【ストーカートラブル】相手が弁護士を通じて「会って謝りたい」と言ってきた|面会を断っても謝罪や示談の道は残る
この記事は、2026年11月時点の法令と一般的な運用をもとに、ストーカー被害を受けている方が加害者の勤務先に連絡することを考えたときの注意点をまとめたものです。個別の事情によって判断が変わるため、具体的な対応は専門家にご相談ください。
つきまといが続き、警察に相談しても状況が変わらないと、「相手の会社に知らせれば止まるのではないか」と考えることがあります。相手の上司や人事担当者から注意してもらえれば、行動が収まるかもしれないという期待は自然なものです。
ただ、加害者の勤務先に事実を伝える行為は、伝え方や伝える範囲によっては、被害を受けている側が名誉毀損などの責任を問われるおそれがあります。この記事では、勤務先に伝えることの法的な位置づけと、伝える前に検討したい手段、伝える場合の注意点を整理します。
勤務先に伝えること自体は禁止されていない
ストーカー規制法やその他の法律に、「被害者は加害者の勤務先に連絡してはならない」という定めがあるわけではありません。被害の事実を第三者に相談することは、本来、身を守るための行動の一つです。
一方で、相手の勤務先は相手の生活の基盤であり、そこに「つきまといをしている人物だ」という情報が届けば、相手の社会的な評価や職場での立場に大きく影響します。そのため、伝えた内容・伝えた相手・伝えた目的によっては、法的な問題に発展することがあります。弁護士ドットコムにも、警察から警告を受けた側が、被害者に勤務先の上司や同僚へ警告の事実を話されたとして名誉毀損を問えるか相談している例が見られます。被害を受けた側であっても、伝え方次第で争いが新たに生じる可能性がある、という点を最初に押さえておく必要があります。
伝える前に押さえたい法的なリスク
名誉毀損にあたるおそれ
刑法230条1項の名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合に成立し、摘示した事実が真実であっても成立し得るとされています。つきまといが実際にあったことでも、それだけで責任を免れるとは限りません。
真実であることを理由に処罰されないのは、刑法230条の2により、その事実が公共の利害に関わり、目的が専ら公益を図るものであり、真実であると証明された場合に限られます。私人どうしの交際や人間関係のトラブルは、公共の利害に関わる事実と認められにくい傾向があります。
また、「公然と」は不特定または多数の人が知り得る状態を指しますが、伝えた相手が少人数でも、そこから広く伝わる可能性がある場合には公然性が認められ得るという考え方(伝播性の理論)が判例上とられています。勤務先の上司や人事担当者だけに伝えたつもりでも、社内で情報が共有されることは十分に考えられます。民事上も、相手の社会的評価を下げたとして損害賠償を求められる可能性があります。
プライバシー侵害や業務妨害にあたるおそれ
警察から警告を受けたことや、交際していたことなどは、相手にとって職場に知られたくない私生活上の情報です。必要な範囲を超えて伝えた場合、プライバシーの侵害として問題になることがあります。
さらに、勤務先に繰り返し電話をかける、職場に出向いて大声で訴えるといった方法をとると、業務妨害にあたるおそれも出てきます。被害を訴えるための行動が、相手側から見ると嫌がらせと受け止められ、立場が逆転したような主張をされることもあります。
「会社に言う」と相手に告げることのリスク
注意したいのは、勤務先に実際に伝えることよりも、「やめないなら会社に言う」と相手に告げることです。接触をやめさせたいという目的であっても、金銭や謝罪など義務のないことを求める材料に使うと、脅迫罪・強要罪・恐喝罪などとの関係が問題になるおそれがあります。また、相手に連絡を取ること自体が、新たなやり取りのきっかけになりかねません。
勤務先への連絡に意味がある場面と、慎重に考えたい場面
勤務先に伝えることが常に不適切というわけではありません。つきまといが相手の仕事と結びついている場合には、会社に事情を伝えて対応を求めることに合理的な理由が認められやすくなります。
| 場面 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 相手が同じ会社・同じ職場の人 | ご自身の勤務先として相談でき、会社にも職場環境を整える役割があります |
| 相手が業務中の立場を使って接触している(配達・営業・窓口対応など) | 業務に関わる問題として、会社に事実関係の確認と対応を求める理由があります |
| 相手が業務で知った住所や連絡先を使っている | 情報の取扱いの問題として、会社に伝える意味があります |
| 私生活上のつきまといで、仕事とは関係がない | 会社が対応できる範囲は限られ、伝えることのリスクが相対的に大きくなります |
