【男女トラブル】一方的に別れを告げられたら、慰謝料は請求できる?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

長く付き合ってきた相手から、話し合いの余地もないまま別れを告げられると、「せめて慰謝料を払ってほしい」と感じるのは自然なことです。一緒に過ごした時間や、結婚を前提に考えていた将来の計画が失われたという思いは、簡単に整理できるものではありません。

 もっとも、法律の上では、交際を終わらせたこと自体を理由に慰謝料を求めることは、原則として難しいと考えられています。一方で、二人の関係の実態や別れに至る経緯によっては、請求が認められる余地のある場面もあります。この記事では、その分かれ目と、請求を考えるときに整理しておきたい点を解説します。

この記事は、婚姻届を出していない男女の交際関係を前提にしています。結婚している夫婦が離婚する場面の慰謝料は扱っていません。


別れを告げられただけでは、慰謝料の請求は難しいのが原則

 慰謝料は、相手の違法な行為によって受けた精神的な苦痛を、金銭で償ってもらうものです。根拠になるのは民法709条・710条の不法行為で、相手の行為が他人の権利や法律上保護される利益を侵害したと言えることが前提になります。

 交際は、お互いの自由な意思で始め、続けていく関係です。結婚していない二人の間には、交際を続けなければならないという法律上の義務はなく、どちらか一方が気持ちの変化を理由に関係を終えることも、基本的には自由とされています。そのため、別れを告げたこと自体は違法な行為には当たらず、告げられた側がどれほどつらい思いをしたとしても、それだけで慰謝料の請求が認められることは通常ありません。

 交際期間が長かったことや、年齢的に結婚を意識していたことも、それだけでは結論を変えないと考えられています。弁護士ドットコムなどの法律相談でも、長年の交際の末に別れを告げられたという相談に対し、婚約や内縁に当たる事情がなければ請求は難しいという趣旨の回答が多く見られます。交際期間と金銭の関係については【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかでも解説しています。

慰謝料の請求が考えられる主な場面

 別れそのものではなく、二人の関係の実態や、交際中・別れ際の相手の行為に問題がある場合には、慰謝料を請求できる余地が出てきます。代表的な場面を表にまとめます。

場面請求の根拠になりうるもの確かめたいこと
婚約が成立していた正当な理由のない婚約の破棄結婚の約束がどこまで具体的だったか
内縁(事実婚)の実態があった内縁関係の不当な解消夫婦同然の共同生活があったか
既婚であることを隠されていた貞操権(性的な関係を結ぶかどうかを自分で決める利益)の侵害独身だと信じた経緯と、信じたことに無理がないか
妊娠・中絶をめぐる対応に問題があった話し合いを拒むなどの不誠実な対応妊娠が分かった後のやり取りの経緯
別れ際に暴力や脅し、中傷があった別れとは別の不法行為けがや言動の記録が残っているか


 以下、それぞれの場面を順に見ていきます。

婚約が成立していた場合

 婚約は、将来結婚しようという当事者間の約束で、法律上は契約の一種と考えられています。正当な理由なく一方的に婚約を破棄した場合には、破棄した側が損害賠償の責任を負うことがあり、その中に慰謝料が含まれます。

 問題になりやすいのは、婚約が本当に成立していたかどうかです。婚約は口約束でも成立しうるとされていますが、後から争いになったときには、それを裏づける客観的な事情が求められます。たとえば、婚約指輪の授受、結納、両家の顔合わせ、結婚式場の予約や下見、職場や友人への婚約者としての紹介といった事情です。反対に、「いつか結婚しようね」といった会話や、親に一度会わせただけといった事情だけでは、婚約の成立は認められにくい傾向があります。

 婚約が成立していた場合でも、破棄に正当な理由があれば慰謝料の請求は認められません。どのような事情が正当な理由と評価されるかは、婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースで詳しく解説しています。

内縁(事実婚)と言える実態があった場合

 婚姻届を出していなくても、互いに夫婦として暮らす意思を持ち、社会的にも夫婦と同様の共同生活を送っていた場合には、内縁(事実婚)と評価されることがあります。内縁関係は法律上の夫婦に準じた保護を受けるとされており、正当な理由なく一方的に解消した場合には、慰謝料の支払いが認められることがあります。

 ただし、同棲していたというだけでは内縁とは言えないと考えられています。住民票の記載、家計を一つにしていたか、親族や周囲に夫婦として紹介していたか、共同生活の期間など、生活の実態を総合して判断されます。内縁と交際の違いについては【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかをご覧ください。

既婚であることを隠されていた場合

 相手が既婚者であるのに独身だと偽って交際し、性的な関係を持っていた場合には、貞操権の侵害として慰謝料を請求できることがあります。この場面で問題になるのは別れたことではなく、嘘によって、交際や関係を結ぶかどうかの判断を誤らされた点です。

 もっとも、裁判例の結論は一様ではなく、交際の経緯や当事者の年齢・社会経験などから、既婚であることに気づく余地があったと評価され、請求が退けられた例もあります。詳しくは既婚を隠されて妊娠|貞操権侵害の慰謝料はいくら請求できるで解説しています。

