【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないこと
子から暴力を受けて、とっさに押し返した、手を振り払った、思わず叩き返してしまった。そのあとで「自分のほうが罪に問われるのではないか」と不安になる親御さんは少なくありません。反撃で子がけがをした場合や、子のほうから「親に殴られた」と言われた場合には、なおさら落ち着かない気持ちになるものです。
この記事では、子の暴力に対して親が反撃した場面で正当防衛がどのように判断されるのか、どのような事情で評価が分かれやすいのか、反撃してしまった後に何をしておくとよいのかを、順に整理します。
本記事は、2025年6月施行の刑法改正(懲役・禁錮の「拘禁刑」への一本化)を反映しています。正当防衛が認められるかどうかは個別の事情によって大きく異なるため、記事の内容は一般的な考え方としてお読みください。
親子の間でも、反撃の評価は通常と同じ枠組みで行われる
親子の間で起きた暴力であっても、暴行罪や傷害罪が成り立つかどうかは、他人どうしの場合と同じように判断されます。刑法には親族間の窃盗などについて刑を免除する特例(刑法244条)がありますが、暴行や傷害にはこの特例は及びません。この点は【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲でも解説しています。
そのため、親が子に手を出した場合も、形の上では暴行罪や傷害罪にあたる行為になり得ます。そのうえで、その行為が子からの暴力に対する防衛として行われたものであれば、正当防衛(刑法36条1項)として罪に問われないことがあります。また、防衛のための行為であっても程度が行き過ぎていた場合は過剰防衛(同条2項)とされ、事情に応じて刑が軽くなったり、免除されたりすることがあります。
つまり、「親だから許される」「家族の間のことだから問題にならない」というわけでも、「手を出したら必ず罪になる」というわけでもありません。どのような状況で、どのような反撃をしたのかによって判断されます。
正当防衛として扱われるための4つの要素
正当防衛が認められるかどうかは、一般に次の4つの要素から検討されます。
| 要素 | 内容 | 家庭内での例 |
|---|---|---|
| 急迫不正の侵害 | 違法な攻撃が今まさに行われている、または目の前に迫っている | 子が殴りかかってきた、首をつかんできた |
| 防衛の意思 | 自分や他人を守るために行動した | 攻撃を止めようとして押し返した |
| 防衛の必要性 | その場で何らかの防衛行為をとる必要があった | 逃げ場がなく、すぐに攻撃を止める必要があった |
| 防衛行為の相当性 | 反撃の手段や程度が、攻撃に対して行き過ぎていない | 素手の攻撃に対して、手で払いのける程度にとどめた |
これらは一つずつ機械的に当てはめるというより、その場の状況全体を見ながら判断されます。家庭内の反撃で特に問題になりやすいのは、「攻撃がまだ続いていたか」と「反撃が行き過ぎていないか」の2点です。
「今まさに」攻撃を受けていたか
正当防衛は、差し迫った攻撃から身を守るための考え方です。子が暴れるのをやめて自室に戻った後や、翌日になってから「昨日の仕返し」として手を出した場合は、防衛ではなく新たな暴力と評価されるおそれがあります。
手段と程度が釣り合っていたか
相当性は、反撃によって生じた結果の重さだけで決まるものではありません。最高裁は、「やむを得ずにした行為」とは防衛の手段として必要最小限度のものをいい、反撃による結果が守ろうとした利益より大きくなっても、それだけで正当防衛でなくなるわけではないと判断しています(最判昭和44年12月4日)。中心となるのは、手段が攻撃に対して行き過ぎていなかったかという点です。
家庭内の反撃で評価が分かれやすい場面
同じ「反撃」でも、具体的な状況によって見え方は変わります。家庭内で起きやすい場面をいくつか取り上げます。
子が倒れたり離れたりした後も手を出した
攻撃を止めるための反撃が、途中から「攻撃が止んだ後の追撃」に変わってしまうことがあります。最高裁は、相手が倒れて動かなくなった後に加えた暴行について、正当防衛にも過剰防衛にもあたらないと判断しています(最決平成20年6月25日)。最初の反撃が防衛として認められる場合でも、その後の行為は別に評価されることがある点に注意が必要です。
刃物や道具を手に取った
体格や力で勝る子から暴力を受けると、身を守るために近くの物を手に取ってしまうことがあります。道具を使ったからといって直ちに相当性が否定されるわけではなく、年齢や体格の差、攻撃の激しさ、道具をどう使ったかなどを総合して判断されます。最高裁には、体格で勝る相手に迫られた人が菜切包丁を構えて脅した行為について、防衛手段としての相当性の範囲を超えないとした例があります(最判平成元年11月13日)。
一方で、構えるだけでなく実際に刃物で切りつけた場合や、攻撃の程度に比べて明らかに危険な使い方をした場合には、相当性が否定されやすくなります。手に取ったかどうかよりも、どう使ったかが問われます。
長年の暴力への怒りが重なっていた
繰り返し暴力を受けてきた親が、反撃の際に強い怒りを感じるのは自然なことです。最高裁は、防衛の意思と相手への攻撃的な気持ちが同時にあったとしても、それだけで防衛の意思が否定されるわけではないとしています(最判昭和50年11月28日)。ただし、防衛に名を借りて積極的に相手を攻撃しようとした場合には、防衛の意思は認められにくくなります。
暴力を予想していた
毎晩のように暴れる子と暮らしていると、「今日も来るかもしれない」と予想していることもあるでしょう。暴力を予想していたというだけで、正当防衛が否定されるわけではありません。ただし最高裁は、攻撃を予期したうえで、それに乗じて積極的に加害する意思で臨んだような場合には「急迫性」が否定され得るとし、その判断は事前の経緯や回避のしやすさなどを含めて総合的に行うとしています(最決平成29年4月26日)。身を守る備えをしておくことと、反撃するつもりで待ち構えることとは、区別して考えられます。
子が未成年の場合
