【不貞慰謝料】請求する側と請求された側で、費用倒れの分かれ目はどこか
この記事は、マッチングアプリで知り合った成人どうしが初めて会った日に、一方が予定を途中で切り上げた、またはその後の約束を取りやめた場面を前提にしています。法令は2026年10月時点の内容に基づいて解説しています。
マッチングアプリで知り合った相手と初めて会い、少し話したうえで「今日はここまでにしたい」と伝えたところ、「予約した店のキャンセル料を払ってほしい」「わざわざ来た交通費と時間の分を出してほしい」と求められることがあります。金額を示したうえで「払わないなら弁護士に頼む」「SNSに書く」と続けられ、不安になって相談に来られる方もいます。
会ってみて合わないと感じ、その日のうちに切り上げることは、マッチングアプリでは珍しいことではありません。一方で、相手が実際に費用を負担している場合もあり、どこまで応じればよいのか迷うのも自然なことです。この記事では、会った当日に「キャンセル料」を求められたときの法的な考え方と、その場で求められた場合・後から求められた場合の対応を整理します。
「キャンセル料」として求められるものの中身
ひとくちに「キャンセル料」といっても、求められる中身はさまざまです。ご相談でよく見られるのは次のような名目です。
- 二人で行く予定だった飲食店やホテルの予約を取り消したことによる料金。
- 会うために使った交通費や、仕事を休んだ・早退した分の補償。
- 事前に「ドタキャンなら〇円」などと相手が示していた金額。
- 金銭のやり取りを前提に会う約束をしていた場合の「お手当」の一部。
- 気持ちを傷つけられたことに対する「慰謝料」。
名目によって、支払う根拠があるかどうかの考え方は変わります。まずは相手が何を理由に、いくらを求めているのかを落ち着いて確かめることが出発点になります。
会う約束だけで支払いの義務が生じるとは考えにくい
食事やデートの約束は契約として扱われにくい
友人どうしの食事の約束のように、法的な拘束力を持たせるつもりのない約束は、守られなかったとしても損害賠償の根拠になりにくいと考えられています。マッチングアプリで初めて会う場面は、互いに相手を知り、この先も会うかどうかを判断する場でもあります。会ったうえで続けないと決めることは、交際するかどうかを決める自由の範囲として受け止められることが多いでしょう。
会うために使った交通費や時間も、通常はそれぞれが自分の判断で負担したものと考えられやすく、相手に請求できる場面は限られます。
店の予約にかかるキャンセル料は誰が負担するのか
店と予約の契約を結んでいるのは、予約をした人です。キャンセル料が発生した場合、店との関係では予約をした人が支払うのが原則です。
それを相手に負担させられるかどうかは、二人の間で「行けなくなったら費用を分ける」と取り決めていたか、相手に頼まれて予約したのかといった事情によります。とくに取り決めがなければ、法的に支払う義務があるとまではいいにくいのが一般的です。ただし、相手が実際に支払った明細があり、自分も分担してよいと考えるのであれば、実費の範囲で話をまとめるのも一つの選択です。
事前に「ドタキャンなら〇円」と示されていた場合
相手から一方的に金額を告げられていただけで、こちらが同意していないのであれば、その金額に縛られることはないと考えられます。
同意していた場合でも、個人どうしの約束には消費者契約法は使えないものの、実際の損害を大きく超える金額であれば、公序良俗(民法90条)の観点から効力が制限される余地があります。やり取りの中で「いいよ」と返していたかどうかで見通しが変わるため、メッセージを残しておくことが大切です。
金銭のやり取りを前提に会う約束だった場合
いわゆる「割り切り」やパパ活のように、性的な関係と引き換えに金銭を支払う約束をしていた場合、その約束は公序良俗に反するものとして無効と判断されやすいと考えられます。そうした約束を前提にした「キャンセル料」や「お手当の一部」を求められても、法的な根拠は弱いといえます。
一方で、このような約束をしていたことを知られたくないという気持ちにつけこまれ、請求が強まる場面も見られます。また、会う直前になって「保証金」を求められたり、会った後に別の人物が現れたりする場合には、個人ではなく組織的に動いている相手であることも考えられます。相手の年齢が分からないまま会っていた場合には、成人どうしとは扱いが大きく異なるため、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
請求の名目ごとの見通し
| 求められた内容 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 店の予約のキャンセル料 | 店に対しては予約者が負担するのが原則。分担の取り決めがあれば、実費の範囲で話し合う余地がある。 |
