【ストーカートラブル】元恋人が私の勤務先の取引先に連絡してきたら?

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法(警察の職権による警告の創設、被害者を雇用する事業者による援助の努力義務の追加など)を反映し、2026年10月時点の法令に基づいて解説しています。


別れた相手が、あなた本人ではなく「勤務先の取引先」に連絡を入れてくることがあります。交際していた事実を伝える、あなたについての悪い評判を吹き込む、担当から外すよう求めるといった内容で、取引先の担当者から上司を通じて知らされ、そこで初めて気づくという方も少なくありません。

 職場の外にいる第三者が巻き込まれるため、自分だけの問題では済まないという負担を感じやすい場面です。この記事では、取引先への連絡がどの法律で扱われうるのか、勤務先や取引先との関係を保ちながらどう動けばよいのかを、順を追って整理します。

取引先への連絡にはどんな形があるか

 取引先への連絡といっても、その中身はさまざまです。どの法律で扱われるかは中身によって変わるため、まずは何が伝えられたのかを分けて捉えることが出発点になります。

  • 交際していたことや別れた経緯を、取引先の担当者に伝える形。
  • あなたの人柄や仕事ぶりについて、事実と異なる悪評を伝える形。
  • 「本人に連絡するよう伝えてほしい」と伝言を頼む形。
  • あなたを担当から外すよう、あるいは取引を見直すよう求める形。
  • あなたの居場所や連絡先、勤務予定を聞き出そうとする形。


 法律相談のサイトにも、元交際相手からの嫌がらせが本人ではなく会社に届き、会社から解決を求められたという相談が寄せられています。本人の周囲に向けた連絡は職業生活に直接響くため、精神的な負担が大きくなりがちです。

気づいた日から数日のうちにしておきたいこと


取引先から聞いた内容を記録に残す

 最初に取り組みたいのは記録です。取引先の担当者から、連絡があった日時、手段(電話・メール・SNS・来訪)、相手が名乗った名前、伝えられた内容をできるだけ具体的に聞き取り、メモにしておきます。メールや手紙であれば、取引先の了解を得たうえで、写しを提供してもらえないか相談してみるとよいでしょう。

 あなた自身に届いているメッセージや着信の記録も、あわせて保存しておきます。取引先への連絡と本人への連絡が同じ時期に重なっていれば、一連の行為として説明しやすくなります。

勤務先の上司や担当部署に早めに伝える

 取引先への連絡は、いずれ勤務先の知るところになります。取引先から先に会社へ問い合わせが入るより、自分から上司や総務・法務などの担当部署に伝えておくほうが、会社としても対応方針を立てやすくなります。

 2025年12月30日施行の改正ストーカー規制法では、ストーカー行為等の相手方を雇用する事業者が、援助に努める主体として加えられました。会社に相談することは、私的な事情を職場に持ち込むことというより、法律が想定している支援の入口の一つと考えることができます。

元恋人に自分から抗議しない

 取引先に迷惑をかけたという思いから、元恋人に直接連絡して強く抗議したくなるかもしれません。しかし、こちらからの連絡がやり取りの再開と受け取られ、連絡がかえって増えることがあります。感情的な言葉が残ると、後から相手に都合よく使われるおそれもあります。やめてほしいという意思を伝える場合は、警察や弁護士を通じる方法を検討したほうが安全です。

取引先への説明は会社と足並みをそろえてから

 取引先に事情を細かく説明する必要はありません。「個人的なトラブルでご迷惑をおかけした」「今後同様の連絡があっても応じず、当社の担当部署に回していただきたい」という程度に、会社と内容をそろえたうえで伝えるのが一般的です。交際の経緯など私生活の詳細を説明すると、かえって話が広がるきっかけになることもあります。

どの法律で扱われるか


伝えられた内容・行為問題になりうる法律押さえておきたい点
交際していた事実や性的な事柄を伝えるストーカー規制法、名誉毀損罪、民法上の不法行為伝えた内容が真実でも、名誉毀損やプライバシー侵害になる場合があります
事実と異なる悪評を伝える名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪・業務妨害罪取引に影響が出れば、会社自身が被害者として扱われることもあります
伝言を頼む、居場所を聞き出すストーカー規制法、各都道府県の迷惑防止条例取引先を経由した接触の試みとして、ほかの行為と合わせて評価されます
取引の見直しを求めて何度も連絡する業務妨害罪、民法上の不法行為回数や態様によっては、業務への妨害として扱われることがあります


ストーカー規制法に当たるかどうかの分かれ目

 ストーカー規制法は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことによる恨みの感情を満たす目的で、本人や、本人と社会生活において密接な関係にある人に対して一定の行為を繰り返すことを規制しています。元交際相手からの連絡は、この目的が認められやすい類型です。

 一方で、取引先の担当者がここでいう「密接な関係にある人」に当たるかは、関係の深さによって判断が分かれ、当たらないと見られることも少なくありません。ただし、規制される行為には、名誉を害する事項を本人が知り得る状態に置くことも含まれています。取引先を通じて本人に伝わることを狙った中傷や、本人への直接の連絡と並行して行われている場合などは、一連の行為として規制の対象になる可能性があります。

