【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲
この記事は、成人した子と同居している親御さんが、子に携帯電話を取り上げられて外部と連絡が取れなくなっている場面を想定しています。法令の内容は2026年10月時点のものです。
子に携帯電話を取り上げられ、家族や知人と連絡が取れない。返してほしいと言うと怒鳴られる、外に出ることにも口を出される。親子問題のご相談の中には、こうした「外とのつながりを絶たれる」形の悩みが少なからずあります。
暴力や金銭の要求に比べると目立ちにくいものの、携帯がない状態は、困ったときに助けを求める手段そのものが失われている状態です。この記事では、子が親の携帯を取り上げる行為が法律上どう扱われるか、手元に携帯がない中で何から手をつけるか、外の窓口へどうつないでいくかを順に整理します。
携帯を取り上げられた状態で起きていること
- 子に携帯を取られ、返してもらえない日が続いている。
- 「誰に連絡するつもりだ」と言われ、電話をかけさせてもらえない。
- 携帯を返してもらえるのは、子がそばにいるときだけになっている。
- 自分の携帯から、子が勝手に知人や親戚に連絡している気がする。
- 携帯の中の銀行アプリや決済を、子が使っているかもしれない。
携帯電話は、いまや連絡の道具であるだけでなく、銀行や買い物、行政の手続にも使われています。取り上げられると、外部に助けを求めにくくなることに加え、周囲が異変に気づきにくくなり、お金の面でも不安が生じます。
また、携帯の取り上げは、暴言や暴力、金銭の要求と同時に起きていることが多い点にも注意が必要です。親の行動を見張り、外との連絡を管理しようとする動きの一部として携帯が取り上げられている場合、早めに外の目を入れることが安全につながります。暴力がすでにある場合の初動は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録でも解説しています。
親の携帯を取り上げる行為は、法律上どう扱われるか
「家族の中のこと」として片づけられがちですが、成人した子が親の携帯を取り上げる行為は、態様によっては犯罪にあたることがあります。どの罪が問題になるかは、どのように取り上げたか、取り上げた後にどうしているかで分かれます。
脅したり力ずくで連絡させない場合
暴行や脅迫を用いて、人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨げたりすると、強要罪(刑法223条1項)が問題になります。法定刑は3年以下の拘禁刑です。「警察に電話したらただでは済まない」と告げて携帯を手放させる、連絡しようとする手を押さえつけるといった場面は、連絡するという親の権利の行使を妨げるものとして、強要罪の検討対象になり得ます。
取り上げる際に突き飛ばす、腕をつかむなどの行為があれば、暴行罪(刑法208条)、けがをすれば傷害罪(刑法204条)の問題も生じます。
持ち去る・隠す・壊す場合
携帯を持ち去る行為は窃盗罪(刑法235条)にあたる場合がありますが、直系血族や同居の親族の間の窃盗は刑が免除される定め(刑法244条1項、いわゆる親族相盗例)があります。そのため、親子の間で携帯を持ち去っただけでは、刑事責任を問うことが難しい場面があります。
一方、携帯を壊した場合の器物損壊罪(刑法261条)には、この特例は及びません。また、物を隠して本来の使い方をできなくすることも「損壊」に含まれると考えられているため、携帯を隠して使わせない行為が器物損壊罪として検討されることもあります。器物損壊罪は、被害者の告訴がなければ起訴されない罪です(刑法264条)。
| 取り上げ方 | 問題となる主な罪 | 親子間での扱い |
|---|---|---|
| 脅して使わせない・連絡を妨げる | 強要罪(刑法223条) | 親族による特例はない |
| 突き飛ばす・つかんで奪う | 暴行罪・傷害罪 | 親族による特例はない |
| 持ち去る | 窃盗罪(刑法235条) | 同居の親族・直系血族間では刑が免除される |
| 壊す・隠して使えなくする | 器物損壊罪(刑法261条) | 親族による特例はない(告訴が必要) |
実際に刑事事件として扱われるかどうかは、行為の内容や継続の程度、証拠の有無などによって変わります。表は、どのような行為がどの罪と結びつき得るかの目安としてご覧ください。
高齢の親であれば、虐待として行政が関わる場面がある
65歳以上の親の場合、高齢者虐待防止法の対象になることがあります。同居して身の回りの世話や金銭の管理に関わっている子は、同法の「養護者」にあたる場合があり、厚生労働省が示している高齢者虐待対応の資料では、外部との接触を意図的・継続的に遮断する行為や、理由なく住所録を取り上げて外部との連絡を断つ行為などが、虐待の例として挙げられています。
虐待の疑いがあれば、市区町村や地域包括支援センターに相談・通報することができ、自治体は事実の確認や、必要に応じた保護の措置を検討します。親ご本人が相談に行けない場合でも、家族や近隣の方からの相談をきっかけに動くことがあります。仕組みの詳細は【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みをご覧ください。
手元に携帯がない中で、まず確保したい連絡手段
法律上の整理よりも先に考えたいのは、いざというときに外へ連絡できる手段を確保することです。携帯が手元にない前提で、次のような備えが考えられます。
- 家族や知人の電話番号、警察署や役所の番号を紙に書き、財布など身につけているものに入れておくこと。
- 近くの公衆電話の場所を確かめておくこと(公衆電話から110番・119番に通報する場合、硬貨やテレホンカードは不要です)。
- 近所の方や交番、通い慣れた店など、駆け込める場所を思い浮かべておくこと。
- きょうだいや親戚など信頼できる人と、決まった日に連絡を取り合う約束をし、連絡がなければ様子を確かめてもらうようにしておくこと。