子が未成年の場合、親の反撃が「しつけ」や「懲らしめ」の延長と受け取られることがあります。2022年12月施行の民法改正で親の懲戒権の規定は削除され、親は子の人格を尊重し、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならないと定められました(民法821条)。児童虐待防止法でも体罰は禁じられています。身を守るための行為と、罰として手を上げる行為とでは、法律上の扱いが異なります。
正当防衛にならなくても、結論はひとつではない
正当防衛が認められなかった場合でも、すぐに重い処分が決まるわけではありません。過剰防衛と評価されれば、裁判所の判断で刑が軽くなったり免除されたりすることがあります(刑法36条2項)。また、検察官が起訴するかどうかを判断する際には、子から先に暴力を受けていた経緯や、けがの程度、家族関係の状況なども考慮されます。
参考までに、反撃が罪として扱われる場合に問題になりやすい罪の法定刑は次のとおりです。
| 罪名 | 主な場面 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 暴行罪(刑法208条) | 叩く・突き飛ばすなど、けがに至らなかった場合 | 2年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留または科料 |
| 傷害罪(刑法204条) | 反撃によって子がけがをした場合 | 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
いずれも法律上の上限であり、実際の処分は事案ごとに大きく異なります。子からの暴力が先にあったことは、処分を考えるうえで重要な事情になります。
反撃してしまった直後に確かめておきたいこと
反撃の直後は、親自身も動揺しています。後で状況を説明できるよう、落ち着ける範囲で次の点を確かめておくとよいでしょう。
- まず自分と家族の安全を確保し、子が再び暴れそうであれば別の部屋や屋外に離れます。
- 子がけがをしている場合は、程度に応じて手当てをし、必要であれば救急に連絡します。
- 親自身のけがは写真に残し、早めに医療機関を受診します。
- 誰が先に手を出したか、どのような攻撃を受けたか、どう反撃したかを、時刻とともにメモに残します。
- 壊れた物や、暴力の様子が分かる録音・メッセージがあれば、消さずに保存します。
受診の際の伝え方は【親子問題】子の暴力でけがをした|病院で何をどう伝えるか、診断書の取り方は【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証で詳しく解説しています。
警察を呼ぶとき・警察が来たとき
危険が続いている場合は、ためらわずに110番通報してください。警察が来たときは、自分の反撃も含めて、起きたことを事実のとおり伝えることが大切です。反撃したことを伏せて説明すると、子の説明や現場の状況と食い違い、かえって説明全体の信用性が疑われるおそれがあります。通報の判断や伝え方は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかもご参照ください。
子から被害届が出されたとき
子が「親に殴られた」として被害届を出すこともあります。その場合でも、先に暴力を受けていた親の側から被害を申告することはでき、警察は双方から事情を聞くことになります。被害届を出すかどうか迷うときは【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることを、子が警察や行政に「虐待された」と訴えた場合は【親子問題】子が「親に虐待された」と警察や行政に訴えた|窓口ごとの扱いと親が整理しておきたいことを参考にしてください。
事情聴取を受けることになった場合や、自分の反撃が行き過ぎていたのではないかと不安な場合は、説明の前に弁護士に相談しておくと、何をどう伝えるべきかを整理しやすくなります。
反撃しなくて済む状況をつくるために
正当防衛は、その場で身を守るための例外的な考え方です。反撃が防衛として認められるかどうかは後から判断されるため、親自身にとっても大きな負担になります。また、反撃によってもみ合いが激しくなり、親子双方のけがにつながるおそれもあります。
暴力が繰り返されている場合は、反撃に頼らずに身を守れる状況を整えることが大切です。暴力が始まったらすぐに離れられる避難先を決めておく、夜間でも連絡できる相談先を把握しておく、といった備えが考えられます。避難の考え方は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択、時間帯ごとの窓口は【親子問題】夜間に子が暴れたときの相談先|時間帯別の窓口で紹介しています。
当事務所では、弁護士が親の代理人として子との間に入り、自立支援カウンセラーとチームを組んで、親子が離れて暮らす形での自立を支援しています。親が一人で子と向き合い続けることで生じる危険を減らす方法の一つです。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
まとめ
- 親子の間の暴力でも、反撃が罪にあたるかどうかは他人どうしの場合と同じ枠組みで判断されます。
- 子からの攻撃が続いている最中に、行き過ぎない範囲で身を守った行為は、正当防衛として罪に問われないことがあります。
- 攻撃が止んだ後の追撃や、攻撃に比べて明らかに危険な反撃は、正当防衛が認められにくくなります。
- 正当防衛にならない場合でも、過剰防衛として刑が軽くなったり、経緯を踏まえて処分が判断されたりすることがあります。
- 反撃してしまった後は、安全の確保、けがの記録、経緯のメモを優先し、警察には事実のとおり伝えることが大切です。
子の暴力に反撃してしまったことで、親が自分を責め続けてしまうことがあります。けれども、まず考えたいのは、同じ場面を繰り返さないための環境づくりです。反撃の評価に不安がある場合も、暴力そのものへの対応に悩んでいる場合も、一人で抱え込まずにご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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