【ストーカートラブル】マッチングアプリで一度会った相手が付きまとう|交際していなくても使える手段と、相手の情報が少ないときの進め方
刑事裁判の法廷で、加害者が「もう二度と近づきません」と述べるのを聞いた方は少なくありません。それにもかかわらず、判決からしばらくして再び姿を見かけたり、連絡が届いたりすると、「裁判所で約束したのに、なぜ」という思いと不安が一度に押し寄せるものです。
ただ、法廷での「もう近づかない」という言葉は、それだけで加害者を縛る命令になっているわけではありません。約束を破ったときに何が起きるかは、その約束がどの手続きの中で、どのような形で残されたかによって変わります。この記事では、手続きごとの違いと、約束が破られたと気づいたときの動き方を整理します。
この記事は、2025年6月施行の改正刑法(懲役・禁錮の拘禁刑への一本化など)を反映した内容です。個別の事件の見通しは、判決の内容や経緯によって異なります。
「もう近づかない」という約束は、どの手続きで交わされたか
「裁判での約束」には、性質の違うものがいくつか含まれています。まず、ご自身の場面がどれに当たるかを確かめることが出発点になります。
| 約束が残された場面 | 約束の性質 | 破った場合に考えられること |
|---|---|---|
| 刑事裁判の被告人質問などでの発言 | 反省の態度として量刑で考慮される事情 | 発言そのものではなく、新たな犯罪や遵守事項違反として扱われる |
| 保護観察付き執行猶予の遵守事項 | 守らなければならない義務 | 情状が重いときは執行猶予が取り消されることがある |
| 保釈の条件(判決前) | 保釈を続けるための条件 | 保釈が取り消され、保釈保証金が没取されることがある |
| 民事の和解・調停での接触禁止条項 | 当事者間の合意で、判決と同じ効力を持つ書面になる | 違約金の請求や強制執行の手続きを検討できる |
| 接近禁止の仮処分 | 裁判所の命令 | 間接強制などの手続きを検討できる |
同じ「裁判で約束した」でも、刑事の手続きと民事の手続きでは、破った場合の扱いがまったく異なります。判決書や和解調書が手元にあれば、どこにどのような文言があるかを確認してみてください。
刑事裁判で述べた「近づかない」の位置づけ
刑事裁判では、被告人質問の中で反省や今後の行動について述べることがよくあります。「被害者には今後一切連絡しない」「被害者の生活圏には立ち入らない」といった発言は、再犯のおそれが低いことを示す事情として、執行猶予を付けるかどうかなどの判断で考慮されることがあります。
もっとも、この発言自体は法的な命令ではないため、発言を破ったことだけを理由に処罰されるわけではありません。問題になるのは、破った行動が新たな犯罪に当たるか、あるいは判決で付された条件に違反するかという点です。
執行猶予期間中に再び罪を犯した場合
執行猶予期間中に、つきまといや脅迫などによって新たに罪を犯し、その罪で拘禁刑の実刑が言い渡されると、前の判決の執行猶予は必ず取り消されます(刑法26条1号)。新たな罪が罰金にとどまった場合は、取り消すかどうかが裁判所の判断に委ねられます(刑法26条の2第1号)。
執行猶予が取り消されると、猶予されていた刑と新たな罪の刑の両方を受けることになるため、加害者にとっては重い結果となります。また、2025年6月施行の改正により、猶予期間中に犯した罪について期間内に起訴されていれば、期間が過ぎた後でも執行猶予を取り消せる仕組みが設けられました。期間の終わり際に起きた行動であっても、それだけで扱いが軽くなるとは限りません。
保護観察付き執行猶予の場合
執行猶予に保護観察が付いている場合、加害者は保護観察所の指導監督を受けながら、定められた遵守事項を守って生活することになります。ストーカー事案では、被害者への接触をしないことなどが特別遵守事項として定められることがあります。
この遵守事項を守らず、その情状が重いときは、新たな罪で処罰されていなくても執行猶予が取り消されることがあります(刑法26条の2第2号)。一度の違反で直ちに取り消されるとは限りませんが、違反の内容や回数、被害者に与えた不安の大きさなどが判断材料になります。
警察と法務省は、ストーカー事案などの保護観察付き執行猶予者について、被害者に接触しようとしているといった問題行動の情報を共有する連携を2013年から行っています。接触があった場合は、警察に伝えることが保護観察の側での対応につながる道にもなります。
遵守事項の内容と取消しの流れについては、保護観察付き執行猶予の遵守事項と、取り消される場面で詳しく解説しています。
判決の前(保釈中)に約束を破った場合
起訴された後、保釈中の加害者が被害者に接触した場合は、保釈の条件違反や、被害者を畏怖させる行為として、保釈が取り消されることがあります(刑事訴訟法96条1項)。保釈が取り消されると身柄が再び拘束され、保釈保証金の全部または一部が没取されることもあります。保釈中の接触は判決前の段階であっても、速やかに警察や担当の検察官に伝えることが大切です。
保釈の条件(制限住居・接触禁止・渡航制限)に違反したらどうなるか
民事の和解や仮処分で約束していた場合
損害賠償請求の訴訟や調停の中で、接触禁止を内容とする和解が成立していることもあります。裁判上の和解や調停で作られた調書は、確定判決と同じ効力を持つため、口約束や当事者だけで作った誓約書とは扱いが異なります。
