マッチングアプリで美人局に遭った|「彼氏を名乗る男」への対処

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 マッチングアプリで知り合った女性と会った後、突然「彼氏だ」「夫だ」と名乗る男が現れ、「俺の女に手を出した。慰謝料を払え」と金銭を要求された——そんな美人局(つつもたせ)の被害に遭い、どうすればよいか分からず不安を抱えていませんか。

 まず知っておいてほしいのは、脅して金銭を要求する行為は、それ自体が恐喝罪などの犯罪であり、あなたは被害者だということです。「家族や職場に知られたくない」という焦りから、その場で支払ったり個人情報を渡したりしてしまう方は少なくありませんが、その判断がかえって被害を長引かせることがあります。

 この記事では、身の安全を最優先にしつつ、「彼氏を名乗る男」の請求に本当に応じる必要があるのか、そしてどう対処すべきかを、過度に不安をあおることなく整理します。

いま、その場で詰め寄られているなら(安全最優先)

 もし今まさに複数人に囲まれている、詰め寄られているという状況であれば、何よりも身の安全が最優先です。反撃したり、自力で解決しようとしたりせず、いったんその場から安全な場所へ離れることを最優先してください。

 周囲に人がいる場所なら、恥ずかしがらずに「助けてください、警察を呼んでください」と声を上げる方法もあります。美人局は犯罪ですから、警察の介入を恐れて加害者側が引き下がることは少なくありません。個人情報をまだ知られていないのであれば、隙を見てその場を離れてもかまいません。

 その場での金銭の支払い、ATMへの同行、電子マネーの購入には、可能な限り応じないでください。免許証や名刺を見せる、勤務先や住所を教える、謝罪文・念書・借用書にその場で署名する——これらはいずれも避けるべき行動です。

「彼氏を名乗る男」に、慰謝料を払う義務は原則ない

 落ち着いて考えるべき最も重要な点は、そもそも「彼氏」に慰謝料を請求する法的な根拠があるのかということです。

 不貞行為を理由に慰謝料を請求できるのは、原則として婚姻関係にある配偶者です。これは、婚姻共同生活の平和を守るという法律上保護される利益が侵害されたと評価されるためです。

 これに対して、単なる交際関係にある「彼氏」には、こうした慰謝料請求権が原則として認められません。つまり、「俺の彼女に手を出した、慰謝料を払え」という要求には、そもそも法的な裏づけが乏しいことが多いのです(婚約や内縁といった、法的に保護される関係の実体がある場合は別ですが、美人局でそうした実体が伴うことは通常ありません)。

 では「夫だ」と名乗られた場合はどうでしょうか。この場合も、次の点を冷静に確認する必要があります。

  • 本当に婚姻関係にある夫婦なのか(戸籍などで確認できるか)
  • 夫婦が最初から共謀して、妻に男性と関係を持たせていなかったか

 夫婦が当初から共謀して妻に関係を持たせた美人局であれば、夫は妻が他の男性と関係を持つことをあらかじめ承諾していたことになり、そもそも不法行為が成立しません。 その結果、慰謝料の支払義務は生じない、というのが法的な考え方です。仮に慰謝料の問題が生じる場面であっても、それは交渉・調停・裁判といった正規の手続きで解決すべきものであり、脅して金銭を取る行為が正当化されるわけではありません。

ただし「思い込みで強気」も危険──冷静な見極めを

 一方で、注意しておきたいこともあります。「これは美人局だ」という思い込みだけで強気に突っぱねると、かえって不利になる場合があるのです。

 たとえば裁判例には、男性側が「妻と夫が結託した美人局だ」と主張したものの、共謀を裏づける証拠がないなどの理由でその主張が退けられ、慰謝料の支払いが命じられたものもあります。自分のケースが「犯罪的な美人局」なのか、それとも「(手荒ではあるが)一定の根拠のある請求」なのかを、その場で正確に見極めるのは簡単ではありません。

 だからこそ、独断で対応するのではなく、証拠を保全したうえで、弁護士に客観的な状況を整理してもらうことが大切です。

その要求は、こんな犯罪にあたる可能性がある

  • 恐喝罪:「家族や会社にバラす」などと脅して金銭を要求する行為(10年以下の拘禁刑)。
  • 詐欺罪:支払義務があると偽って金銭を交付させる行為(10年以下の拘禁刑)。
  • 脅迫罪・強要罪:害悪を告知して脅す、義務のないことを強要する行為。
  • 暴行・傷害・監禁・強盗:暴力を加える、帰らせない、刃物などで反抗を抑圧して金銭を奪うといった行為。