予備の携帯を用意する方法もありますが、子に見つかると取り上げが強まったり、関係がさらにこじれたりするおそれがあります。持つ場合は、置き場所や使う時間帯に気を配る必要があります。危険が迫っていると感じたときに110番をためらわないことも大切です。通報の目安は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで整理しています。
携帯会社への連絡と、アカウントの保護
携帯の契約者が親ご自身であれば、紛失や盗難のときと同じように、携帯会社に連絡して回線の利用を止めてもらう、端末の遠隔ロックを設定するといった手段をとれる場合があります。手続には本人確認書類が必要になることが多いため、運転免許証や保険証の保管場所もあわせて確認しておくと安心です。
また、携帯を通じてメールやLINE、銀行アプリにアクセスできる状態が続くと、親になりすました連絡や、知らないうちの送金・決済が行われるおそれがあります。別の端末からパスワードを変更する、金融機関に事情を伝えて利用を止めるといった対応が考えられます。通帳やキャッシュカードも取り上げられている場合は【親子問題】通帳・カードを取り上げられた場合の対応もあわせてご覧ください。
ただし、回線やアカウントを急に止めると、子がそれに気づいて強く反発することもあります。暴力のおそれがある家庭では、止めるタイミングを、身の安全を確保できる見通しが立ってからにする、外の支援者と動きを合わせてから行うといった配慮が必要です。
家の中で控えたいことと、残しておきたい記録
携帯を取り返そうとして、子ともみ合いになることは避けたほうがよいでしょう。けがにつながるおそれがあるうえ、どちらが先に手を出したのかが分からなくなり、後の相談の場面で事実関係が整理しにくくなります。
その代わりに、次のような記録を紙に残しておくことをおすすめします。
- 携帯を取り上げられた日時と、そのときの状況。
- 返してほしいと伝えたときに子が言った言葉。
- 連絡を妨げられた相手や、断念した用事(通院の予約、役所への連絡など)。
- 暴言や暴力、金銭の要求があった場合は、その内容と日時。
記録は、子の目に触れない場所に保管するか、信頼できる親族に預けておくと安心です。警察に相談した際の記録も、後の手続で意味を持つことがあります。詳しくは【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続をご覧ください。
外の窓口につなぐ順序
状況に応じて、相談先を使い分けることが考えられます。
| 状況 | 主な相談先 |
|---|---|
| 暴力を受けている・身の危険が迫っている | 110番 |
| 継続的な取り上げや暴言があり、警察に相談したい | 最寄りの警察署、警察相談専用電話(#9110) |
| 親が65歳以上で、外部との連絡を断たれている | 市区町村の高齢者虐待の相談窓口、地域包括支援センター |
| 子との交渉や、法的な対応の見通しを立てたい | 弁護士 |
夜間や休日に子が荒れたときの窓口は【親子問題】夜間に子が暴れたときの相談先|時間帯別の窓口でまとめています。家の中にいること自体が危険な状況であれば、一時的に親が家を離れる選択もあります(【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択)。
家族やきょうだいが「親と連絡が取れない」と気づいたとき
携帯を取り上げられている親ご本人は、外へ相談すること自体が難しい状態にあります。そのため、離れて暮らすきょうだいや親戚が「最近電話がつながらない」「出ても子がそばにいる様子で話が続かない」と気づくことが、状況が外に知られるきっかけになる場合があります。
このようなときは、実家を訪ねて親と直接話せる時間をつくる、親の住む地域の地域包括支援センターや警察署に事情を伝えて相談するといった方法が考えられます。親が動けないときに、きょうだいが相談者になる場合の考え方は【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで解説しています。
弁護士が関わる場合にできること
当事務所では、親御さんの代理人として子と向き合う形で、親子の問題に取り組んでいます。携帯の取り上げのように、親が外とつながる手段を失っている場合、弁護士が連絡の窓口になることで、親が子と一対一で向き合う場面を減らすことができます。
具体的には、親の代理人として子に連絡し、携帯の返還や親への干渉をやめるよう求める、必要に応じて警察と連携しながら自宅を訪問する、といった対応が考えられます。ただし、子を一方的に追い詰めても、状況の改善にはつながりにくいのが実情です。当事務所では、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、弁護士は親の保護を、カウンセラーは子の生活の立て直しを担う形で、親子それぞれの自立を目指しています。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
まとめ
- 子が親の携帯を取り上げる行為は、脅しや暴力を伴えば強要罪や暴行罪、壊したり隠したりすれば器物損壊罪が問題になることがあります。
- 持ち去っただけの場合は、親族相盗例により刑が免除される場面があり、刑事手続だけで解決することが難しいこともあります。
- 親が65歳以上であれば、外部との連絡を断つ行為は高齢者虐待として市区町村や地域包括支援センターが関わる場合があります。
- 携帯がない前提で、紙の連絡先、公衆電話、定期的な連絡の約束など、外へつながる手段を先に確保しておくことが大切です。
- 回線やアカウントを止める対応は、身の安全の見通しを立ててから、外の支援者と動きを合わせて行うことが考えられます。
外との連絡を断たれている状況では、親ご本人が相談に踏み出すこと自体が難しいものです。ご家族やきょうだいからのご相談もお受けしていますので、気づいた方からお声がけください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


