【ストーカートラブル】ストーカー加害者の住所が分からなくても、慰謝料は請求できる?
この記事は、2026年10月時点の刑法、更生保護法、ストーカー行為等の規制等に関する法律と、法務省・警察庁が公表している被害者支援の制度に基づいて記載しています。通知や支援の運用は、事件の内容や担当する検察庁・警察署、お住まいの市区町村によって異なる場合があります。
相手が刑務所に入ったことで、ひとまず落ち着いた日常を取り戻せたと感じる方は少なくありません。一方で、刑期の終わりが近づくにつれて「出てきたら、また来るのではないか」という不安が強くなるというご相談も多く寄せられます。
出所した後に相手がどう行動するかを、前もって確かめる方法はありません。ただ、出所までの期間は、被害者の側が準備に使える時間でもあります。受刑中、出所が近づいた時期、出所した後の数か月という時間の流れに沿って、使える制度と準備を整理しておくと、漠然とした不安を具体的な手立てに置き換えやすくなります。
この記事では、刑務所からの出所を前にした準備を中心に説明します。逮捕・勾留中や保釈による釈放への備えは【ストーカートラブル】相手が釈放される|時期を知る方法と、その日に備えることで、釈放の時期がどこまで事前に分かるかは【ストーカートラブル】加害者が釈放されるタイミングを、知ることはできる?で扱っています。
出所の形によって、出所後の見守りの有無が変わる
刑務所からの出所には、刑期の途中で認められる仮釈放と、刑期を終えて出る満期出所の2つがあります。どちらで出るかによって、出所後に相手を見守る仕組みがあるかどうかが変わります。
| 出所の形 | 出所後の監督 | 被害者の側でできること |
|---|---|---|
| 仮釈放 | 仮釈放の期間中は保護観察を受け、守るべき事項に違反すると仮釈放が取り消されることがある | 審理の段階で意見を述べる、保護観察の状況について通知を受ける |
| 満期出所 | 刑の執行が終わるため、保護観察による監督はない | 出所予定の時期の通知を受け、出所前に警察との連絡や手続の準備を整える |
有期刑では、刑期の3分の1を経過し、改悛の状があると認められれば仮釈放の対象となります(刑法28条)。仮釈放の期間中は保護観察に付され、ストーカー事案などでは、被害者に近づかないこと、連絡をとらないことが守るべき事項(特別遵守事項)として定められることがあります。保護観察所と警察が、被害者に接触しようとしているといった問題行動の情報を共有する運用もとられています。
これに対して満期出所の場合は、出所した時点で刑の執行が終わるため、保護観察による監督はありません。満期で出所する見込みが高いほど、出所前に被害者の側で整えておく準備の比重が大きくなると考えておくとよいでしょう。
受刑中にしておける準備
出所情報の通知を書面で申し出ておく
判決が確定した後は、事件を扱った検察庁に書面で申し出ることで、収容されている刑務所の名称、満期出所の予定時期、受刑中の処遇状況、実際に釈放された年月日、仮釈放の審理が始まったことなどの通知を受けることができます。申出は判決の確定後であればいつでもできますが、出所の予定は「年月」の単位で知らされ、実際の釈放日は釈放の後に通知されるのが基本です。
このほか、再被害防止のために特に必要がある場合には、釈放の直前に、釈放予定の時期(月の上旬・中旬・下旬)や、必要に応じて釈放後の住所地を知らせる仕組みもあります。転居など相手との接触を避ける措置をとる必要があり、検察官が相当と認めた場合に限られるため、これまでの接触の経過や相手の言動を具体的に伝えて申し出ることが大切です。申出の方法は【ストーカートラブル】被害者等通知制度を使う|相手の処分や出所の時期を知るで説明しています。
仮釈放の審理で意見を伝える
相手について仮釈放の審理が始まると、被害者は地方更生保護委員会に対し、仮釈放についての意見や、釈放後の生活環境、保護観察についての意見を述べることができます(更生保護法38条)。相手の帰住先として被害者の住まいや職場の近くが検討されていないかという不安や、接触しないことを守るべき事項に入れてほしいという希望も、この機会に伝えられます。審理の開始を知るためにも、前の項目の通知をあらかじめ申し出ておくことが前提になります。
心情等を伝える制度は、使うかどうかを慎重に考える
2023年12月1日から、刑務所などで被害者の心情や置かれている状況を聴き取り、受刑者の処遇に生かすとともに、希望があれば受刑者に伝える制度が運用されています。被害の重さを相手に知ってほしいという思いに応える仕組みですが、ストーカー事案では、被害者からの言葉を関わりのきっかけと受け止める相手がいることも否定できません。伝えるところまで希望するか、どのような言葉を選ぶか、居場所や生活の様子が読み取れる内容を含めないかを、利用する前に慎重に検討しておくと安心です。
受刑中の相手から手紙が届いたとき
受刑中の相手から手紙が届くことがあります。返信をすると、出所後の接触につながるおそれがあるため、返事は控え、封筒ごと保管したうえで、届いた日付を記録しておきます。受け取りたくない場合や内容に不安がある場合は、検察庁の担当者や警察に事情を伝えて相談してください。受け取るかどうかの考え方は【ストーカートラブル】相手から謝罪の手紙が届いた|受け取るかどうかで整理しています。
出所が近づいてきた時期の準備
警察との連絡を取り直す
事件から年数がたつと、当時の担当者が異動していることがあります。出所予定の通知を受けたら、事件を担当した警察署やお住まいの地域の警察署に連絡し、これまでの経過と出所予定の時期を改めて伝えておきます。警察は、再び危害を加えられるおそれのある被害者を「再被害防止対象者」に指定し、連絡体制の確立や加害者への警告などの措置をとることがあります。判決書の写しや当時の被害記録、相談の経過を手元にそろえておくと、説明がスムーズです。以前の記録の生かし方は【ストーカートラブル】数年ぶりにつきまといが再開した|以前の記録を生かすをご覧ください。