 実際に、マッチングアプリで知り合った女性を口実に共犯者が因縁をつけ、警棒で威嚇して現金を要求した事案で、恐喝未遂として実刑判決が言い渡された例もあります。
 報道でも、ホテルに現れた男が暴行を加えて金銭(電子マネーを含む)を要求し恐喝容疑で男女が逮捕された事案や、女性宅に誘い込まれ刃物を突きつけられて現金を奪われる強盗に発展した事案などが伝えられています。「男女の関係があった」ことを口実にしても、脅して金銭を取る行為は犯罪です。

自分の側の法的リスクにも注意

 対処にあたっては、自分の立場も整理しておく必要があります。
 たとえば、相手が「娘(妹)は未成年だった」と言い出すケースでは、児童買春の問題をちらつかせて脅す手口である一方、万一相手が本当に未成年だった場合には自分にも法的リスクが生じます。また、自分が既婚者である場合には、そこを弱みとして突かれることもあります。

 こうした事情がある場合は、警察に相談する前に、まず弁護士に相談して自分の立場を整理しておくと安心です。

やってはいけないこと・やるべきこと

やってはいけないこと

  • その場で支払う、ATMへ行く、電子マネーを買う
  • 免許証・名刺を見せる、勤務先・住所を教える
  • 謝罪文・念書・借用書にその場で署名する
  • 「痕跡を消したい」とアプリ・LINE・通話・送金の記録を削除する(重要な証拠です)
  • 情けなさや恥ずかしさから、誰にも相談せず一人で抱え込む

やるべきこと

  • 身の安全を確保し、安全な場所へ離れる
  • やり取りの記録をスクリーンショットなどで保全する
  • できるだけ早く弁護士に相談する

 弁護士が代理人に就くこと自体が、相手にとっては刑事告訴や法的対応のリスクとなり、抑止力になります。以後の連絡を弁護士が引き受けることで直接のやり取りを遮断でき、二度と接触しないことや個人情報を悪用しないことを約束させる交渉も可能です。家族や職場に知られずに解決したい場合ほど、早めの相談が有効です。

 なお、すでに支払ってしまった場合でも諦める必要はありません。被害届や刑事告訴を通じて、加害者側から示談金として回収できる可能性がありますし、支払い方法によっては回復の余地があります。

【解決事例】男から連絡が来た段階で、予防的に介入し終息させたケース

 当事務所(若井綜合法律事務所)が実際に対応した事例をご紹介します。

 出会い系サイトで知り合った女性と関係を持って別れた後、その女性の電話番号から男が電話をかけてきて「女性が捕まった」「あなたもやばい」と告げられ、今後金銭を請求されるのではないかと不安に感じた40代の男性からのご相談でした。
 相談の時点ではまだ具体的な請求はなかったものの、すでに自分の情報を知られており、家族や職場に連絡が来る事態は避けたい、とのご要望でした。

 そこで弁護士が予防的に介入し、相手方の番号に連絡を入れたところ、対応した女性からは「用件はない、すべて解決している、もう連絡しないでほしい」との返答があり、それ以上の請求に発展することなく終わりました。

 相手方の目的の多くは金銭であり、その手段にどれだけのリスク(警察や弁護士の介入)があるかを天秤にかけています。弁護士が関与すること自体が相手にとってのリスクとなり、事態の拡大を防げる場合は少なくありません。
 少しでも不安を感じたら、請求が本格化する前の段階でご相談いただくことをおすすめします。

そもそも被害に遭わないために

  • 初めて会ってすぐに、相手の自宅や自分の自宅に行かない(会うならホテルなどにする)。相手が執拗に自宅へ来たがる、相手宅へ呼ぼうとするのは、共犯者が"偶然帰宅"できる状況や、住所を把握される状況を作る危険なサインです。
  • 会うことを不自然に急かす、住所や勤務先を執拗に聞いてくる、パートナーの愚痴を頻繁に話す、といった言動にも注意しましょう。

まとめ

  • マッチングアプリでの美人局は、恐喝罪・詐欺罪などの犯罪であり、被害者が泣き寝入りする必要はない。
  • 「彼氏を名乗る男」には、そもそも慰謝料を請求する法的根拠が原則ない。「夫」を名乗る場合も、共謀した美人局であれば支払義務は生じない。
  • ただし「美人局だ」という思い込みだけで強気に出るのは危険。証拠を保全し、弁護士に客観的な見極めを求める。
  • その場で払わない・ATMや署名に応じない・個人情報を渡さない・記録を消さない。身の安全を最優先に離脱し、早めに弁護士へ相談を。

 若井綜合法律事務所は、恐喝・脅迫被害をはじめとする男女間のトラブルを数多く取り扱い、家族や職場に影響が及ばないよう配慮しながら、内密かつ穏便な解決を最優先に対応しています。全国どこからでも、まずはお気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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