その場でATMに連れて行かれた|同行と引き出しの強要
本記事は、2026年10月時点の刑法・民法・風営法の規定と一般的な実務をもとに解説しています。刑罰は、2025年6月1日施行の改正刑法による「拘禁刑」の表記に合わせています。個別の事情によって取れる手段は変わります。
ソープランドで利用を終えて受付の前を通ったとき、あるいは店を出ようとしたときに、店員から「少しお話があります」と呼び止められることがあります。そのまま事務所や待合室に案内され、女性から報告があったと告げられたうえで、「事実を認める」「〇〇万円を支払う」といった内容の念書を書くよう求められる、というご相談は少なくありません。
突然のことで頭が整理できないまま、「書けば帰れる」と考えて署名してしまう方もいます。しかし念書は、後から「あのときは仕方がなかった」と説明しても、書いたという事実そのものは残ります。この記事では、呼び止められた場面で念書を求められたときの考え方と、すでに書いてしまった後にできることを整理します。
ソープランドで呼び止められるのはどのような場面か
ソープランドは、風営法上の店舗型性風俗特殊営業にあたり、受付・待合室・個室が一つの建物の中にあります(風営法2条6項1号)。女性と別れた後に電話で連絡が来ることの多い派遣型の店とは違い、女性から店への報告が利用の直後に入り、客が建物を出る前に店員が声をかける、という流れになりやすいのが特徴です。
呼び止められた理由として店から告げられるものには、次のようなものがあります。
- 個室での盗撮を疑われた。
- 避妊具の扱いなど、店のルールに反したと言われた。
- 女性の体を乱暴に扱った、けがをさせたと言われた。
- 女性への暴言や、嫌がることを続けたと言われた。
- 料金やオプションをめぐって行き違いがあった。
ソープランドは、個室での出来事を当事者間の「自由恋愛」と説明する建前で営業していることが多く、店としても個室での行為そのものを表立って問題にしにくい事情があります(ソープランドの「自由恋愛」の建前と本番|客が知っておくべき法的リスク)。そのため、請求の理由は「規約違反」「女性を傷つけた」といった言い方で示されることが多く、何が問題とされているのかが分からないまま念書の話に進んでしまうことがあります。
念書を書くと、後でどのような意味を持つのか
「念書」という言葉に法律上の決まった定義はありません。書かれた中身によって、事実を認めた証拠として扱われたり、お金を払う約束(合意)の証拠として扱われたりします。店が文案を読み上げ、そのとおりに手書きさせる形も多く、書き手に不利な表現が入り込みやすい書面です。
| 念書によくある記載 | 後で持つ意味 |
|---|---|
| 「女性を傷つけたことを認めます」 | 事実を認めた証拠として、交渉や刑事手続の場で示されるおそれがあります。 |
| 「〇〇万円を〇月〇日までに支払います」 | 支払いの約束の証拠として、請求の根拠に使われます。 |
| 「支払わない場合は勤務先や家族に連絡されても異議ありません」 | 連絡を正当化する材料として持ち出されることがありますが、この一文があるから連絡が許されるわけではありません。 |
| 氏名・住所・勤務先・電話番号 | 店が後から連絡を取る手段として手元に残ります。 |
とくに、事実を認める文言と金額の約束が一枚に並ぶと、後から「事実は違う」「金額が高すぎる」と争う場合でも、まずその書面について説明するところから始めなければならなくなります。弁護士ドットコムにも、店で念書を書かされ免許証のコピーを渡したところ、後日返すと言われたものの不安が続いている、という趣旨の相談が寄せられています。
その場で求められることと、応じる義務
呼び止められた場面では、念書のほかにもいくつかのことを求められる場合があります。いずれも店という私人からの求めであり、法律上応じなければならないものではありません。
| 求められること | 応じる義務 | 考え方 |
|---|---|---|
| 念書・誓約書への署名 | ありません | 事実を確かめられないうちは、認める文言を書かないことが基本です。 |
| 身分証の提示・撮影 | ありません | 撮影されると、氏名・住所・生年月日が店に残ります。 |
| 勤務先や家族の連絡先 | ありません | 後で「連絡する」と告げる材料になりやすい情報です。 |
| その場での支払い・ATMへの同行 | ありません | 根拠が示されないまま払うと、取り戻すのに手間がかかります。 |
| スマートフォンの中身を見せること | ありません | 盗撮を疑われた場合でも、見せるかどうかは本人が決めます。 |
身分証については身分証の提示・撮影を求められた場合|応じる義務と拒否の帰結、ATMへの同行についてはその場でATMに連れて行かれた|同行と引き出しの強要で詳しく解説しています。
ただし、応じる義務がないことと、何も話さずに立ち去ればよいということは同じではありません。女性が実際に被害を訴えている場合、連絡の手段が何も残らないと、店や女性が警察への相談に進むこともあります。事実と違う内容に署名しないことと、話し合いの窓口を残しておくことは、分けて考えるとよいでしょう。
帰ろうとして止められたとき
店が事情を確かめるために話を聞きたいと求めること自体は、直ちに違法になるものではありません。一方で、出入口をふさいで外に出られないようにしたり、長時間にわたって退出を許さなかったりすれば、監禁罪(刑法220条、3か月以上7年以下の拘禁刑)が問題になり得ます。「念書を書くまで帰さない」と告げて署名させれば強要罪(刑法223条)、お金を払わせれば恐喝罪(刑法249条)の問題にもなります。
