【不貞慰謝料】尋問では何を聞かれるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

尋問の期日が決まったと聞いたものの、当日に何を聞かれるのかが分からないまま日が近づいてくる。不貞慰謝料の訴訟では、こうしたご相談を請求する側からも請求を受けた側からも伺います。請求する側からは「相手方に直接確かめられる場だと聞いたが、どこまで聞けるのか」、請求を受けた側からは「私生活の細かいところまで問いただされるのではないか」というご不安です。

 インターネット上には、出会った経緯、関係が始まった流れ、相手が既婚であることを知っていたか、といった質問例が並んでいます。いずれも実際に問われることの多い事柄で、その説明が誤っているわけではありません。ただ、質問例をいくつ集めても、なぜその質問が出てくるのか、どこまでの質問が許されるのか、答えた内容がどこに残るのかまでは見えてきません。

 この記事では、尋問という手続の中で質問がどのように枠づけられているのかを、民事訴訟法と民事訴訟規則の規定にさかのぼって整理します。訴訟全体の流れと期間、訴状が届いた段階での対応、事実を否認する場合に注意すべきことは、それぞれ別の記事で扱います。

この記事で扱うこと

 尋問について、次の点を順に説明します。

  • 尋問が行われる時期と、申し出の段階ですでに決まっていること。
  • 誰が、どの順序で、どの範囲まで質問できるのか。
  • 争点ごとに、どのような事柄が問われやすいのか。
  • 質問の仕方について定められている決まり。
  • 陳述書との関係と、当日に使われる資料の扱い。
  • 相手方と同じ場所に立つことを避けるための手当て。
  • 話した内容がどこに残るのか。


尋問はいつ行われ、その前に何が決まっているのか

 尋問は、訴訟が始まってすぐに行われる手続ではありません。

主張と書面の証拠が出そろった後に行われる

 双方が主張書面と証拠を出し合い、どこに争いがあるのかが絞られた段階で、裁判所は人の話を聞く必要があるかどうかを判断します。争いのある事実が書面だけでは判断できないと考えられたときに、証人や当事者本人の尋問が行われます。裏を返せば、書面のやり取りの途中で和解が成立すれば、尋問まで進まずに手続が終わることもあります。尋問は、判決に向けて審理が最終盤に入ったことを示す手続だとお考えください。

申し出の段階で、時間と項目が示されている

 尋問は、当事者からの申し出によって始まります。申し出をするときは、誰を尋問するのかを指定し、あわせて尋問に要する見込みの時間を明らかにしなければなりません(民事訴訟規則106条)。さらに、尋問事項を記載した書面を同時に提出する必要があり、その記載は、できる限り個別的かつ具体的にすることとされています(同規則107条1項、2項)。この書面は相手方にも直接送られます(同条3項)。つまり、どのような事柄が問われるのかの大枠は、当日を待たずに双方が把握できる仕組みになっています。

 なお、証人と当事者本人の尋問の申し出は、できる限り一括してすることとされており(同規則100条)、複数の人を同じ期日にまとめて尋問するのが通常の進み方です。

誰が、どの順序で聞くのか

 尋問は、質問したい人が好きな順番で話しかける場ではなく、順序が法律で決まっています。

三つの段階と、裁判官の質問

 証人の尋問は、その尋問を申し出た当事者、他の当事者、裁判長の順序で行うのが原則です(民事訴訟法202条1項)。実務では、申し出た側の質問を主尋問、相手方の質問を反対尋問、その後に申し出た側が改めて行う質問を再主尋問と呼びます(民事訴訟規則113条1項)。裁判長は必要があると認めるときはいつでも自ら質問することができ、陪席裁判官も裁判長に告げて質問できます(同条3項、4項)。

場面質問する人質問できる範囲
主尋問尋問を申し出た側立証すべき事項と、これに関連する事項
反対尋問相手方主尋問に現れた事項と、これに関連する事項、および供述の信用性に関する事項
再主尋問尋問を申し出た側反対尋問に現れた事項と、これに関連する事項
裁判官の質問裁判長、陪席裁判官必要があると認めるとき


 範囲を定めているのは民事訴訟規則114条1項です。範囲を超えた質問が相当でないと認められるときは、申立てにより、または裁判長の職権で制限されます(同条2項)。

証人と当事者本人では、先に聞かれるのが証人

 証人と当事者本人の双方を尋問するときは、まず証人の尋問をするのが原則です。ただし、適当と認めるときは、当事者の意見を聴いて先に当事者本人の尋問をすることもできます(民事訴訟法207条2項)。不貞慰謝料の訴訟では、請求する側の配偶者が証人として法廷に立つことがあり、その場合はその方の尋問が先に行われるのが通常の順序ということになります。

