不倫相手との妊娠|認知・養育費・中絶をめぐるトラブル
不貞慰謝料の説明を読んでいると、「支払った側は、もう一方に半分を求めることができる」という形の記述をよく見かけます。ただ、この「半分」という数字は、法律のどこかに書かれているものではありません。
二人の間でどちらがどれだけ負担するのかという割合は、あらかじめ用意された数字を当てはめる作業ではなく、どの場面で、誰が、何を材料にして決めるのかによって、決まり方そのものが変わります。同じような事情であっても、話し合いで決める場合と裁判所が判断する場合とでは、出てくる結論も、そこに至るまでに必要な手間も違ってきます。
この記事では、負担割合が何と何の間の割合なのかを整理したうえで、「5対5」という数字の出どころ、慰謝料の金額を動かす事情との違い、決まり方が一つではないことの順に見ていきます。求償権そのものの仕組み、示談書に置く求償権放棄条項の書き方、時効といった点は別の記事で扱っていますので、ここでは割合の決まり方に絞ってご説明します。
「負担割合」は誰と誰の間の割合なのか
負担割合は、慰謝料を請求してきた側との間で決まる割合ではありません。請求する側から見れば、不貞をした配偶者と不貞相手のどちらに対しても賠償額の全額を求めることができるのが原則で、そこに割合という考え方は入ってきません。割合が問題になるのは、その外側の関係とは別に、支払う側の二人がどう分け合うのかという内側の関係においてです。
この二段構えの仕組みそのものは求償権を扱った別の記事で説明していますので、ここでは、負担割合という言葉が支払う側の二人の間だけで働く割合である、という点を出発点にします。
割合が表に出てくるのは支払いが終わった後
二人の間の割合は、請求を受けている段階では、まだどこにも書かれていない状態です。一方が実際に支払いをして、はじめて「自分は本来いくら負担すべきだったのか」という問いが具体的な形になります。交渉の途中で割合の話が出ることはありますが、その時点では、確定した数字として存在しているわけではありません。
このため、負担割合は調べれば分かるものというよりも、後から誰かが決めるものだ、という順序で考えたほうが実際の流れに近くなります。
「5対5」という数字はどこから来ているのか
民法442条1項は、連帯債務者の一人が支払いをした場合に、他の債務者に対して「各自の負担部分に応じた額」の求償権を有すると定めています。ここで手がかりになるのは、条文が定めているのは負担部分に応じて求償できるというところまでであり、その負担部分をいくつにするのかまでは書かれていない、という点です。
不貞の慰謝料についてはこの規定がそのまま当てはまるわけではないと説明されることが多く、実務では、自分の負担部分を超えて支払った部分を求めるという整理が一般的です。もっとも、どちらの整理を採るとしても、割合そのものを定めた条文は見当たりません。5対5という数字は、そこに書かれているものではなく、当事者の間に特に事情が見当たらないときに、等しく扱うところから考え始めるという発想から来ているものです。
解説記事の「50万円」は計算を示すための仮の数字
多くの解説では、100万円を支払った側がもう一方に50万円を求める、という例が挙げられています。この例は、仕組みを説明するために割合を半分と置いただけのもので、そのケースの相場を示したものではありません。それにもかかわらず、数字が一人歩きして、支払った額の半分が戻ってくる前提で示談の金額を決めてしまうことがあります。
交渉の場面で相手方から「どうせ半分は戻る」という前提の話が出てきた場合も、その前提自体がまだ決まっていないものだ、という点は押さえておいてよいところです。
6対4、7対3という数字の位置づけ
配偶者の側を重く見た裁判例があることから、6対4、7対3といった数字が紹介されることもあります。これらは事件ごとの判断として示されたものであり、同じ数字が当てはまる基準として用意されているわけではありません。似た事情に見えても、判断する場面や提出された材料が違えば、結論も変わり得ます。
数字を先に置いてから話を進めると、後で材料がそろわなかったときに、主張を組み直しにくくなります。割合の話は、数字ではなく事情の側から積み上げていくほうが、後の展開に耐えやすくなります。
金額を動かす事情と、分担を動かす事情は同じではない
慰謝料の金額は、請求する側がどれだけの影響を受けたかという観点から考えられます。これに対して負担割合は、支払う側の二人のうち、どちらの責任がより重いかという比較の問題です。見ている対象が違うため、金額を押し上げる事情がそのまま分担を動かすとは限りません。
| 事情 | 慰謝料の金額への働き方 | 二人の間の分担への働き方 |
|---|---|---|
| 婚姻期間の長さ、子どもの有無 | 請求する側が受けた影響の大きさとして働きやすい | どちらの責任が重いかとは直接結びつきにくい |
| 不貞の期間や頻度 | 関係の深さや影響の続いた長さとして見られやすい | 関係を続けさせたのがどちらかという形で見られることがある |
| 既婚であることが伝わっていたか | 責任が生じるかどうかに関わる場面が中心 | 分担を考えるうえで働きやすい |