妊娠・中絶をめぐる対応に問題があった場合

 交際中に妊娠したこと自体は、通常は双方の責任と考えられ、それだけで慰謝料の対象になるわけではありません。一方で、妊娠が分かった後に話し合いの機会を設けずに連絡を絶った、本人の意思を無視して中絶を強く迫ったといった経緯がある場合には、その対応について不法行為の成立を認めた裁判例があります。

 また、慰謝料とは別に、中絶や出産にかかった費用の負担を求められる場面もあります。妊娠中に別れを告げられた場合の考え方は、【男女トラブル】妊娠中に別れを告げられた|出産前に決めておくことでも取り上げています。

別れ際に暴力や脅し、中傷があった場合

 別れ話の最中に暴力をふるわれた、脅すような言葉を向けられた、共通の知人やSNSで事実と異なる悪評を広められたといった場合には、別れとは切り離して、その行為自体を理由に慰謝料などを求められることがあります。けがの診断書、メッセージの記録、書き込みの画面保存など、行為を裏づける記録を残しておくことが大切です。

慰謝料とは別に、清算を求められるお金

 慰謝料の請求が難しい場合でも、交際中のお金のやり取りについては、別の根拠で返還や清算を求められることがあります。

  • 交際中に相手に貸したお金。
  • 相手の代わりに立て替えた支払い。
  • 二人で使うために購入し、相手の手元に残っている物の代金。
  • 婚約が成立していた場合の、式場のキャンセル料や新生活の準備費用。


 ただし、交際中に好意から贈ったプレゼントや、返済の約束なく渡したお金は、贈与と評価されて返還を求めにくいことがあります。貸したのか、あげたのかで争いになりやすいため、振込の記録やメッセージのやり取りを確かめておくことが重要です。また、交際に費やした時間そのものを金銭に換算して請求することは、法的には難しいと考えられています。この点は【男女トラブル】別れを告げたら「今までの時間を返せ」と言われた|時間の対価は請求できるのかでも触れています。

請求を考えるときに整理しておきたいこと

 慰謝料を求められる場面に当たるかどうかは、事実関係によって大きく変わります。相手に連絡を取る前に、次の点を整理しておくと見通しを立てやすくなります。

  • 交際の期間と、同居の有無やその期間。
  • 結婚について、いつ、どのような話をしていたか。
  • 指輪や結納、両家の顔合わせ、式場の予約など、結婚に向けた具体的な準備の有無。
  • 相手の婚姻状況について、どのような説明を受けていたか。
  • 交際中のお金の貸し借りや立て替えの記録。
  • 別れを告げられたときのメッセージや、その後のやり取り。


 気持ちが収まらないまま相手に詰め寄ったり、相手の勤務先や家族に連絡を入れたりすることは、控えた方がよいでしょう。根拠の乏しい高額な金銭を繰り返し求めると、かえって相手から責任を問われるおそれがあり、本来求められるはずの清算の話し合いまで進めにくくなることがあります。

よくあるご質問


相手の浮気が原因で別れることになった場合は、請求できますか

 婚約や内縁に当たる関係がない交際の段階では、恋人がほかの人と関係を持ったことを理由に慰謝料を請求することは、一般に難しいとされています。婚約や内縁が成立していた場合には、相手やその浮気相手への請求が認められることもあります。詳しくは【男女トラブル】二股をかけられていた|交際関係だけで請求できる場面と婚約中・内縁関係でも不貞慰謝料を請求できるかをご覧ください。

別れ際に相手が「お金を払う」と言ったのに、払ってくれません

 慰謝料の支払い義務がない場面でも、当事者同士で支払いを約束した場合には、その合意に基づいて支払いを求められることがあります。ただし、口約束だけでは内容や金額を後から争われやすいため、早めに書面で確認しておくことが望まれます。【男女トラブル】口約束で別れの条件を決めてしまった|後から書面にする方法も参考にしてください。

自分で相手と話し合うのがつらいときは、どうすればよいですか

 弁護士に依頼すれば、相手とのやり取りは弁護士が窓口となって行うため、直接顔を合わせたり連絡を取り合ったりする必要がなくなります。請求の見通しを立てたうえで、話し合いの結果を合意書の形で残すこともできます。流れについては【男女トラブル】別れ話を弁護士に任せるときの流れ|本人と会わずに関係を終えるで紹介しています。

まとめ

 一方的に別れを告げられたこと自体を理由に慰謝料を請求することは、原則として難しいと考えられています。ただし、婚約や内縁が成立していた場合、既婚であることを隠されていた場合、妊娠をめぐる対応や別れ際の言動に問題があった場合などは、請求できる余地があります。また、慰謝料とは別に、貸したお金や立て替えた費用の清算を求められることもあります。

 どの場面に当たるかは、交際の実態や残っている記録によって判断が分かれます。気持ちの整理がつかない段階でも、事実関係を落ち着いて確かめるところから始めることが、次の一歩につながります。当事務所の男女トラブルへの対応については、【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応をご覧ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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