勤務先に伝わる経路|通知制度と事実上の伝達を分ける
本記事は、2026年11月時点の法令と一般的な実務をもとにした解説です。実際の対応は、請求の経緯や手元に残っている記録によって変わります。
風俗店を利用した後に、店やキャストから「怪我をした」「治療費を払ってほしい」と連絡が来ることがあります。身に覚えがある場合でも、ない場合でも、示された金額をそのまま払う前に、まず治療費の根拠となる資料を見せてもらうことが考えられます。根拠を確かめることは、支払いを拒むためではなく、払うべき範囲を確定させるための手順です。
本記事では、キャストの怪我を理由とする治療費請求を受けた場面で、治療費の根拠資料を求める書面にどのような条項を入れておくとよいか、その骨子と書くときの注意点を整理します。
治療費の根拠資料を求める意味
怪我をしたことを理由に損害の賠償を求める場合、請求する側は、怪我が生じたこと、その怪我が利用時の行為によって生じたこと、そして損害の額を示す必要があります(民法709条)。これらは原則として請求する側が明らかにすべき事柄であり、請求を受けた側が「怪我がなかったこと」を先に証明しなければならないわけではありません。
実際の請求では、「治療費として〇万円」と総額だけが示され、内訳や資料が添えられていないことが少なくありません。治療費のほかに休業補償や慰謝料が一括りにされていることもあります。総額だけで話を進めると、何に対していくら払うのかが曖昧なまま合意することになり、後から追加の請求を受けたときに反論しにくくなるおそれがあります。
そこで、口頭やメッセージのやり取りだけで済ませず、確認したい資料と事項を書面で示しておくことに意味があります。何を求め、相手がどう答えたかが記録に残るため、その後の交渉や、弁護士へ相談するときの材料にもなります。
書面を作る前に整理しておくこと
書面の中身を考える前に、次の事項を手元で整理しておくと、求める資料を絞り込みやすくなります。
- 利用した日時・店舗名・コースの内容。
- 請求してきたのは店か、キャスト本人か、代理人を名乗る人物か。
- 請求額と、内訳が示されているかどうか。
- 請求がどの手段で届いたか(電話・LINE・メール・郵便など)。
- 利用時の出来事について、自分が覚えていること。
誰の名義で書面を出すか
書面を自分の名義で出すと、氏名や住所が相手に伝わります。予約時に偽名や電話番号しか伝えていない場合、書面を出すことでかえって個人情報を渡す結果になりかねません。内容証明郵便は差出人の住所・氏名の記載が必要になるため、送付方法も含めて検討が必要です。
相手が把握している連絡手段(店とのメールやメッセージなど)で書面の内容を送る方法もありますが、相手の受け取り方や記録の残り方は送付方法ごとに異なります。個人情報を出さずに進めたい場合は、弁護士が代理人として書面を出す方法もあります。
根拠資料を求める書面に入れておきたい条項
骨子として入れておきたい条項と、それぞれのねらいを表にまとめます。すべてを機械的に入れる必要はなく、請求の内容に応じて取捨選択します。
| 条項 | 書く内容 | ねらい |
|---|---|---|
| 書面の趣旨 | 資料の確認を求めるものであり、請求の内容や事実関係を認める趣旨ではないこと | 書面そのものが事実を認めた証拠と受け取られることを避ける |
| 請求者の確認 | 請求者が誰か、店が請求する場合はキャスト本人から委ねられているか | 誰との間で話をまとめればよいかを確定させる |
| 受傷の経緯 | 怪我をしたとする日時・場面・部位 | 利用時の出来事と結びつくかを確かめる |
| 診断書の写し | 傷病名・初診日・加療期間の記載があるもの | 怪我の有無と程度を確かめる |
| 治療費の内訳 | 領収書と診療明細書の写し | 実際に支出した額を確かめる |
| その他の費目 | 通院交通費・休業補償・慰謝料などの算定根拠 | 治療費以外の上乗せ分を切り分ける |
| 個人情報の扱い | キャストの氏名・住所などは伏せてよいこと、資料は本件の検討にだけ使うこと | 相手が資料を出しやすい条件を整える |
| 回答の期限と窓口 | 回答の目安となる期限と、連絡を受ける窓口 | やり取りの経路を一本にまとめる |
| 第三者への連絡 | 家族・勤務先などへの連絡を控えてほしいこと | 検討中に周囲へ話が広がることを防ぐ |
| 支払いの扱い | 資料を確認したうえで支払いについて協議すること | 拒絶ではなく協議の姿勢を示す |
診断書で確かめたいところ
診断書では、傷病名、初診日、加療期間の見込みが記載されているかを確認します。利用日から初診日までの間隔が大きく空いている場合や、主張されている場面と傷病の部位が合わない場合には、利用時の出来事との結びつきを慎重に見る必要があります。
診断書は、写真で見せられるだけでは内容を十分に確かめられないことがあります。書面では「写しの提出」を求め、医療機関名や日付が読み取れる状態で受け取れるようにしておくと、後の検討がしやすくなります。
領収書と診療明細書を分けて求める
