【ストーカートラブル】仕事上、相手と接点が残る|取引先・同じ業界の場合

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2026年10月時点のストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」)、行政不服審査法、行政事件訴訟法に基づいて書いています。ストーカー規制法は、令和7年12月30日に施行された改正(警察の職権による警告の創設、被害者を雇用する者や就学先の学校の長を援助の努力義務の主体に加える見直しなど)と、令和8年3月10日に施行された規定を反映しています。2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役は「拘禁刑」に改められています。
禁止命令の内容は事案ごとに異なります。この記事は一般的な整理であり、手元の命令書の記載を優先してください。


「警察に相談していた相手が、取引先の担当者だった。禁止命令が出たが、来月も同じ案件の定例会議がある」「同じ業界にいる以上、展示会や業界団体の集まりで顔を合わせることは避けられない」。禁止命令を受けた方から、このようなご相談をいただくことがあります。反対に、勤務先の立場から「従業員に禁止命令が出たようだが、取引先との窓口をどう扱えばよいか」とお問い合わせをいただくこともあります。

 禁止命令について調べると、「違反すれば刑罰の対象になる」「相手に近づかないこと」といった説明が多く見つかります。これらはいずれも誤りではありません。ただ、仕事の上で相手との接点が残っている場合に、業務上の連絡や会議への出席をどう扱えばよいかまで踏み込んだ説明は、あまり見当たりません。

 この記事では、禁止命令(警告を受けた段階を含みます)を受けた側で、取引先や同じ業界の中に相手がいる方に向けて、命令の範囲の読み方、業務上の接点の切り分け方、偶然顔を合わせる場面への備えを整理します。違反した場合の刑罰や命令の期間・更新の詳細は禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新で、荷物やお金の清算といった私的な用件での連絡は【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で解説しています。

禁止命令が禁じているのは「つきまとい等」

 仕事の接点をどう扱うかを考える前に、禁止命令が何を禁じているのかを確認しておきます。

まず命令書に書かれた内容を確認する

 禁止命令は、公安委員会が、相手に対して更に反復してつきまとい等や位置情報無承諾取得等をしてはならないことと、それを防ぐために必要な事項を命じるものです(ストーカー規制法5条1項)。必要な事項として、たとえば相手の住居や勤務先の付近に近づかないことなど、具体的な内容が命令書に書かれることがあります。命令の効力は命令をした日から1年で、必要があると認められれば延長されます(同法5条)。

 禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金、ストーカー行為に至らない違反でも6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象になります。仕事の接点をどう扱うかを考える出発点は、一般論ではなく、手元の命令書に書かれた文言です。相手の勤務先の付近への立ち入りが具体的に禁じられていれば、取引先への訪問そのものを見直す必要が出てきます。

業務上の連絡なら当然に対象外、とはいえない理由

 ストーカー規制法の「つきまとい等」は、恋愛感情その他の好意の感情や、それが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で行う行為と定められています(同法2条1項)。そのため、純粋に業務のために行う連絡は、本来この定義には当たりません。

 ただし、目的は本人の内心だけでなく、連絡の内容や頻度、時間帯、それまでの経緯といった外から見える事情をもとに判断されます。業務の連絡の中に私的な話題が混ざる、必要以上に会議や面会を求める、といった事情があると、業務を名目にした接触と受け止められるおそれがあります。面会を求めることや、拒まれた後に連続してメッセージを送ることも、つきまとい等の類型に含まれています。「仕事だから大丈夫」と自分で線を引くのではなく、外からどう見えるかを基準に考えることが大切です。一度きりの連絡と繰り返しの行為の違いについては連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いで整理しています。

警告の段階でも考え方は同じ

 禁止命令の前に警察から警告を受けている段階でも、考え方は変わりません。警告そのものには法的な拘束力はありませんが、警告の後も接触が続いていると判断されれば、禁止命令へ進むことがあります。令和7年12月30日の改正で、警察が被害者からの申出によらず職権で警告できるようにもなりました。警告を受けた後の流れは警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかをご覧ください。

取引先に相手がいる場合の切り分け方

 相手が取引先の担当者である場合、業務上の連絡がどう受け止められやすいかを整理すると、次のような目安になります。

連絡の形受け止められ方の目安
部署の代表アドレスや会社の正式な窓口宛ての、業務内容だけの書面業務上の連絡として扱われやすい
複数人が出席する会議での、議題に沿った発言業務上のやり取りとして扱われやすい
相手個人の私用の連絡先や、個人のSNSへの業務連絡業務を名目にした接触と受け止められるおそれがある
業務の連絡に私的な話題や気持ちを添えるつきまとい等と判断されるおそれが高まる
必要性の乏しい面会や1対1の打合せを求める面会の要求として受け止められるおそれがある