和解条項に「接触した場合は1回につき〇万円を支払う」といった違約金の定めがあれば、違反の事実を示して違約金を請求し、支払われなければ強制執行の手続きを検討することになります。違約金の定めがない場合でも、接触によって生じた精神的苦痛について、あらためて損害賠償を求められることがあります。
接近禁止の仮処分が出ている場合には、違反を繰り返す相手に対して、違反1回ごとに金銭の支払いを命じる間接強制を申し立てる方法があります。ただし、民事の手続きはいずれも相手にお金の負担を課す仕組みであり、警察のようにその場で行動を止める力はありません。身の危険を感じる場面では、刑事の手続きと並行して考える必要があります。
ストーカー規制法の手続きをあらためて使う
判決や和解の扱いとは別に、新たな接触がつきまといなどに当たれば、ストーカー規制法の手続きをもう一度使うことができます。前の事件で処罰を受けたことは、新たな警告や禁止命令を出してもらう妨げにはなりません。
| 手続き | 内容 | 違反した場合 |
|---|---|---|
| 警告 | 警察が加害者に、つきまといなどをやめるよう求める | 警告自体に罰則はない |
| 禁止命令 | 公安委員会が、つきまといなどを禁止する命令を出す | 命令に違反してストーカー行為をすると2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 |
| 被害届・告訴による捜査 | ストーカー行為罪などとして捜査する | ストーカー行為罪は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
禁止命令は警告を経なくても出すことができ、緊急の場合には聴聞を経ずに出される仕組みもあります。過去に同じ相手が有罪判決を受けているという経緯は、危険性を判断するうえで重要な事情になりますので、相談の際は必ず伝えるようにしてください。
禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新
約束が破られたと気づいたときの動き方
再び接触があったときは、怒りや恐怖から相手に直接抗議したくなることもありますが、直接のやり取りはかえって接触の機会を増やすおそれがあります。次の順序で動くことが考えられます。
- 身の危険を感じる場面では、ためらわず110番通報をします。
- いつ、どこで、どのような接触があったかを、日時・場所・相手の言動とともに記録します。
- メッセージや着信履歴は削除せず、画面の撮影などで保存します。
- 警察に相談する際は、過去の事件の内容、判決の時期、保護観察の有無などを伝えます。
- 判決書や和解調書、示談書などの写しを手元にそろえます。
- 民事の手続きを検討する場合は、弁護士に相談して取れる手段を整理します。
記録は、執行猶予の取消しや禁止命令、違約金の請求など、どの手続きを進める場合にも土台になります。「偶然会っただけ」と相手に言われる可能性もあるため、接触の状況はできるだけ具体的に残しておくことが大切です。
証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とは
判決の内容や加害者の状況を知っておく
約束が破られたときに素早く動くためには、加害者がどのような判決を受け、いつまで執行猶予や保護観察の期間が続くのかを知っておくことが役に立ちます。被害者等通知制度を利用すると、処分の結果や裁判の結果、保護観察の状況などについて通知を受けられる場合があります。
よくあるご質問
一度メッセージが届いただけでも、執行猶予は取り消されますか
一度の連絡だけで新たな犯罪として処罰されるとは限らず、その場合は執行猶予が直ちに取り消されるとは言えません。ただし、保護観察付きで接触禁止の遵守事項がある場合は、その違反として扱われる可能性があります。一度だけだからと判断せず、記録を残したうえで警察に伝えておくことが、後の対応につながります。
相手が「偶然すれ違っただけ」と言っている場合はどうなりますか
本当に偶然であれば、つきまといや遵守事項違反とは評価されにくいことがあります。一方で、同じ場所での遭遇が繰り返される、待っていたような様子がある、声をかけられたといった事情があれば、評価は変わります。時刻や場所、相手の様子を具体的に記録しておくことが、偶然かどうかを判断する材料になります。
示談書で「近づかない」と約束しただけの場合は、刑事の手続きは使えませんか
示談書の約束は当事者間の合意であり、破った場合は主に違約金や損害賠償の問題になります。ただし、接触がつきまといなどに当たれば、示談とは別に、ストーカー規制法の警告や禁止命令、被害届の提出を検討することができます。民事と刑事の手続きは並行して進められるものです。
裁判で交わされた約束が破られたとき、何ができるかは、約束が刑事の手続きの中にあったのか、民事の手続きの中にあったのかによって変わります。判決や和解の内容を確かめ、接触の記録を残し、警察と弁護士のそれぞれに相談することで、取れる手段が見えてきます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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