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2023年の刑法・刑事訴訟法の改正で、性犯罪の公訴時効が延長されました。このニュースを目にして、「何年も前の交際相手との出来事が、今になって問題にされることはあるのか」と不安を抱く方からのご相談が寄せられることがあります。結論からいえば、延長された期間が昔の出来事にも及ぶ場合と及ばない場合があり、その分かれ目は条文の経過措置で決められています。
この記事は、2023年(令和5年)の「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(令和5年法律第66号)とその附則の内容を前提に、2026年10月時点の法令に基づいて解説しています。個別の事案で時効が完成しているかどうかは、行為の日付や当時の状況によって変わります。
以下では、改正で何が変わったのか、改正前の出来事にどこまで及ぶのか、交際相手との関係で問題になりやすい場面、そして不安を感じたときに避けたい行動と取れる手立てを順に整理します。
2023年の改正で公訴時効はどう変わったのか
公訴時効とは、犯罪行為が終わった時から一定の期間が過ぎると、検察官が起訴できなくなる制度です(刑事訴訟法250条・253条)。2023年の改正では、性犯罪について一般の罪より長い期間を定める規定が新たに置かれました。主な罪の期間は次のとおりです。
| 改正後の罪名 | 改正前の主な罪名 | 改正前の公訴時効 | 改正後の公訴時効 |
|---|---|---|---|
| 不同意わいせつ罪(刑法176条)など | 強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪 | 7年 | 12年 |
| 不同意性交等罪(刑法177条)など | 強制性交等罪・準強制性交等罪 | 10年 | 15年 |
| 不同意わいせつ等致傷罪・不同意性交等致傷罪(刑法181条) | 強制わいせつ等致傷罪・強制性交等致傷罪 | 15年 | 20年 |
あわせて、被害者が行為の当時18歳未満だった場合には、上の期間に「行為が終わった時から被害者が18歳になる日までの期間」が加算される仕組みも設けられました(刑事訴訟法250条4項)。たとえば当時16歳だった相手との不同意性交等罪が問題になる場合、15年に約2年が加わる計算になります。
時効の延長に関する規定は、改正法の公布日である2023年6月23日から施行されています。罪名の変更などを含む改正の本体(2023年7月13日施行)より先に動き出している点は、昔の出来事を考えるうえで重要な意味を持ちます。
改正前の出来事にも延びた期間が及ぶのか
「法律は後からさかのぼって適用されないのではないか」と考える方も多いと思います。この点は、罪が成立するかどうかの問題と、時効の期間の問題とで扱いが異なります。
時効は「2023年6月23日の時点で完成していたか」で分かれる
改正法の附則5条は、延長後の期間について、施行の時点ですでに時効が完成している罪には適用しない一方、まだ完成していない罪には適用すると定めています。
たとえば2018年に終わった強制性交等罪であれば、改正前の10年によると2028年に時効が完成するはずでした。しかし2023年6月23日の時点では完成していないため、延長後の15年が適用され、2033年まで延びる計算になります。2017年の後半に終わった強制わいせつ罪も、改正前の7年では2024年が期限でしたが、改正の時点で完成していなかったため12年が適用されます。
反対に、2012年に終わった行為で、改正前の期間がすでに過ぎていたものは、延長によって時効が「復活」することはありません。公訴時効を延ばす法改正を、施行時点で時効が完成していない罪に適用することについては、最高裁判所も憲法に反しないと判断しています(最判平成27年12月3日)。
なお、2017年7月13日より前の行為は、強姦罪・強制わいせつ罪といった当時の罪名で扱われ、2017年改正と2023年改正の経過措置が重なります。この時期の出来事については、どの規定が当てはまるかを条文に沿って個別に確かめる必要があります。
罪が成立するかどうかは、行為のときの法律で判断される
延長が及ぶのは時効の期間であり、罪の中身ではありません。改正法の附則2条は、施行前にした行為の処罰について「なお従前の例による」と定めています。そのため、2023年7月12日以前の行為は、現在の不同意性交等罪の要件ではなく、当時の強制性交等罪(暴行・脅迫を用いた場合など)や準強制性交等罪(心神喪失・抗拒不能に乗じた場合など)の要件で判断されます。
同じように、性交同意年齢を16歳に引き上げた改正も、2023年7月13日以降の行為にしか適用されません。「今の基準で見れば罪になるのではないか」という不安と、「当時の法律で罪になるのか」という問いは、分けて考える必要があります。
一方で、2017年の改正で強制性交等罪などは告訴がなくても起訴できる罪(非親告罪)に変わりました。この変更は、改正前の行為についても、すでに告訴の取消しなどで告訴ができなくなっていた場合を除いて及ぶとされています。
時効の進行が止まる場合もある
犯人が国外にいる期間は、公訴時効の進行が止まります(刑事訴訟法255条1項)。留学や海外赴任などで日本を離れていた期間がある場合、単純に年数を数えるだけでは完成時期を誤るおそれがあります。
交際相手との「昔の件」で問題になりやすい場面
交際していたこと自体は、同意があったことを当然に意味するわけではありません。改正前の法律でも、交際相手や配偶者に対する強制性交等罪は成立し得るとされていました。交際中の出来事が後から問題とされやすいのは、たとえば次のような場面です。
