【親子問題】親が施設に入った後も実家に子が住み続けている|誰が退去を求められるのか
成人した子が家を出たのに住民票だけが実家に残っている、あるいは同居している子の住民票を別の場所へ移してしまいたい。親子の問題のご相談では、こうした住民票をめぐるご質問を受けることがあります。住民票は本人の生活に直結する記録であるため、親の判断だけで自由に動かせるものではありませんが、親が世帯主であれば子に代わって届け出られる場面もあります。この記事では、親の側から子の住民票を移せる場面と移せない場面を、住民基本台帳法の仕組みに沿って整理します。
この記事は、18歳以上の成人した子の住民票を主に想定しています。届出の受付や調査の進め方の細部は市区町村によって異なるため、実際に手続をする前に、住民票のある市区町村の窓口で確認してください。
まず結論|移せるかどうかは「子が実際にどこで暮らしているか」で決まる
住民票は、その人が実際に生活している場所を記録するためのものです。そのため、親の側から子の住民票を動かせるかどうかは、親の希望ではなく、子が実際にどこで暮らしているかによって分かれます。おおまかな整理は次のとおりです。
| 子の状況 | 親の側から取れる手段 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 子が家を出て、転居先が分かっている | 親が世帯主であれば、子に代わって転出届を出す余地がある | 新しい住所での転入届は、原則として子の側の手続になる |
| 子が家を出て、転居先が分からない | 市区町村に居住実態の調査を申し出る | 住民票が職権で消除されると、子の各種手続に影響が出ることがある |
| 子が今も家で暮らしている | 住民票だけを別の場所へ移すことはできない | 事実と異なる届出は過料の対象となり、刑事責任を問われるおそれもある |
| 子の同意が得られる | 子自身に手続してもらう、または委任を受けて届け出る | 行き違いがもっとも少ない方法 |
以下、それぞれの場面を順に見ていきます。
住民票の届出は誰ができるのか
原則は本人による届出
転入届・転居届・転出届・世帯変更届は、住所や世帯に変更があった本人が届け出るのが原則です(住民基本台帳法22条〜25条)。成人した子の住民票であれば、届出をするのは子本人ということになります。
世帯主は世帯員に代わって届け出ることができる
一方で、住民基本台帳法26条1項は、世帯主が世帯員に代わってこれらの届出をすることを認めています。親が世帯主で、子が同じ世帯の一員として住民票に記録されている場合には、親が子の分の届出をする余地があるということです。
これに対して、子がすでに別の世帯になっている場合(世帯分離をしている場合など)は、親が世帯主の立場で子の分を届け出ることはできず、子本人の届出か、子から委任を受けた届出によることになります。弁護士ドットコムに寄せられた相談でも、別世帯になっている子の住民票を移したいが親の側では手続できないのではないか、という悩みが見られます。誰が世帯主で、子がどの世帯に属しているのかは、最初に確かめておきたい点です。
届出の内容は窓口で確認される
届出の際には、窓口で届け出る人の本人確認が行われます(同法27条2項)。また、市区町村長は、住民票の記載事項について必要があると認めるときは調査をすることができ、関係人に質問をすることもあります(同法34条)。世帯主として届け出る場合でも、子が実際に転居しているかどうかを確認される可能性があると考えておくとよいでしょう。
子がすでに家を出ている場合に取れる手段
子の同意を得て、子自身に手続してもらう
行き違いがもっとも少ないのは、子本人に手続をしてもらう方法です。実家の住所地での転出届と、新しい住所地での転入届を子が済ませれば、住民票は実際の暮らしに合った形に整います。マイナンバーカードがあれば、転出届はオンラインでできる場合もあります。子が窓口に行くのを嫌がる場合でも、委任状を書いてもらい、親が代理人として届け出る方法が考えられます。
子と直接話すと衝突してしまう、そもそも連絡に応じないという場合には、第三者を通じて手続への協力をお願いするという選択肢もあります。
転居先が分かっている場合|世帯主として転出届を出す
親が世帯主で、子が同じ世帯に記録されている場合、子が実際に転居していれば、親が子に代わって転出届を出す余地があります。ただし、転出届を出しただけでは、子の住民票は実家の住所から外れるにとどまり、新しい住所での転入届は別に必要です。転入届は転入をした日から14日以内にするものとされているため(同法22条1項)、親だけで手続を進めると、子の側の手続が宙に浮いてしまうことがあります。
転出の手続をする場合も、可能であれば子にその旨を伝え、転入届まで進めてもらえる形を整えておくことが大切です。
転居先が分からない場合|居住実態の調査を申し出る
子が家を出たまま連絡が取れず、どこに住んでいるのか分からない場合には、転出先を記載できないため、転出届を出すことは難しくなります。この場合は、住民票のある市区町村に、子がその住所に住んでいないことを伝え、居住実態の調査を申し出る方法があります。市区町村によっては、親族や同居人からの申出を調査のきっかけの一つとして要綱に定めているところもあります。
調査の結果、その住所に住んでいないと認められると、住民票は市区町村長の職権で消除されることがあります(同法8条)。いわゆる職権消除です。これにより実家の住民票から子の記録は外れますが、子はどこにも住民登録がない状態になり、国民健康保険や選挙、各種の通知などに影響が出ることがあります。子が後から新しい住所で住民登録をし直すことはできますが、手続に手間がかかる場合もあります。