過去には、風俗店の経営者らが、その場で払えなかった客に免許証のコピーを取らせ、金額と期限を書いた念書を作らせたうえ、払わなければ会社に連絡すると告げたとして、恐喝の疑いで逮捕されたと報じられた例もあります。どこからが違法になるかの線引きはその場から帰してもらえない|監禁と不退去の境界や恐喝・強要・脅迫はどう違うのか|言い方で罪名が変わるで整理しています。
警察を呼ぶという選択肢
帰してもらえない状態が続くときや、身の危険を感じるときは、110番通報も選択肢になります。自分にも心当たりがある場合には通報をためらう方もいますが、その場の安全を確保することと、事実関係をどう整理するかは別の問題です。考え方は自分にも非がある場合の警察相談|恐喝被害を申告する際の障害で解説しています。
念書を書くよう迫られたときの考え方
強い口調で迫られると、断ること自体が難しく感じられるかもしれません。その場で次の点を意識しておくと、後の選択肢を残しやすくなります。
- 事実と違う内容や、覚えのない内容を書かないこと。
- 金額や支払期限を、その場で決めないこと。
- 「家族や勤務先に連絡されても異議はない」といった一文を書かないこと。
- 「持ち帰って検討する」「弁護士を通して連絡する」と伝えること。
- やむを得ず書いた場合は、書面の写真を撮るか、控えを求めること。
返答をその場で保留するやり方は【不当要求対応】その場で答えず持ち帰る|返答を保留する技術で解説しています。書面を手元に残せなかった場合については【風俗トラブル】店の事務所で書かされた紙の写真を撮っていない|内容を後から確かめる方法もご覧ください。
すでに念書を書いてしまった後にできること
書いた内容を、記憶が新しいうちに書き出す
日時、店名、対応した店員の人数、念書の文言、記入した個人情報、渡したもの(身分証のコピーや名刺など)を、できるだけ早く書き出しておきます。言われた言葉を思い出せる範囲で残しておくことも、後で念書の効力を考えるときの材料になります。
脅されて書いた念書の効力
「書かなければ帰さない」「会社に知らせる」などと告げられて書いた念書は、強迫による意思表示として取り消せる場合があります(民法96条1項)。また、問題とされた行為に比べて著しく高い金額の約束は、公序良俗に反するとして効力が否定される余地もあります(民法90条)。
もっとも、念書が自動的に無効になるわけではありません。取消しを主張するには、どのような状況で書かされたのかを説明する必要があり、取消しができる期間にも制限があります(民法126条)。考え方の違いは脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで解説しています。
連絡の窓口を弁護士に移す
弁護士が依頼を受けると、店に受任を知らせる通知を送り、以後の連絡は弁護士にするよう求めます(受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるか)。そのうえで、請求の根拠と金額を確かめ、払うべきものがあるかを整理します。話し合いで解決する場合は、念書や身分証のコピーの返還・廃棄、家族や勤務先に連絡しないこと、合意した内容のほかに請求しないことを確認する清算条項などを、新しい合意書に盛り込みます。
念書に勤務先や実家の住所を書いてしまった場合については【風俗トラブル】勤務先や実家の住所を書かされた後、何が起こり得る?、すでにお金を払ってしまった場合については払ってしまった後に取り戻せるか|恐喝・強迫を理由とする返還で解説しています。
よくあるご質問
念書に書いた期限までに払わないと、すぐに財産を差し押さえられますか?
念書は、判決や執行認諾文言付きの公正証書とは異なり、それだけで差押えができる書面ではありません。店が強制的に回収するには、訴訟などの手続を経る必要があります。ただし、期限を過ぎたまま放置すると店からの連絡が強まることもあるため、期限が来る前に対応を決めておくことをおすすめします。
念書を断ったら「警察に行く」と言われました。書かないと不利になりますか?
念書を書かないこと自体が罪になるわけではありません。警察が動くかどうかは、念書の有無ではなく、実際に何があったかによって判断されます。反対に、事実と違う内容を認めた念書が残ると、後で事実関係を争うときの妨げになることがあります。同意のない行為を訴えられている場合については【風俗トラブル】ソープランドで同意のない行為を訴えられた|ソープ特有の事情と主張の組み立てで解説しています。
念書は書かずに、連絡先だけ伝えて帰ることはできますか?
店が求めているのが今後の連絡手段であれば、電話番号など最小限の連絡先を伝え、「後日、弁護士から連絡する」と告げて店を出るという対応も考えられます。どこまでの情報を伝えるかは、その場の状況によって判断が分かれます。
まとめ
- 店員に呼び止められて念書を求められても、署名する法律上の義務はありません。
- 念書は事実を認めた証拠や支払いの約束の証拠として扱われるため、事実と違う内容は書かないことが大切です。
- 出入口をふさいで帰さない、署名を強いる、お金を払わせるといった対応は、監禁・強要・恐喝の問題になり得ます。
- 脅されて書いた念書は取り消せる場合がありますが、自動的に無効になるわけではありません。
- 書いてしまった後は、内容を書き出したうえで、早めに連絡の窓口を弁護士に移すことが考えられます。
ソープランドでのトラブルは、利用の直後に店の中で話が進むため、落ち着いて考える時間を持ちにくいのが特徴です。念書を書く前であっても、書いてしまった後であっても、取れる手段は残されています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


