【ストーカートラブル】習い事・ジムで知り合った人からのつきまとい|施設への相談と、警察・弁護士へ進む目安
本記事は、2026年10月時点の民法、民事訴訟法、ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」)の規定と、2025年4月1日現在の東京都の転居費用助成制度の案内に基づいて記載しています。助成制度の要件は見直されることがあるため、利用を考える際は窓口で最新の内容をご確認ください。
つきまといを受けて引っ越した、鍵を替えて防犯カメラを付けた。ストーカー被害のご相談では、こうした出費を「なぜ被害を受けた側が負担しなければならないのか」という声を多くお聞きします。業者の費用に新居の初期費用や旧居の解約費用が加わると、数十万円になることもあります。
結論からいえば、引っ越しや防犯にかかった費用は、つきまといなどの行為によって必要になったといえる範囲で、加害者に損害賠償として請求できる可能性があります。ただし、支出したお金がそのまま全額認められるとは限らず、費目ごとに考え方が異なります。
この記事では、引っ越しと防犯の費用に絞って、請求の対象になりやすい費目、転居の必要性の示し方、新しい住所を知られずに請求する方法を整理します。請求全体の組み立ては【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで解説しています。
引っ越しや防犯の費用が請求の対象になる理由
根拠は不法行為に基づく損害賠償
つきまといや待ち伏せは、被害者の生活の平穏やプライバシーを違法に侵害する行為として、民法上の不法行為にあたり得ます(民法709条)。不法行為による損害には、精神的な苦痛に対する慰謝料(同法710条)のほか、実際に出ていったお金も含まれます。引っ越しや防犯の費用は、この「実際に出ていったお金」にあたります。
警察がストーカー規制法の「ストーカー行為」として扱わなかった場合でも、請求を検討する余地はあります。反対に、相手が警告や処罰を受けても、費用が自動的に支払われる仕組みはありません。
問われるのは「その行為がなければ必要なかったか」
請求できるのは、相手の行為と相当な因果関係のある損害に限られると考えられています。引っ越しや防犯の費用でいえば、その行為がなければ支出しなかったといえるか、支出の内容が行為に対して必要な範囲に収まっているかの2点が問われます。
引っ越しにかかる費用を費目ごとに見る
引っ越しに伴う支出には、性質の異なる費目が混ざっています。費目ごとの考え方の目安を表にまとめます。
| 費目 | 主な裏付け資料 | 考え方の目安 |
|---|---|---|
| 引っ越し業者の費用 | 見積書、領収書 | 転居の必要性を示せれば対象になり得る |
| 新居の礼金・仲介手数料 | 賃貸借契約書、領収書 | 戻ってこない支出として対象になり得る |
| 新居の敷金 | 賃貸借契約書 | 退去時に返還される性質のため対象になりにくい |
| 旧居の短期解約違約金 | 旧居の契約書、精算書 | 急な転居で生じたものなら対象になり得る |
| 旧居と新居の家賃の重複分 | 両方の契約書、支払記録 | 解約予告期間など避けられなかった範囲で検討 |
| 一時避難の宿泊費 | 宿泊の領収書 | 避難の必要性と期間の長さが問われる |
| 新居の家賃・旧居との家賃差額 | 賃貸借契約書 | 住まいの対価のため認められにくい |
業者の費用と新居の初期費用
引っ越し業者に支払った費用は、転居が必要だったと示せれば請求の対象になり得ます。相手に悟られないよう社名のない車両を手配する業者を選んで費用がかさんだ場合も、安全のための選択だったと説明できれば、必要な範囲の支出として主張する余地があります。
新居の初期費用のうち、礼金や仲介手数料、保証会社の初回保証料のように戻ってこない支出は、損害として主張しやすい費目です。一方、敷金は退去時に返還されるのが原則のため、損害として請求するのは難しいと考えられます。
旧居の解約に伴う費用
急な転居では、旧居の契約で定められた解約予告期間の家賃を払う必要が生じたり、入居から短い期間での解約により違約金がかかったりします。これらは、予定外の時期に転居を迫られたことで生じた支出として請求を検討できます。旧居の契約書と精算書は保管しておきます。
一時避難の宿泊費
待ち伏せなどで帰宅できず、転居先が決まるまでホテルに避難した場合の宿泊費も、避難が必要だった期間について対象になり得ます。避難した日と直前の行為を記録しておくと、期間の相当性を説明しやすくなります。
