【親子問題】母親だけが暴力の対象になっている、父親はどう動けばいい?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

子が家の中で暴力をふるうとき、その矛先が母親にだけ向かい、父親には向かわないという形は少なくありません。父親が家にいる時間帯は落ち着いているため、父親自身は暴力の場面をほとんど見たことがない、ということも起こります。この記事では、母親だけが暴力の対象になっている家庭で、父親がどのような立場にあり、何ができるのかを、その場の対応、後に残す記録、夫婦での方針づくり、外部の窓口の使い方の順に整理します。

この記事は、主に成人した子(同居している子)から親への暴力を前提にしています。子が18歳未満の場合は、児童相談所など子ども向けの窓口が加わります。命や身体に差し迫った危険があるときは、この記事を読むより先に110番してください。


母親だけに暴力が向かうのは珍しいことではありません

 法務省の令和6年版犯罪白書によると、令和5年に警察が認知した少年(20歳未満)による家庭内暴力は4,744件で、そのうち母親が対象となったものが2,781件と、父親(640件)や兄弟姉妹(501件)を大きく上回っています。成人した子についての統計ではありませんが、相談の現場でも、母親が主な対象になっている例は多く見られます。

 背景としては、日中に子と接する時間が長いのが母親であること、生活上の注意や金銭のやり取りを母親が担っていること、子が母親を「言い返してこない相手」と見ていることなどが挙げられます。いずれも家庭ごとに事情は異なり、母親の接し方に原因があると決めつけられるものではありません。

「父親の前では落ち着いている」をどう受け止めるか

 父親がいるときに暴力が起きないのは、子が相手を選んで行動しているということでもあります。言い換えると、暴力は感情が抑えられずに起きているだけではなく、ある程度コントロールされた行動として続いている可能性があります。

 この状態で父親が「自分の前では普通だから、たいしたことはない」と受け止めると、母親は家庭の中で孤立しやすくなります。まずは、自分が見ていない時間に何が起きているのかを、母親から具体的に聞き取ることが出発点になります。

暴力の場面で父親ができること


母親と子の間に距離をつくる

 その場に居合わせたときは、子を押さえ込むことよりも、母親を別の部屋や屋外に移し、物理的に引き離すことを優先します。鍵のかかる部屋、近所の店、車の中など、短時間避難できる場所を夫婦であらかじめ決めておくと、迷わずに動けます。

110番は父親からかけてよい

 暴力を受けているのが母親であっても、通報するのは同居の家族である父親で構いません。母親は恐怖や混乱の中で状況を説明しにくいことがあり、父親が「いま何が起きているか」「けがの有無」「刃物などの有無」を落ち着いて伝える役割を担えます。通報の目安は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかでも解説しています。

力で制圧しようとしない

 家族を守るためにやむを得ずした行為は、刑法36条の正当防衛として評価される余地があります。ただ、必要な範囲を超えて子にけがをさせると、父親自身が責任を問われるおそれがあります。また、父親が力で抑え込んだ経験が、父親の不在時に母親への暴力を強める方向に働くこともあります。制圧よりも、引き離しと通報を基本に考えるほうが安全です。

暴力の後で父親が担いたいこと

 暴力が収まった後の対応は、母親一人では手が回らないことが多い部分です。父親が次のような役割を引き受けることで、後の手続に使える材料が残りやすくなります。

  • 母親のけがを写真に撮り、受診に付き添い、医師には家族からの暴力によるけがであることを伝えてもらうこと。
  • 壊れた物や室内の様子を、その日のうちに撮影しておくこと。
  • 日時、きっかけ、暴力の内容、けがの程度を、母親から聞き取ってメモにまとめること。
  • 警察に相談した日時、担当者、言われた内容を記録しておくこと。


 父親が直接見ていない出来事でも、母親の話をその都度書き留めておけば、経過を示す資料になります。診断書を取る時期については【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証、警察相談の記録については【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で詳しく扱っています。

