【刑事事件・ストーカー事件】元恋人の職場へ手紙を送ってしまった、ストーカーになる?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

この記事の刑罰の表記は、2025年6月に施行された拘禁刑への一本化を反映しています。手紙の評価は、書いた内容や前後の経緯によって変わるため、一般的な考え方としてお読みください。


別れた相手にどうしても気持ちを伝えたくなり、連絡先をブロックされていたため、相手の職場あてに手紙を送ってしまった。送った後になって「これはストーカーになるのではないか」と不安になり、調べている方もいらっしゃると思います。

 先に結論を申し上げると、手紙を1通送ったことだけで、直ちに処罰の対象になるわけではありません。ただし、書いた中身や送った経緯によっては、ストーカー規制法の「つきまとい等」にあたるとして、警察から警告を受けることがあります。また、職場あてという送り先には、自宅あてとは違う問題も含まれています。

 この記事では、手紙がどのような場合に問題とされるのか、この先どのようなことが起こりうるのか、送ってしまった後に何をしておくとよいのかを順に整理します。

「つきまとい等」と「ストーカー行為」は別の段階

ストーカー規制法は、規制の対象を2つの段階に分けています。一つは「つきまとい等」で、特定の相手に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で、法律が定める行為をすることをいいます。もう一つが「ストーカー行為」で、同じ相手に対してつきまとい等を反復してすることをいいます(ストーカー規制法2条1項・4項)。

 刑事罰の対象となるのは、原則として後者のストーカー行為です。そのため、つきまとい等が1回にとどまる場合は、それだけでストーカー行為罪にあたるとは考えにくいところです。もっとも、つきまとい等をして相手に不安を覚えさせることは法3条で禁止されており、これに違反すると、警察からの警告や公安委員会の禁止命令の対象になることがあります。

 つまり「1通だから問題ない」とも「1通でも逮捕される」とも言い切れず、手紙の中身と前後の経緯によって位置づけが変わる、というのが実際のところです。1回の連絡がどう評価されるかは、連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いでも詳しく解説しています。

手紙が問題とされるかを分ける3つの点


目的|好意や、それが満たされない気持ちから送ったか

ストーカー規制法が対象とするのは、好意の感情や、それが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的での行為です。元恋人あての手紙で復縁を求める内容や、別れに納得できない気持ちをぶつける内容であれば、この目的があると見られやすいでしょう。

 一方、預けた荷物の返却や、貸したお金の清算といった実務的な用件だけを伝える手紙であれば、目的の点で評価が分かれることもあります。ただ、用件の中に復縁を求める一文や相手を責める言葉が混ざると、全体として好意や怨恨の表れと受け取られることがあります。正当な用件で連絡したい場面の注意点は、【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で整理しています。

中身|何を書いたか

手紙は、書いた内容によって、ストーカー規制法2条1項の各号にあたるかどうかが判断されます。手紙で問題とされやすい例は、次のとおりです。

手紙に書いた内容の例問題とされうる類型
「会って話したい」「やり直してほしい」といった求め面会・交際など義務のないことの要求(3号)
「最近〇〇にいたね」など、行動を知っていることを示す記述監視していると思わせる事項の告知(2号)
相手の過去や私生活をおとしめる記述名誉を害する事項の告知(7号)
性的な内容の記述や、性的な画像の同封性的羞恥心を害する事項の告知(8号)
危害を加えることをほのめかす記述脅迫罪など刑法上の犯罪


 こうした内容が含まれていれば、手紙が1通であっても「つきまとい等」と評価されることがあります。反対に、別れを受け入れたことや感謝だけを短く伝える内容であれば、それだけで直ちにつきまとい等にあたるとは考えにくいでしょう。ただし、受け取る側がどう感じるかは送り手には分からず、職場に届いたこと自体に強い不安を覚える方もいます。

回数と、拒まれていたかどうか

2021年の法改正で、拒まれたにもかかわらず連続して文書を送付する行為が、新たにつきまとい等に加えられました(2条1項5号)。手紙の中身が穏やかなものであっても、「もう連絡しないでほしい」と伝えられた後に手紙を何通も送れば、この類型にあたる可能性があります。

 このとき、LINEをブロックされている、着信を拒否されているといった状況は、連絡を拒まれていることの表れと受け取られやすい点に注意が必要です。連絡先を消されたから職場に送った、という経緯そのものが、拒まれた後の連絡と見られることがあります。

職場あてに送ったことで生じる問題


元恋人以外の人が目にする可能性

会社に届く郵便物は、総務の担当者や上司が受け取り、場合によっては開封することもあります。封筒の書き方や中身から私的な事情が周囲に伝われば、元恋人は職場で事情を説明せざるを得なくなります。手紙の内容が相手の私生活や交際の経緯に触れるものであれば、プライバシーの侵害や名誉毀損が問題とされ、損害賠償を求められることも考えられます。

上司や同僚あてに送った場合

元恋人本人ではなく、上司や同僚あてに相手のことを書き送った場合も注意が必要です。ストーカー規制法は、本人だけでなく、本人と「社会生活において密接な関係を有する者」に対する行為もつきまとい等に含めています。職場の上司や同僚もこれにあたりうるため、本人を介さない連絡であっても規制の対象になることがあります。