 また、東京都の迷惑防止条例は、好意や恨みに限らず、ねたみなどの悪意の感情による嫌がらせも対象にしています。ストーカー規制法に当たらない場合でも、別の枠組みで扱われる余地がある点は覚えておくとよいでしょう。

名誉毀損や業務妨害として扱われる場面

 名誉毀損罪は、公然と事実を示して人の社会的評価を下げた場合に成立しうる犯罪で、示した事実が真実かどうかを問いません。取引先の担当者一人に伝えただけでも、そこから社内や業界に広がる可能性があれば「公然」と評価されることがあります。

 事実と異なる内容を広めてあなたや会社の経済的な信用を傷つけた場合には信用毀損罪、偽りの情報で取引に支障を生じさせた場合には業務妨害罪が問題になります。業務妨害罪は勤務先の会社が被害者となることが多いため、会社として警察に相談するかどうかも、方針を決めるうえでの要素になります。友人や知人に悪口を広められた場合の考え方は、【男女トラブル】別れた相手が共通の友人に悪口を広めている|名誉毀損になる線でも解説しています。

民事で請求できること

 刑事手続とは別に、民事では、名誉やプライバシーを傷つけられたことに対する慰謝料、名誉を回復するための措置、今後の連絡をやめることを請求することが考えられます。急いで止める必要があるときは、裁判所に仮処分を申し立て、本人や勤務先・取引先への連絡を禁じる決定を求める方法もあります。

勤務先・取引先との関係をどう守るか

 取引先への連絡で気がかりなのは、仕事への影響だと思います。会社にとっても、取引先との信頼関係は守りたいものです。被害を受けた方と会社が同じ方向を向いて対応するために、次の点を確認しておくとよいでしょう。

  • 取引先からの問い合わせ窓口を、上司や担当部署に一本化してもらうこと。
  • 元恋人からの伝言や問い合わせに応じず、会社の窓口へ回すよう取引先に依頼してもらうこと。
  • 取引先に伝える内容を、私生活の詳細に触れない必要な範囲にとどめること。
  • 担当替えや勤務地の変更が必要か、自分の希望も含めて会社と話し合うこと。
  • 会社として警察や弁護士に相談するかどうかを確認しておくこと。


 担当業務や勤務地の変更を検討する場合は、【ストーカートラブル】勤務先に配慮を求める|勤務地や勤務時間の変更もあわせてご覧ください。取引先との接点が続く業種での考え方は、【ストーカートラブル】仕事上、相手と接点が残る|取引先・同じ業界の場合でも整理しています。

警察と弁護士への相談の進め方


警察に相談する

 取引先への連絡に加えて、あなた本人へのつきまといや連絡が続いている場合は、住所地を管轄する警察署の生活安全課に相談できます。身の危険を感じるときは110番を利用してください。緊急ではない相談の窓口として、警察相談専用電話(#9110)もあります。

 改正法により、被害者からの申出がなくても、警察が必要と判断した場合には職権で警告を出せるようになりました。相談の際は、先にまとめた記録を持参すると事実関係を伝えやすくなります。どちらに先に相談するかで迷う場合は、【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序をご覧ください。

弁護士に依頼すると何が変わるか

 弁護士が代理人になると、元恋人に受任通知を送り、今後の連絡は代理人を通すこと、本人・勤務先・取引先への連絡をやめることを書面で求めます。あなた自身が相手と直接やり取りする必要がなくなり、会社や取引先からの問い合わせにも、事実関係を整理したうえで対応方針を示すことができます。

 相手が求めに応じない場合には、接触禁止や違約金を定めた合意書の締結、仮処分の申立て、損害賠償の請求、刑事告訴の検討へと段階的に進めます。どの段階から始めるかは、連絡の頻度や内容、身の安全に関わる事情の有無によって変わります。詳しくは【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味と接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。

よくあるご質問


取引先への連絡が一度だけでも相談してよいですか

 ご相談いただけます。一度きりに見えても、本人への連絡やほかの関係者への接触と合わせると、一連の行為として評価できる場合があります。早い段階で記録を整え、勤務先との連携の形を決めておくことで、その後の対応が取りやすくなります。

取引を打ち切られた損害を元恋人に請求できますか

 取引の打ち切りで損害を受けたのが会社であれば、請求するのは原則として会社です。あなた個人については、名誉やプライバシーを傷つけられたことに対する慰謝料のほか、減給や異動などの不利益が生じた場合に、その損害と元恋人の行為とのつながりを示せるかが課題になります。

会社に交際の経緯まで話す必要はありますか

 会社に伝えるのは、対応を決めるのに必要な範囲で足ります。交際の経緯や私生活の詳細まで説明する必要はありません。どこまで話すかに迷う場合は、弁護士と相談して、会社に伝える内容を事前に整理しておく方法もあります。上司に話されてしまった場合の対応は、【男女トラブル】別れを告げたら相手が自分の上司に話した|職場への影響を抑えるで取り上げています。

関連する解説記事



 取引先への連絡は仕事上の信頼に関わるだけに、一人で抱え込むと対応が後手に回りがちです。記録を残し、会社と方針をそろえ、必要に応じて警察や弁護士の力を借りることで、職場や取引先との関係を保ちながら、相手の行為を止める道筋をつけることができます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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