診断書は怪我の内容を示す資料であり、実際にいくら支払ったかは領収書や診療明細書で確かめることになります。今後の通院分まで含めた見込み額を請求されている場合は、既に支払った分と見込みの分を分けて示してもらうよう求めます。
また、健康保険を使って受診した場合、窓口で支払うのは自己負担分です。総額の10割分を請求されていないか、領収書の金額と照らし合わせて確認する余地があります。
治療費以外の費目は根拠を別に求める
休業補償が含まれている場合は、休んだ期間と、休業によって減った収入の算定方法を示してもらう必要があります。慰謝料についても、何を理由にいくらと算定したのかを尋ねておくと、総額の中身を切り分けやすくなります。治療費とそれ以外の費目を一つの書面の中で分けて尋ねておくと、どの部分に争いがあるのかが見えやすくなります。
書面の骨子の例
実際の書面は事案ごとに整える必要がありますが、骨子の流れを示すと次のようになります。
- 〇年〇月〇日のご利用に関し、〇〇様がお怪我をされたとして治療費等のお支払いのご連絡をいただいた件について、お返事を差し上げます。
- 本書面は、ご請求の内容を検討するために資料のご提示をお願いするものであり、ご主張の事実関係やご請求を認める趣旨ではありません。
- ご請求者がどなたであるか、店舗としてご請求される場合はご本人から委ねられていることが分かる書面をお示しください。
- お怪我をされたとする日時・場面・部位をお知らせください。
- 診断書の写しと、治療費の領収書・診療明細書の写しをご提示ください。
- 休業補償や慰謝料等をご請求される場合は、それぞれの算定根拠をお示しください。
- 氏名・住所などの個人情報は伏せていただいて差し支えありません。ご提示いただいた資料は本件の検討にのみ使用します。
- 〇月〇日頃までに、本書面と同じ方法でご回答いただけますと幸いです。
- 検討の間、ご家族や勤務先など第三者へのご連絡はお控えください。
- 資料を拝見したうえで、お支払いについてご相談させていただきます。
書面を作るときの注意点
根拠資料を求める書面は、書き方によっては交渉を難しくしたり、後で自分に不利な資料になったりすることがあります。次の点に気をつけます。
謝罪や事実を認める表現の書き方
相手を気遣う言葉を添えること自体は問題ありませんが、「怪我をさせてしまい申し訳ありません」と書くと、怪我の原因が自分にあると認めた記載と受け取られるおそれがあります。お見舞いの気持ちを伝える場合でも、事実関係を認める表現とは分けて書くほうが無難です。
相手を責める表現は避ける
請求の内容に納得できない場合でも、「虚偽の請求だ」「恐喝として通報する」といった強い表現は避けたほうがよいでしょう。相手の反発を招いて話がこじれるだけでなく、書き方によっては新たなトラブルの種になりかねません。疑問がある点は、資料の提示を求める形で淡々と尋ねるのが基本です。
結論を決めつけない
「資料が出なければ一切払わない」と書面で言い切ると、相手が協議に応じにくくなります。資料を確認したうえで協議する、という姿勢を示しておくほうが、結果として話がまとまりやすい場面が多いと考えられます。回答期限も、資料を集めるのに必要な期間を考えて設定します。
送った書面と届いた資料を保管する
送付した書面の控え、送付した日時と方法、相手からの回答や資料は、まとめて保管しておきます。メッセージで送った場合は、画面の保存もしておくと安心です。示談書の扱いについては【風俗トラブル】示談書の原本を店しか持っていない|控えを求めるべき理由でも解説しています。
刑事手続との関係にも目を配る
怪我を理由とする請求は、民事の損害賠償の話であると同時に、相手が傷害の被害を主張していることも意味します。相手が警察に相談する可能性もあるため、書面の文言は、後に第三者が読むことも想定して整えておく必要があります。
資料を確認して支払いに応じる場合は、口頭の約束で終わらせず、支払額、支払い後に追加の請求をしないこと、被害届の扱いなどを盛り込んだ合意書を作ることが大切です。合意書に入れる条項は風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないで整理しています。
関連する解説記事
- 【風俗トラブル】キャストの診断書を見せられた|怪我や体調不良を理由にした請求
- 【風俗トラブル】キャストに怪我をさせたと言われたが身に覚えがない
- 【風俗トラブル】請求額が連絡のたびに増えていく|金額が動く請求への向き合い方
- 【風俗トラブル】店との交渉を自分でするか弁護士に任せるか|分かれ目になる5つの事情
- 【解決事例】デリヘル利用後にキャストの怪我を主張された男性が、店舗との合意書締結で解決した事例
- 【解決事例】酔って転倒しキャストが負傷、治療費等を請求された|解決金約22万円で示談が成立した事例
治療費の請求を受けてお困りの方へ
キャストの怪我を理由とする治療費の請求では、金額の妥当性だけでなく、誰に、どの方法で、何を伝えるかによってその後の進み方が変わります。根拠資料を求める書面を自分で出すか、弁護士を通じて出すかで迷っている段階でも、請求の内容を一緒に整理することができます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