| 交通費・時間の補償 | 会うための費用は各自の負担と考えられやすく、支払う根拠は乏しいことが多い。 |
| 事前に示された「ドタキャン料」 | 同意の有無と金額が問題になる。実費を大きく超える額は効力が制限される余地がある。 |
| 割り切り・お手当の一部 | 性的な関係の対価としての約束は無効とされやすく、請求の根拠は弱い。 |
| 慰謝料 | 一度会って予定を取りやめたことだけで慰謝料が認められる場面は限られる。 |
請求が脅しに変わるとき
お金を払ってほしいと伝えること自体は、相手にも認められた行動です。しかし、「払わなければ勤務先に知らせる」「顔写真をSNSに載せる」などと告げて金銭を求める行為は、恐喝罪(刑法249条)にあたるおそれがあります。支払いを求めずに害を加えることを告げるだけでも、脅迫罪(刑法222条)が問題になり得ます。どこからが脅しになるのかは、「訴えるぞ」「警察に行くぞ」は脅迫か|正当な権利行使との境界線でも解説しています。
「弁護士に頼んで個人情報を開示させる」と言われたら
インターネット上の投稿によって権利を侵害された人が、投稿者を特定するための手続として、情報流通プラットフォーム対処法に基づく発信者情報開示があります。この手続は、投稿によって名誉やプライバシーが侵害された場面を想定したものです。会う予定を取りやめたこと自体は投稿による権利侵害ではないため、この手続で身元を特定されることは考えにくいでしょう。
ただし、すでに本名や勤務先を伝えている場合や、相手が別のアカウントから連絡を続けてくる場合は、別の形で不安が続くこともあります。焦ってアプリを退会したりやり取りを消したりする前に、記録を残しておくことが大切です。
その場でキャンセル料を求められたときの対応
- 人目のある場所にとどまり、相手が指定する車内や個室には移動しないようにしましょう。
- 身分証や名刺を見せたり、写真を撮らせたりすることは控えましょう。
- その場での現金の支払いや送金、借用書・誓約書への署名は避けましょう。
- 実費を分担してよいと考える場合は、明細を見せてもらい、金額と内訳を確かめましょう。
- 囲まれる、帰らせてもらえないなど身の危険を感じたときは、ためらわずに110番しましょう。
会った後に「彼氏」や「知人」を名乗る人物が現れて金銭を求められる場合は、美人局の可能性もあります。その場合の対応は、マッチングアプリで美人局に遭った|「彼氏を名乗る男」への対処もご参照ください。
後からメッセージで求められたときの対応
帰宅した後や数日たってから、メッセージでキャンセル料を求められることもあります。相手のプロフィール画面、アカウント名、やり取りの日時が分かる形でスクリーンショットを残しておきましょう。
返信をする場合は、感情的な反論や謝罪を重ねるのではなく、支払う考えがないことを一度だけ簡潔に伝えるのが一つの方法です。そのうえで、本名や勤務先、住所など新しい情報は伝えないようにしましょう。別のアカウントから連絡が続く、勤務先や家族への連絡をほのめかされるといった場合は、ご自身でやり取りを続けるより、弁護士に窓口を任せることを検討してよい段階です。
払うと約束してしまった・払ってしまった場合
怖くなってその場で「払います」と答えてしまった、という方も少なくありません。強い不安の中でした約束については、その効力を争える余地があります。脅されてした意思表示は取り消すことができる(民法96条1項)とされているためです。
すでに支払ってしまった場合も、脅されて支払ったといえる事情があれば、返還を求められることがあります。ただし、相手の身元が分からないと手続が難しくなることもあり、見通しは事案によって異なります。一度支払うと追加の要求が続くこともあるため、次の支払いをする前に一度立ち止まって相談することをおすすめします。
弁護士に相談する目安
- 勤務先や家族、SNSへの連絡をほのめかされているとき。
- 本名や勤務先、住所を相手に知られているとき。
- その場で書面に署名した、身分証を撮影されたとき。
- 支払った後に、さらに金銭を求められているとき。
- 相手の背後に別の人物がいる様子があるとき。
弁護士が代理人となって受任通知を送ると、相手との連絡は弁護士が引き受けることになり、ご本人が直接やり取りをする負担を減らせます。請求に根拠があるのかを確かめたうえで、支払わない方向で進めるのか、実費の範囲で話をまとめるのかを判断していくことができます。
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会った当日に予定を取りやめたことを理由とするキャンセル料の請求は、法的な根拠が乏しいことが多い一方で、請求の仕方や相手に知られている情報によっては、早めに手を打った方がよい場面もあります。支払うかどうかを決める前に、まずは事実関係を整理してみてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


