【ストーカートラブル】ストーカー被害で、勤務先に転勤や配置換えを頼めるか?

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

職場の場所や勤務時間を相手に知られていると、通勤のたびに周囲を気にしなければならず、働き続けること自体が重い負担になります。そうしたときに「別の店舗や支店に移してもらえないか」「部署を替えてもらえないか」と考えるのは自然なことです。一方で、個人的な事情で会社の人事に口を出してよいのか、事情を話したら職場にいづらくなるのではないか、とためらう方も少なくありません。
 結論からいえば、ストーカー被害を理由に、転勤や配置換えを勤務先に頼むことはできます。ただし、異動を決めるのは会社であり、頼めば必ず実現するというものではありません。この記事では、転勤や配置換えという人事上の措置に絞って、頼むときの考え方、誰が異動するのかという問題、異動の前に確かめておきたいこと、会社から逆に異動を求められた場合の考え方を整理します。勤務時間やシフトの調整を含めた配慮全般については【ストーカートラブル】勤務先に配慮を求める|勤務地や勤務時間の変更で説明しています。

本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。ストーカー規制法の令和7年改正により、被害を受けている方を雇用する者も、その方への援助に努める立場に加えられています(2025年12月30日施行)。


転勤や配置換えは「頼む」ことができる

 転勤や配置換えは、一般に会社の人事権の範囲で決められるものです。就業規則に「業務上の必要により異動を命じることがある」といった定めがある会社では、勤務場所や担当業務を決めるのは会社の側です。その裏返しとして、従業員の側に「この部署へ移してほしい」と求める権利が当然にあるわけではありません。
 もっとも、異動の希望を伝えること自体は何ら問題のない行動です。また、ストーカー被害は私生活の問題と受け止められがちですが、被害が職場や通勤経路に及んでいるのであれば、会社にとっても無関係な事情ではありません。異動の申し出は、安全に働き続けるための相談として伝えてよいものです。

会社が異動を検討する理由になる法律

 会社は、従業員が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をするものとされています(労働契約法5条)。職場の近くで待ち伏せをされている、勤務先に繰り返し押しかけられているといった事情を会社が知れば、危険の程度に応じて何らかの措置を検討することになり、転勤や配置換えはその選択肢の一つです。
 また、ストーカー規制法では、被害を受けている方を雇用する者も、その方への援助に努めるものとされています(ストーカー規制法9条3項)。ただし、これは努力義務であり、特定の措置を会社に義務づけるものではありません。どちらの規定も「必ず異動させなければならない」とまでは定めていないため、なぜ異動が必要なのかを具体的に示すことが、話を前に進める出発点になります。

誰が異動するのか|相手が社内の人か、社外の人か

 転勤や配置換えを考えるとき、最初に整理しておきたいのは「誰が動くのか」という点です。つきまといをしている相手が同じ会社の人か、社外の人かによって、会社がとれる手段は大きく変わります。

相手会社が検討できる異動あわせて検討される対応
同じ会社の上司・同僚など行為者の配置換え、または被害を受けた方の配置換え事実関係の確認、行為者への注意や指導、懲戒の検討
元交際相手・客など社外の人被害を受けた方の配置換えや転勤受付での来訪対応、電話の取次ぎ制限、通勤時の配慮


相手が社内の人の場合

 相手が同じ会社の人であれば、会社はどちらの人事についても判断できる立場にあります。厚生労働省のセクシュアルハラスメントに関する指針でも、事実関係が確認された場合の措置の例として、被害を受けた方と行為者を引き離すための配置転換が挙げられています。この場面では、被害を受けた方の側が必ず異動しなければならないわけではなく、行為者の配置を変えるという選択肢もあります。
 もっとも、慣れた職場を離れたくない方もいれば、相手と同じ拠点にいること自体がつらいので自分が移りたいという方もいます。どちらが望ましいかは、職場の規模や業務の内容、ご本人の希望によって変わります。社内の相手について会社に相談するときの注意点は【ストーカートラブル】職場の上司・同僚からの執拗な好意|会社に伝える前にで説明しています。
 なお、会社が行為者の配置換えを検討する際には、相手からも事情を聴くのが通常です。そのため、異動の話をきっかけに、相談したことが相手に伝わるおそれがあります。会社に申し出る前に警察へ相談しておく、聴取をする場合は時期を事前に知らせてもらうなど、進め方を会社と確認しておくと安心です。

