【刑事事件・ストーカー事件】元恋人の秘密を内定先に伝えたら、罪になる?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

本記事は、2025年6月施行の改正刑法により「懲役」「禁錮」が「拘禁刑」に一本化された後の法定刑で記載しています。


別れ方に納得できず、元恋人が隠している過去や交際中の出来事を、相手の内定先に知らせたいと考えてしまう方がいます。あるいは、感情的になってすでにメールや電話で伝えてしまい、「名誉毀損で訴える」と言われて不安になっている方もいるかもしれません。

 秘密を人に話すこと自体を広く処罰する法律はありません。ただし、内定先という相手の社会的な立場に直結する場所へ伝えた場合、内容や伝え方によっては名誉毀損罪などに問われることがあり、民事上の賠償を求められることもあります。この記事では、どのような場合に罪が問題になるのか、すでに伝えてしまった場合に何ができるのかを整理します。

内定先に伝える行為で問題になり得る罪

 「秘密をばらした」という行為を直接処罰する罪は、医師や弁護士など特定の職業に就く人の秘密漏示罪(刑法134条)などに限られています。一般の個人が元恋人の秘密を話した場合に問題となるのは、主に次のような罪です。

罪名問題になりやすい場面法定刑
名誉毀損罪(刑法230条)相手の評価を下げる具体的な事実を伝えた3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
侮辱罪(刑法231条)具体的な事実を示さずに悪く言った1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
信用毀損罪・業務妨害罪(刑法233条)事実と異なる話を伝えて採用の業務を混乱させた3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
脅迫罪・強要罪・恐喝罪(刑法222条・223条・249条)「内定先に言う」と予告して何かを求めた罪名により異なる
私事性的画像記録の提供等(リベンジポルノ防止法3条)交際中の性的な画像を送った最長で3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金


 このうち、内定先への連絡で最も問題になりやすいのが名誉毀損罪です。以下では、名誉毀損罪の成否を分けるポイントを中心に説明します。

名誉毀損罪になるかどうかの分かれ目


伝えた内容が本当でも成立し得る

 名誉毀損罪は、公然と事実を示して人の名誉を傷つけた場合に成立し、条文上「その事実の有無にかかわらず」とされています。つまり、内容が真実であっても成立し得るということです。

 「浮気をしていた」「借金を返さなかった」「交際中に暴力をふるった」など、相手の社会的な評価を下げる具体的な事実を伝えた場合は、真偽とは別に名誉毀損の問題になります。一方、「最低な人間です」のように具体的な事実を伴わない悪口は、名誉毀損ではなく侮辱罪の問題として検討されます。

人事担当者一人に伝えただけでも「公然」とされることがある

 名誉毀損罪の「公然と」とは、不特定または多数の人が知り得る状態をいいます。人事担当者一人にメールを送っただけなら公然ではない、と考える方もいますが、判例は、直接伝えた相手が少数であっても、そこから広く伝わる可能性があれば公然性を認める考え方(伝播可能性の理論)をとっています(最高裁昭和34年5月7日判決)。

 内定先の場合、受け取った担当者が上司や役員に報告し、採用の判断のために社内で共有されることは珍しくありません。一方で、守秘義務を負う担当者の間にとどまることが明らかな場合などには、伝播の可能性が否定される方向に働くこともあると考えられます。誰に、何人に、どのような方法で伝えたかによって判断が分かれるため、「一人にしか言っていないから大丈夫」とは言い切れません。

「会社のためを思って」という理由はそのまま通りにくい

 刑法230条の2は、公共の利害に関する事実について、専ら公益を図る目的で示し、真実であると証明された場合には罰しないと定めています。ただし、元恋人の交際中の言動や私生活上の出来事は、通常は公共の利害に関する事実とはいいにくく、別れた相手への不満が動機にある場合は「専ら公益を図る目的」とも認められにくいと考えられます。

 実際に、元交際相手が職場で規律に反する行為をしていたことを勤務先に伝えたところ、相手から名誉毀損で訴えると言われたという相談も見られます。勤務先の職務に関わる内容かどうかで評価が変わる余地はありますが、本人が判断するのは難しい部分です。伝える前に、内容と目的を第三者の目で確かめることが大切です。

名誉毀損罪は告訴がなければ起訴されない

 名誉毀損罪と侮辱罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法232条)。告訴は、原則として犯人を知った日から6か月以内にする必要があります(刑事訴訟法235条)。

 このため、元恋人が告訴するかどうか、告訴の後に取り下げるかどうかが、刑事手続の行方に大きく関わります。後で触れる示談が意味を持つのは、この点によるものです。

刑事責任のほかに求められることがあるもの

 刑事事件にならなかった場合でも、民事上の責任は別に問題になります。

  • 名誉毀損やプライバシー侵害を理由とする慰謝料の請求(民法709条・710条)。
  • 内定が取り消された場合の、収入を得られなくなったことなどに関する損害の請求。
  • 謝罪広告など名誉を回復するための措置の請求(民法723条)。


