「家族と職場にバラす」と言われた|告知の中身別に見る違法性
風俗店とのトラブルで金銭を求められ、その求め方が度を越していると感じても、警察に相談することをためらう方がいます。理由はたいてい同じで、「自分にも後ろめたいところがあるから」というものです。
このためらいには、まったく根拠がないわけではありません。何をされたかを話せば、その前提として自分が何をしたかにも触れることになる場面はあります。ただ、「相談できない」と感じている中身をよく見ると、性質の違うものがいくつも混ざっています。それを一つの大きな壁としてまとめて扱うと、外せるはずの部分まで外せなくなります。
この記事では、度を越した請求を受けた方が、自分にも落ち度があると感じている状態で警察への申告を考えるとき、何が障害になり、その障害はどこまで動かせるのかを整理します。支払を免れるための方法をまとめたものではありません。
この記事が想定している場面
次のような状況を想定しています。
- 成人同士のサービス利用で、店やその関係者から金銭を求められている。
- 求め方が度を越していると感じているが、自分の側にも店のルールに反する行為や後ろめたい行為がある。
- 警察に相談したいが、自分の行為を話すことになるのではないかと考えて動けていない。
- すでに逮捕された、警察から呼び出しを受けたという段階ではない。
請求の金額が妥当かどうか、店の求め方がどこから恐喝と評価されるのかといった論点は、別の記事で扱っています。ここでは「申告するかどうか」と「申告すると何が起きるのか」に絞ります。
「被害」と「落ち度」は同じ天秤に乗らない
最初に押さえておきたいのは、自分が受けた被害と、自分の落ち度は、差し引き計算されるものではないということです。
店側の求め方が度を越していたかどうかは、求められた側に落ち度があったかどうかで決まる仕組みにはなっていません。落ち度のある人に対しては何をしてもよい、という考え方は採られていないためです。請求に裏づけがあるかどうかと、求め方が節度の範囲に収まっているかどうかは、それぞれ別に見られます。
逆の方向も同じです。度を越した求め方をされたからといって、自分の行為についての評価が消えるわけではありません。二つは別々に判断され、片方がもう片方を打ち消す関係にはありません。
「どちらか一方しか選べない」という前提で行き詰まっている場合、その前提自体が実際とずれています。決めることになるのは、どちらを選ぶかではなく、どの順序で、誰に、どこまで話すかです。
「相談できない」と感じる障害を4つに分ける
相談をためらう理由は、次の4つに分けると整理しやすくなります。
| 障害の種類 | 中身 | 動かせる余地 |
|---|---|---|
| 気持ちの障害 | 人に話すこと自体への抵抗、責められるのではないかという不安 | 相談する相手を選ぶことで変わりやすい |
| 説明の障害 | 何をされたかを話すと、自分が何をしたかにも触れることになる | 話す範囲を先に決めておくことで変わる |
| 手続の障害 | 届出が受け付けられるか、捜査が始まるかを自分では決められない | 自分の側で動かせる範囲は限られる |
| 結果の障害 | 自分の行為が別の問題として扱われる可能性がある | 順序と説明の組み立てで変わりうる |
このうち重く見られがちなのは4番目ですが、実際に相談を止めているのは1番目と2番目であることが少なくありません。分けて考えると、どこから手を付けられるかが見えやすくなります。
説明の障害|話すと自分の行為にも触れることになる
度を越した請求を申告する場合、「なぜそのような請求を受けることになったのか」という経緯は避けて通れません。経緯の中に自分の行為が含まれていれば、そこにまったく触れずに説明することは難しくなります。
答えない自由はある
もっとも、自分に不利益な供述を強要されないという考え方は、立場を問わず及ぶものとされています。被害を申告する側として話を聞かれている場面でも、答えたくないことに答えない自由がなくなるわけではありません。
また、被疑者として扱われていない段階で警察から話を聞かせてほしいと求められた場合、これに当然に応じる義務があるわけではなく、途中で帰ることもできると説明されています。一方で、被疑者の取調べの前に行われる「答えなくてよい」という説明は、この場面には当然には及ばないとされています。自分から確かめない限り、その点にふれられないまま話が進むことがあります。
答えないことと、事実と違う説明をすることは別
答えないという選択と、あったことを無かったことにして説明することは、扱いがまったく異なります。後者は、後から食い違いが出たときに申告全体の信用に影響し、度を越した請求を裏づける部分まで疑われることになりかねません。
都合の悪い部分を落とした説明は、その場では通っても、相手方から別の説明が出た段階で崩れます。触れないという選択はあり得ても、事実と異なる説明を組み立てるという選択は、通常は取りにくいと考えたほうが実際的です。
手続の障害|話しているうちに立場が変わることがある
捜査の場面では、事情を知る人として話を聞かれていた方が、話の内容を踏まえて被疑者として扱われるようになることがあります。最初にどちらの立場で座ったかで、その後が固定されるわけではありません。
これは、隠したほうが安全だという話ではありません。どこまで話すかを、話し始める前に決めておく必要があるという話です。その場の流れで決めると、想定していなかった範囲まで説明することになりやすくなります。