相手が社外の人の場合

 相手が元交際相手や客など社外の人である場合、会社が相手を異動させることはできません。職場で相手と接する機会を減らすには、被害を受けた方が別の拠点に移るか、部署を替えて相手と顔を合わせにくい業務に就くことが中心になります。接客の仕事で客からつきまとわれている場合は、【ストーカートラブル】接客の仕事で客につきまとわれている|個人でできることもあわせてご覧ください。

異動を頼む前に確かめておきたいこと

 異動は、一度実現すると元に戻しにくい措置です。申し出る前に次の点を考えておくと、異動したのに効果が薄かった、思わぬ不利益が生じた、という事態を避けやすくなります。

異動先を相手に推測されないか

 同じ会社の別の拠点は、会社のウェブサイトや求人情報から相手にも調べやすい場所です。相手の生活圏に近い拠点や、交際中に話題にしたことのある拠点は、異動先として効果が薄くなるおそれがあります。異動先を選ぶときは、通勤経路や最寄り駅が相手の行動範囲と重ならないかも含めて検討するとよいでしょう。
 あわせて、異動の事実が社外に伝わらない工夫も必要です。取引先への担当者変更の連絡、社内報や人事異動の告知、社員紹介のページなどから異動先が広まることがあります。外部からの問い合わせには在籍や異動先を答えない運用を、会社に依頼しておくことが考えられます。

転居を伴う転勤の場合

 遠方への転勤は、職場と住まいの両方を相手から遠ざけられる点で、効果の大きい選択肢です。その一方で、引越しの費用や手間がかかり、ご家族の生活にも影響します。会社の転勤に関する規程は、会社の都合による転勤を想定して作られていることが多く、本人の申し出による転勤では、赴任手当や引越し費用の扱いが異なる場合があります。費用の負担について、申し出の段階で確認しておくと行き違いを防げます。
 転居する場合は、新しい住所を相手に知られないための手当ても欠かせません。住民票の写しの交付などを制限する支援措置の申出や、郵便物の転送の扱いなど、手続の順序については【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序で整理しています。

賃金や評価、仕事の内容への影響

 部署や職種が変わることで、手当がなくなったり、賃金の体系が変わったりすることがあります。労働条件を変える場合は、本人と会社の合意で行うのが原則です(労働契約法8条)。安全のための異動であっても、収入への影響は生活に直結しますので、異動後の条件を書面で確認しておくとよいでしょう。
 また、一時的な措置として異動するのか、恒常的な異動とするのかによって、その後の働き方が変わります。相手の動きが落ち着いたときに元の職場へ戻る可能性があるのであれば、見直しの時期や条件をあらかじめ会社と話し合っておくことが大切です。

異動先がない会社の場合

 拠点が一つしかない会社や、勤務地を限定して雇用されている場合は、転勤という形をとること自体が難しいことがあります。その場合でも、フロアや担当業務の変更、在宅勤務や時差出勤の併用、受付での来訪者への対応など、異動に代わる手段を相談する余地はあります。働き続けるかどうかで迷っている方は、【ストーカートラブル】ストーカー被害で、職場を辞めるべきか迷ったときは?もあわせてご覧ください。

会社への頼み方

 異動の申し出は、次のような順序で進めると、会社にとっても検討しやすくなります。

  1. 最初に相談する相手を、人事担当者や直属の上司、ハラスメント相談窓口などから一人か二人に絞ります。
  2. 職場や通勤経路でどのような被害が起きているかを、要点に絞って伝えます。
  3. 希望する異動の内容(拠点、部署、担当業務など)と、その理由を具体的に示します。
  4. 異動を一時的なものとするか、見直しの時期をいつにするかを相談します。
  5. 社内で事情を共有してよい範囲と、外部からの問い合わせへの対応を確認します。
  6. 口頭で相談した場合も、後からメールなどで要点を送り、記録に残します。


