【ストーカートラブル】ストーカー被害の後、名字や名前を変えることはできる?

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2026年11月時点の戸籍法(107条・107条の2)、住民基本台帳法、ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)の規定と、裁判所が公表している手続の案内をもとに解説しています。改名が許可されるかどうかは個別の事情と資料によって判断されるため、ここで紹介する内容は一般的な考え方です。


「相手に名前を知られている限り、どこに引っ越しても見つけられる気がする」「名前を呼ばれるたびに、つきまとわれていた頃を思い出してしまう」。ストーカー被害のご相談では、被害が落ち着いた後になって、名字や名前そのものを変えたいというお話を伺うことがあります。

 名字や名前は、家庭裁判所の許可を得れば変更できる制度があります。ただし、被害を受けたことを伝えれば当然に認められるものではなく、また、改名をしただけで居場所を隠せるわけでもありません。改名に期待する効果と、実際に得られる効果のあいだには、少し距離があります。

 この記事では、ストーカー被害を理由とする改名について、手続の基本、許可の判断で見られやすい事情、住民票の閲覧制限など他の手段との組み合わせ方を整理します。警察への相談の進め方や、加害者に対する警告・禁止命令の詳細は、それぞれの関連記事に委ねます。

名字や名前を変える手続の基本

名前(名)の変更は「正当な事由」と家庭裁判所の許可

下の名前を変えるには、「正当な事由」があることを前提に、家庭裁判所の許可を得たうえで、市区町村に届け出る必要があります(戸籍法107条の2)。2025年5月からは戸籍に振り仮名も記載されるようになったため、名と名の振り仮名をあわせて許可を求める形になっています。

 「正当な事由」とは、単に今の名前が好きではないという気持ちだけでは足りず、今の名前を使い続けることで社会生活に支障が生じていること、変更しても周囲に大きな混乱が生じないことなどを指すと考えられています。

名字(氏)の変更は「やむを得ない事由」が必要で、ハードルが高い

名字の変更には、名前よりも厳格な「やむを得ない事由」が求められます(戸籍法107条1項)。名字は同じ戸籍に入っている家族と共通のものであるため、原則として戸籍の筆頭者とその配偶者が申し立て、同じ戸籍にいる15歳以上の人の同意書なども必要になります。

 親の戸籍に入っている方が自分だけ名字を変えたいという場合は、まず戸籍の構成を確認し、どの手続をとるかを検討することになります。ストーカー被害を理由とする場合、名字よりも名前の変更のほうが認められる余地は比較的広いというのが一般的な見方です。

戸籍を変えずに使える「通称」という方法

戸籍上の名前とは別の名前を日常生活で名乗ること(通称の使用)は、それ自体が違法になるものではありません。勤務先や交友関係で通称を使うことで、戸籍の名前が周囲に広がるのを抑える効果が期待できます。

 ただし、金融機関や役所の手続、資格の登録など、戸籍上の氏名が求められる場面では通称は使えません。こうした場面で事実と異なる氏名を届け出ることは避ける必要があります。また、後で改名を申し立てる際には、通称を使ってきた実績が判断材料の一つになることがあります。

ストーカー被害は改名の理由として認められるか

被害を受けたことだけで当然に認められるわけではない

ストーカー被害は、改名を申し立てる理由として検討の対象になり得ます。もっとも、「被害に遭ったので、過去を忘れるために名前を変えたい」という説明だけでは、許可は得にくいと考えられます。

 裁判所は、改名の動機が正当であるか、改名の必要性が高いか、改名によって社会的な混乱が生じないかといった点を総合的に見ます。被害の事実そのものよりも、「今の名前を使い続けることで、どのような支障や危険が具体的に生じているか」を説明できるかが分かれ目になります。