 あくまで目安であり、命令書の内容やそれまでの経緯によって評価は変わります。

窓口を自分以外の人に移す

 最も確実なのは、相手との連絡の窓口を自分以外の人に移すことです。会社員の方であれば、上司や同じ部署の別の担当者に引き継ぎ、自分は相手と直接やり取りしない形を整えます。個人事業主やフリーランスの方で代わりの担当者がいない場合は、共同で受注している事業者に窓口を任せる、連絡を書面に限る、といった方法を検討します。案件の規模によっては、その取引から一時的に離れることも選択肢になります。

残る連絡は正式な経路と書面に限る

 どうしても自分が関わらざるを得ない業務が残る場合は、連絡の経路と形を絞ります。

  • 宛先は相手個人ではなく、部署の代表アドレスや会社の正式な窓口にする。
  • 自分の上司や同僚をCCに入れ、やり取りを第三者が確認できる状態にする。
  • 内容は業務に必要な事項だけにし、私的な話題や気持ちを添えない。
  • 会議は複数人が出席する場に限り、相手と1対1になる打合せは設けない。
  • 私用の電話番号やメッセージアプリ、個人のSNSは業務の連絡にも使わない。


 送った書面やメールは、日時と宛先が分かる形で保存しておきます。後から接触の目的を問われたときに、業務の範囲にとどまっていたことを示す材料になります。

勤務先にどこまで伝えるか

 禁止命令を受けたことを勤務先に報告する一般的な法律上の義務はありません。ただし、就業規則に報告の定めがある場合や、担当を替えてもらう必要がある場合には、ある程度の説明が求められます。「個人的な事情で、この取引先の担当を外れたい」と伝えるだけで調整できることもあり、どこまで話すかは弁護士と相談しながら決めると安心です。

 また、令和7年12月30日の改正で、被害者を雇用する者が被害者への援助に努める主体に加えられました。そのため、相手の勤務先から自分の勤務先へ、担当の変更や連絡方法の見直しを求められることも考えられます。その場合も、自分から相手の勤務先に連絡して説明や抗議をすることは控え、自分の勤務先や弁護士を通じて対応してください。相手の勤務先の側から見た対応は【ストーカートラブル】職場の上司・同僚からの執拗な好意|会社に伝える前にでも触れています。

同じ業界にいる場合に気をつけたい場面

 取引関係がなくても、同じ業界にいると相手との接点は思わぬところに残ります。

展示会・業界団体の会合

 出席者が事前に分かる催しであれば、日程や出席者を調整し、同じ場に居合わせることをできるだけ避けます。避けられない場合は、相手に近づかない、話しかけない、相手のいる区画やテーブルには行かない、用件が済んだら早めに場を離れる、といった行動を心がけてください。同じ場所にいたこと自体よりも、その場でどう振る舞ったかが問われると考えておくと、行動の基準を決めやすくなります。

SNSと共通の知人

 業務用のアカウントであっても、相手の投稿への反応やコメント、相手の会社のアカウントへの働きかけは控えます。拒まれた後に連続してSNSでメッセージを送ったりコメントしたりする行為は、つきまとい等の類型に含まれています。共通の取引先や知人に相手の近況を尋ねる、伝言を頼む、といったことも、相手に伝われば不安を与えるきっかけになります。業界内で相手のことを話題にすることも、内容によっては名誉毀損の問題につながるため、控えるのが無難です。

偶然顔を合わせたときは記録を残す

 駅や取引先のビル、業界の催しなどで偶然顔を合わせることは、同じ業界にいる以上起こり得ます。そのときは、その場を離れることを優先し、後で次の事項を書き留めておきます。

  • 日時と場所。
  • その場にいた理由(会議、商談、催しへの出席など)。
  • 同行者や、その場にいた第三者。
  • 相手とのやり取りの有無と、どのように場を離れたか。


