【親子問題】働いているのに家にお金を入れない子に、どう切り出せばいい?
成人した子が、親戚の集まりや電話、手紙などで親の悪口を言って回っている。「親にお金を取られた」「ひどい育て方をされた」といった話が、事実とは違う形で広まり、親戚から距離を置かれるようになった。こうしたご相談は、家庭内暴力や金銭の要求と並んで寄せられることが少なくありません。
本記事は、2025年6月施行の改正刑法(懲役・禁錮を拘禁刑に一本化)を反映しています。実際の判断は、発言の内容や広がり方、残っている記録によって変わります。
まず「何が言われているのか」を分けて考える
同じ「悪口」でも、中身によって取れる手段は変わります。最初に、子が親戚に伝えている内容を次のように分けてみることをおすすめします。
- 事実ではない話(「財産を勝手に使い込んでいる」など)。
- 事実ではあるが、親が知られたくない話(病歴、借金、離婚の経緯など)。
- 具体的な事実を伴わない、人格を貶める言葉。
- 子自身の受け止め方や不満を述べたもの(「冷たくされた」「話を聞いてもらえなかった」など)。
4つ目のように、子の感じ方や評価を述べた話は、親にとってつらいものであっても、法的な手段で止めることが難しい場合が多くあります。一方で、事実と異なる話や、知られたくない私生活の事情が広められている場合は、名誉やプライバシーの問題として扱える余地が出てきます。
また、子の訴えの中に、助けを求める気持ちが含まれていることもあります。子が親戚だけでなく警察や行政にも「虐待された」と訴えている場合の整理は、【親子問題】子が「親に虐待された」と警察や行政に訴えた|窓口ごとの扱いと親が整理しておきたいことで解説しています。
法律上はどのように評価されるのか
名誉毀損にあたる場面
人の社会的な評価を下げる具体的な事実を、公然と示した場合には、名誉毀損罪(刑法230条1項)にあたる可能性があります。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。示した事実が真実かどうかは、原則として成立に影響しません。
ここでいう「公然」とは、不特定または多数の人が知りうる状態をいいます。親戚の集まりで大勢の前で話した、複数の親戚に同じ内容の手紙を送った、親族のグループLINEに書き込んだ、といった場面は、この要件を満たしうる典型です。特定の一人や二人に話しただけでも、そこから他の人へ広がっていく可能性が高い事情があれば、公然性が認められることがあります(伝播可能性の考え方)。
侮辱にあたる場面
具体的な事実を示さず、「人として最低だ」のような言葉で公然と人を貶めた場合は、侮辱罪(刑法231条)が問題になります。2022年の改正で法定刑が引き上げられ、現在は1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料とされています。
プライバシーの侵害にあたる場面
病気や借金、過去の家庭の事情など、本人が他人に知られたくないと考えるのが通常の私生活上の事実を広めることは、たとえ事実であっても、民事上のプライバシー侵害として損害賠償の対象になることがあります。
家族の間でも成立するのか
刑法には、窃盗など財産に関する罪について、親子など近い親族の間では刑を免除するといった特例があります。しかし、この特例は名誉毀損罪や侮辱罪には及びません。言いふらしているのが自分の子であっても、要件を満たせば犯罪として扱われる可能性があります。
ただし、名誉毀損罪・侮辱罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法232条)。告訴は、原則として犯人を知った日から6か月以内にする必要があります。詳しくは、名誉毀損は親告罪|告訴期間と示談による解決をご覧ください。
| 類型 | 主な根拠 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 名誉毀損 | 刑法230条、民法709条・710条 | 具体的な事実か、公然と示されたか、社会的評価が下がるか |
| 侮辱 | 刑法231条、民法709条・710条 | 事実を伴わない侮辱的な表現か、公然と言われたか |
| プライバシー侵害 | 民法709条・710条 | 知られたくない私生活上の事実か、広める必要があったか |
止めるための手段は段階を踏んで選ぶ
法律上の評価が立ったとしても、いきなり告訴や訴訟に進むことが最善とは限りません。親子の関係やご家庭の状況をふまえ、負担の軽い手段から順に検討していくのが一般的です。
記録を残しておく
どの手段を選ぶにしても、出発点は記録です。口頭で言われた悪口は形に残りにくいため、聞いたその時点で整理しておくことが大切です。
- いつ、どこで、誰に対して話されたか。
- どのような言葉で、何が話されたか(できるだけそのままの言い回しで)。
- 誰からその話を聞いたか、その人が協力してくれそうか。
- 手紙、メール、LINE、SNSの投稿など、文字で残っているものの保存。
- 悪口が広まった後に起きた変化(親戚から連絡が途絶えた、行事に呼ばれなくなったなど)。
親戚から「こんなことを言っていた」と聞いた場合は、その内容を日付とともにメモし、可能であればメッセージなどで送ってもらうと、後で確認しやすくなります。
親戚への伝え方を整える
法的な手段とは別に、親戚に対してどう説明するかも検討しておきたいところです。反論を重ねると、親戚を巻き込んだ言い合いになることもあるため、伝える相手と内容を絞り、家族としての方針を落ち着いて伝えるほうが、結果的に広がりを抑えやすくなります。伝え方の考え方は、【親子問題】親戚から子の問題に口出しされる|家族の方針を守る伝え方で解説しています。
子に直接やめるよう伝える前に
親から子に直接「やめなさい」と伝えることで収まる場合もあります。ただ、家庭内で暴力や暴言がある場合、親が抗議したことをきっかけに子が感情的になり、悪口がかえって増えたり、家の中でのトラブルにつながったりするおそれもあります。直接話すかどうかは、これまでの子の反応をふまえて慎重に判断したほうがよいでしょう。
弁護士から書面で伝える