| 職場での立場や年齢の差 | 金額に直接反映されるとは限らない | どちらが断りにくい状況にあったかとして見られることがある |
| 発覚した後の対応 | 請求する側が受けた影響として働くことがある | 関係を続ける意向がどちらにあったかとして見られることがある |
同じ事実でも、見られている点が違う
たとえば交際が数年続いていたという事実は、請求する側から見れば、家庭生活が長く損なわれていたという意味を持ちます。一方、二人の間の分担という場面では、同じ事実が「その間、関係を続けようとしていたのはどちらだったのか」という問いに置き換わります。事実は一つでも、どちらの物差しに載せるかで読み取られる中身が変わります。
このずれを意識しないまま、慰謝料の減額のために述べた事情をそのまま分担の主張に流用すると、話がかみ合わないことがあります。
片方に効いても、もう片方には効かないことがある
既婚であることを隠されていたという事情は、責任が生じるかどうかという入口の問題として扱われる場面が中心ですが、責任が認められた場合には、二人の間の分担を考えるうえでも働きやすい事情です。逆に、子どもがいる家庭だったという事情は、金額の側では大きく働く一方、二人の間でどちらが重いかという比較には結びつきにくいものです。
どの事情がどちらの場面に効くのかを分けておくと、交渉でも訴訟でも、述べる順序を組み立てやすくなります。
決まり方は一つではない
割合が決まる場面は、大きく三つに分かれます。どの場面に進むかによって、決める人も、必要な材料も、決まる範囲も違います。
| 決まり方 | 決める人 | 定まる範囲 |
|---|---|---|
| 話し合いで決める | 当事者二人 | 合意した二人の間で定まる。相手方が応じなければ成立しない |
| 裁判所が判断する | 求償を求める訴えの中で裁判所 | その事件で判断された限りで定まる。主張と裏づけが求められる |
| 決まらないまま終わる | 決める場面が訪れない | 割合は定まらず、支払った額がそのまま残る |
話し合いで決める場合
二人の間で合意ができれば、割合は自由に決められます。半分とすることも、一方に寄せることもできますし、金額そのものを直接取り決めても構いません。ただし、相手方が応じなければ話は前に進みません。相手方から見れば、こちらの主張を受け入れることは自分の支出が増えることを意味しますから、応じる理由をどこに置くかが実際の焦点になります。
なお、慰謝料の示談の場でこの点をあらかじめ取り決めておくという方法もありますが、その書き方や判断の基準は求償権放棄条項を扱った別の記事でご説明しています。
裁判所が判断する場合
話し合いがまとまらなければ、支払った側が相手方に対して求償を求める訴えを起こすことになります。この訴えの中では、二人の関係がどのように始まり、どちらがどのように関わっていたのかが正面から取り上げられます。割合は、こうした事情についての主張と、それを裏づける材料を踏まえて判断されます。
ここで注意しておきたいのは、判断されるのはその事件の限りだという点です。ほかの事案で示された数字がそのまま持ち込まれるわけではなく、提出された材料の範囲で判断されます。
請求してきた側との裁判では決まらない
慰謝料を請求する側が二人を相手に訴えを起こし、判決が出た場合でも、その判決の中で二人の間の割合が定まるわけではありません。その裁判で取り上げられているのは、請求する側にいくら支払うのかという外側の関係だからです。二人がそろって被告になっていたとしても、内側の分担は判決の主文には現れません。
つまり、慰謝料の裁判が終わっても、割合の問題は手つかずのまま残ることになります。分担まで一度に片付けたいのであれば、別の場面を用意する必要があります。
決まらないまま終わることもある
実際には、割合が決まらないまま終わる例も少なくありません。示談の際に求償権を放棄していた場合、相手方に求める場面が訪れない場合、相手方に支払う力が見込めない場合などです。請求する側の夫婦が離婚しないのであれば、二人の間でお金が行き来しても同じ家計の中での移動にとどまることもあります。
割合を決めるという作業自体に手間と費用がかかりますから、決めないという結果も、選択の一つとして現実に生じています。
責任の重さを比べるときに見られていること
二人のどちらが重いかを比べるとき、事情は個別に評価されますが、見られている点はおおむね次の三つの角度に整理できます。
関係の始まり方と続き方
どちらから声をかけたのかという始まりの部分だけでなく、その後どちらが関係を保とうとしていたのかという経過も見られます。一度きりで終わらせようとしていた側と、繰り返し会う場を設けていた側とでは、同じ関係についての関わり方が異なると評価される余地があります。
やり取りの記録が残っている場合、この経過はかなり具体的に現れます。分担の主張をするときは、こうした記録がどちらの側にとって有利に働くのかを先に確かめておくことになります。
立場の違いがあったか
職場での上下関係、年齢や社会経験の差、生活面での依存関係といった事情があると、どちらが断りにくい状況に置かれていたのかという観点が入ってきます。立場の差があること自体が結論を決めるわけではありませんが、関係の続き方を説明する材料として働くことがあります。