 偶然の遭遇であったことを後から説明する場面で、当日のうちに書いた記録は大きな手がかりになります。

弁護士が入ることで整えられること

 仕事上の接点が残る事案では、自分だけで判断して動くと、意図しない形で相手に不安を与えてしまうことがあります。弁護士が関わることで、次のような整理ができます。

命令の範囲と業務の接点を照らし合わせる

 命令書の文言と、実際に残っている業務の接点を一つずつ照らし合わせ、どの連絡を誰に移すか、どの業務から離れるかを具体的に決めていきます。禁止命令の前の聴聞の段階であれば、仕事上の接点が残っている事情を述べ、命令の内容に反映してもらえるよう求めることも考えられます。警察から任意で事情を聞かれる場合の準備は【ストーカートラブル】任意で事情を聞きたいと言われた|応じる場合の準備で解説しています。

相手方との間で連絡の取り決めをする

 業務上の連絡を完全になくせない場合は、弁護士が相手方(相手に代理人がいればその代理人)と協議し、「業務の連絡は双方の会社の別の担当者を通じて行う」「書面のみで行う」といった取り決めを書面にしておく方法があります。謝罪や事情の説明をしたいと考える方もいますが、相手への連絡は、たとえ謝罪の目的であっても、弁護士を通すようにしてください。相手の弁護士から書面が届いている場合の考え方は【刑事事件】弁護士から警告の書面が届いた|ストーカーと名指しされたときの返し方をご覧ください。

命令に納得できない場合の手続

 禁止命令の内容に納得できない場合は、命令があったことを知った日の翌日から3か月以内に、命令をした公安委員会に審査請求をすることができます(行政不服審査法18条1項)。また、知った日から6か月以内であれば、裁判所に取消訴訟を起こすこともできます(行政事件訴訟法14条1項)。ただし、これらの手続をとっても、原則として命令の効力は止まりません(行政不服審査法25条1項、行政事件訴訟法25条1項)。争っている間も命令を守ることが前提になります。刑事手続に進んだ場合の見通しは【刑事事件】ストーカーで前科はつくのか|警告・検挙・起訴の分かれ目と、不起訴になる場合で整理しています。

よくあるご質問

相手から業務の連絡が来た場合、返信してよいですか

 相手からの連絡であっても、自分が直接返信を重ねると、やり取りが続いている状態と受け止められるおそれがあります。業務上の連絡であれば、上司や別の担当者に回して会社として対応してもらう、弁護士に相談してから対応を決める、という形が安全です。

取引先との契約を続けていること自体が問題になりますか

 禁止命令は、つきまとい等の行為を禁じるものであり、取引関係そのものを解消するよう命じるものではありません。ただし、命令書で相手の勤務先付近に近づかないことが求められている場合などは、訪問や対面の打合せができなくなります。契約を続けるかどうかよりも、自分が相手とどう接点を持つことになるのかを基準に判断してください。

命令の期間が終われば、以前と同じように仕事で関わってよいですか

 禁止命令の効力は1年ですが、必要があると認められれば延長されることがあります。延長の判断では、期間中の行動も考慮されます。期間が終わった後も、相手との連絡を急に元に戻すのではなく、会社の窓口を通じたやり取りを続けるなど、慎重に進めることをおすすめします。

まとめ


  1. 禁止命令は、更に反復してつきまとい等をしないことと、そのために必要な事項を命じるもので、効力は1年、延長されることがある(ストーカー規制法5条)。
  2. つきまとい等は好意や怨恨の感情を充足する目的で行う行為だが(同法2条1項)、目的は連絡の内容・頻度・経緯といった外形から判断されるため、業務名目でも安心はできない。
  3. 取引先に相手がいる場合は、窓口を自分以外の人に移すことを第一に考え、残る連絡は正式な経路と書面に限る。
  4. 勤務先への報告に一般的な法律上の義務はないが、担当替えには説明が必要になることがあり、相手の勤務先から調整を求められることもある。
  5. 同じ業界の催しやSNSでは、近づかない・話しかけない・反応しないを基本にし、偶然顔を合わせたときは当日中に記録を残す。
  6. 相手への連絡は、謝罪の目的であっても弁護士を通す。
  7. 命令に不服があれば審査請求(行政不服審査法18条1項)や取消訴訟(行政事件訴訟法14条1項)があるが、その間も命令の効力は原則として続く。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカーをめぐるトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。禁止命令や警告を受けた後、仕事の上で相手との接点が残っていてどう動けばよいか分からない段階でも、命令書の内容と業務の状況を一つずつ確認するところからご一緒します。
勤務先として従業員の担当や取引先との窓口をどう整えるかお悩みの方も、相手と直接やり取りをする前に、まずはお気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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