親が直接言うと対立が深まりそうな場合は、弁護士が親の代理人として、子に書面で連絡する方法があります。書面では、どのような発言が問題になっているか、これ以上続けないよう求めること、今後の連絡は弁護士を通すことなどを伝えます。第三者から冷静に伝えることで、子が自分の行動を見直すきっかけになることもあります。通知の中身については、【親子問題】弁護士から子に最初の連絡が入るとき|通知で伝えることをご覧ください。
窓口を弁護士に移すことの意味については、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で詳しく解説しています。
約束を書面にする
話し合いの結果、子が悪口をやめることに同意した場合は、その内容を合意書にまとめる方法もあります。親戚への発言をやめること、事実と異なる話を訂正することなどを書面に残しておくと、後で同じことが起きたときの確認材料になります。合意書の効力と限界は、【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界で解説しています。
損害賠償の請求や発言の差止め
名誉毀損やプライバシー侵害にあたる場合、民事上は慰謝料などの損害賠償を請求できる可能性があります(民法709条・710条)。名誉毀損については、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、名誉を回復するための措置を求めることも法律上は認められています(民法723条)。
もっとも、口頭の悪口は、誰にどの言葉で話したかを裁判で示すことが難しい場合が多くあります。また、これから話すことを事前に禁じる差止めは、表現の自由との関係で認められるためのハードルが高く、口頭での発言について実際に命じられる場面は限られます。訴訟は時間も費用もかかるため、記録の残り具合を確認したうえで、他の手段と比べて検討することになります。
刑事告訴を考える場合
事実と異なる話が長く広められ、他の方法では止まらない場合には、刑事告訴を検討することもあります。ただし、子が捜査の対象になることは、親子関係やご家庭のその後に大きく影響します。告訴に踏み切るかどうかは、何を守りたいのかを整理したうえで判断することが大切です。【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることもあわせてご覧ください。
SNSやネット上に書かれている場合
悪口が親戚への口頭だけでなく、SNSやブログなどにも書かれている場合は、投稿そのものが記録になる一方で、広がる範囲も大きくなります。投稿のスクリーンショットをURLや日時が分かる形で保存し、運営会社への削除の申出などを検討します。具体的な進め方は、【親子問題】子がSNSに家族の悪口や個人情報を書いている|削除の求め方と家族の守り方で解説しています。
悪口の背景にあるものにも目を向ける
子が親の悪口を言いふらす背景には、さまざまな事情があります。親戚を味方につけて親に金銭を出させようとしている場合、親との距離が近すぎて関係が行き詰まっている場合、子自身が孤立していて誰かに話を聞いてほしいと感じている場合などです。家の中で親の言動を録音し、それを親戚に聞かせると迫ってくるようなケースについては、【親子問題】子が家の中で親を録音・撮影し、それを材料に脅してくる|録音の評価と親が避けたい対応をご覧ください。
悪口を止めることだけに目を向けると、根本にある問題が残り、形を変えて同じことが繰り返されることがあります。当事務所では、弁護士が親の代理人として子からの攻撃や要求を受け止める一方、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、子の生活の立て直しを支える取り組みを行っています。詳しくは、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
よくあるご質問
言われていることが事実でも、名誉毀損になりますか
名誉毀損罪は、示された事実が真実かどうかにかかわらず成立しうるのが原則です。真実であることを理由に処罰されない例外は、公共の利害に関わる事実を公益のために示した場合などに限られ、家庭内の事情がこれにあたることは多くありません。また、事実であっても、私生活上の事情を広めることはプライバシーの問題になることがあります。
親戚の一人にだけ話していた場合はどうなりますか
一人に話しただけでは、公然性が認められないこともあります。ただ、その親戚が他の親族に話すことが容易に予想される立場にあるなど、話が広がる可能性が高い事情があれば、評価が変わることがあります。実際にどこまで広がったかも含めて、記録を整理しておくことが大切です。
弁護士が入ると、子との関係はもう戻らなくなりますか
弁護士が窓口になることは、関係を断つことと同じではありません。親と子が直接ぶつかる場面を減らし、冷静に話ができる状態をつくるために代理人を立てるという考え方もあります。どのような着地を目指すかは、ご家庭ごとに異なりますので、ご相談の中で一緒に整理していきます。
まとめ
- 子が親戚に親の悪口を言いふらしている場合、内容が事実と異なる話か、知られたくない私生活の事情かなどによって、名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害として扱える可能性があります。
- 名誉毀損罪や侮辱罪には親族間の特例は及びませんが、親告罪であり、告訴するかどうかは親が判断することになります。
- 止めるための手段は、記録を残すこと、親戚への伝え方を整えること、弁護士からの書面、合意書、損害賠償の請求、刑事告訴と段階的に考えるのが一般的です。
- 悪口の背景にある金銭の問題や親子の距離の問題にも目を向けることで、同じことの繰り返しを防ぎやすくなります。
親戚に広まった話は、親が一人で打ち消そうとしても簡単にはいかず、気持ちの負担も大きくなりがちです。どの段階の手段が合っているかは、子の状態やご家庭の事情によって変わりますので、記録がそろっていない段階でも、まずは状況をお聞かせください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