- 相手が拒む言葉や態度を示していたのに、行為を続けた場面。
- 別れ話や口論の最中に、押さえつけるなどの力を用いた場面。
- 相手が酒に酔って眠っていた、意識がはっきりしていなかった場面。
- 相手が当時18歳未満だった場面。
- 性的な画像や動画を撮影し、それが手元に残っている場面。
交際が続いていたという事情は、同意の有無を判断する材料の一つとして扱われます。ただし、それだけで同意が推認されるわけではなく、行為の前後のやり取りや相手の状態などとあわせて評価されます。交際関係と同意の評価については、次の記事で詳しく解説しています。
相手が当時18歳未満だった場合
相手が18歳未満だった場合は、先に述べた期間の加算に加えて、刑法以外の規定も問題になり得ます。たとえば東京都青少年の健全な育成に関する条例の淫行処罰規定は、法定刑の上限から公訴時効は3年と考えられ、こちらは2023年の改正では延長されていません。一方、児童福祉法60条1項の罪のうち自己を相手方として淫行をさせるものは、改正により12年とされました。どの規定が問題になるかで期間が大きく変わります。
年齢の認識や交際の実態がどう評価されるかについては、相手が18歳未満だと知らなかった|年齢の確認と認識の評価、淫行条例違反|「真摯な交際」の主張はどこまで認められるかもあわせてご覧ください。
時効が残っていても、すぐに捜査になるとは限らない
時効が完成していないことは、起訴が法律上可能だという意味にとどまります。実際に捜査が始まるのは、多くの場合、相手が警察に相談したり被害届や告訴状を提出したりしたことがきっかけです。
時間が経った出来事では、当時の状況を示す客観的な記録が残っていないことも少なくありません。そのため、捜査機関は当時のメッセージのやり取り、相手が周囲に話していた内容、医療機関の記録などを集めて、申告内容の裏付けがとれるかを確かめていくことになります。申告から実際の連絡までに時間がかかることもあり、その間の見通しの立て方については、【刑事事件】事件から時間が経ってから連絡が来た|捜査が動く時期の読み方で解説しています。
時間が経ってから「同意がなかった」と伝えられる経緯や、そのときの受け止め方については、【刑事事件】飲み会の後に「同意がなかった」と言われた|時間が経ってからの申告も参考になります。
民事の請求は、刑事の時効とは別に数える
刑事事件としての公訴時効とは別に、相手が慰謝料などの損害賠償を求める民事の請求にも期間の制限があります。不法行為による損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効により消滅するのが原則です(民法724条)。ただし、人の生命や身体を害する不法行為にあたる場合は、知った時から5年とされています(民法724条の2)。
刑事の時効が完成していても民事の請求は残っている、あるいはその逆、ということもあり得ます。請求の種類ごとの期間は、男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかで整理しています。
不安を感じたときに避けたいこと
昔の出来事が気になり始めると、何かしなければと考えて行動を急ぎがちです。しかし、次のような対応は、かえって状況を難しくするおそれがあります。
- 自分から元交際相手に連絡し、当時のことを確かめたり謝罪したりすること。
- 当時のメッセージや写真をまとめて削除すること。
- 口外しないことを条件に、金銭の支払いを申し出ること。
- SNSなどで当時のことについて発信すること。
本人からの連絡は、相手にとって新たな負担になるだけでなく、謝罪の言葉が事実を認めたものとして受け止められることもあります。相手との話し合いが必要な場面でも、弁護士を通じて進める方が、双方にとって負担の少ない形を探りやすくなります。この点は性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由で解説しています。
また、当時のやり取りを削除すると、交際の経緯や相手との関係を示す、ご自身にとって意味のある記録まで失われてしまうことがあります。
今の段階で整理しておきたいこと
まだ相手からも警察からも連絡が来ていない段階であれば、次の点を落ち着いて整理しておくと、相談の際に見通しを立てやすくなります。
- 出来事があったおおよその時期、場所、当時の相手の年齢。
- 当時の交際の状況と、出来事の前後のやり取りの内容。
- 手元に残っているメッセージや写真などの記録(削除せずに保存)。
- 出来事の後に国外で暮らしていた期間の有無。
警察から連絡が来た場合は、折り返す前に弁護士に相談することで、事情聴取にどう臨むか、どこまで話すかを事前に検討できます。詳しくは【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味をご覧ください。
弁護士に相談することで整理できること
性犯罪の時効は、行為の時期によって適用される罪名と期間、経過措置が変わるため、ご自身で正確に計算するのは簡単ではありません。弁護士に相談することで、時効がすでに完成しているかどうか、当時の法律に照らして罪が成立し得るのか、相手から申告があった場合にどのような手続が考えられるのかを、具体的な事情に即して確かめることができます。
不安の多くは、何が問題になり得て何が問題にならないのかが見えないことから生じます。昔の出来事が気にかかっている方は、行為の時期と残っている記録を手がかりに、一度状況を整理してみることをおすすめします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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