【ストーカートラブル】接近禁止の仮処分にかかる費用と期間の目安|担保・審尋・決定後の手続まで
本記事は、2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法(職権による警告の創設など)の内容を反映しています。実際の警察の対応は、事案の内容や危険の度合いによって異なります。
つきまといや待ち伏せを受けているのに、相手の名前も住所も分からない。顔を何度か見かけただけ、SNSのアカウント名しか知らない、車の色と形しか覚えていない。そのような状態で警察に相談に行っても、取り合ってもらえないのではないかと不安に感じる方は少なくありません。
結論から申し上げると、加害者の情報が少なくても、警察に相談することはできます。相談の段階で求められるのは、相手の素性よりも「何が起きているか」です。ただし、相手が誰か分からないままでは使えない手続もあるため、情報の多い少ないによって、取れる手段の順序は変わってきます。
この記事では、加害者の情報が少ないときに警察がどのような対応を取りうるのか、相談の前に何をそろえておけばよいのか、そして情報を集めようとして避けたい行動について整理します。
加害者の情報が少なくても、警察への相談はできます
警察庁の集計では、2025年に警察が受けたストーカー事案の相談は2万件を超えています。加害者の多くは元交際相手や知人など面識のある人物ですが、相手との関係が分からないまま相談に至る事案も一定数含まれています。相手の氏名や住所が分からないことは、相談を断られる理由にはなりません。
警察の相談窓口では、身の危険があるかどうか、被害がどの程度続いているかといった点がまず確認されます。そのうえで、防犯上の助言やパトロールの強化など、相手が特定できていなくても取れる対応から進めていくのが一般的です。
相手の情報が少ないと変わるのは「順序」
ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令は、相手方に対して行う手続です。そのため、相手が誰か分かっていることが前提になります。相手が特定できていない段階では、まず被害者の身の安全を守る対応を固め、並行して相手を特定するための情報を積み上げていく、という順序になることが多いといえます。
情報が少ない段階で警察が取りうる対応
相手の特定が必要かどうかで、警察の対応はおおむね次のように分かれます。
| 対応の例 | 内容 | 相手の特定 |
|---|---|---|
| 相談の受理・防犯指導 | 状況の聞き取り、自宅や通勤経路での注意点の助言 | 不要 |
| パトロールの強化など | 自宅周辺の警戒、緊急時に通報内容が伝わりやすくなる登録 | 不要 |
| 援助 | ストーカー規制法に基づき、被害を防ぐための措置の教示や防犯機器の貸し出しなどを行うもの | 原則として不要 |
| 捜査による特定 | 防犯カメラの確認や関係先への照会など、事案に応じた調査 | ― |
| 警告・禁止命令 | 相手方に対して、つきまとい等をやめるよう求める・命じる手続 | 必要 |
| 検挙 | ストーカー行為罪などで刑事手続に進むこと | 必要 |
どの対応が取られるかは、被害の内容や継続性、危険の程度によって判断されます。上の表はあくまで目安であり、すべての事案で同じ対応になるわけではありません。
職権による警告の創設と、その前提
2025年12月30日施行の改正により、警察が警告を出すために、被害者からの申出が必須ではなくなりました。申出をためらう被害者にも対応しやすくするための改正です。
もっとも、警告は相手方に向けて行うものである以上、相手が誰かを把握できていることが前提であることに変わりはありません。相手が分からない段階では、職権警告の制度があることだけで状況がすぐに動くわけではない点は、押さえておく必要があります。
相手の特定は、警察の捜査に委ねる部分がある
被害者の手元にある情報が断片的でも、警察が捜査の過程で相手を特定できることがあります。たとえば、防犯カメラの映像や、電話番号・アカウントに関する照会などが手がかりになる場面です。どこまで調べるかは事案の内容によって判断されるため、相談したからといって必ず特定に至るとは限りません。
また、警察が相手を把握した場合でも、相手の氏名や住所が被害者に伝えられるとは限りません。相手方の情報の扱いや、被害者の安全への配慮が考慮されるためです。弁護士ドットコムにも、警察が相手を特定したものの、誰であるかは教えてもらえなかったという相談が寄せられています。
相談の前にそろえておきたい「断片の情報」
相手の素性が分からなくても、次のような断片的な情報は、警察が状況を把握し、相手をたどる手がかりになることがあります。一つひとつは小さな情報でも、積み重なることで意味を持つ場合があります。
- 外見の特徴(おおよその年齢、身長、体格、髪型、よく着ている服装)。
- 乗っている車やバイクの車種・色・ナンバー(一部だけでも可)。
- 相手が現れた日時・場所・時間帯と、その回数。
- SNSのアカウント名・ID・プロフィールのURL、電話番号、メールアドレス。
- 届いた手紙・贈り物・メッセージの現物やスクリーンショット。
- 防犯カメラやドライブレコーダーの映像。
- 心当たりのある人物と、そう考える理由。
記録は「起きたこと」と「残っているもの」を分けて書く
