【ストーカートラブル】警察への相談を相手に知られたくない、知られることはある?

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法(職権による警告の創設など)と、2026年3月10日に施行された探偵業者等への情報提供をめぐる規定の内容を反映しています。運用は地域や事案によって異なることがあります。


つきまといや執拗な連絡に悩んでいても、「警察に相談したと知られたら、かえって相手を怒らせてしまうのではないか」という不安から、相談に踏み切れない方は少なくありません。弁護士ドットコムなどの相談サイトにも、通報したことで逆上されないかを心配する被害者側の質問が寄せられています。

 結論から言うと、警察に相談しただけで、その事実が相手に伝わることは基本的にありません。相手に伝わるのは、警察が相手に注意や警告をするなど、相手に直接働きかける段階に進んだときです。この記事では、どの段階で何が相手に伝わるのかを整理したうえで、知られたくない気持ちを抱えたまま安全を確保するための方法を解説します。

相談しただけでは、相手に連絡は行かない

警察に相談すると、担当の警察官が被害の状況や相手との関係、これまでの経緯を聞き取り、相談の記録を作成します。この記録は警察の内部で管理されるもので、相手が見たり、相手に送られたりするものではありません。

 各地の警察が公表している案内でも、警察は相談者の意思を踏まえて対応を選ぶという考え方が示されています。相談したからといって、すぐに相手のもとへ警察官が向かうわけではなく、まずは自衛策の助言や、記録の残し方の案内から始まることも多くあります。

 警察が取りうる対応と、それぞれの段階で相手に伝わる内容をまとめると、おおむね次のとおりです。

警察の対応相手への接触相手に伝わる内容
相談のみ(記録・助言)なし原則として伝わらない
援助(自衛策の教示、防犯機器の貸出など)なし原則として伝わらない
自宅周辺の警戒強化なし警察官の姿を見て、警察が関わっていると察する可能性がある
口頭での注意・指導あり誰に対する行為についての注意かが伝わる
警告あり誰に対する行為についての警告かが伝わる
禁止命令あり原則として事前の聴聞で事案の内容が示される
被害届・告訴による捜査あり取調べなどを通じて被害の内容が伝わる


 表のとおり、「相談した」「援助を受けた」という段階にとどまる限り、相手が知る経路は基本的にありません。一方で、相手の行為をやめさせるための手続は、性質上、相手に向けて行われます。誰に対するつきまといなのかを示さずに注意や警告をすることはできないため、この段階に進めば、相手は「あの人が警察に相談した」と理解することになります。

相手に働きかける段階で伝わること


口頭での注意・警告

ストーカー規制法の「警告」は、特定の人に対するつきまとい等をやめるよう求める行政指導です。警告書の交付や警察署への呼び出しといった形で行われるため、相手は誰についての警告かを知ることになります。法律上の警告に至らない段階で、警察官が相手に連絡して口頭で注意するという対応がとられることもあり、この場合も同様です。

 もっとも、相手に伝えられるのは、やめるべき行為を特定するために必要な範囲が中心です。相談者が今どこに住んでいるのか、どの程度おびえているのかといった事情まで、そのまま相手に伝えるものではありません。伝え方について不安がある場合は、警告の前に担当者へ相談しておくことができます。

2025年の改正で、申出がなくても警告が出せるようになった

これまでの警告は、被害者からの申出を前提としていました。2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法では、申出がなくても、警察が必要と判断すれば職権で警告できる仕組みが設けられました。報復をおそれて被害者が申出をためらう場面でも、行為がエスカレートする前に警察が手を打てるようにするための改正です。

 あわせて、申出によらずに警告や禁止命令が出された場合でも、警察などは被害者にその旨を速やかに通知することとされました。相談した側が知らないうちに警告が出ていた、という事態を避けるための規定です。

 この改正は、知られたくないと考える方にとっては、「相談すると自分の意向とは関係なく警告が出るのではないか」という心配につながるかもしれません。職権による警告は、相手の行為の内容や危険の程度を踏まえて判断されるものです。相談の段階で「相手に知られることが不安だ」「知られた後の安全をどう確保するか一緒に考えてほしい」と伝えておくことで、警告のタイミングや、警告と並行して取る安全策を検討してもらいやすくなります。

禁止命令と聴聞

警告よりも強い措置である禁止命令は、都道府県公安委員会が出す行政処分です。原則として、出す前に相手に意見を述べる機会(聴聞)が設けられるため、その手続を通じて事案の内容が相手に示されます。

 ただし、被害者の身体の安全などが害されるおそれがあり緊急の必要があるときは、聴聞を経ずに禁止命令を出し、事後に相手の意見を聞く仕組みもあります。詳しくは【ストーカートラブル】緊急の禁止命令とは|聴聞を経ずに出る場面で解説しています。

被害届・告訴による捜査

ストーカー行為罪や脅迫、住居侵入などで被害届や告訴を出すと、警察は刑事事件として捜査を行います。相手は取調べを受けることになるため、被害の内容が伝わることは避けられません。

 一方で、刑事手続には被害者の情報を守る仕組みもあります。2024年2月に施行された刑事訴訟法の改正により、事件の内容によっては、起訴状や逮捕状などに記載される被害者の氏名・住所といった情報を、相手に知らせない措置がとれるようになりました。被害届と告訴の違いについては被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶもご覧ください。