 当事者本人の尋問には、証人尋問の規定が原則としてそのまま準用されます(同法210条、民事訴訟規則127条)。以下で述べる決まりは、証人として呼ばれた場合にも、当事者本人として尋問を受ける場合にも当てはまります。

何が聞かれるのか|争点ごとに整理する

 尋問で問われるのは、争いのある事実です。何が争点になっているかは事件ごとに違うため、質問の中身も一律ではありません。

争点と質問の対応

 不貞慰謝料の訴訟で争点になりやすい事柄と、そこで問われやすいことを整理すると、次のようになります。

争点になりやすい事柄問われやすいこと照らし合わされる資料
関係があったかどうか、いつからいつまでか知り合った経緯、連絡の取り方、会っていた場所や頻度、関係の終わり方やり取りの記録、写真、宿泊や交通に関する記録
相手が既婚であると知っていたかそう理解した理由、確かめたことの有無、気づいた時期やり取りの内容、当時の状況についての双方の説明
夫婦関係がどのような状態だったか同居していたか、家庭内の様子、いつからその状態だったか生活状況に関する資料、双方の説明
発覚した後にどう対応したか関係を続けているか、連絡を絶った時期、話し合いの経緯念書や示談書、発覚後のやり取り
金額の判断に関わる事情生活への影響、体調や仕事への影響、その後の家庭の状況診断書などの資料、双方の説明


自分が申し出た尋問と、相手方が申し出た尋問

 主尋問は、自分の側の代理人が行います。何を聞くかは事前の打合せで共有されるため、当日に想定外の質問が出ることは多くありません。これに対し反対尋問は、相手方の代理人が、主尋問に出てきた話とその信用性を確かめるために行います。こちらは事前に質問内容が知らされるわけではありませんが、範囲は主尋問に現れた事項とこれに関連する事項に限られており、争点と無関係な話題に広がっていくことは想定されていません

細部を尋ねられる理由

 日時、場所、同席者の有無といった細かい事実が繰り返し確認されることがあります。これは私生活を暴くためではなく、供述が他の証拠や書面での主張と食い違わないかを確かめるためです。争点から離れた質問は制限の対象になりますが、争点に結び付く事実であれば、細部まで確認されることはあります。

質問の仕方にも決まりがある

 尋問には、質問する側が守るべき決まりが定められています。

個別的かつ具体的に問うこと

 質問は、できる限り個別的かつ具体的にしなければならないとされています(民事訴訟規則115条1項)。一度に複数の事柄をまとめて尋ねたり、答えようのない抽象的な問いを投げかけたりすることは想定されていません。

してはならない質問

 次の質問は、当事者がしてはならないものとして挙げられています(同条2項)。ただし、二つ目以降については、正当な理由がある場合には認められます。

  1. 証人を侮辱し、または困惑させる質問。
  2. 誘導質問。
  3. すでにした質問と重複する質問。
  4. 争点に関係のない質問。
  5. 意見の陳述を求める質問。
  6. 証人が直接経験しなかった事実についての陳述を求める質問。


 誘導質問が原則として認められないのは、答えを示しながら問うと、その人自身の記憶が言葉に出てこなくなるためです。また、直接経験していない事実についての陳述を求める質問が挙げられているのは、尋問が、その人が見聞きしたことを確かめる手続だからです。他人から聞いた話や、自分の推測を述べる場ではありません。

決まりに反する質問が出たとき

 裁判長は、決まりに反する質問だと認めるときは、申立てにより、または職権でこれを制限することができます(同条3項)。裁判長の判断に対しては、当事者が異議を述べることもでき、その場合、裁判所は決定で直ちに裁判をします(同規則117条)。実際の法廷では、代理人が異議を述べる場面よりも、裁判長が質問の仕方を整理する場面のほうが多く見られます。

 なお、質問に答えないという選択がどう扱われるか、事実に反する陳述をした場合に何が起きるかは、この記事の範囲を超えますので、否認をめぐる注意点を扱う別の記事をご覧ください。

