【不貞慰謝料】勤務先や取引先に知らせる行為の線引き
婚約中、相手のご両親から「式の足しに」「新生活の準備に」とまとまったお金を受け取ることがあります。ところが婚約が解消されると、そのお金を返すのか、返すとしたら全額なのかが問題になり、相手の親から直接返還を求められる場面も少なくありません。結論は一律ではなく、お金の名目、誰が誰に渡したのか、すでに何に使ったのか、そして破談に至った経緯によって変わります。本記事では、受け取った側の立場から、返還が問題になる理由と整理の順序を解説します。
本記事は、婚約中に相手の親から受け取ったお金について、婚約が解消された場合の一般的な考え方をまとめたものです。結納の返還については裁判例の蓄積がありますが、それ以外の資金援助は事案ごとの判断となる部分が大きく、実際の結論は個別の事情によって異なります。
最初に確かめたいのは「何の名目で、誰から誰へ」渡されたお金か
「結婚資金」とひとくちに言っても、その中身はさまざまです。法的な扱いは名目によって分かれるため、まず受け取ったお金がどれにあたるかを整理します。
| お金の名目 | よくある渡され方 | 返還の問題になり方 |
|---|---|---|
| 結納金 | 婚約の儀式として相手方の家から渡される | 結婚に至らなかった場合、返還が問題になりやすい |
| 挙式・新居費用の援助 | 「式場代に」「家具を揃えるのに」と渡される | 結婚を前提にした贈与として、結納と同じような考え方が持ち出されることがある |
| 住宅購入の頭金などの援助 | まとまった金額が振り込まれる | 金額が大きく、贈与か貸付かも含めて争いになりやすい |
| 貸付 | 「貸しておく」「落ち着いたら返して」と渡される | 婚約の解消とは関係なく、返済の約束に従って返す必要がある |
| お祝い・餞別 | 顔合わせや誕生日などの機会に渡される | 社会通念上の範囲であれば、返還の対象とされにくい |
あわせて確認したいのが「誰から誰へ」です。お金を出したのが相手の親であれば、返還を求める立場にあるのは原則としてその親自身です。また、受け取ったのが自分なのか、二人で管理していた口座なのか、自分の親なのかによって、返す義務を負う人も変わります。振込の記録や、渡されたときのLINE・メールの文面はこの整理の土台になるため、手元に残しておきましょう。
結婚を前提にしたお金は、婚約がなくなると返還が問題になる
結納について、最高裁判所は、婚約の成立を確かなものにし、結婚した場合に当事者や両家の関係を深める目的で渡される一種の贈与と位置づけています(最高裁昭和39年9月4日判決)。この考え方からすると、婚約が解消されて結婚に至らなかった場合は贈与の目的が達成されなかったことになり、受け取った側は不当利得として返還を求められる可能性があります(民法703条)。
相手の親からの資金援助も、「二人が結婚するから」という前提で渡されたものであれば、同じような理屈で返還を求められることがあります。他方で、結納のように儀式として形の決まったものではないため、渡したときの言葉や金額、使い道の指定などから、どこまで結婚を前提にしていたかが個別に判断されます。渡した側から見た考え方は、結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかでも解説しています。
なお、婚約後に同居を始め、夫婦同然の生活を一定期間送っていた場合には、結納の目的は達成されたとして返還を否定した裁判例もあります。同じ「婚約の解消」でも、関係がどの段階で終わったのかは結論に影響します。
破談の原因がどちらにあるかで、結論が変わることがある
婚約が解消された経緯も、返還の判断で重視されます。結納については、渡した側に婚約解消の原因がある場合、その側からの返還請求は信義則に反するとして認めなかった裁判例が多くあります。ただし、原因の有無にかかわらず返還は返還として扱い、責任の問題は慰謝料で調整すべきだとする考え方もあり、判断は一様ではありません。
| 破談の経緯 | 返還についての一般的な傾向 |
|---|---|
| 二人の話し合いで合意して解消した | 原則として返還の方向で話し合うことが多い |
| 相手や相手の親の事情で一方的に解消された | 相手側からの返還請求が制限されることがある |
| 自分の事情で一方的に解消した | 返還に加えて、婚約破棄の慰謝料や実費の請求が問題になることがある |
| 双方に原因がある | 原因の程度を比べて判断されることがある |
相手の親が結婚に強く反対したことがきっかけで破談になったケースでは、相手の親自身の責任が問題になることもあります。そのような経緯で親から「渡したお金を返してほしい」と求められた場合は、返還だけを切り離して応じるのではなく、婚約解消全体の清算の中で考えることが大切です。婚約破棄そのものの考え方は、婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースや結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とはで詳しく解説しています。
すでに使ってしまったお金はどう考えるか
受け取ったお金を、婚約中にすでに使っていることも多いと思います。不当利得の返還は、返すべき事情を知らずに受け取っていた場合、利益が残っている範囲で足りるとされています(民法703条)。ただし、自分の生活費に充てて本来の出費を浮かせた分は利益が残っているとみなされやすく、返すべき事情を知った後は返還の範囲が広がること(民法704条)にも注意が必要です。使い道ごとに分けて整理すると、話し合いの見通しが立てやすくなります。
