【ストーカートラブル】SNSを見張られているだけでも、ストーカー規制法の対象になる?
この記事は、2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法(職権による警告の創設など)を反映し、2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。
SNSのダイレクトメッセージやコメント欄に「死ね」「消えろ」といった言葉が届くと、それが一度きりであっても強い不安を覚えるものです。送り主が元交際相手や知り合いであれば「この先もっとひどいことをされるのではないか」と考え、匿名のアカウントであれば「誰がやっているのか分からない」という怖さが加わります。
一方で、警察に相談しようとしても「この程度で動いてもらえるのか」「どの法律の問題なのか」が分からず、ためらってしまう方も少なくありません。この記事では、「死ね」などのメッセージが法律上どのように扱われるのかを、送り主との関係や届き方ごとに整理し、警察へ相談するときの準備と、避けておきたい対応をお伝えします。
「死ね」という言葉は、どの法律の問題になるのか
「死ね」というメッセージは、言葉だけを見ればどれも同じに見えます。しかし法律上は、誰が、どの場所に、どのような文脈で、何回送ってきたかによって、問題となる法律が変わります。主な検討対象は次のとおりです。
| 検討する法律 | 対象になりやすい場面 | 分かれ目になる点 |
|---|---|---|
| 脅迫罪(刑法222条) | 「殺す」「家に行く」など、危害を加える内容が含まれる場合 | 送り主自身が害を加えると告げているか |
| 侮辱罪(刑法231条) | 誰でも見られるコメント欄や投稿で言われた場合 | 不特定または多数の人が見られる状態か(公然性) |
| ストーカー規制法 | 元交際相手や、好意を断った相手から届く場合 | 恋愛感情やそれが満たされなかった恨みが動機か |
| 迷惑防止条例(東京都) | ねたみや恨みなど、好意とは別の感情から届く場合 | 悪意の感情にもとづき、不安を覚えさせる方法で繰り返されているか |
| 民事上の損害賠償 | 上記のいずれにあたらない場合も含む | 名誉感情や平穏な生活が、社会通念上許される限度を超えて害されたか |
以下、それぞれの分かれ目を順に見ていきます。
「死ね」だけでは脅迫罪にあたりにくい理由
脅迫罪は、相手やその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に害を加えることを告げることで成立します(刑法222条。法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)。「死ね」という言葉は、相手の死を望む強い悪口ではあっても、送り主が自分で害を加えると告げる形にはなっていないため、それだけでは脅迫罪にあたりにくいと考えられています。
実際に、掲示板に「死ね」と繰り返し書き込まれた事案で、「殺す」といった表現ではないことや、日時・場所・方法などの具体的な予告がないことを理由に、脅迫にはあたらないと判断された裁判例も紹介されています。
ただし、「死ね。住所は分かっている」「死ね、今から行く」のように、自分が行動を起こすことをうかがわせる言葉と組み合わされている場合は、評価が変わる可能性があります。危害を予告する言葉が含まれている場合の扱いは、【男女トラブル】「別れたら殺す」と言われた|自傷の予告とは別の対応が必要になる理由でも解説しています。
ダイレクトメッセージには侮辱罪が成立しにくい
侮辱罪は、事実を示さずに公然と人を侮辱した場合に成立する罪で、2022年の改正で法定刑が引き上げられ、現在は1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料とされています。
ここでいう「公然と」とは、不特定または多数の人が知ることのできる状態を指します。そのため、一対一のダイレクトメッセージで届いた「死ね」は、侮辱罪の対象になりにくいと考えられます。これに対し、誰でも閲覧できるリプライやコメント欄、公開の投稿で言われた場合は、侮辱罪の検討対象になり得ます。法改正の内容については侮辱罪の厳罰化で何が変わったのか|公訴時効と逮捕の可能性もあわせてご覧ください。
刑事事件にならなくても、民事で責任を問える場合がある
刑罰の対象にならない場合でも、民事上の損害賠償(慰謝料)を求める余地は残ります。人の名誉感情を、社会通念上許される限度を超えて害する言動は、不法行為にあたり得るためです。
ネット上で短期間に何度も「死ね」と書き込まれた事案で、名誉感情を害し一定の恐怖感を与えるものとして、投稿者に慰謝料などの支払いを命じた裁判例も紹介されています。回数の多さや期間、ほかの嫌がらせとの組み合わせなど、全体の経緯が評価に影響します。
元交際相手などから届く場合は、ストーカー規制法の対象になり得る
送り主が元交際相手や、好意を断った相手である場合は、ストーカー規制法の検討が中心になります。同法は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの恨みの感情を満たす目的で行われる一定の行為を「つきまとい等」として規制しています。別れ話のもつれから「死ね」と送られてくるような場面は、まさにこの「満たされなかったことへの恨み」にあたる可能性があります。
SNSのメッセージに関係するつきまとい等には、次のようなものがあります。
- 著しく粗野または乱暴な言動をすること(2条1項4号)。
- 拒まれたにもかかわらず、連続してSNSのメッセージなどを送ること(2条1項5号)。
- 名誉を害する事項を告げること(2条1項7号)。
「著しく粗野または乱暴な言動」は、手段に特に限定がなく、刑法上の暴行や脅迫に至らない程度の荒々しい言動も含まれると解されています。つまり、脅迫罪にはあたりにくい「死ね」というメッセージでも、ストーカー規制法の枠組みでは取り上げられる余地があります。
つきまとい等が繰り返されて「ストーカー行為」と評価されると、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります。また、刑事手続とは別に、警察による「警告」や、公安委員会による「禁止命令」という行政上の措置もあります。2025年12月30日の改正法施行により、警告は被害者からの申出がなくても警察の判断で行えるようになりました。警告や禁止命令の流れはSNS・LINEの執拗な連絡はストーカーになる?警告・禁止命令の流れで詳しく解説しています。