手元の書類を見ながら答えることはできない

 意外に知られていないのが、この点です。

書類に基づく陳述の禁止

 証人は、書類に基づいて陳述することができません。ただし、裁判長の許可を受けたときは、この限りではありません(民事訴訟法203条)。この規定は当事者本人の尋問にも準用されます(同法210条)。あらかじめ用意したメモを読み上げる、時系列表を手元に置いて確認しながら話すといったことは、原則として認められていないということです。

記憶に基づいて話すことが前提になっている

 このような決まりがあるのは、書面を見ながらの受け答えでは、その人自身の記憶がそのまま出てこなくなるためです。したがって、尋問の準備とは、答えを暗記することではなく、自分が経験した出来事の順序を自分の言葉で説明できる状態にしておくことだと言えます。日付や金額のように記憶が曖昧になりやすい事柄については、裁判長の許可を求めて資料を示しながら確認する運用もありますが、許可が前提である点に変わりはありません。

陳述書と、当日に使われる資料

 尋問の前には、陳述書と呼ばれる書面が提出されることが多くあります。

陳述書は先に読まれている

 陳述書は、その人が述べようとしている内容をあらかじめ書面にまとめ、証拠として提出するものです。裁判所は尋問の前にこれに目を通しているのが通常で、主尋問は、陳述書に書かれた内容のうち重要な部分を口頭で確認する形で進むことが多くなります。もっとも、陳述書があるからといって、当日に「陳述書のとおりです」とだけ答えれば足りるわけではありません。争点に関わる部分は、改めて口頭で説明を求められます。

食い違いが反対尋問の入口になる

 反対尋問では、供述の信用性に関する事項を尋ねることができます(民事訴訟規則114条1項2号)。陳述書に書かれていることと、法廷で述べたことと、これまでに提出された書面の主張との間にずれがあれば、その点が確認されます。尋問で問われているのは、記憶の細かさそのものよりも、これまでに出してきた説明と食い違わないかどうかだと考えたほうが実態に近いといえます。

資料は事前に出ているのが原則

 尋問で使う予定の文書は、供述の信用性を争うために使うものを除き、尋問を開始する相当期間前までに提出しなければならないとされています(同規則102条)。当日に初めて出てくる資料は、原則として想定されていません。また、文書などを示しながら質問するには裁判長の許可が必要で、まだ取り調べていない資料であれば、質問の前に相手方に閲覧の機会を与えなければなりません(同規則116条1項、2項)。

相手方と同じ場所に立ちたくない場合

 尋問は公開の法廷で行われるのが原則です。相手方本人と同じ場に居合わせることや、面識のない傍聴人がいることに不安を覚える方は少なくありません。法律には、事情に応じた手当てがいくつか用意されています。

付添いと遮へいの措置

 裁判長は、不安や緊張を和らげるために適当な人を、陳述の間、付き添わせることができます(民事訴訟法203条の2)。また、当事者本人の面前で述べると圧迫を受け、精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる場合には、互いに相手の状態が分からないようにする措置をとることができます(同法203条の3第1項)。同様の措置は、傍聴人との間でとることもできます(同条2項)。これらの措置をとるにあたっては、当事者と本人の意見を聴かなければならないとされています(民事訴訟規則122条の2、122条の3)。

映像と音声の送受信による方法

 出頭が困難な事情がある場合や、同じ場所で述べると圧迫を受けるおそれがある場合には、映像と音声の送受信により相手の状態を認識しながら通話する方法で尋問を行うことができます(民事訴訟法204条)。令和8年5月21日に施行された改正により、当事者に異議がない場合もこの方法をとりうる場合として加えられました。実務の運用はこれから積み上がっていく段階ですが、選択肢が広がったこと自体は押さえておいてよい変化です。

傍聴人と記録についての決まり

 特定の傍聴人の面前では圧迫を受けて十分に述べられないと認められるときは、裁判長は当事者の意見を聴いたうえで、その傍聴人を退廷させることができます(民事訴訟規則121条)。また、期日における写真の撮影、録音、録画などは、裁判長の許可がなければすることができません(同規則77条)。いずれも裁判長が相当と認めたときに採られる措置であり、申し出れば当然に認められるという性質のものではありませんが、事情があるのであれば、期日の前に代理人を通じて伝えておくことになります。

話した内容はどこに残るのか

 尋問で述べたことは、その場限りのものではありません。

調書への記載

 口頭弁論の調書には、証人や当事者本人の陳述と、宣誓の有無を明確にしなければならないとされています(民事訴訟規則67条1項3号、4号)。尋問の前には、人違いでないことの確認と宣誓の手続があり、その内容も記録に残ります(同規則112条)。