私生活上の行為を理由とする懲戒処分は、会社の社会的評価や業務への影響が認められる場合などに限られると考えられています。仕事と関係のないつきまといを勤務先に伝えても、会社が期待どおりに動くとは限らず、かえって相手の反発を招くこともあります。
勤務先に伝えることで起きやすいこと
法的な問題とは別に、実際の安全面でも考えておきたい点があります。
- 職場での立場を失いかけたことで、相手が被害者への恨みを強め、行動がかえって激しくなることがあります。
- 会社から事情を聞かれた相手が、被害者の言動を一方的に悪く説明し、話がこじれることがあります。
- 相手側から名誉毀損やプライバシー侵害を理由に反論や請求を受け、対応の負担が増えることがあります。
- 警察や裁判所の手続を進めるうえで、被害者側の行動が説明を求められる材料になることがあります。
つきまといを止めることが目的である以上、相手を刺激する方法はできるだけ避け、手続の中で相手の行動を制限していくほうが、結果として安全につながりやすいといえます。
勤務先に伝える前に検討したい手段
相手の行動を止めるための手段は、勤務先への連絡以外にもいくつかあります。
警察への相談と、警告・禁止命令
ストーカー規制法では、警察による警告や、公安委員会による禁止命令の仕組みが設けられています。禁止命令に違反した場合には罰則の対象となるため、相手への抑止として働くことが期待されます。警察への相談記録は、後の手続でも意味を持つことがあります。
弁護士による通知と交渉
弁護士が代理人として相手に通知を送り、接触をやめるよう求める方法です。被害者本人が相手とやり取りする必要がなくなり、接触しないことや違約金などを定めた合意書を結ぶことを目指すこともできます。
接近禁止の仮処分などの民事手続
裁判所に対し、相手が近づくことや連絡することを禁じる仮処分を申し立てる方法もあります。警察の手続と並行して使うことも考えられます。
ご自身の勤務先への相談
相手の勤務先ではなく、ご自身の勤務先に事情を伝え、勤務時間や勤務地、受付での対応などに配慮を求めることも、身を守る手段の一つです。
それでも相手の勤務先に伝える場合の注意点
相手が業務中の立場を使って接触してくるなど、勤務先に伝える必要性が高い場合には、次の点に注意して進めることが考えられます。
- 伝える相手は、人事部門やコンプライアンス窓口など、対応の権限がある部署に絞ること。
- 伝える内容は、日時・場所・行為など確認できる事実に限り、「危険な人物だ」といった評価や推測を加えないこと。
- 求める対応を、業務上の接触をやめさせることなど、仕事に関わる範囲に限ること。
- 電話や訪問ではなく書面で伝え、何をいつ誰に伝えたかの記録を残すこと。
- できる限り、弁護士を通じて伝えること。
弁護士が代理人として勤務先に伝える場合でも、伝える範囲や表現は慎重に検討します。被害を訴える行動が新たな紛争の火種にならないよう、事前に方針を整理しておくことが大切です。
よくあるご質問
警察から相手の勤務先に連絡してもらえますか
警察が、警告や禁止命令の事実を相手の勤務先に知らせることは、通常は想定されていません。逮捕された場合などに、結果として勤務先に知られることはありますが、被害者の希望によって勤務先に連絡するという性質のものではないと考えておくのが無難です。
すでに勤務先に伝えてしまいました。どうすればよいですか
伝えた日時・相手・内容をできるだけ正確に書き出しておいてください。そのうえで、追加の連絡は控え、相手側から反論や請求があった場合に備えて、早めに専門家に相談することをおすすめします。つきまとい自体への対応と並行して整理していく必要があります。
共通の知人に事情を話すことも問題になりますか
身近な人に相談すること自体は自然なことですが、話す相手の数や内容によっては、勤務先に伝える場合と同じように名誉毀損などが問題になることがあります。相談の範囲は、助けを求める必要がある人に絞るほうが安全です。
相手が公務員や教員の場合は、伝えてもよいのですか
相手の職業によっては、その人の行為が公共の利害に関わると評価される場面もあり得ます。ただし、職業だけで判断されるものではなく、私生活上のつきまといである限り、伝える内容や範囲の検討が必要な点は変わりません。相手が子どもと接する仕事に就いているなど、心配が大きい場合でも、まずは警察や弁護士に事情を伝え、どのような経路で対応するのが適切かを相談することをおすすめします。
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ご相談について
加害者の勤務先に事実を伝えたいという気持ちの背景には、ほかの手段では被害が止まらないという切実な事情があることが少なくありません。勤務先への連絡を考え始めた段階で、その前に取れる手段や、伝える場合の範囲と方法を一緒に整理することで、ご自身の立場を守りながら被害を止める道筋を探ることができます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


