【男女トラブル】元恋人と分割返済の約束を書面にするには?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

交際していた相手にお金を貸したまま別れ、話し合いの末に「毎月少しずつ返す」という約束にたどり着くことがあります。ところが、この約束を口頭やLINEのやり取りだけで済ませていると、数か月後に支払いが止まったときに「そんな約束はしていない」「あれはもらったお金だ」と言われ、話が振り出しに戻ってしまうおそれがあります。この記事では、元恋人との分割返済の約束を書面にするときに入れておきたい項目、書面の種類による違い、交際関係が終わった相手と書面を交わすときの進め方を、貸した側と借りた側の双方の視点から整理します。

本記事は2026年10月時点の民法・民事執行法などの規定をもとにしています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。


口約束のままにしておくと起きやすいこと

 お金の貸し借りは、お金を渡した時点で口頭の約束でも成立しますので、書面がないからといって返済の義務がなくなるわけではありません。ただ、交際中のお金のやり取りは、後から振り返ると「貸した」のか「あげた」のかがはっきりしないことが少なくありません。別れた後に関係が悪化すると、受け取った側が贈与だったと言い始めることがあり、そうなると貸した事実を示す負担は貸した側にかかります。

 分割返済の約束も同じです。月々の金額や期日が曖昧なままだと、「余裕があるときに返すと言っただけ」と受け取られたり、支払いが遅れたときに残りを一括で求められるかどうかで争いになったりします。書面は、こうした食い違いを後から生まないための記録として意味を持ちます。贈与と貸付の区別については別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違い、借用書がない場合の考え方については恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?、口頭で決めた条件を後から書面に残す方法については【男女トラブル】口約束で別れの条件を決めてしまった|後から書面にする方法でも解説しています。

書面の形は大きく3つに分かれる

 分割返済の約束を書面にする方法は、当事者同士で作る合意書、公証役場で作る公正証書、簡易裁判所で行う訴え提起前の和解(即決和解)の3つに分けて考えると整理しやすくなります。

書面の形作り方支払いが止まったとき手間・費用
合意書(債務承認弁済契約書など)当事者同士で作成し、署名・押印するすぐには差押えができず、訴訟などで判決を得る必要がある作成費用はほとんどかからない
公正証書(執行認諾文言付き)相手と一緒に公証役場で手続をし、公証人に作成してもらう裁判を経ずに強制執行を申し立てられる公証人の手数料がかかり、相手の協力が欠かせない
訴え提起前の和解(即決和解)簡易裁判所に申し立て、期日に双方が出頭して和解する和解調書に基づいて強制執行を申し立てられる申立ての手数料がかかり、裁判所へ出向く必要がある


 どの形が適しているかは、金額の大きさ、相手が支払いを続ける見込み、相手と協力して手続を進められるかどうかによって変わります。金額が比較的小さく、相手も返す意思をはっきり示しているなら、合意書から始める選択もあります。反対に、金額が大きい場合や、これまでにも約束が守られなかった経緯がある場合は、公正証書を検討する意味が大きくなります。

分割返済の合意書に入れておきたい項目


誰が誰にいくら返すのかを確かめる条項

 まず、当事者の氏名と住所を正確に書き、「乙は甲に対し、甲から借り受けた金○○円の返還債務を負っていることを認める」というように、借りたお金であることと、現在残っている金額をはっきりさせます。何回かに分けて貸していた場合は、貸した日と金額を一覧にしておくと、後から「この分は借りていない」と争われにくくなります。すでに一部が返されているなら、その金額を差し引いた残額を確認しておきます。

毎月の金額・期日・支払方法

 「毎月末日限り金3万円ずつ、甲の指定する口座に振り込んで支払う」というように、金額・期日・回数・支払方法を具体的に書きます。最終回の金額が端数になる場合はその金額も書き、振込手数料をどちらが負担するかも決めておくと、細かな食い違いを防げます。現金の手渡しにすると会う機会が生まれるため、元恋人との間では振込にしておくほうが、記録の面でも気持ちの面でも負担が少ないことが多いでしょう。

支払いが遅れたときの取り決め

 分割返済の約束をすると、借りた側には、期日が来るまでは残りを支払わなくてよいという「期限の利益」が生まれます。そのため、遅れたときに残りを一括で求められるようにするには、「期限の利益喪失条項」を入れておく必要があります。「分割金の支払いを2回以上怠り、その額が○円に達したときは、当然に期限の利益を失い、残額を直ちに支払う」といった定め方がよく用いられます。1回の遅れで一括とするか、一定の回数や金額に達したときとするかは、相手の収入の事情なども踏まえて決めることになります。

 あわせて、遅延損害金の利率を定めることもできます。ただし、利息制限法の上限を超える部分は無効になるため、高い利率を定めても意味がありません。定めを置かない場合は、法定利率によって計算することになります。