 なお、被害届を出すかどうかは、暴力を受けた母親自身の意思が中心になります。父親が強く勧めたり、反対に止めたりすると、母親が自分の気持ちを話しにくくなることがあります。出した場合に家族関係がどう変わるかを夫婦で一緒に確かめたうえで、母親が決められるように支えることが望まれます。判断の材料は【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることにまとめています。

父親が避けたい対応


  • 「母親の接し方の問題だ」と、母親に原因を押しつけること。
  • 子の言い分だけを聞いて、母親に我慢を求めること。
  • 暴力を止める条件として、父親が子に金銭を渡す約束をすること。
  • 暴力について夫婦で話し合わず、父親が見て見ぬふりを続けること。


 とくに金銭で収めようとする対応は、その場は静かになっても、暴力が要求を通す手段として定着するおそれがあります。父親がよかれと思ってした対応が、母親の負担を重くしていないかを確かめておくことが大切です。

夫婦で方針を揃える

 母親だけが対象になっている家庭では、夫婦の受け止め方にずれが生じやすくなります。母親は限界を感じていても、父親はまだ様子を見たいと考えている、あるいはその逆、という形です。方針が割れたままだと、子はそのすき間を突いて片方の親を味方につけようとすることがあります。

 話し合いでは、「暴力があったら通報する」「金銭の要求には応じない」「母親が一時的に家を離れることもあり得る」といった線引きを、夫婦で言葉にしておくとよいでしょう。方針が割れる場面の整理は【親子問題】夫婦で方針が割れる|一方の親が子をかばうとき、母親が一時的に家を出る選択肢については【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択もあわせてご覧ください。

使える制度と、その限界

 子から親への暴力は、配偶者や交際相手からの暴力を対象とするDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)の保護命令の対象には含まれません。そのため、どの窓口や制度が使えるかは、母親の年齢や子の年齢によって変わります。

場面主な窓口・制度押さえておきたい点
暴力が起きている、または起きそう警察(110番、警察署の相談窓口)暴行や傷害は家族間でも犯罪として扱われ得ます
母親が65歳以上市区町村の高齢者虐待の窓口、地域包括支援センター高齢者虐待防止法の対象として扱われる場合があります
子が18歳未満児童相談所、市区町村の子ども家庭相談の窓口子の支援と家庭の安全を並行して考えます
長期のひきこもりや精神面の不調が疑われる保健所、精神保健福祉センター医療につなぐかどうかの相談ができます


 家族間の暴行や傷害が刑事事件として扱われる範囲は【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲、高齢の親が被害を受けている場合は【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで解説しています。

弁護士に依頼する場合、父親はどう関わるか

 警察や行政は、事件の処理や決まった枠の支援には対応できても、家庭ごとの事情に合わせて継続的に関わることは難しい場合があります。そのような場面で、弁護士が親の代理人として子との連絡窓口になり、要求や接触を受け止める方法があります。

 依頼者は父親でも母親でも、夫婦二人でも構いません。暴力を受けている母親が直接の打ち合わせに出る余裕がないときは、父親が中心になって経過を説明し、母親の意向を確認しながら進めることもできます。当事務所では、弁護士が親の側の保護と子への対応を担い、民間の自立支援カウンセラーが子の生活の立て直しを支える形で取り組んでいます。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。

 また、母親が心身ともに疲れ切っている場合は、問題の解決より先に、母親が休める状態をつくることが必要になることもあります。その考え方は【親子問題】子の問題で親自身が限界|親が先に休むための手配で取り上げています。

まとめ


  • 母親だけが暴力の対象になる形は珍しくなく、母親の接し方だけに原因を求めるものではありません。
  • 父親の前で落ち着いていることは、問題が小さいことを意味しません。
  • その場では、制圧よりも母親との引き離しと通報を優先します。
  • 暴力の後の記録や受診の付き添いは、父親が担いやすい役割です。
  • 夫婦で線引きを揃え、警察・行政・弁護士をどう使うかを話し合っておくことが大切です。


 母親だけが暴力を受けている状況は、父親が「自分も当事者だ」と受け止めたところから動き始めることが多くあります。夫婦のどちらかが一人で抱え込まず、外部の力を借りることも選択肢の一つとしてお考えください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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