録音などへの記録

 裁判長の許可があるときは、陳述を録音などの方法で記録し、これをもって調書の記載に代えることができます(同規則68条1項)。この場合でも、訴訟が終わるまでに当事者の申し出があれば、陳述を記載した書面が作成されます(同条2項)。尋問での受け答えは、判決を書く裁判官が後から読み返す材料になり、控訴された場合には次の裁判所も目を通すことになります。

立場ごとに、尋問の意味は少し違う

 同じ手続でも、請求する側と請求を受けた側とでは、重心の置きどころが変わります。

請求する側から見た尋問

 相手方本人に直接質問できる場は、手続の中でここだけです。ただし、尋問で新しい事実が明らかになることは、実際にはそれほど多くありません。反対尋問の範囲は主尋問に現れた事項に結び付いたものに限られるため、書面で主張していない事柄を、この場で初めて持ち出して確かめるという使い方はできないからです。尋問は、それまでに集めた証拠を裏づける場だと位置づけたほうが実態に合っています。

請求を受けた側から見た尋問

 問い詰められる場という印象を持たれがちですが、自分の言い分を裁判官に直接伝えられる数少ない機会でもあります。金額の判断に関わる事情や、関係の実態について書面では伝わりにくかった部分を、自分の言葉で説明できます。他方で、これまでに提出した書面と食い違う説明をしてしまうと、その食い違い自体が争点になります。準備として最も重要なのは、これまで何をどう述べてきたかを確認しておくことです。

よくあるご質問

どの裁判でも尋問は行われるのですか

 いいえ。尋問の前に和解が成立すれば行われませんし、申し出をしても、書面と提出済みの証拠で判断できると裁判所が考えれば採用されないこともあります。争いのある事実について、人の話を聞く必要があると判断されたときに行われる手続です。

弁護士に依頼していれば出席しなくてよいのですか

 通常の期日は代理人だけが出席することが多いのですが、本人尋問は本人が述べる手続ですので、本人の出頭が必要です。出頭が困難な事情がある場合には、映像と音声の送受信による方法をとりうるかを検討することになります(民事訴訟法204条)。

「覚えていない」と答えてもよいのですか

 記憶にないことを、あるかのように述べる必要はありません。ただし、争点の中心にある出来事について記憶がないという説明が続くと、これまでの書面での主張との整合性を問われることになります。事前に、何を覚えていて何を覚えていないのかを整理しておくことが大切です。

まとめ


  1. 尋問は、主張と書面の証拠が出そろい、争点が絞られた後に行われる手続で、その前に和解が成立すれば行われないこともある。
  2. 申し出の段階で、尋問に要する見込みの時間と尋問事項を記載した書面が提出され、相手方にも送られる(民事訴訟規則106条、107条)。
  3. 順序は、申し出た当事者、相手方、裁判長の順で、質問できる範囲がそれぞれ定められている(民事訴訟法202条1項、同規則113条1項、114条1項)。
  4. 証人と当事者本人の双方を尋問するときは、原則として証人が先になる(民事訴訟法207条2項)。
  5. 質問は個別的かつ具体的にすべきものとされ、誘導質問や争点に関係のない質問などは原則として認められない(民事訴訟規則115条1項、2項)。
  6. 書類に基づいて陳述することは、裁判長の許可がある場合を除いてできない(民事訴訟法203条、210条)。
  7. 付添い、遮へいの措置、映像と音声の送受信による方法など、事情に応じた手当てが定められている(同法203条の2、203条の3、204条)。
  8. 述べた内容は調書に残り、判決を書く裁判官や上級審が読み返す材料になる(民事訴訟規則67条1項3号、68条)。


不貞慰謝料についてお困りの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。尋問は手続の最終盤に位置する場面ですが、そこで問われることは、それまでに提出してきた書面と証拠の中身によって決まります。準備は当日の受け答えの練習だけで足りるものではなく、どの事実が争点として残っているのかを見直すところから始まります。

 請求をお考えの方には、尋問まで進んだ場合に何を確かめられるのかを見据えた証拠の整え方を、請求を受けてお困りの方には、これまでの説明と食い違いが生じない形での主張の組み立て方を、それぞれの状況に応じてご説明します。期日が近づいてからでは選べる手段が限られることもありますので、お早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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