もっとも、こうした主張は、相手方の側から見れば自分の責任を重く見られる主張ですから、そのまま受け入れられるとは限りません。
既婚であることの伝わり方
既婚であることを伝えていたのか、伝えていたとしてどの時点で伝わったのかは、二人の間の比較でも取り上げられます。婚姻関係があることを知りながら関係を持ったのか、途中で知ったのか、隠されていたのかによって、二人の関わり方の評価が変わってくるためです。
この点は責任が生じるかどうかという入口の議論とも重なりますので、そちらは既婚と知らなかった場合を扱った別の記事をご覧ください。
割合が決まっても、そのとおりに動くとは限らない
割合が定まったとしても、それが手元のお金の動きにそのまま反映されるとは限りません。割合とお金の動きの間には、いくつかの段差があります。
支払った額そのものが前提として問われる
求償の土台になるのは、支払った金額そのものです。相場から離れた金額を支払っていた場合には、その支払いが分担の前提として扱われるのかという点が争われることがあります。この点は求償権を扱った別の記事で詳しくご説明していますが、割合を考える前に、支払う金額の側を検討しておく意味はここにあります。
相手方に支払う力があるか
割合が決まっても、相手方に支払う力がなければ、実際に受け取れる金額は変わってきます。相手方がすでに他の支払いを抱えている場合、収入が安定していない場合には、権利として認められることと、手元に戻ることとが別々の問題になります。
訴えを起こして判断を得るまでには、費用も時間もかかります。見込める金額とその負担とを並べて考えることになります。
主張するために自分の側の事実を述べることになる
分担を有利に運ぼうとすれば、相手方が主導していた、断りにくい状況だったといった事情を、具体的に述べていくことになります。これは、いったん収まった話をもう一度掘り起こす作業でもあります。書面は相手方の生活の場に届きますし、内容によっては、相手方の家庭に改めて事情が伝わることもあります。
金額の見込みだけでなく、この点まで含めて判断することをおすすめします。
請求する側から見た負担割合
慰謝料を請求する側にとって、二人の間の割合は直接の関心事ではありません。どちらに全額を求めるかは請求する側が選べますし、内側の事情に合わせて請求額を調整しなければならないわけでもありません。
ただし、配偶者と離婚しない場合には、不貞相手から受け取った金額について、後から配偶者へ求償が向かうことがあります。その場合、家計全体で見れば手元に残る金額が変わってきます。請求先をどう選ぶか、示談の段階でどのような取り決めを置くかは、この点を踏まえて考えることになります。詳しくは、請求先の選び方と求償権放棄条項を扱った各記事でご説明しています。
よくあるご質問
負担割合は半分と決まっているのですか
割合を定めた条文はありません。特に事情が見当たらない場合に等しく扱うところから考え始めることはありますが、事情によって一方に寄ることもあります。半分という数字は出発点の一つであって、結論として用意されているものではありません。
相手方が話し合いに応じない場合、割合はどうなりますか
話し合いで決まらなければ、求償を求める訴えの中で判断してもらうことになります。訴えを起こさなければ、割合は決まらないまま残ります。費用や手間、相手方の支払う力を踏まえて、進めるかどうかを検討することになります。
示談のときに割合を決めておくことはできますか
慰謝料の示談に合わせて、二人の間の取り決めを書面にしておく方法はあります。もっとも、誰と誰の間の合意にするのか、どの範囲まで含めるのかによって働き方が変わりますので、条項の中身を確かめたうえで判断することになります。この点は求償権放棄条項を扱った別の記事をご覧ください。
まとめ
- 負担割合は、請求してきた側との関係ではなく、支払う側の二人の間だけで働く割合です。
- 条文が定めているのは負担部分に応じて求償できるというところまでで、割合そのものを定めた規定はありません。
- 解説でよく見かける50万円という数字は、仕組みを示すために割合を半分と置いた例であり、相場を示したものではありません。
- 6対4、7対3といった数字は事件ごとの判断として示されたもので、当てはめる基準ではありません。
- 慰謝料の金額を動かす事情と、二人の間の分担を動かす事情は同じではありません。
- 決まり方は、話し合い、裁判所の判断、決まらないまま終わるの三つに分かれます。
- 慰謝料の裁判で判決が出ても、二人の間の割合はその中では定まりません。
- 割合が決まっても、支払った額の前提、相手方の支払う力、手続の費用によって、手元に残る金額は変わります。
負担割合でお悩みの方はご相談ください
負担割合は、数字を先に決める問題ではなく、どの場面で何を材料に述べるかを組み立てる問題です。支払う前なのか、支払った後なのか、示談の書面がすでにあるのかによって、取り得る道筋は変わります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料を請求された方、請求される側になった方の双方から、支払いと分担に関するご相談をお受けしています。書面が手元にある段階でも、まだ話が始まったばかりの段階でも、状況を伺ったうえで進め方を一緒に検討いたします。お一人で判断される前に、一度ご相談ください。