判断で見られやすい事情

法律事務所や改名手続を扱う専門家の解説では、ストーカーやDVを理由とする申立てについて、次のような事情が挙げられています。

  • 加害者との関係と、被害に至るまでの経緯。
  • つきまといや脅しの内容・時期・回数など、被害の具体的な中身。
  • 警察への相談、警告、禁止命令など、公的な機関が関わった経過。
  • 住民票の閲覧制限など、個人情報を守るための対策をすでにとっていること。
  • 通称を使い始めた時期と、使っている場面の広がり。
  • 今の名前を使うことで生じている精神的な負担や、仕事・生活への影響。


 これらは許可を約束する条件の一覧ではなく、判断の際に検討される材料の例です。いずれか一つがあれば足りる、あるいはすべてそろわなければならない、という関係にはありません。

手元に用意しておきたい資料

説明を裏付ける資料として、次のようなものが考えられます。

  • 相手から届いたメッセージ・手紙の写し、つきまといを記録したメモや写真。
  • 警察に相談した日時・担当部署の記録、警告などを受けたことが分かる書面。
  • 住民票の閲覧制限(支援措置)を受けていることが分かる書類。
  • 通称を使っていることが分かる郵便物、名刺、勤務先の名簿など。
  • 通院している場合は、医師の診断書や意見書。
  • 被害の経過を時系列でまとめた本人の陳述書。


 警察への相談記録を手元にそろえる方法は、【ストーカートラブル】警察への相談記録を手元に取り寄せる|開示請求の手順と黒塗りの読み方で解説しています。なお、申立てのために事実と異なる使用実績を作ることはできませんので、手元にあるものから整理していくことになります。

改名だけでは居場所は隠せない

戸籍には変更の経緯が残る

改名が許可されて届出をすると、戸籍の名前は新しくなりますが、変更前の名前と変更した事実も戸籍に記載されます。改名によって、それまでの記録がすべて消えるわけではありません。

 また、改名しても同じ本人であることに変わりはないため、契約上の義務や親族関係などもそのまま引き継がれます。改名は「新しい名前で暮らす」ための手段であり、それだけで住所の探索を防ぐ仕組みではないと考えておく必要があります。

住民票の閲覧制限(支援措置)と組み合わせる

住所を知られないための手段としては、住民基本台帳事務における支援措置、いわゆる住民票の閲覧制限が中心になります。ストーカー行為等の被害者で、住所を知られると再び被害を受けるおそれがある場合に、加害者からの住民票の写しや戸籍の附票の写しの請求を制限する制度です。

 申出は住民登録のある市区町村の窓口で行い、事前に警察などの相談機関に相談しておくと手続が進めやすくなります。支援の期間は原則1年で、続けて必要な場合は延長の申出が必要です。転居の際の届出の順序については、【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序で詳しく解説しています。

新しい名前が相手に伝わる経路にも目を向ける

改名をしても、新しい名前が共通の知人や勤務先、SNSなどを通じて伝わってしまえば、効果は限られます。改名を考える段階で、新しい名前を誰に伝えるのか、職場でどう扱ってもらうのかを整理しておくことが大切です。

 勤務先での名前の扱いや配置について相談する方法は【ストーカートラブル】勤務先に配慮を求める|勤務地や勤務時間の変更で、ネット上に住所などが書き込まれた場合の対応は【ストーカートラブル】ネットに自宅の住所を書き込まれた|削除とその日の安全確保で解説しています。

申立てから届出までの流れ

申立先と費用の目安

裁判所の案内をもとに、名前の変更を申し立てる場合の基本をまとめると次のとおりです。

項目内容
申立先申立人の住所地を管轄する家庭裁判所
申立人15歳以上は本人(15歳未満は法定代理人)
申立手数料収入印紙800円分(別途、郵便切手が必要)
主な必要書類申立書、戸籍謄本(全部事項証明書)、理由を裏付ける資料
審理書面での照会や事情の聴取が行われることがある
許可後審判書謄本を添えて市区町村に届出(名字の変更では確定証明書も必要)


 許可までの期間は事情や資料、裁判所の進行によって異なり、一律の目安はありません。申立てが却下された場合は、審判の告知を受けた翌日から2週間以内に即時抗告ができます。

