【不貞慰謝料】証拠が消える前にすること|保全の実務
本記事は、2026年10月時点の法令(ストーカー行為等の規制等に関する法律、東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例、刑法、民法、民事保全法)に基づいて作成しています。2025年12月30日施行の改正ストーカー規制法(職権による警告の創設など)と、2025年6月1日施行の改正刑法による「拘禁刑」への一本化を反映しています。
「別れた恋人が、いまの恋人の職場に電話をかけているらしい」「新しい恋人のSNSに、元恋人と思われるアカウントから中傷が書き込まれている」。嫌がらせを受けているのは新しい恋人でも、そのきっかけが自分の過去の交際にあると感じて、どう動けばよいのか分からなくなる方は少なくありません。
弁護士ドットコムなどの相談サイトにも、交際相手の元恋人から自宅に手紙が届いた、婚約者の元恋人が連絡をやめないといった相談が寄せられています。回答では、内容によっては刑事事件として扱うのが難しい場合がある一方で、弁護士が代理人として通知を送り、接触をやめるよう求める方法が示されています。
この記事では、元恋人と交際していた「あなた」の立場から、新しい恋人に向けられた嫌がらせにどう向き合うかを整理します。元恋人から新しい恋人へのLINEやSNSでの連絡を止める具体的な手順は【男女トラブル】元恋人が新しい交際相手に連絡してくる|止めるための段階と、二人での動き方で、嫌がらせを受けている新しい恋人ご本人の立場からの解説は【ストーカートラブル】交際相手の元恋人からつきまとわれている|ストーカー規制法と迷惑防止条例の分かれ目で扱っています。
新しい恋人に向けられる嫌がらせには、どのような形があるか
嫌がらせは、メッセージや電話だけにとどまらないことがあります。実際には、次のような形をとることがあり、形によって問題になる法律が異なります。
| 嫌がらせの形 | 主に問題になる法律 |
|---|---|
| 自宅や職場の近くでの待ち伏せ・押しかけ | ストーカー規制法、迷惑防止条例、住居侵入罪など |
| 職場への中傷の電話や、口コミサイトへの書き込み | 名誉毀損罪、偽計業務妨害罪、民法上の不法行為など |
| SNSでの中傷や私生活の暴露 | 名誉毀損罪、民法上の不法行為(プライバシー侵害など) |
| 持ち物への紛失防止タグやGPS機器の取付け | ストーカー規制法(位置情報無承諾取得等)、迷惑防止条例 |
| 持ち物を壊す、不快な物を置く・送る | 器物損壊罪、ストーカー規制法、迷惑防止条例 |
| 新しい恋人への危害の告知 | 脅迫罪、ストーカー規制法 |
同じ行為でも、どの法律で考えられるかは、元恋人が何を目的にしているかによって変わります。次の章で、その分かれ目を確認します。
元恋人の気持ちがどこに向いているかで、使える法律が変わる
あなたへの未練や恨みが動機になっている場合
ストーカー規制法は、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる「つきまとい等」を規制しています。対象となる相手には、特定の者本人だけでなく、「社会生活において密接な関係を有する者」も含まれます(ストーカー行為等の規制等に関する法律2条1項)。
警察の運用でも、恋人は密接関係者の例として挙げられています。元恋人があなたへの未練や、別れを受け入れられない恨みから新しい恋人に嫌がらせをしている場合、新しい恋人はこの法律の保護を受けられる可能性があります。
2025年12月30日施行の改正により、警察は被害者からの申出がなくても、職権で警告ができるようになりました(同法4条)。とはいえ、警察が事情を把握しなければ動けないことに変わりはないため、相談すること自体の意味は失われていません。
新しい恋人そのものへの妬みや恨みが動機になっている場合
元恋人の敵意が新しい恋人その人に向いていて、あなたへの感情とは結びつかないように見える場合もあります。このときは、ストーカー規制法の目的の要件が問題になります。
