【男女トラブル】二股をかけられていた|交際関係だけで請求できる場面
交際中、相手が事業を始めたり資格を取ったりするのを支えるために、生活費や開業資金を援助してきた。ところが、仕事が軌道に乗った途端に別れを告げられた――。このようなご相談では、「ここまで支えてきたのに」というお気持ちと、「渡したお金は返してもらえるのか」という現実の問題が重なっています。
この記事では、交際中に援助したお金について、別れた後に返金を求められるのはどのような場合か、その分かれ目と、請求を進めるときの順序を解説します。
この記事は、婚約や内縁(事実婚)に至っていない交際関係を前提に、2020年4月施行の改正民法に基づいて解説しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。
別れたこと自体を理由に返金を求めるのは難しい
まず押さえておきたいのは、交際を続けるかどうかは、それぞれが自由に決められるという点です。婚約や内縁に至っていない交際であれば、別れを告げたこと自体が違法と評価されることは通常ありません。そのため、「別れたのだから返してほしい」という理由だけでは、法的な請求の根拠にはなりにくいのが実情です。
返金を求められるかどうかを左右するのは、別れ方ではなく、お金を渡したときに、どのような約束があったかです。同じ「援助」という言葉でも、法律上は、貸したお金なのか、あげたお金なのか、一緒に事業をするために出したお金なのかによって、扱いが大きく異なります。
渡したお金の性質を3つに分けて考える
貸したお金(消費貸借)
返してもらう約束のもとでお金を渡した場合は、消費貸借という契約にあたります(民法587条)。借用書がなくても、返すという合意があれば契約は成り立ちます。この場合、交際が終わったかどうかにかかわらず、相手には返す義務があります。
あげたお金(贈与)
返してもらう約束のない援助は、贈与と評価されやすくなります。書面によらない贈与は、まだ渡していない部分であれば撤回できますが、すでに渡し終えた部分は撤回できないとされています(民法550条)。応援する気持ちから渡したお金は、後になって返してほしいと考えても、法的に取り戻すのは難しいことが多いでしょう。
一緒に事業をするために出したお金(出資)
相手の事業に共同経営者として加わる前提でお金を出した場合は、出資と見る余地があります。この場合は、事業から得た利益の分配や、関係を解消するときの清算が問題になります。ただ、交際相手どうしで出資の取り決めを書面にしていることは少なく、出資にあたるかどうか自体が争いになりやすい類型です。
| お金の性質 | 返す約束 | 別れた後に返金を求められるか |
|---|---|---|
| 貸したお金 | ある | 求められる(別れたかどうかに関係しない) |
| あげたお金 | ない | 原則として難しい |
| 事業への出資 | 取り決めによる | 事業の清算として求められる余地がある |
「軌道に乗ったら返す」という約束があった場合
事業や資格取得を支える援助では、「仕事が軌道に乗ったら返す」「稼げるようになったら返す」といった言葉が交わされていることがあります。このような約束は、いわゆる「出世払い」と呼ばれるものです。
出世払いの約束は、返す時期をはっきりさせていないだけで、返す義務そのものは認める趣旨と理解されるのが一般的です。古い判例でも、出世払いは「いつかは到来する期限」(不確定期限)を定めたものと捉えられており、成功した時点で返済の期限が来ると考えられています。事業がうまくいかないことが確定した場合にも期限が来るとする考え方があります。
「仕事が軌道に乗った途端に別れを告げられた」という状況で、出世払いの約束があったのであれば、まさに返済の時期が来たと主張できる場面です。このとき問題になるのは、主に次の2点です。
- 「軌道に乗ったら返す」という約束が実際にあったこと。
- 相手の仕事が実際に軌道に乗ったといえること。
後者については、売上の状況、店舗の拡大や従業員の採用、相手自身がSNSなどで発信している内容が手がかりになります。「軌道に乗った」の受け止め方は人によって違うため、相手から「まだ軌道に乗っていない」と反論されることも考えられます。客観的に確認できる事情を集めておくことが大切です。
「別れたら返す」という約束はどう扱われるか
「別れることになったら返してもらう」と約束していた場合は、交際の終了をきっかけに返すという取り決めとして、返金を求める余地があります。他方で、お金を渡すことと引き換えに交際の継続を求めるような約束は、個人の自由を不当に縛るものとして、効力が否定されることもあります。
また、相手に一定の負担を課した贈与(負担付贈与、民法553条)として、相手が負担を果たさなかったことを理由に贈与を解除するという考え方もあります。ただし、「交際を続けること」そのものを負担とみることは難しく、負担の内容が具体的に取り決められている場合に検討されるものと考えておくのがよいでしょう。
こうした約束は口頭で交わされることが多く、言った・言わないの争いになりがちです。メッセージなどに具体的なやり取りが残っているかどうかが、見通しを大きく左右します。
はじめから援助を引き出すつもりだったと分かった場合
