離婚する場合としない場合で慰謝料はどう変わるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

配偶者の不貞が分かったとき、「離婚するかどうか」と「慰謝料をどうするか」は、多くの方が同時に抱える悩みです。インターネット上には「離婚する場合は◯◯万円、離婚しない場合は◯◯万円」という相場表が並んでいますが、なぜ差が出るのか、そして差が出るのは金額だけなのか、というところまで書かれたものはあまり多くありません。

 実際には、離婚するかどうかによって変わるのは金額の目安だけではありません。請求できる中身、請求できる相手、時効の数え方、他のお金との関係まで違ってきます。ここを取り違えたまま交渉に入ると、請求する側は本来求められるものを落としてしまい、請求を受けた側は本来負う必要のない部分まで抱え込んでしまうことがあります。

 この記事では、慰謝料を請求する側と請求を受けた側の双方に向けて、離婚する場合としない場合で何がどう変わるのかを整理します。

「離婚するかどうか」は慰謝料請求の条件ではない

 不貞行為を理由とする慰謝料は、民法709条・710条の不法行為に基づく損害賠償として請求するものです。条文に「離婚したこと」という要件はありません。夫婦が平穏な共同生活を送るという法的保護に値する利益が侵害されたこと自体が根拠ですから、離婚しないまま請求することも、離婚を前提に請求することも、どちらも可能です。

 もっとも、離婚するかどうかがまったく無関係というわけでもありません。次の5つの点が変わってきます。

変わる点離婚しない場合離婚する場合
金額の目安低めに評価されやすい高めに評価されやすい
請求できる中身不貞行為に対する慰謝料不貞行為に対する慰謝料と、離婚したこと自体の慰謝料
請求できる相手配偶者にも不貞相手にも請求できる離婚したこと自体の分は原則として配偶者のみ
時効の数え方不貞と相手を知った時から3年離婚したこと自体の分は離婚の成立時から3年
他のお金との関係慰謝料だけを切り出して決めやすい財産分与などと一体で決まりやすい


 以下、順に見ていきます。

金額の目安は「夫婦関係がどこまで損なわれたか」で変わる


3つの段階と目安の幅

 裁判例の傾向をもとにした一般的な目安は、おおむね次のように整理されています。あくまで幅のある目安であり、個別の事情によって上下します。

不貞の後の夫婦の状況慰謝料額の目安
同居を続けている50万円から150万円程度
別居した・離婚調停に至った100万円から200万円程度
離婚した100万円から300万円程度


 この3段階は、はっきり区切られたものではなく、金額の帯も重なっています。インターネット上の相場表が事務所ごとに違う数字になっているのは、そもそも法律に算定基準がなく、各事務所が扱った事案の傾向を述べているからです。相場は交渉の出発点であって、結論を決めるものではありません

「離婚したから高い」のではない

 金額の差を「離婚したかどうか」で説明すると、実務の感覚とはややずれます。裁判所が見ているのは、不貞によって夫婦関係がどこまで損なわれたかという結果の重さです。離婚は、その重さがもっとも分かりやすく表れた形にすぎません。

 このように考えると、次のことが理解しやすくなります。

  • 同居を続けていても、不貞の期間が長い、発覚後も関係が続いた、相手が妊娠したといった事情があれば、目安の上のほうに寄ることがあります。
  • 離婚に至っていても、不貞が始まる前から夫婦関係が冷え切っていた場合には、思ったほど高い評価にならないことがあります。
  • 不貞と離婚との結びつきが弱い場合、離婚したという事実だけでは増額の理由になりにくいことがあります。


 なお、不貞が始まった時点ですでに婚姻関係が破綻していたと認められる場合には、そもそも慰謝料請求が認められないことがあります。この点は別の記事で詳しく扱っています。

離婚する場合に加わるのは「離婚したこと自体の慰謝料」


2つの慰謝料は別のもの

 離婚に際して問題になる慰謝料には、性質の異なる2つのものが含まれています。

  1. 不貞行為そのものによって受けた精神的苦痛に対する慰謝料
  2. 離婚をやむなくされたことによって受けた精神的苦痛に対する慰謝料


 実務では、この2つを厳密に区別せず「離婚慰謝料」としてまとめて取り決めることが多く、区別を意識する場面は限られます。しかし、請求する相手が2人いる不貞のケースでは、この区別が結論を左右することがあります