記録をつけるときは、出来事と、それを裏づける物を分けておくと、警察に説明する際に整理しやすくなります。
| 日時 | 場所 | 出来事 | 残っているもの |
|---|---|---|---|
| 10月3日 21時頃 | 自宅最寄り駅の改札 | 見覚えのある男性が改札の外に立っていた | なし(目撃のみ) |
| 10月5日 21時半頃 | 自宅前の道路 | 同じ男性が白い車の中からこちらを見ていた | ナンバーの下2桁のメモ |
| 10月8日 23時頃 | SNS | 新しいアカウントから帰宅時刻に触れるメッセージ | スクリーンショット、アカウントのURL |
記録の付け方や保存方法については、【ストーカートラブル】防犯カメラの映像を証拠にする|設置と保存の注意点でも解説しています。
「心当たり」は推測として分けて伝える
「もしかするとあの人かもしれない」という心当たりがある場合は、警察に伝えてかまいません。ただし、確認できている事実と、自分の推測とは分けて伝えるようにします。推測を事実のように伝えると、警察の判断を誤った方向に導いたり、関係のない人に疑いが向いたりするおそれがあるためです。
情報を集めようとして避けたい行動
相手の正体を知りたいという気持ちから、被害者自身が動いてしまうことがあります。しかし、次のような行動は、身の安全を損ねたり、別のトラブルを招いたりするおそれがあります。
- 相手の後をつけて、住まいや勤務先を確かめに行くこと。
- 相手と思われる人物に直接問いただすこと。
- SNSに相手の写真や特徴を載せて、情報提供を呼びかけること。
- 相手の写真を撮るために、自分から距離を詰めること。
とくにSNSでの呼びかけは、人違いだった場合に、関係のない人の名誉を傷つけてしまうおそれがあります。また、相手に「気づかれている」と伝わることで、行動が変わる可能性も否定できません。相手をたどる作業は、できる限り警察や弁護士に委ねるほうが安全です。匿名の相手をたどる方法については、【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で詳しく取り上げています。
相手の素性を知る必要があるとき|民事の手続と弁護士の役割
警察への相談は、身の安全の確保と、警告や検挙といった刑事・行政の手続を目的としたものです。これに対して、慰謝料を請求したり、裁判所に接近禁止の仮処分を申し立てたりする民事の手続では、相手の氏名や住所を被害者側で把握する必要があります。
相手の情報が少ないときに、弁護士が使える手段としては、次のようなものがあります。
- SNSや掲示板の運営者などを通じて相手をたどる発信者情報開示の手続。
- 弁護士法に基づき、関係する機関や事業者に情報の提供を求める弁護士会照会。
- 刑事手続が進んだ場合の、記録の閲覧などを通じた情報の確認。
いずれも、手がかりとなる情報の種類や、照会先の対応によって結果が左右されます。必ず相手を特定できるわけではありませんが、被害者が自分で調べるよりも、安全で、法的に問題のない方法で進めることができます。
なお、刑事上の告訴は、相手の氏名が分からない状態でも行うことができます。被害届と告訴の違いについては、被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶをご覧ください。
よくあるご質問
顔しか分からない相手でも、相談してよいのでしょうか
相談してかまいません。いつ、どこで、どのような状況で見かけたのかを整理して伝えることで、警察がパトロールの範囲を決めたり、防犯カメラの確認を検討したりする手がかりになることがあります。
警察に相談したことは、相手に知られますか
相談しただけで、その内容が相手に伝わることは通常ありません。警告などの手続に進む場合には相手方への働きかけが生じるため、どの段階で何をするのかは、警察とよく相談しながら決めることになります。
「気のせいかもしれない」段階でも相談できますか
はっきりした被害が出ていなくても、不安を感じている段階で相談することはできます。判断に迷う場合は、警察相談専用電話「#9110」を利用する方法もあります。身の危険を感じたときは、ためらわずに110番通報してください。夜道での不安については、【ストーカートラブル】夜道でつけられている気がする|警察に相談してよい段階かでも解説しています。
警察と弁護士のどちらに先に相談すればよいですか
身の危険が差し迫っている場合は、まず警察への相談を優先します。そのうえで、相手を特定して慰謝料を請求したい、警察の対応が進まないといった場合には、弁護士への相談を検討します。順序の考え方は、【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序で整理しています。
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まとめ
加害者の名前や住所が分からなくても、警察に相談することはできます。相手が特定できていない段階では、身の安全を守る対応を先に固め、断片的な情報を記録として積み上げていくことが大切です。相手の正体を自分で確かめようとする行動は避け、特定が必要な場面では、警察の捜査や弁護士による法的な手続に委ねることを検討してください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