 また、相手の評価を下げる内容を勤務先に伝えれば、名誉毀損罪が問題とされたり、会社の業務に支障が出た場合には業務妨害罪が問題とされたりすることもあります。勤務先へ知らせる行為の線引きについては、【不貞慰謝料】勤務先や取引先に知らせる行為の線引きも参考になります。

会社が警察に相談することもある

職場に届いた手紙をきっかけに、元恋人本人だけでなく会社も事態を知ることになります。従業員の安全を守る観点から、会社が警察に相談したり、来訪者の受付や郵便物の扱いを見直したりすることもあります。そのため、元恋人本人から何も言ってこなくても、警察から連絡が来る場合があります。

この先、起こりうること

手紙を送った後の展開は、相手や職場がどう受け止めたかによって大きく変わります。何も起きないまま終わることもありますが、問題とされた場合には、一般に次のような対応が考えられます。

  1. 警察の生活安全課などからの電話による事情の確認。
  2. 警察署への呼び出しと、今後連絡しない旨の誓約書などの作成の求め。
  3. ストーカー規制法に基づく警告。
  4. 公安委員会による禁止命令。
  5. つきまといが繰り返されたと判断された場合の、ストーカー行為罪としての捜査。


 必ずこの順に進むわけではなく、事案によっては途中の段階を経ずに次の対応がとられることもあります。警告は、相手方に任意の協力を求める行政指導と位置づけられており、警告を受けただけで前科がつくわけではありません。ただ、警告や禁止命令の後にも連絡を続ければ、より重い対応につながりやすくなります。警告の位置づけは、警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで解説しています。

 刑事罰が問題となる場合の法定刑は、次のとおりです。ストーカー行為罪は、被害者の告訴がなくても起訴できる罪とされています。

場面法定刑
ストーカー行為をした場合1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
禁止命令に違反してストーカー行為をした場合2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金
上記のほか、禁止命令に違反した場合6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金


 警告・検挙・起訴の分かれ目については、【刑事事件】ストーカーで前科はつくのか|警告・検挙・起訴の分かれ目と、不起訴になる場合で詳しく整理しています。

送ってしまった後に控えたいこと

不安や後悔から、送った手紙の印象を打ち消そうとして次のような行動をとると、かえって状況を悪くすることがあります。

  • 手紙が届いたかを確かめるために、職場へ電話をかけること。
  • 誤解を解こうとして、2通目の手紙や説明の手紙を送ること。
  • 謝罪のために、相手の職場や自宅を訪ねること。
  • 共通の友人や相手の家族を通じて、気持ちや謝罪を伝えてもらうこと。
  • 別のアカウントや電話番号から連絡を取ること。


 特に謝罪は、送り手としては誠意のつもりでも、受け手にとっては新たな接触になります。謝罪の連絡そのものが問題とされる理由は、【ストーカートラブル】謝りたい|謝罪の連絡そのものが問題になる理由で説明しています。

送ってしまった後にしておきたいこと


  1. 手紙に書いた内容を、覚えている範囲で書き留めておくこと。
  2. 送った日、宛名、送った方法(郵送か持参か)を記録しておくこと。
  3. 交際中から別れた後までのやり取りを、消さずに保存しておくこと。
  4. それ以上の連絡をいったん止めること。
  5. 警察から連絡があった場合の対応を、早めに弁護士と相談しておくこと。


 手紙の控えが手元にない場合でも、何を書いたかを早めに整理しておくと、警察から事情を聞かれたときに落ち着いて説明しやすくなります。また、別れた経緯やそれまでのやり取りは、手紙を送った目的や、拒まれていたかどうかを説明する材料になります。自分に不利に思える記録であっても、消してしまうと後から経緯を説明しにくくなるため、そのまま残しておくのが無難です。

 警察から電話が来た場合は、担当部署や呼び出しの日時を確認し、その場で詳しく説明しようとするよりも、事実を整理してから話すほうがよいでしょう。この段階で相談しておく意味は、【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味で解説しています。

弁護士に相談する意味

手紙を1通送っただけの段階で弁護士に相談するのは大げさだ、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、この段階で相談しておくと、いくつかの点で役立つことがあります。

 まず、送った手紙が法律上どう評価されうるかを、中身と経緯に照らして見立てることができます。必要以上に悲観することも、問題を軽く見て連絡を重ねてしまうことも避けやすくなります。

 次に、警察から呼び出しを受けた場合に、どのように事情を説明するか、誓約書や上申書を求められたらどう向き合うかを、事前に準備しておくことができます。

 さらに、相手方に謝罪を伝えたいという希望がある場合も、本人が直接連絡するのではなく、弁護士を通じて相手方の意向を確かめるという方法があります。相手方が受け取りを望まない場合は、その意向を尊重することが前提です。相手方の代理人から書面が届いた場合の対応は、【刑事事件】弁護士から警告の書面が届いた|ストーカーと名指しされたときの返し方で整理しています。

関連する解説記事



元恋人の職場へ手紙を送ってしまったという段階では、まだ取れる手立ては多く残っています。大切なのは、これ以上の連絡を重ねず、送った内容とそれまでの経緯を整理しておくことです。この先どうなるのかが不安な場合は、一人で抱え込まずにご相談ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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