本当に知られたくないのは「相談の事実」か「今の居場所」か

相手が元交際相手や元配偶者のように顔見知りである場合、注意や警告を受ければ、相談したのが誰かは相手にも見当がつきます。そのため、相談の事実そのものを最後まで隠し通すことは、手続を進めるうえでは難しい場面があります。

 ただ、ご相談を伺っていると、多くの方が本当に心配しているのは「相談したと知られること」よりも、「知られた結果、今の住所や勤務先を突き止められ、仕返しをされること」です。後者については、次のような制度を組み合わせて守りを固める方法があります。

  • 住民票や戸籍の附票の写しの交付を制限する支援措置(ストーカー被害者も対象になります)。
  • 転居した場合に、違反行為があった当時の住所地を管轄する警察などが警告や禁止命令を出せる仕組み(2025年改正で追加され、転居先の管轄を相手に示さずに済む場面があります)。
  • 警告等を受けた相手が探偵業者などに被害者の情報を求めていると分かったときに、警察が情報を提供しないよう求める仕組み(2026年3月10日施行)。
  • 勤務先や学校が、警察とともに被害者を援助するよう努める仕組み(2025年改正で追加)。
  • 民事の仮処分や訴訟で、申立人の住所などを相手に知らせないよう求める制度。


 転居後の手続の進め方は【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序で詳しく取り上げています。また、警察による警告・禁止命令と、裁判所による接近禁止の仮処分の使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けが参考になります。

逆上が心配なときに、相談の場で伝えておきたいこと

警察は、相談者から聞き取った事情をもとに対応を判断します。知られることへの不安があるなら、遠慮せずにその気持ちを含めて伝えることが、結果として身を守ることにつながります。相談の場では、次の点を整理して伝えておくとよいでしょう。

  1. 相手に相談を知られることへの不安と、その理由。
  2. 相手がこれまでに示した暴力や脅し、物を壊すなどの言動。
  3. 相手が自分の現住所・勤務先・実家などをどこまで知っているか。
  4. 警察にしてほしいことと、すぐには進めてほしくないこと。
  5. 同居する家族や子どもの有無と、その安全についての心配。


 相手への働きかけが始まると、一時的に相手の行動が変化することがあります。警告などのタイミングに合わせて、自宅周辺の警戒、緊急時の110番通報の確認、一時的な避難先の検討といった安全策を警察と一緒に準備しておくと安心です。相手を刺激しないための接し方についてはストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方でも解説しています。

 なお、相談したものの警告に進まないまま不安が続く場合の選択肢は【ストーカートラブル】警察に相談したのに警告が出ない|次に取れる手段にまとめています。

相談先の選び方|一人で抱え込まないために

警察への相談は、最寄りの警察署のほか、警察相談専用電話「#9110」でも受け付けています。都道府県警察によってはストーカー被害の専用窓口を設けており、地域によっては匿名で電話相談を受け付けている窓口もあります。まずは電話で状況を話し、どのような対応がありうるかを聞いてみるだけでもかまいません。家族に知られずに相談したい場合の準備は【ストーカートラブル】被害を家族に言えない|一人で相談に行くときの準備を参考にしてください。

 弁護士に相談する方法もあります。弁護士には守秘義務があり、相談した内容や相談した事実が相手に伝わることはありません。弁護士に依頼した場合でも、相手に通知を送るかどうか、送るならいつ、どのような内容にするかは、依頼者と相談しながら決めていきます。警察とどちらに先に相談すべきか迷う場合は【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序、代理人を立てる意味については【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味をご覧ください。

よくあるご質問


警察に相談したことが、相手の家族や勤務先に伝わることはありますか

相談の段階で、警察が相手の家族や勤務先に連絡することは通常想定されていません。注意や警告も、原則として相手本人に対して行われます。ただし、相手が逮捕された場合など、手続が進んだ段階では相手の周囲が事情を知ることもあります。

相談した後に、やはり警告はしないでほしいと伝えられますか

伝えることはできますし、担当者はその意向も踏まえて検討します。ただ、2025年の改正で職権による警告が可能になったため、相手の行為が危険だと判断される場合には、警察の判断で警告が出されることもあります。その場合でも、警告と並行してどのような安全策をとるかを相談できます。

相手から「警察に相談したのか」と聞かれたら、どう答えればよいですか

答える義務はなく、やり取りそのものを控えるのが基本です。返信をすると、それが新たな接触のきっかけになることがあります。届いたメッセージは消さずに保存し、聞かれたこと自体を担当の警察官に伝えておきましょう。

過去に警察に相談した記録を、自分で確認することはできますか

個人情報の開示請求という方法で、自分の相談記録の写しを求めることができます。一部が黒塗りになることもあります。手順は【ストーカートラブル】警察への相談記録を手元に取り寄せる|開示請求の手順と黒塗りの読み方で解説しています。

まとめ

警察に相談しただけで、その事実が相手に伝わることは基本的にありません。相手に伝わるのは、注意や警告、禁止命令、捜査といった、相手に働きかける段階に進んだときです。その段階でも、今の住所や勤務先などを守るための制度は用意されています。知られることが不安なときほど、その気持ちを相談の場で率直に伝え、安全策と手続を組み合わせて進めることが大切です。

 どの段階まで進めるか、いつ相手に働きかけるかは、被害の状況や相手の様子によって変わります。一人で判断せずに、警察や弁護士と一緒に順序を考えていきましょう。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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