて始まるのが原則です(生活保護法7条)。成人した子が自分の判断で申請することは、制度が予定している正当な行動であり、親が止めたり許可を出したりする性質のものではありません。
そのため、子の「生活保護を申請する」という言葉を、ただちに親への脅しと受け取る必要はありません。働けない事情や住まいの問題を抱えている子にとっては、仕送りに代わる生活の土台になり得る選択肢です。一方で、仕送りの再開を迫る言葉として持ち出されている場合もあり、どちらの意味合いが強いかによって親の対応は変わってきます。
親として気になるのは、多くの場合、次のような点ではないでしょうか。
- 福祉事務所から親に連絡が来るのか。
- 親が仕送りを続けるよう求められるのか。
- 仕送りを止めたことが、子の申請や親の立場に不利に働くのか。
- 子が実家に戻ってくると言い出したらどうなるのか。
以下、この順に見ていきます。
成人した子への仕送りは法律上の義務なのか
民法877条1項は、直系血族と兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があると定めており、親子の間には子が成人した後も扶養義務が残ります。ただし、扶養義務には強さの異なる2つの種類があると考えられています。
| 種類 | 主な関係 | 義務の内容 |
|---|---|---|
| 生活保持義務 | 夫婦、親と未成熟の子 | 自分と同じ程度の生活を保障する |
| 生活扶助義務 | 親と成人した子、兄弟姉妹など | 自分にふさわしい生活を維持したうえで、余力の範囲で援助する |
成人して働く力のある子に対する親の義務は、一般に後者の生活扶助義務にとどまると解されています。親自身の生活を切り詰めてまで仕送りを続けることが法律上求められているわけではなく、仕送りをいつ、どのように止めるかは、基本的には親が判断できる事柄です。扶養の程度や方法について当事者の話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所が双方の事情を考慮して定める仕組みになっています(民法879条)。
もっとも、子が学生である、病気や障害で働くことが難しいといった事情があれば、扶養の程度について別の考え方がとられることもあります。扶養義務の範囲については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。
扶養照会は親にどう届くのか
生活保護法4条2項は、民法上の扶養義務者による扶養は保護に「優先して」行われると定めています。これは、親族の援助が受けられるならそれを先に生活にあてるという考え方を示したもので、親族の援助を受けられないことが、保護を受けられない理由になるわけではありません。
子が申請すると、福祉事務所は扶養義務者に援助できるかどうかを確認するため、文書で問い合わせることがあります。これが扶養照会です。2021年の厚生労働省の通知では、扶養義務の履行が期待できない人には照会を行わない運用が示され、その例として、おおむね70歳以上の高齢者である場合、一定期間(例えば10年程度)音信不通である場合、相続などをめぐって著しく関係が悪化している場合、虐待などの事情がある場合などが挙げられています。
ただ、最近まで仕送りをしていた親は、援助の実績がある扶養義務者として、照会の対象になる可能性が高いと考えておいたほうがよいでしょう。
「援助できない」と回答してもよいか
扶養照会への回答は、援助の可否とその理由を記入する形式が一般的です。親自身の生活に余裕がない、仕送りを続けてきたが限界に来ている、といった事情があれば、援助できないと回答することは可能です。親が援助を断ったことだけを理由に、子の申請が認められなくなるわけではありません。
回答の際は、これまでの仕送りの金額や期間、止めた理由を簡潔に書き添えておくと、福祉事務所が事情を把握しやすくなります。子との間で暴言や金銭の要求が続いている場合は、その事実を伝えておくことも考えられます。
お金以外の支援という選択肢
扶養照会の書式には、金銭的な援助のほかに、連絡を取る、困ったときに相談に乗るといった精神的な支援ができるかを尋ねる欄が設けられていることが多くあります。仕送りは止めても、定期的な安否確認は続けたいと考えるのであれば、その旨を記入しておくのも一つの方法です。
援助を続けると回答した場合
親が一定額を援助すると回答した場合、その援助は子の収入として扱われ、原則としてその分だけ保護費が減ります。子の手元に残る金額は大きく変わらないため、親の負担だけが続く形になりやすい点は、回答の前に考えておきたいところです。