東京都の迷惑防止条例は、妬み、恨みその他の悪意の感情を充足する目的で、正当な理由なく、つきまといや押しかけ、名誉を害する事項の告知などを反復することを禁止しています(同条例5条の2)。警視庁も、好意の感情に基づくストーカー規制法と、悪意の感情に基づく条例の規制を区別して説明しています。条例の内容は都道府県ごとに異なるため、行為が行われた場所の条例を確認することになります。
刑法や民法で考える場面
SNSなど不特定多数が見られる場所に中傷を投稿した場合は、名誉毀損罪が問題になり得ます(刑法230条1項)。職場に虚偽の内容を伝えて業務を混乱させれば偽計業務妨害罪(同法233条)、持ち物を壊せば器物損壊罪(同法261条)が問題になることがあります。新しい恋人に直接「何かする」と告げた場合は、新しい恋人に対する脅迫罪(同法222条)の問題です。一方、元恋人があなたに対して「新しい恋人に何かする」と告げた場合の考え方は、家族・恋人への危害をほのめかされた|脅迫罪の保護範囲で解説しています。
刑事事件として扱われるかどうかとは別に、民事では、精神的な苦痛に対する損害賠償(民法709条、710条)や、接近や連絡の禁止を求める仮処分(民事保全法23条2項)を検討する余地があります。
あなたが問われること、問われないこと
元恋人の行為の責任をあなたが負うわけではない
新しい恋人が嫌がらせを受けていると、「自分のせいだ」と感じる方は多いものです。ただ、元恋人の行為について、あなた自身が法的な責任を負う場面は、通常は考えにくいところです。気持ちのうえで申し訳なく思うことと、法的に責任を負うことは分けて考えてかまいません。
かえって事態をこじらせかねない対応
一方で、新しい恋人を守ろうとする気持ちから、次のような対応をとってしまうことがあります。
- 元恋人に直接会いに行き、抗議や説得をする。
- 元恋人の言動をSNSで公表したり、共通の知人に広めたりする。
- 元恋人の家族や勤務先に連絡し、やめさせるよう求める。
- 新しい恋人の勤務先や住まいを、共通の知人に気軽に話す。
直接の抗議は、元恋人に連絡を続ける口実を与え、関係を長引かせることがあります。公表や家族・勤務先への連絡は、内容によってはあなたが名誉毀損などの責任を問われるおそれがあります。
また、ストーカー規制法は、ストーカー行為等をするおそれがある者だと知りながら、その者に相手方の氏名や住所などの情報を提供することを禁止しています(同法6条)。2026年3月10日からは、警察が情報を提供するおそれのある人に対し、提供しないよう求められるようになりました。共通の知人を通じて新しい恋人の情報が元恋人に伝わらないよう、周囲に事情を伝えて協力を求めておくことも大切です。相手を刺激せずに関係を断つ考え方は、ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方もご参照ください。
あなたにしかできない役割
元恋人との経緯を説明する
ストーカー規制法が使えるかどうかは、元恋人の目的によって左右されます。その目的をうかがわせる事情、たとえば交際の期間、別れたときの状況、別れた後に元恋人からあなたに届いた復縁を求める連絡などを知っているのは、あなたです。元恋人からあなた宛てに届いたメッセージも、削除せずに保存しておいてください。記録の残し方は男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするで解説しています。
相手を特定するための情報を伝える
元恋人の氏名や住所、勤務先、交際中に使っていたアカウント名などは、警察への相談や弁護士からの通知に必要になることがあります。ただし、これらの情報は警察や弁護士に伝えるためのものであり、あなたが自分で元恋人の現状を調べて回ることは控えたほうが安全です。調べる行為が元恋人を刺激したり、新たな接点を生んだりするおそれがあるためです。
元恋人との間に残っている用件を片付ける
荷物の返還、お金の貸し借り、合鍵、交際中の写真など、元恋人との間に未解決の用件が残っていると、それが接触の口実になることがあります。窓口を弁護士に一本化して清算を済ませることで、新しい恋人に連絡する理由を減らせる場合があります。合鍵の扱いについては【男女トラブル】別れた相手が合鍵を持っている|返してもらう交渉と、鍵を替える判断をご覧ください。
嫌がらせの主が元恋人だと言い切れないとき