不貞相手に「離婚した分」を上乗せできるとは限らない

 最高裁は、不貞相手が「離婚させたこと」を理由に責任を負うのは、離婚させることを意図して婚姻関係に不当な干渉をするなど、離婚のやむなきに至らしめたと評価すべき特段の事情がある場合に限られる、と判断しています(最判平成31年2月19日)。

 つまり、離婚に至ったからといって、その分を当然に不貞相手へ上乗せして請求できるわけではありません。離婚したこと自体の慰謝料は、原則として配偶者に対して請求するものだからです。

 この点は、請求する側と請求を受けた側の双方にとって意味を持ちます。請求する側は「離婚したのだから相場の上限を不貞相手に請求できる」と考えがちですが、そのままの理屈は通りにくいことがあります。請求を受けた側は、請求書に離婚に伴う損害がまとめて計上されていないかを確認する余地があります。

離婚する場合は「他のお金」と一体で決まる

 離婚の場面では、慰謝料のほかに財産分与(民法768条1項)、別居中の婚姻費用、子がいる場合の養育費といったお金の問題が同時に生じます。これらは慰謝料とは性質の異なるものですが、実際の協議ではまとめて「解決金」として金額を決めることが少なくありません

 この扱いには、次の2つの意味があります。

 1つは、慰謝料単独の金額が表に出にくくなるということです。離婚事案の解決額を見ても、そのうちいくらが慰謝料なのかは書面から読み取れないことがあります。相場表の数字が事務所ごとにばらつく背景には、この事情もあります。

 もう1つは、財産分与と慰謝料の関係です。最高裁は、財産分与がされたからといって別途の慰謝料請求が当然に妨げられるものではないとしつつ、財産分与に損害賠償の要素も含めて給付がされ、それによって精神的苦痛がすべて慰謝されたと認められるときは、重ねて慰謝料を請求することはできないとしています(最判昭和46年7月23日)。離婚時の取り決めで「財産分与として」まとめて支払われた場合、後から慰謝料を請求しようとしても争いになりうる、ということです。

 なお、家庭裁判所に財産分与を求められる期間は、2026年4月1日施行の改正民法により、離婚の時から2年から5年に延びました(民法768条2項ただし書)。ただし、施行日より前に離婚が成立している場合は従前どおり2年とされています。

時効の数え方も変わる

 消滅時効の起算点は、請求の中身によって別々に進みます。

請求の中身時効の考え方
不貞行為に対する慰謝料損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年(民法724条)
離婚したこと自体の慰謝料離婚の成立時から3年


 離婚したこと自体の慰謝料について、最高裁は、その損害は離婚が成立してはじめて評価されるものであるとして、離婚の成立時を起算点としています(最判昭和46年7月23日)。

 ここから、実務上とくに注意したい点が導かれます。離婚するかどうかを迷っている間も、不貞行為に対する慰謝料の3年は進んでいるということです。夫婦の話し合いに時間がかかること自体は自然ですが、時効の期間はそれとは別に流れます。判断を保留する場合でも、期間の管理だけは意識しておく必要があります。

離婚しない場合に特有の3つの注意点


配偶者から受け取っても家計の中で動くだけになりやすい

 同居を続ける場合、家計が共通であることが多いため、配偶者から慰謝料を受け取っても実質的な意味が薄れることがあります。そのため、離婚しない場合には不貞相手にのみ請求する形を選ぶ方が多くなります。

 どうしても配偶者にも請求する場合には、慰謝料として支払われたものであることを書面に残しておく意味があります。将来離婚することになったときに、受け取った金銭の性質が争点になることを避けるためです。

求償の跳ね返りを織り込む

 不貞は配偶者と不貞相手による共同不法行為として扱われるため、不貞相手が全額を支払った場合、その相手は配偶者に対して自分の負担部分を請求できる立場に立ちます。離婚しない場合、その支払は結局同じ家計から出ていくことになります。求償の要件や、示談書で求償権を放棄してもらう交渉については、別の記事で詳しく扱っています。