なお、生活保護法77条には、扶養義務者が負うべき扶養義務の範囲内で、保護にかかった費用を自治体が徴収できるとする規定があります。十分な収入や資産がありながら援助しない場合に問題となり得るものですが、親の生活に余裕がない範囲まで負担を求める趣旨の規定ではありません。
同居しているか、実家に戻るかで変わる点
仕送りは子が別に暮らしていることが前提ですが、仕送りを止めた後に子が「実家に戻る」と言い出すこともあります。生活保護は世帯を単位として要否を判断するのが原則で(生活保護法10条)、同じ家で生計を共にしていれば、親の収入や資産も含めて判断されるのが通常です。
同居したまま子だけが保護を受ける「世帯分離」は例外的な扱いで、認められる場面は限られています。子の申請を前提に考えるのであれば、親子が別に暮らす形を保ったほうが、手続が進みやすいことがあります。世帯の考え方は【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方で、手続面は【親子問題】世帯分離とは|住民票・保険・年金の扱いで解説しています。再び同居したいと求められた場合の考え方は、【親子問題】独立した子が家に戻りたいと言ってきた|再同居を断るときをご覧ください。
子への伝え方と、親が整えておきたいこと
子が申請を口にしたとき、「勝手にすればいい」と突き放すと、親子の対立が深まり、その後の連絡すら難しくなるおそれがあります。反対に、申請をやめさせようとして仕送りを再開すると、止めると決めた理由が置き去りになってしまいます。
申請するかどうかは子が決めることだと伝えたうえで、親としてできることとできないことを分けて示すほうが、落ち着いた話し合いにつながりやすいと考えられます。順序としては、次のように整理できます。
- これまでの仕送りの金額・期間・振込の記録を整理します。
- 仕送りを止める時期と理由を、メッセージや書面など後から確認できる形で子に伝えます。
- 申請は子の判断に任せること、必要であれば窓口への同行は検討できることを伝えます。
- 扶養照会が届いたら、援助の可否と理由を整理して期限内に回答します。
- 金銭の要求や暴言が続く場合は、第三者を窓口にすることを検討します。
仕送りの止め方そのものは【親子問題】子への仕送りを止めたい|止め方と伝え方で、申請への同行と扶養照会の実際は【親子問題】生活保護の申請に同行するということ|扶養照会の実際でまとめています。
申請が「仕送りを再開させる材料」になっている場合
「仕送りを戻さないなら生活保護を申請する、親戚にも知られることになる」といった形で、申請を交渉の材料にされることもあります。申請は子の権利である一方、それを理由に親が仕送りを再開しなければならないわけではありません。言葉の受け止め方に迷うときは、申請そのものと、仕送り再開の要求とを分けて考えると整理しやすくなります。
要求が執拗に続く、物を壊す、暴力をふるうといった状況に発展しているなら、扶養の問題としてではなく、家族の安全の問題として対応を考える必要があります。断ることの法的な位置づけは【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで、命に関わる言葉が出たときの考え方は【親子問題】「金を出さないと死ぬ」と子に言われた|命の問題と金銭の問題を分けて考えるで解説しています。
弁護士が関わることでできること
仕送りの停止と生活保護の申請が重なる場面では、親子の感情的な対立と、福祉事務所とのやり取りが同時に進みます。親が一人で子と向き合い続けると、要求に押し切られたり、扶養照会への回答に迷ったりしやすくなります。
当事務所では、親御さんの代理人として子との連絡窓口を担い、金銭の要求への回答や扶養照会への対応方針を一緒に整理しています。また、自立支援カウンセラーと役割を分担し、子の住まい探しや仕事探し、生活保護の申請手続のサポートなど、子の生活の基盤づくりを並行して進める取り組みも行っています。ご相談の流れや費用は【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問でご案内しています。
仕送りを止めることも、子が生活保護を申請することも、それ自体は親と子それぞれが選べる行動です。親が自分の生活を守る判断と、子が生活を立て直す道筋とを切り分けて整理することが、その後の親子の関係を保つうえでも大切だと考えられます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