また、子の安否が分からない状態であれば、住民票の整理より先に、安否の確認を優先すべき場面もあります。順序の考え方は【親子問題】独立した後に連絡が来なくなったら|安否確認の順序と「報告の枠組み」で解説しています。
子が同居している場合|住民票だけを移すことはできない
子が今も家で暮らしているのに、住民票だけを別の場所へ移すことはできません。実際には住んでいない住所への転出・転入などの届出は、虚偽の届出として5万円以下の過料の対象とされています(同法52条1項)。内容によっては、公的な記録に事実と異なる記載をさせたとして、刑事責任を問われるおそれもあります。
「家から出ていってほしい」という気持ちが強いときほど、住民票を先に動かせば状況が変わるのではないかと考えがちです。しかし、住民票は暮らしの実態を記録するものであり、住民票を移したからといって、子が家を出なければならなくなるわけではありません。
同じ家のままでできる「世帯分離」
同じ住所に住んだまま、生計を別にしている場合には、住民票上の世帯を分ける世帯分離(世帯変更届)が考えられます。世帯分離は住所を動かすものではありませんが、国民健康保険の保険料や各種の負担の計算に影響することがあります。生計が実際に分かれているかどうかを窓口で確認されることもあるため、詳しくは【親子問題】世帯分離とは|住民票・保険・年金の扱いをご覧ください。
本当の課題は「子の独立」をどう進めるか
同居している子の住民票を移したいというご相談の多くは、その奥に、子に家を出て自立してほしいという願いがあります。その場合に向き合うべきなのは住民票の手続ではなく、住まいの確保や生活費の見通しを含めた、子の独立の進め方です。具体的な段取りは【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順で、法的に出ていってもらえるかどうかの考え方は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで整理しています。
住民票を動かす前に確認しておきたいこと
子の住民票を整理する手続を始める前に、次の点を確かめておくと、手続の後で困ることを減らせます。
- 子宛ての郵便物や行政からの通知の届き先。
- 国民健康保険の保険料の通知や納付の扱い。
- 生活保護や就労支援の申請を予定している場合の、住所の扱い。
- 調査などを通じて、手続を進めていることが子に伝わる可能性。
- 手続をきっかけに子が強く反発した場合の、家族の安全の確保。
国民健康保険に加入している世帯では、保険料は世帯主にまとめて通知されるのが一般的です。子が同じ世帯にいる限り、子の分の保険料の通知が親のもとに届き続けることがあり、これが住民票を整理したいと考えるきっかけになることもあります。また、子が生活保護の利用を考えている場合には、世帯の扱いが申請に関わることがあります。考え方は【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方をご参照ください。
子に親の住所を知られたくない場合
子の暴力から離れるために親の側が転居する場合には、転居先を子に知られないための配慮も必要です。暴力などの被害を受けている人について、加害者からの住民票の写しなどの交付請求を制限する「DV等支援措置」という仕組みがあり、親子間の暴力でも対象となる場合があります。対象となるかどうかは、市区町村が警察や相談機関の意見を踏まえて判断します。一時的に親が家を出る選択については、【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択もあわせてご覧ください。
未成年の子の住民票との違い
「子の住民票を移す」という言葉で調べると、離婚や別居に伴う未成年の子の住民票についての情報が多く見つかります。18歳未満の子については、親権者が法定代理人として届出をする場面があり、父母の間で子の住民票をめぐって意見が対立することもあります。この記事で扱っている成人した子の住民票とは前提が異なるため、混同しないよう注意が必要です。
弁護士に相談するとできること
住民票の手続そのものは、市区町村の窓口で行うものです。ただ、子と直接話せない、話すと衝突してしまうという状況では、手続に必要な協力を子から得ることが一番の壁になりがちです。
当事務所では、親の代理人として子との連絡の窓口を担い、転居後の住民票の手続を含めて、子の独立に向けた段取りを整えるご支援をしています。民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、住まい探しや生活の立て直しを子の側から支えることもあります。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で、弁護士から子に最初に連絡を入れる際の進め方は【親子問題】弁護士から子に最初の連絡が入るとき|通知で伝えることでご紹介しています。
子の住民票は、親の側から一方的に動かせる場面が限られています。子が実際にどこで暮らしているか、世帯がどうなっているかを確かめたうえで、子の協力を得る道、世帯主として届け出る道、居住実態の調査を申し出る道のうち、どれがご家族の状況に合うかを見極めていくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