別れた後になって、相手に交際当初から別の交際相手がいた、援助を引き出すために結婚をほのめかしていたなど、だまされていたことが分かる場合もあります。このような場合は、詐欺を理由に贈与の意思表示を取り消したり(民法96条)、不法行為として損害賠償を求めたりする余地があります。
ただ、「最初からだますつもりだった」ことを示すのは容易ではありません。結婚の約束を前提に渡したお金については結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかを、相手の話を信じて渡していた場合については【男女トラブル】病気や不幸の話を信じてお金を渡していた|嘘だと分かった後をご覧ください。
手元に残しておきたい記録
お金の性質や約束の内容を示すために、次のような記録を整理しておくことをおすすめします。
- 振込の記録、通帳の写し、現金で渡した日時と金額のメモ。
- 「貸して」「返す」「軌道に乗ったら」などの言葉が残っているLINEやメール。
- 相手から受け取った事業計画書や見積書、開業に関する資料。
- 相手の事業の現状が分かる資料(ホームページ、SNSの投稿など)。
- 一部でも返済を受けたことが分かる記録。
- お金のやり取りを知っている友人や家族の話。
特に、一部でも返済を受けていた事実は、貸したお金であったことを裏づける事情になり得ます。交際期間の長さが清算にどう影響するかについては、【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかで取り上げています。
請求を進める順序
- 渡したお金の日付・金額・名目を一覧にし、約束の内容を整理します。
- 相手に文面で返済を求め、返事の内容を記録として残します。
- 応じない場合は、内容証明郵便で請求の意思をはっきり伝えます。
- それでも解決しない場合は、民事調停、支払督促、少額訴訟(60万円以下の請求)、通常訴訟などの手続を検討します。
返済を求める連絡は、正当な用件であっても、回数や時間帯、伝え方によっては、つきまといと受け取られるおそれがあります。この点は【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で解説しています。相手が連絡に応じない場合の進め方は、【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法をご覧ください。
また、貸したお金の返還請求には時効があり、原則として、請求できることを知った時から5年、請求できる時から10年で時効にかかります(民法166条1項)。出世払いの場合は、仕事が軌道に乗った時点が起点になると考えられるため、別れてから時間を置きすぎないよう注意が必要です。請求の種類ごとの期間は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかにまとめています。
弁護士に依頼する意味
交際していた相手との金銭の話し合いは、感情が先に立ち、本来の論点から離れてしまいがちです。弁護士が窓口になることで、お金の性質や約束の内容に絞って交渉を進めやすくなり、相手と直接やり取りする負担も軽くなります。相手が事業を営んでいる場合は、分割払いや合意書の取り交わしなど、現実的な回収の方法を検討することもできます。
当事務所の対応については【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご紹介しています。交際相手との共同事業の解消が問題になった事例として、【解決事例】交際相手との共同事業解消・競業トラブル|1,000万円超の債権を交渉材料に損害賠償請求を回避し事業の分離を実現した事例もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
借用書を作っていなくても返金を求められますか
借用書がなくても、メッセージのやり取りや振込の記録などから、返す約束があったことを示せれば、請求できる可能性があります。詳しくは恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?をご覧ください。
相手から「あれはもらったものだ」と言われました
貸したのか、あげたのかで言い分が食い違うのは、交際中のお金のトラブルでよくある争点です。渡した経緯や金額、その後のやり取りなどを踏まえて判断されます。受け取った側の視点から整理した別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いもあわせてご確認ください。
相手の事業の売上を差し押さえることはできますか
判決や和解調書などで支払義務が確定すれば、預金や取引先に対する売掛金などを差し押さえる手続をとれる場合があります。ただし、話し合いの段階でできることではなく、まずは請求の根拠となる記録を固めることが先決です。
仕事が軌道に乗った途端の別れは、支えてきた側にとって受け止めがたいものです。ただ、返金を求められるかどうかは、別れたときの気持ちではなく、お金を渡したときの約束と、それを示す記録によって決まります。まずは手元のやり取りを見直し、渡したお金の性質を整理するところから始めてみてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