禁止命令の効力が続いているかを確認する
ストーカー規制法の禁止命令は、有効期間が1年で、必要があれば延長されます(ストーカー規制法5条)。受刑期間が長い場合、出所の時点で期限が切れていることも考えられます。出所前に警察で現在の状況を確認し、効力が切れている場合は、出所後に備えてどのような手続をとれるかを相談しておくことが大切です。示談書に接触禁止の約束がある場合は、その内容も読み直しておきます。禁止命令の申出については【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間で説明しています。
住所が伝わる経路を点検する
住民票の写しや戸籍の附票の写しの交付などを制限する「DV等支援措置」は、市区町村に申し出ることで利用でき、ストーカー行為等の被害者も対象です。支援の期間は1年で、続けるには延長の申出が必要なため、出所の時期に期限が切れていないかを確認しておきます。あわせて、郵便物、SNSの投稿、共通の知人を通じた情報、勤務先の情報などから、現在の居場所が伝わらないかも見直しておくと安心です。転居を考える場合の手順は【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序で取り上げています。
周囲に伝える範囲を決めておく
出所の時期が近づいたら、同居の家族、勤務先、住まいの管理会社など、協力を頼む相手と伝える内容を決めておきます。相手の特徴が分かる写真や車の情報を共有しておくと、異変に気づいてもらいやすくなります。勤務先への相談は【ストーカートラブル】勤務先に配慮を求める|勤務地や勤務時間の変更で扱っています。
出所した後の数か月に意識しておくこと
出所の直後は、相手の生活もまだ定まっていない時期です。何も起きていなくても、気になる出来事があれば日時と内容を記録しておきます。相手を見かけたり連絡が来たりした場合は、話し合おうとせず、身の安全を確保したうえで110番通報や担当の警察署への連絡を優先してください。仮釈放中であれば、警察に伝えた情報が保護観察所との連携につながることがあります。
持ち物や車に見覚えのない機器が付いていないかにも目を配っておきます。GPS機器などを無断で取り付けて位置情報を得る行為はストーカー規制法の規制対象で、近年の改正により紛失防止タグなども対象に加えられています。なお、加害者にGPS機器を装着させて接近を知らせる仕組みは検討が始まった段階で、現時点では利用できる制度ではありません。
不安が長く続き、眠れない、外出が怖いといった状態があるときは、各都道府県の被害者支援センターや検察庁の被害者支援員に相談することもできます。制度の準備と同じように、ご自身の心身を支える手当ても大切な備えの一つです。
弁護士に相談できること
弁護士は、通知の受け手を代理人とすることで、ご本人が直接連絡を受ける負担を減らすことができます。そのうえで、禁止命令の申出に向けた資料の整理、裁判所に接近の禁止を求める仮処分の検討、相手側から連絡が来た場合の窓口、受けた被害についての損害賠償の請求などを、出所の時期に合わせて組み立てていきます。仮処分の費用や期間の目安は【ストーカートラブル】接近禁止の仮処分にかかる費用と期間の目安|担保・審尋・決定後の手続までで、代理人を立てる意味は【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で説明しています。
よくあるご質問
相手が出所したら、引っ越さなければならないのでしょうか。
必ずしも転居が必要になるわけではありません。相手が今の住所を知っているか、これまでの接触の経過、出所後に保護観察や禁止命令などの制限があるかによって判断は変わります。警察や弁護士と状況を確認したうえで、転居するかどうか、するならいつまでにするかを決めていくのが現実的です。
出所の前後に、自宅の周りを警察に見回ってもらうことはできますか。
事情を伝えて、自宅周辺の警戒を強めてもらうよう相談することはできます。実施の有無や頻度は警察の判断によるため、必ず行われるとは限りませんが、出所予定の時期とこれまでの経過を伝えておくことで、何かあったときの対応が早くなることが期待できます。
相手が受刑中でも、損害賠償を請求できますか。
受刑中であっても、民事の損害賠償を請求することはできます。ただし、損害賠償の請求権には時効があり、相手に支払える財産があるかによって実際に回収できるかも変わります。請求を考えている場合は、出所を待たずに早めに相談しておくことをおすすめします。
まとめ
- 仮釈放で出所する場合は保護観察による見守りがありますが、満期出所の場合は監督がなくなるため、出所前の準備が特に大切です。
- 出所情報の通知は判決確定後に検察庁へ書面で申し出ることができ、再被害防止のため特に必要な場合は釈放直前の予定も通知されます。
- 仮釈放の審理では、帰住先や守るべき事項について意見を述べることができます(更生保護法38条)。
- 出所が近づいたら、警察との連絡を取り直し、禁止命令やDV等支援措置の期限が切れていないかを確認します。
- 出所後も記録を続け、接触があったときは話し合わずに警察へ連絡することを優先します。
出所までの期間がまだ長く残っていても、通知の申出や記録の整理は、思い立った時点から始めることができます。相手が出てくる日を一人で待つのではなく、関係機関や専門家と準備を分け合いながら、その日を迎えられるよう整えていくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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