 交際していたことや別れた経緯、病歴、家族の事情など、本人が公にしていない私生活の事柄は、名誉毀損に当たらない場合でもプライバシー侵害として扱われることがあります。もっとも、内定取消しとの因果関係や損害の額は、相手が立証しなければならず、請求された金額がそのまま認められるとは限りません。

「内定先に伝える」と予告するだけで問題になる場面

 実際には伝えていなくても、元恋人に対して「内定先にばらす」と告げること自体が問題になる場合があります。

 相手の名誉に害を加えることを告げて怖がらせれば脅迫罪、それによって謝罪や復縁などを無理にさせれば強要罪、お金を払わせれば恐喝罪が検討されます。「貸したお金を返してくれないなら内定先に言う」というように、正当な請求の手段として言ったつもりでも、方法が社会的に許される範囲を超えると判断されることがあります。また、復縁を求める気持ちから同様の連絡を繰り返している場合は、ストーカー規制法上の「名誉を害する事項を告げること」に当たる可能性もあります。

 元恋人にお金を返してほしい、謝ってほしいという思いがある場合は、内定先への連絡を手段にするのではなく、別の方法を考えることが必要です。

すでに伝えてしまった場合にできること

 感情的になって内定先に連絡してしまった後でも、その後の対応によって事態の広がり方は変わります。

追加の連絡をしない

 内定先へ「訂正」や「補足」のつもりで再度連絡したり、元恋人に釈明のメッセージを送ったりすると、行為の回数が増え、悪質と評価される材料になりかねません。まずは、内定先と元恋人の双方への連絡を止めることが出発点です。

送った内容と経緯を手元に残す

 送ったメールの文面、電話をかけた日時と相手、そこに至った経緯(交際中に何があったか、相手からどのような連絡があったか)を整理しておきます。送った記録を削除しても、送り先には残っています。自分の記録を消すことは、事実関係を説明しにくくするだけで、有利に働くことはほとんどありません。

謝罪は弁護士を通じて検討する

 直接謝りたいという気持ちは自然なものですが、相手が連絡を拒んでいる中での謝罪の連絡は、それ自体が新たなトラブルになることがあります。弁護士が窓口となり、謝罪の意思を伝えたうえで、内定先への説明の扱い、口外しない約束、告訴をしないことなどを含めた示談を目指すのが一般的な進め方です。

警察や相手の代理人から連絡が来たとき

 警察から事情を聞きたいと連絡があった場合や、元恋人の弁護士から書面が届いた場合は、その場で認める・認めないを答える前に、弁護士に相談することをおすすめします。名誉毀損では、何を、誰に、どのような目的で伝えたかの説明が、その後の評価に影響します。

これから伝えようか迷っている場合

 元恋人から暴力やつきまといの被害を受けていて、「同じことを繰り返させないために職場に知らせたい」と考える方もいます。その気持ちには理由がありますが、被害を止める手段としては、警察への相談や被害届、弁護士を通じた接触禁止の合意など、自分が責任を問われるおそれの少ない方法があります。

 お金の返済を求めたい場合も、内容証明郵便による請求や訴訟、支払督促などの手続を使えます。内定先への連絡は、相手の生活の基盤に直接影響するぶん、相手の反発も強くなりやすく、かえって解決から遠ざかることがあります。

よくあるご質問


匿名で送れば、誰が送ったか分からないのではないですか

 文面の内容や交際中の事情から、送り主が推測されることは少なくありません。告訴を受けて捜査が行われれば、メールの送信元などが調べられることもあります。匿名であることを理由に、責任を問われないと考えるのは避けたほうがよいでしょう。

内定先に伝えただけで逮捕されることはありますか

 名誉毀損事件は、逃亡や証拠隠滅のおそれがない限り、身柄を拘束せずに捜査が進むことも多いとされています。ただし、連絡を繰り返している、脅迫や恐喝を伴っているといった事情があれば、逮捕に至る可能性も否定できません。

相手が「訴える」と言っているだけなら、放っておいてよいですか

 告訴の期限は犯人を知った日から6か月で、民事の請求はそれより長い期間可能です。何も起きていない段階でこそ、弁護士を通じて謝罪や示談を申し入れる選択肢が残っています。

まとめ


  • 元恋人の秘密を内定先に伝えた場合、内容が真実であっても名誉毀損罪に問われることがあります。
  • 伝えた相手が一人でも、社内で共有される可能性があれば「公然」と判断されることがあります。
  • 名誉毀損罪は親告罪で、告訴は原則として犯人を知った日から6か月以内に行う必要があります。
  • 刑事責任とは別に、慰謝料や内定取消しに関する損害の請求を受けることがあります。
  • すでに伝えてしまった場合は、追加の連絡を止め、記録を残したうえで弁護士を通じた示談を検討します。


 関連する解説記事は次のとおりです。


 内定先への連絡は、一度送ると取り消すことができず、相手の生活にも自分の今後にも影響が残ります。伝えてしまった後の対応も、伝えるかどうか迷っている段階の判断も、早めに専門家と整理しておくことで選べる手段が広がります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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