離婚するか決めていない段階で示談してよいか

 実際には、離婚するかどうかが決まらないうちに不貞相手との示談だけが先に進む場面が少なくありません。この場合、示談書の清算条項がどこまでを清算するものなのかを意識しておく必要があります

 請求する側から見れば、対象を「本件不貞行為に関する一切の債権債務」といった形にとどめるか、当事者間の一切の債権債務まで含めるかで、後日の扱いが変わりえます。もっとも、前述のとおり離婚したこと自体の慰謝料は原則として配偶者に請求するものですから、後に離婚したからといって、その分を不貞相手へ追加で請求することは通常は難しいという前提も併せて理解しておく必要があります。

 請求を受けた側から見れば、清算の範囲が狭いと、後から別の名目で蒸し返される懸念が残ります。どちらの立場でも、離婚が未定であることを前提に、清算の対象範囲を意識的に決めておくことに意味があります。

請求を受けた側から見た「離婚するかしないか」


「離婚することになった」と言われた場合

 高額な請求の理由として「あなたのせいで離婚した」と言われることがあります。このとき確認したいのは、次の点です。

  • 不貞と離婚との間に結びつきがあるか(不貞の前から別居や離婚協議が進んでいなかったか)。
  • 請求書の金額に、離婚に伴う損害がまとめて計上されていないか。
  • 不貞の当時、婚姻関係がどのような状態だったかを示す事情が自分の側に残っていないか。


「離婚はしない」と言われた場合

 離婚しない場合の目安が相対的に低いことは事実ですが、低い金額で当然に決まるという意味ではありません。不貞の期間や態様によっては、目安の上のほうで判断されることもあります。

 また、示談の条件として求償権の放棄を求められることがあります。放棄に応じるかどうかは、提示された金額との釣り合いで考える問題であり、金額だけを見て判断すると割高になることがあります。

 なお、相手方の夫婦が実際に離婚するのかどうかを自分で確かめようとして接触を図ることは、避けたほうがよい対応です。交渉が感情的になり、別のトラブルを生むことがあります。

立場ごとに確認しておきたいこと


請求する側


  • 離婚するかどうかが決まっていなくても、時効は進んでいることを前提に予定を立てる。
  • 不貞行為に対する分と、離婚したこと自体の分を頭の中で分けて整理する。
  • 不貞相手と配偶者のどちらに、いくらを求めるのかを先に決める。
  • 離婚時に財産分与とまとめて決める場合は、慰謝料を含むかどうかを書面上明確にしておく。


請求を受けた側


  • 請求されている金額の内訳(不貞行為に対する分か、離婚に伴う分か)を確認する。
  • 不貞の当時の夫婦の状況について、自分が把握していた事情を時系列で書き出しておく。
  • やり取りの記録を自分から消さない。
  • 支払の可否と金額をその場で答えず、示談書の文言まで含めて検討する。


まとめ


  1. 離婚するかどうかは慰謝料請求の条件ではなく、離婚しなくても請求はできます。
  2. 変わるのは金額の目安だけでなく、請求の中身、請求できる相手、時効の数え方、他のお金との関係です。
  3. 金額を左右しているのは「離婚したかどうか」よりも「夫婦関係がどこまで損なわれたか」です。
  4. 離婚したこと自体の慰謝料は、原則として配偶者に請求するものであり、不貞相手に当然に上乗せできるわけではありません(最判平成31年2月19日)。
  5. 離婚時に財産分与とまとめて処理する場合、慰謝料が含まれていると評価されると、後から重ねて請求できないことがあります(最判昭和46年7月23日)。
  6. 離婚するかを迷っている間も時効は進むため、判断を保留する場合でも期間の管理は必要です。


 離婚するかどうかは、法律だけで決められる問題ではありません。ただ、どちらを選ぶかによって請求できるものと期限が変わる以上、選択の前に法的な見通しを持っておくことには意味があります。

 当事務所では、不貞慰謝料について、請求する側・請求を受けた側のいずれのご相談もお受けしています。離婚するかどうかを決めかねている段階でも構いませんので、お早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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