結果の障害|先に動くか、後から動くかで変わること
自分の行為が別の問題として扱われる可能性は、たしかにあります。ただしその可能性は、相談したかどうかだけで決まるものではなく、相手方が先に動いたかどうかにも左右されます。
| 状況 | 自分の行為の扱われ方 | 選べる手段 |
|---|---|---|
| 相手方が先に届け出た | 説明を求められる側から入ることになる | 受け身の対応が中心になりやすい |
| どちらも動いていない | 表向きは何も起きない期間が続くことがある | 時間の経過とともに記録が失われていく |
| 自分が先に相談した | 自分の説明が先に記録に残る | 申告と自分の側の対応を並行して進めやすい |
どれが有利かは事案によって変わり、一律には決まりません。ただ、相手方が先に動く可能性を計算に入れないまま待つという選び方は、選んでいるつもりのないまま結果が決まってしまう点で不安定です。
自分から先に話すことが持つ意味
刑法には、犯罪が捜査機関に知られる前に自分から申告した場合に、刑を軽くすることができるという仕組みがあります。ここで注意したい点が3つあります。
- 事実と本人がすでに把握されている段階では、この仕組みには当たりません。
- 当たる場合でも「軽くすることができる」という定めであり、軽くなることが決まるわけではありません。
- 申告した内容が実際と大きく異なる場合や、責任を他に移す説明にとどまる場合には、この仕組みとして評価されないことがあります。
自分から話すことに意味が生まれる場面はありますが、「話せば軽くなる」という単純なものではありません。話す前に、自分の行為がどう評価されうるのかを把握しておくことが前提になります。
弁護士に先に相談する順序が採られる理由
自分にも落ち度があると感じている場合、弁護士に相談したうえで警察に行くかどうかを決める、という順序が採られることが多くあります。
- 弁護士には守秘義務があり、相談した内容が本人の意向と関係なく外に出ることは想定されていません。例外がまったくないと言い切れるものではないため、気になる点は最初に確認しておくとよいでしょう。
- 自分の行為がどのように評価されうるのかを、申告の前に把握できます。
- 申告するかどうか、申告するとして何を中心に述べるかを、決めたうえで動けます。
- 店側との交渉と、警察への申告を、別の作業として整理できます。
ただし、その場に危険が差し迫っているときは、この順序にこだわる必要はありません。身体の安全にかかわる場面では、110番が先になります。
警察に行く前に整えておきたいこと
- 何をされたかを、日時と場所を添えて時系列で書き出す。
- やり取りの記録を保存する。消えやすいものから先に扱う。
- 自分の行為についても、隠す前提ではなく、話す範囲を決める前提で書き出しておく。
- その場で結論を出さず、答えられない部分は持ち帰る。
記録の残し方や、どのようなものが記録として意味を持つかは、別の記事で扱っています。
警察で話すときに気をつけたいこと
- 事実と、自分の評価を分けて述べる。「不当な請求だ」ではなく「いつ、誰に、何を言われたか」から始める。
- 覚えていないことは、覚えていないままで述べる。無理に補わない。
- 自分に不利な部分だけを落とした説明にしない。
- 作成された書面は、読んでから署名する。内容が違えば、その場で伝える。
届出が受け付けられるかどうか、受け付けられなかったときにどうするかは、別の記事で扱っています。
相談しないと決めた場合に残ること
- 記録は時間とともに失われ、後から確かめられる範囲が狭くなります。
- 請求が自然に止まるとは限らず、連絡が続くことがあります。
- 相手方が先に動いた場合、こちらは受け身から入ることになります。
- 時間が経つほど、選べる手段が減っていきます。
相談しないという判断がいけない、という趣旨ではありません。ただ、相談しないことは、何も起きないことと同じではないという点は、判断の材料に入れておいたほうがよいと考えられます。
弁護士が入ると変わること
- 自分の行為がどう評価されうるのかを、先に整理できます。
- 店側との連絡の窓口を移し、直接のやり取りを止められます。
- 警察に申告する場合の説明の組み立てを、事前に準備できます。
- 申告と並行して、自分の側の対応を進められます。
一方で、弁護士が入れば良い結果になることが保証されるわけではありません。届出が受け付けられるか、捜査が始まるかを弁護士が決められるわけでもありません。早く動くことで、選べる手段が残りやすくなるという範囲の話です。
まとめ
- 自分が受けた被害と、自分の落ち度は差し引き計算されるものではなく、別々に判断されます。
- 「相談できない」と感じる理由は、気持ち・説明・手続・結果の4つに分けると整理しやすくなります。
- 自分に不利益な供述を強要されないという考え方は、被害を申告する側にも及ぶとされています。
- 答えないことと、事実と異なる説明をすることは、別の問題として扱われます。
- 事情を聞かれる立場は、話の内容によって途中で変わることがあります。
- 相手方が先に動くか、自分が先に動くかで、扱われ方と選べる手段が変わります。
- 自分から先に申告することに意味が生まれる場面はありますが、刑が軽くなることが決まる仕組みではありません。
- 危険が差し迫っている場面では、順序にこだわらず、安全の確保が先になります。
自分にも非があると感じている状態での相談は、話しにくいものです。当事務所では、こうした状況からのご相談も無料でお受けしています。