匿名のアカウントからの書き込みや、非通知の電話のように、元恋人がしていると確信できない場面もあります。状況から元恋人だろうと感じても、確かめないまま元恋人を問い詰めたり、名指しで周囲に伝えたりすることは避けてください。人違いであれば、こちらが責任を問われる立場になりかねません。
インターネット上の投稿であれば、発信者情報開示の手続(情報流通プラットフォーム対処法)によって投稿者をたどれる場合があります。たどれない場合の守り方も含めて、【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で解説しています。新しい恋人の勤務先の口コミサイトに書き込みが続く場合は、【ストーカートラブル】職場の口コミサイトに書き込みが続く|元恋人が疑われるときの記録・削除・勤務先との連携も参考になります。
新しい恋人と二人で進めるときの順序
警察への相談や法的な手続の多くは、嫌がらせを受けている新しい恋人ご本人が当事者になります。あなたが代わりにすべてを進めるのではなく、新しい恋人の意向を確かめながら、次の順序で進めるのが一般的です。
- 身の危険を感じる場面では、110番や最寄りの警察署への相談を最優先にします。
- 新しい恋人の手元とあなたの手元で、それぞれ嫌がらせや連絡の記録を残します。
- 警察への相談や弁護士への依頼を、誰の名前で、どこまで進めるかを二人で決めます。
- 弁護士から元恋人に通知を送り、新しい恋人とあなたへの接触をやめるよう求めます。
- それでも続く場合は、警察の警告・禁止命令や、裁判所の仮処分を検討します。
警察と弁護士のどちらに先に相談するかは、危険の程度によって変わります。判断の目安は【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序で整理しています。弁護士が窓口になることで嫌がらせが止まった例として、【解決事例】元交際相手からの恐喝・なりすまし被害|受任通知で嫌がらせを止めた解決事例もご覧ください。
よくあるご質問
新しい恋人から「元恋人を何とかしてほしい」と言われました。私が元恋人と話せば収まりますか。
あなたが直接話すことで収まる場合もありますが、話し合いをきっかけに元恋人との連絡が再開し、かえって長引くこともあります。元恋人の態度が読めない場合は、弁護士を通じて意思を伝える方法を選ぶほうが、新しい恋人にとっても安心につながりやすいといえます。
新しい恋人が、警察に相談することをためらっています。
警察に行くかどうかは、新しい恋人ご本人の気持ちを尊重して決めることが大切です。まずは弁護士への相談や通知から始めることもできます。ただ、危害をほのめかされている、待ち伏せされているといった場面では、ためらわずに警察へ相談するよう伝えてください。
嫌がらせが始まったのは、新しい恋人との写真をSNSに載せてからです。
SNSへの投稿から新しい恋人の存在や勤務先、生活圏が伝わることがあります。投稿の公開範囲を見直し、新しい恋人の顔や居場所が分かる投稿を控えることで、情報が伝わる経路を減らせます。投稿したこと自体があなたの法的な落ち度になるわけではありませんが、今後の備えとして見直しておくと安心です。
まとめ
- 元恋人があなたへの未練や恨みから新しい恋人に嫌がらせをしている場合、新しい恋人は「密接関係者」としてストーカー規制法の保護を受けられる可能性があります。
- 新しい恋人そのものへの妬みや恨みによる嫌がらせは、東京都の迷惑防止条例5条の2や、刑法・民法で考えることになります。
- 元恋人の行為についてあなたが法的な責任を負う場面は通常は考えにくい一方、直接の抗議や公表はかえって事態をこじらせることがあります。
- あなたは、元恋人との経緯の説明、相手を特定する情報の提供、未解決の用件の清算という、あなたにしかできない役割を担えます。
- 手続の多くは新しい恋人ご本人が当事者になるため、その意向を確かめながら、記録、弁護士からの通知、警察や裁判所の手続という順序で進めます。
新しい恋人が嫌がらせを受けているとき、あなたが一人で抱え込んだり、元恋人と直接やり合ったりする必要はありません。お二人の事情を整理し、誰がどの手続を担うのかを決めるところから、弁護士が関わることができます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