式場の予約金やキャンセル料に充てた分
二人の結婚準備のために使い、婚約の解消によって戻らなくなった費用は、最終的に誰が負担するのかという問題として扱われます。破談の原因がどちらにあるかによって、相手側の負担とされたり、双方で分担することになったりします。
家具・家電など、形のある物に変わっている分
新居のために買った物が残っている場合は、物を引き渡す、売却して代金で清算する、自分が使い続ける代わりに相当額を支払うなど、いくつかの方法が考えられます。物の状態や現在の価値によって、どの方法が現実的かは変わります。
自分の生活費や借金の返済に充てた分
結婚準備と関係のない使い道は、返還を求められたときに説明が難しくなりがちです。金額と時期を記録から確認し、返せる範囲と方法を早めに検討しておくことをおすすめします。
「あげたのではなく貸した」と言われた場合
相手の親から「あれは貸したお金だ」と言われることもあります。贈与か貸付かは、借用書の有無だけでなく、渡したときのやり取り、返済の時期や方法の取り決め、実際に一部でも返していたかといった事情から判断されます。貸付だと認められれば、婚約の解消の原因がどちらにあっても、約束に従って返す必要があります。
反対に、「お祝いだから返さなくていい」と言われていた記録が残っていれば、贈与であったことを示す材料になります。ただし、贈与であっても結婚を前提にしていた以上、先に述べた理由で返還が問題になる余地は残ります。贈与と貸付の見分け方は、別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いや【男女トラブル】相手の家族から借りたお金|交際解消と同時に清算するもあわせてご覧ください。
相手の親から返還を求められたときの進め方
相手の親から返還を求められると、申し訳なさから、その場で「必ず返します」と約束したくなるかもしれません。しかし、婚約の解消には結納、指輪、式場の費用、新居、慰謝料など、ほかにも清算が必要な項目があることが多く、結婚資金だけを先に決めてしまうと、全体の整理がかえって難しくなることがあります。次の順序で進めると、落ち着いて判断しやすくなります。
- 受け取ったお金の金額・日付・名目を、振込記録やメッセージで確認する。
- 請求しているのが相手の親本人なのか、婚約者が親の意向を伝えているだけなのかを確かめる。
- その場で返済を約束したり、念書や借用書に署名したりしない。
- 結納や式場費用、慰謝料など、婚約解消に伴うほかの清算項目を一覧にする。
- 差し引きを含めて全体の条件を話し合い、合意できたら清算条項を入れた合意書にまとめる。
相手の親が窓口になって交渉してくる場合、その親が婚約者本人に代わって話をまとめる権限を持っているとは限りません。この点は【男女トラブル】相手の家族が代わりに交渉に出てきた|代理権の有無の確かめ方で解説しています。また、相手方と直接顔を合わせることが負担であれば、弁護士を窓口にして整理する方法もあります。当事務所が対応した例として、【解決事例】相手と直接顔を合わせずに婚約を解消したい―弁護士介入で約1ヶ月半にて円満解決した事例もご参照ください。
よくあるご質問
受け取ったのは自分の親です。返す義務を負うのは誰ですか
相手の親から自分の親に直接渡されたお金であれば、返還を求められる相手は原則として受け取った自分の親になります。ただし、実際には二人の結婚準備に使われていることも多いため、誰が負担するのが妥当かは家族の間でも話し合っておく必要があります。
結婚資金を返せば、慰謝料の話はなくなりますか
結婚資金の返還と、婚約破棄による慰謝料は別の問題です。どちらか一方を済ませても、もう一方が当然に消えるわけではありません。話し合いでは両方を差し引きで整理することも多く、最終的な合意書に「本件に関し、ほかに互いに請求しない」という趣旨の清算条項を入れておくことが大切です。
時間が経てば、返還を求められなくなりますか
返還を求める権利には時効があり、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で消滅するのが原則です(民法166条1項)。とはいえ、時効を当てにして放置すると、相手方の請求が強まったり、訴訟を起こされたりすることもあるため、時効だけを頼りにするのは避けた方がよいでしょう。
金額が大きい場合、税金のことも考える必要がありますか
まとまった金額の受け取りや返還では、贈与税の扱いが問題になることがあります。個別の事情で判断が分かれるため、金額が大きい場合は税理士にも確認しておくと安心です。
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婚約中に相手の親から受け取ったお金は、名目や破談の経緯によって、返すべき範囲が大きく変わります。相手の親から返還を求められたときは、すぐに約束をする前に記録を確かめ、婚約解消に伴うほかの清算とあわせて全体を見渡すことが、後のトラブルを防ぐことにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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