連絡方法と接触の範囲

 元恋人との間で書面を作るときに見落とされやすいのが、返済以外の連絡をどうするかという点です。返済期間が長くなるほど、支払いの遅れや口座の変更などで連絡を取る場面が出てきます。「本件に関する連絡はメールのみで行う」「返済に関する用件以外で連絡を取らない」「互いの自宅や勤務先を訪問しない」といった取り決めを入れておくと、返済をきっかけに関係がこじれることを防ぎやすくなります。

清算条項を入れるかどうか

 清算条項とは、「この書面に定めるもののほか、互いに何らの債権債務もないことを確認する」という条項です。話を終わらせる効果がある一方で、貸したお金以外に、立て替えた費用や預けたままの荷物、渡した物の返還など、まだ話がついていないことがあると、それらも求められなくなるおそれがあります。清算条項を入れる前に、ほかに残っている問題がないかを一つずつ確かめておくことが大切です。合意で終わっている範囲の考え方は【男女トラブル】一度は合意したのに相手が追加の要求をしてきた|前回の合意で終わっている範囲の見分け方で取り上げています。

日付・署名・通数

 作成日を書き、双方が自筆で署名して押印し、同じものを2通作って1通ずつ保管するのが基本です。書面を整えるときの実務は示談書の日付・署名・押印・部数|書面を整えるときの実務、分割払いの書面に入れる条項については分割払いの示談書|期限の利益喪失条項と公正証書でも詳しく解説しています。なお、金銭の貸し借りに関する書面には印紙税がかかる場合がありますが、印紙を貼っていなくても書面の効力そのものがなくなるわけではありません。

元恋人と書面を交わすときの進め方

 別れた相手と向き合って書面を作るのは、気持ちの面でも負担が大きいものです。直接会うことに不安がある場合は、書面の案をメールなどで送って内容を確認してもらい、署名・押印した書面を郵送でやり取りする方法もあります。いきなり書面を送るより、まずLINEなどで「残額は○円」「毎月○円ずつ」と内容を確かめ合っておくと、相手も受け入れやすく、そのやり取り自体も記録になります。

 気をつけたいのは、相手に無理に署名させないことです。大声で迫ったり、「書かないなら職場や家族に話す」と告げたりして書かせた書面は、強迫による意思表示として取り消されるおそれがあり、求め方によっては貸した側が刑事責任を問われることもあります。個人間の取立てで注意したい点は恐喝と借金の取り立ての境界|個人間の債権回収がアウトになる線で解説しています。

 相手の親などに保証人になってもらう場合、保証契約は書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項)。保証人になる人自身が内容を理解したうえで署名する必要があり、借りた本人が親の名前を書いてくるような形では、後で保証の効力が争われるおそれがあります。交際相手の借金と保証の関係については交際相手の借金を肩代わり・連帯保証したとき|返済義務の有無と、払ったお金の取り戻し方も参考になります。

書面にしたことの効果と限界

 借りた側が残額を認める書面に署名すると、債務の承認にあたり、時効はその時点から新たに進み始めます(民法152条1項)。貸してから時間が経っている場合には、この点だけでも書面を作る意味があります。時効の期間については男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかをご覧ください。

 一方で、当事者同士で作った合意書だけでは、支払いが止まっても、すぐに相手の給与や預金を差し押さえることはできません。差押えをするには、訴訟を起こして判決を得るなどの手続が必要で、合意書はその裁判で約束の内容を示す有力な証拠になるという位置づけです。これに対し、相手が強制執行に服することを認める文言(執行認諾文言)を入れた公正証書であれば、裁判を経ずに強制執行を申し立てることができます(民事執行法22条5号)。ただし、公正証書は相手が手続に協力しなければ作れないため、合意書の段階で「支払いが滞った場合は公正証書の作成に応じる」と定めておく方法もあります。

借りた側として書面を作るとき

 借りた側にとっても、書面には意味があります。分割の条件が書面で決まっていれば、約束どおりに払っている限り一括で求められることはなく、返した分は振込記録で示せます。一方で、相手から示された書面に、実際に借りた額より多い金額や、払い続けるのが難しい月額が書かれていることもあります。署名する前に、金額の根拠と遅れたときの取り決めを確かめ、無理のない条件への修正を求めることが大切です。請求された金額を見直して和解に至った例として、【解決事例】元交際相手からの貸金返還請求353万円を和解金100万円まで減額した事例もご覧ください。

弁護士に依頼する場合にできること

 弁護士に依頼すると、貸し借りの経緯や手元の記録を確かめたうえで、どの形の書面が適しているかを検討し、合意書や公正証書の案を作成できます。相手との連絡や条件の調整も代理人として行うため、元恋人と直接やり取りを続ける負担を減らすことができます。相手が話し合いに応じない場合には、書面での請求や訴訟など、次の手段に進むかどうかもあわせて検討します。

 分割返済の約束は、書面にしておくことで、返す側にとっても受け取る側にとっても、何をいつまでにすればよいかがはっきりします。金額や相手との関係によって適した書面の形は変わりますので、迷ったときは、書面を交わす前の段階でご相談ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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