申立てで住所の扱いに配慮が要る場面

名前の変更の許可は、加害者が相手方として関わる手続ではありません。そのため、申立てたことが相手に通知される仕組みにはなっていません。

 一方で、申立書や資料には住所を記載することになります。避難中で住所を慎重に扱いたい場合は、記載の仕方や裁判所からの郵便の送付先、記録の閲覧の扱いについて、申立ての前に家庭裁判所の窓口や弁護士に相談しておくと安心です。

許可の後に必要な名義変更

戸籍の名前が変わっても、さまざまな登録が自動的に書き換わるわけではありません。運転免許証、マイナンバーカード、パスポート、銀行口座、健康保険や年金、勤務先、携帯電話など、順番に名義の変更を進めることになります。

 名義変更の手続では、旧氏名と新氏名のつながりを示すために戸籍の提出を求められることがあります。どの窓口に、どの順番で届け出るかを事前に整理しておくと、変更前の名前が必要以上に広がるのを抑えやすくなります。

改名を考える前に、加害者への対応を整える

相手の行動を止める手段と並行して考える

改名は、被害者の側が生活を変えて身を守る方法です。ただ、相手のつきまといが続いている段階では、改名の手続と並行して、相手の行動そのものを止める手段を検討することが欠かせません。

 ストーカー規制法では、警察による警告や、公安委員会による禁止命令の仕組みがあり、禁止命令に違反してストーカー行為をすると、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金の対象になります(同法19条1項)。禁止命令の申出については【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間で解説しています。

弁護士に相談できること

弁護士は、加害者への接触禁止の通知や示談交渉、接近禁止の仮処分といった相手方への対応を担うことができます。また、改名の申立てでどのような事情や資料を示すかを、被害の経過とあわせて整理することもできます。

 被害の状況によって、警察と弁護士のどちらに先に相談するのがよいかは変わります。迷う場合は【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序や、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味もあわせてご覧ください。

よくあるご質問


警察に相談していなくても、改名の申立てはできますか?

申立て自体は可能です。もっとも、ストーカー被害を理由とする場合、被害の具体的な内容や、改名の必要性を裏付ける資料が求められます。警察への相談記録は客観的な資料の一つになりやすいため、身の安全を守る意味も含めて、相談をしておくことが考えられます。

通称を何年使えば、改名が認められますか?

法律に「何年使えば変更できる」という一律の年数の定めはありません。通称の使用期間は判断材料の一つですが、使い始めた理由や使用場面の広がり、今の名前を使うことによる支障なども含めて判断されます。ストーカー被害のように必要性が高い事情がある場合には、使用期間が比較的短くても、他の事情とあわせて検討されることがあります。

改名したことを加害者に知られることはありますか?

申立てが加害者に通知される仕組みはありません。ただし、戸籍には変更の経緯が残り、共通の知人や勤務先、SNSなどから新しい名前が伝わる可能性もあります。住民票の閲覧制限をかけておくこと、新しい名前を伝える範囲を決めておくことなどを組み合わせて考えることが大切です。

まとめ


  1. 名前の変更には「正当な事由」と家庭裁判所の許可が必要です(戸籍法107条の2)。
  2. 名字の変更には、より厳格な「やむを得ない事由」が求められます(同法107条1項)。
  3. ストーカー被害を受けたことだけで当然に許可されるわけではなく、今の名前を使い続けることによる具体的な支障や危険を説明できるかが分かれ目になります。
  4. 警察への相談記録、支援措置の書類、通称の使用実績などが判断の材料になります。
  5. 改名しても戸籍には変更の経緯が残るため、住民票の閲覧制限(住民基本台帳法に基づく支援措置)と組み合わせて考える必要があります。
  6. つきまといが続いている場合は、警告や禁止命令(ストーカー規制法4条・5条)など、相手の行動を止める手段を並行して検討します。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。加害者への接触禁止の通知や示談交渉、警察との連携など、相手の行動を止めるための対応を中心にお手伝いします。
改名を考えるほど負担を感じている方も、まだ相談するほどではないと迷っている方も、現在の状況を整理するところから、お気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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