新居の家賃や家賃の差額は認められにくい
転居後の家賃は新しい住まいの対価であり、行為がなくても住居費はかかっていたと考えられるため、損害として認められにくい費目です。オートロックの物件を選んで家賃が上がった場合も、差額を将来にわたって請求するのはハードルが高いと考えておくのが現実的です。こうした事情は請求の中心に置かず、示談交渉で伝える程度にとどめるほうが、全体の説得力を保ちやすくなります。
防犯にかかる費用を費目ごとに見る
鍵の交換・補助錠・防犯カメラ
合鍵を持たれている、自宅の周りをうろつかれているといった事情がある場合、鍵の交換や補助錠の取り付け、防犯カメラやセンサーライトの設置にかかった費用は、行為に対応するための支出として請求の対象になり得ます。賃貸住宅では、設置前に管理会社や貸主の了承を得ておきます。
マンションでの対応は【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることで、カメラの映像を証拠として残す方法は【ストーカートラブル】防犯カメラの映像を証拠にする|設置と保存の注意点で解説しています。
盗聴器や位置情報機器の調査費用
相手が自宅の中の様子や外出の予定を把握しているとうかがわれる事情があり、専門業者に盗聴器や位置情報を発信する機器の調査を依頼した場合、その費用も請求を検討できます。機器が見つからなかった場合でも、調査を依頼するに足る事情を示せれば、支出の理由として説明できます。調べ方は【ストーカートラブル】自宅に盗聴器が仕掛けられているかもしれない|調べ方と法的な手段をご覧ください。
行為の内容に比べて大がかりな設備
防犯の費用で減額されやすいのは、行為の内容に比べて大がかりな設備や、行為が止んだ後も長く続く警備サービスの利用料などです。何に備えるためにその設備を選んだのかを、行為の記録と結びつけて説明できるかが分かれ目になります。
転居の必要性をどう示すか
引っ越し費用の請求で最も争いになりやすいのは、そもそも転居が必要だったのかという点です。相手方からは「引っ越すほどの行為ではなかった」「もともと引っ越す予定だったはずだ」と反論されることがあります。次のような資料がそろっていると、転居の必要性を説明しやすくなります。
- 自宅やその周辺での待ち伏せ・押しかけ・うろつきの日時と内容の記録。
- 相手からのメッセージや手紙のうち、住所を把握していることがうかがわれるもの。
- 警察への相談記録や、警告・禁止命令が出された事実。
- 警察や支援機関から転居を勧められた経緯のメモ。
- 防犯カメラの映像や、管理会社・近隣の方から聞いた目撃の内容。
- 転居を決めた時期と、物件探し・契約の日付が分かる資料。
転居の時期と行為の時期を結びつける
行為が始まる前から転居を予定していた場合や、行為が止んでから長い期間が経って転居した場合は、行為と転居とのつながりが弱いと評価されやすくなります。反対に、自宅前での待ち伏せの直後に物件を探し始めた、警告が出た後も自宅周辺に現れたため転居した、といった経緯は、時系列で示すことで必要性の裏付けになります。引っ越すかどうかを迷っている段階の考え方は【ストーカートラブル】相手の家の近くに住んでいる|引っ越すべきかの判断で整理しています。
警察から転居を勧められた場合
警察に相談した際に、安全確保のために転居や一時避難を勧められることがあります。その事実は、転居が危険の程度に照らして必要と考えられた事情として意味を持つため、日付や警察署、勧められた内容をメモに残しておきます。警察での相談記録を手元に取り寄せる方法は【ストーカートラブル】警察への相談記録を手元に取り寄せる|開示請求の手順と黒塗りの読み方で解説しています。
新しい住所を相手に知られずに請求する
請求の過程で新しい住所が伝わってしまっては、転居の意味が失われます。請求の方法は、この点を最初に考えて選ぶ必要があります。
弁護士を窓口にした書面での請求
弁護士が代理人として請求の書面を送る場合、連絡先は事務所となり、書面に被害者の住所を記載する必要はありません。相手からの連絡も弁護士が受けるため、被害者が直接やり取りをせずに交渉を進められます。転居の手続そのものの進め方は【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序をご覧ください。
引っ越し費用の根拠として領収書や契約書の写しを相手に示す場面では、新居の住所や物件名、管理会社名などが記載された部分を伏せたうえで示すことが欠かせません。業者の名前から地域が推測されることもあるため、示す範囲は慎重に判断します。