好意とは関係のない恨みから届く場合
送り主の動機が恋愛感情と無関係で、仕事上のトラブルや人間関係のこじれによる恨み・ねたみである場合、ストーカー規制法の対象からは外れます。ただし東京都の迷惑防止条例(5条の2)は、ねたみや恨みなどの悪意の感情にもとづくつきまとい行為等を禁止しており、著しく粗野または乱暴な言動や、SNSのメッセージの連続送信もその対象に含めています。どちらの枠組みにあたるかの違いは、【ストーカートラブル】交際相手の元恋人からつきまとわれている|ストーカー規制法と迷惑防止条例の分かれ目でも整理しています。
警察に相談する前に、メッセージを保存しておく
どの法律で扱われるにしても、判断の材料になるのは手元に残ったメッセージです。ブロックや通報をする前に、まず記録を残すことをおすすめします。メッセージアプリやSNSには送信取消しや一定時間で消える機能があるため、届いたら早めに保存しておくことが大切です。
- 送り主のアカウント名とユーザーIDが写った画面。
- メッセージの本文と送信日時が分かるスクリーンショット。
- 前後のやり取りを含む一連の画面(スクロールしながらの画面録画も有効)。
- 公開の投稿やコメントであれば、そのURLと投稿日時。
- 届いた日時・アカウント・内容・自分の対応をまとめた一覧表。
相手に連絡をやめるよう伝えたことがあれば、そのやり取りも残しておきます。ストーカー規制法の「拒まれたにもかかわらず連続して」送る行為にあたるかの判断材料になるためです。ただし、身の危険を感じる相手に自分から返信する必要はありません。警察に相談し、警察から相手に拒絶の意思が伝わった場合も、拒まれたことにあたると解されています。証拠の残し方は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはもご参照ください。
相談先と伝え方
緊急性が高い場合、たとえば「今から行く」と予告されたり、自宅の近くに相手が来ていたりする場合は、ためらわず110番通報してください。差し迫った危険がない段階であれば、最寄りの警察署の生活安全課や、警察相談専用電話「#9110」に相談できます。
相談の際は、「死ねと言われた」という結論だけでなく、送り主との関係、いつから何回届いているか、ほかに気になる行動(自宅周辺に現れた、共通の知人に連絡しているなど)があるかを伝えると、警察も事案の全体像をつかみやすくなります。相談しても警告などの措置に進まなかった場合の次の手段は、【ストーカートラブル】警察に相談したのに警告が出ない|次に取れる手段で解説しています。
送り主が匿名アカウントの場合
送り主が誰か分からない場合、相手を特定できるかどうかは、メッセージの届き方によって変わります。
公開の投稿やコメントであれば、情報流通プラットフォーム対処法(2025年4月にプロバイダ責任制限法から名称変更)にもとづく発信者情報開示請求で、投稿者の特定を目指せる場合があります。一方、一対一のダイレクトメッセージは、不特定の人が受信することを目的とした通信ではないため、同法の開示請求の対象にならないと考えられるのが一般的です。この場合は、警察の捜査の中で運営会社に照会がなされるかどうかが一つの道になります。
心当たりのある人物がいる場合は、そう考える根拠(言葉づかいの癖、知っているはずのない情報が含まれていたなど)もあわせて記録しておくと役立ちます。匿名の相手への対応は【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で詳しく扱っています。
メッセージが届いた後に避けておきたい対応
強い言葉を向けられると、言い返したくなったり、すぐに関係を断ち切りたくなったりするのは自然なことです。ただ、次のような対応は、かえって自分の立場を難しくするおそれがあります。
- 同じような強い言葉で言い返すと、自分の発言も問題にされたり、相手に新たな口実を与えたりすることがあります。
- 直接会って話をつけようとすると、その場で状況が悪化するおそれがあります。
- 記録を残さずにアカウントやトーク履歴を削除すると、後から被害を示す材料がなくなります。
- 届いたメッセージのスクリーンショットを相手の名前付きでSNSに公開すると、名誉毀損やプライバシーの問題を指摘されることがあります。
また、繰り返し強い言葉を向けられることで、眠れない、仕事に集中できないといった状態が続く場合は、医療機関に相談することも考えてみてください。心身の不調についての診断書は、後に慰謝料を求める場面で被害の程度を示す資料にもなります。
弁護士に相談すると何ができるのか
「死ね」というメッセージは、刑事・行政・民事のどの枠組みで扱うかによって、取れる手段も見通しも変わります。弁護士に相談することで、届いたメッセージと経緯を法的に整理し、どの手続を優先するかを検討できます。
- 届いたメッセージがどの法律の問題になり得るかを整理し、警察への相談内容を組み立てます。
- 送り主が分かっている場合は、代理人として連絡の窓口になり、今後の接触をやめるよう求めます。
- 公開の投稿であれば、削除請求や発信者情報開示請求を検討します。
- 被害の内容に応じて、慰謝料などの損害賠償請求や、接近禁止の仮処分を検討します。
警察と弁護士のどちらから動くかに迷う場合は、【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序も参考にしてください。
まとめ
SNSで届く「死ね」というメッセージは、その一言だけで脅迫罪や侮辱罪が成立するとは限りません。しかし、送り主が元交際相手であればストーカー規制法、恨みやねたみによるものであれば迷惑防止条例、そして民事上の損害賠償と、検討できる枠組みは複数あります。「この程度では相談できない」と決めつけず、まずはメッセージを保存し、送り主との関係やこれまでの経緯を整理したうえで、警察や弁護士に相談することが身を守る第一歩になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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