 被害の経緯をすべて話す必要はありません。会社が判断するうえで役立つのは、警察に相談しているかどうか、警告や禁止命令が出ているかどうか、職場の周辺でどのような行動があったか、といった情報です。警告などが出ている場合に会社へ示せる書面については前掲の記事で、会社にどこまで話すかの考え方については【ストーカートラブル】ストーカー被害を会社に伝えるとき、どこまで話せばいい?で説明しています。

会社から「あなたが異動してほしい」と言われたら

 相談をした結果、会社から被害を受けた方の側に異動を求められることもあります。相手が社外の人であれば、被害を受けた方が移ることが現実的な手段になる場合が多く、それ自体が不当というわけではありません。一方で、相手が社内の人であるにもかかわらず、被害を受けた方だけが遠方への転勤や賃金の下がる異動を求められる場合には、その内容が適切かどうかを考える必要があります。
 会社の配転命令も無制限に認められるものではなく、業務上の必要性がない場合や、不当な動機・目的による場合、通常受け入れるべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には、権利の濫用として無効とされることがあります(最高裁昭和61年7月14日判決)。また、性的な言動に関する相談をしたことを理由に不利益な取扱いをすることは禁じられています(男女雇用機会均等法11条2項)。
 会社から異動を示されたときは、その場で返事をせず、異動の理由、行為者の側にどのような措置をとるのか、異動後の条件はどうなるのかを確認してください。説明に納得できない場合は、やり取りの日時と内容を記録したうえで、労働局の総合労働相談コーナーや弁護士に相談することが考えられます。

異動と並行して進めたいこと

 転勤や配置換えは、相手と接する機会を減らすための手段であり、相手の行為そのものを止めるものではありません。異動先を突き止められれば、同じことが繰り返されるおそれもあります。そのため、異動の相談と並行して、相手の行動を止める手続を検討しておくことが大切です。
 警察に相談し、警告や禁止命令を求める流れについては【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間で、裁判所の仮処分との使い分けについては接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで説明しています。
 また、異動や転居に伴って生じた費用や収入の減少は、相手に賠償を求める際の検討対象になることがあります。認められるかどうかは事案によって異なりますが、異動に至った経緯や会社とのやり取り、かかった費用の記録を残しておくと、後の請求の材料になります。請求できる項目の考え方は【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てをご覧ください。

よくあるご質問


異動を希望したことで、評価が下がることはありませんか。

 ストーカー被害を相談したこと自体を理由に、評価を下げたり不利益に扱ったりすることは、適切な対応とはいえません。万一、相談の後に評価や処遇が変わった場合は、その時期と内容を記録しておいてください。異動によって担当業務が変わり、評価の基準が変わることはありますので、異動の際に評価の扱いを確認しておくと安心です。

警察に相談していなくても、異動を頼めますか。

 頼むことはできます。ただ、会社としては被害の深刻さを確かめる材料があるほうが判断しやすく、警察への相談の有無は、その材料の一つになります。異動の申し出と前後して、警察にも相談しておくことをおすすめします。

パートや派遣で働いていても、配置換えを頼めますか。

 頼むことはできます。派遣で働いている場合、雇用主は派遣元ですが、実際に働く場所は派遣先ですので、派遣元の担当者に事情を伝え、派遣先の変更や派遣先での配置の調整を相談する形が考えられます。

まとめ


  • ストーカー被害を理由に、転勤や配置換えを勤務先に頼むことはできますが、異動を決めるのは会社です。
  • 会社には安全配慮義務があり、ストーカー規制法でも勤務先は援助に努める立場とされていますので、異動が必要な理由を具体的に示すことが大切です。
  • 相手が社内の人であれば、被害を受けた方ではなく行為者の配置を変えるという選択肢もあります。
  • 異動先を相手に推測されないか、転居や費用、賃金への影響はどうかを、申し出の前に確かめておくと安心です。
  • 会社から自分の側の異動を求められたときは、理由と条件を確認し、その場で返事をしないようにします。
  • 異動と並行して、警告・禁止命令や仮処分など、相手の行為を止める手続を検討します。


 異動は、働き続けるための大切な手段ですが、それだけで被害が終わるとは限りません。会社への頼み方と、相手の行為を止める手続をどう組み合わせるかは、相手との関係や被害の状況によって変わります。一人で判断がつかないときは、早めにご相談ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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