示談書に入れておきたい取り決め
示談で解決する場合、引っ越しや防犯の費用は、慰謝料とあわせた示談金の内訳として取り決めるのが一般的です。示談書には金額のほか、接触や接近の禁止、転居先を調べないことの約束、違反した場合の違約金などを盛り込むことが考えられます。示談の条項の考え方は【ストーカートラブル】示談に入れる条件|接触禁止・転居・違約金で解説しています。
訴訟では住所や氏名を秘匿できる場合がある
訴訟では、訴状に原則として原告の住所を記載します。もっとも、住所などが相手に知られることで社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれがあることを疎明した場合には、裁判所がその住所などを相手に秘匿する決定をする制度があります(民事訴訟法133条)。
公的な助成制度との関係
加害者への請求とは別に、自治体が犯罪被害者の転居費用を助成する制度を設けている場合があります。東京都の制度は、生命や身体への被害によって従前の住居に住み続けることが難しくなった方などを主な対象としつつ、直接の被害に該当しない場合でも対象となることがあるとしており、被害が住居やその付近で起きたことなどの要件が定められています。窓口は被害者支援都民センターで、利用には面接相談が必要とされています。都道府県警察によっては、一時避難の宿泊費を公費で負担する運用もあります。
注意したいのは、こうした制度の中に、加害者から同じ費用の賠償を受けた場合や受けられる見込みがある場合を対象外とするものがある点です。加害者への請求と助成の申請のどちらを先に進めるかで、受けられる支援が変わることがあるため、申請の期限とあわせて、早めに窓口や弁護士に確認しておくことをおすすめします。
請求する前に考えておきたいこと
安全の確保を先に、または同時に
費用の請求をきっかけに、相手が感情を高ぶらせるおそれは否定できません。請求の前に、警察への相談や警告・禁止命令の申出、裁判所の仮処分などで接近を止める手立てを講じておくか、少なくとも並行して進めることが大切です。手続の使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けをご覧ください。
相手から実際に回収できるか
請求が認められても、相手に支払う資力がなければ、実際にお金を受け取るのは難しくなります。判決後に給料や預金を差し押さえる手続はありますが、どこまでの手続をとるかは、弁護士費用との兼ね合いも含めて、見込める回収額を踏まえて判断することになります。
よくあるご質問
まだ引っ越していませんが、見積もりの段階で請求できますか?
訴訟では、実際に支出した後に、その額を損害として請求するのが通常です。示談交渉では見積書をもとに金額を取り決めることもありますが、清算条項により、実費が上回っても追加で求めるのは難しくなります。見積もりに漏れている費目がないかを事前に確認しておくことが大切です。
相手から「引っ越しはそちらが勝手にしたことだ」と言われました
こうした反論は珍しくありません。備えとなるのは、行為の記録と転居までの経緯を時系列で示すことです。相手の言い分に直接応じず、弁護士を通じて資料をもとに伝えるほうが、やり取りがこじれにくくなります。
まとめ
- 引っ越しや防犯の費用は、行為によって必要になった範囲で、不法行為に基づく損害賠償として請求できる可能性があります(民法709条)。
- 業者の費用、礼金・仲介手数料、旧居の解約費用、一時避難の宿泊費は検討しやすく、敷金や新居の家賃は認められにくい費目です。
- 防犯の費用は、行為の内容に照らして必要な範囲かどうかが問われます。
- 転居の必要性は、行為の記録、警察への相談記録、転居までの時系列で示します。
- 請求の際は、弁護士を窓口にする、資料の住所部分を伏せる、訴訟の秘匿制度を使うなどして新しい住所を守ります(民事訴訟法133条)。
- 自治体の助成制度は加害者からの賠償との関係で対象外となる場合があるため、進める順序を早めに確認します。
引っ越しや防犯の費用は、やむを得ず支出したものであっても、請求の場面では必要性と範囲を資料で説明することが求められます。これから転居を考えている段階でも、どの費目をどの資料で請求できるかを整理しておくことで、後の選択肢を残しやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


