ソープランドの「自由恋愛」の建前と本番|客が知っておくべき法的リスク

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

 「ソープランドは、店が入浴サービスを提供しているだけで、その後にお客さんと女性が関係を持つかどうかは二人の自由恋愛の問題」——性風俗を利用する方であれば、こうした説明を一度は耳にしたことがあるかもしれません。いわゆる「自由恋愛」の建前です。

 この言い回しは業界内で広く共有されていますが、そもそも誰のために組み立てられた説明なのか、そして利用する側にとってどこまで意味を持つのかが整理されて語られることは多くありません。

 結論から申し上げると、この建前は店側が売春防止法上の摘発を避けるために用意された説明であり、客を守るための理屈ではありません。むしろ「当事者間の自由な関係」と位置づけられているからこそ、何かあったときの負担が客個人に直接返ってくる場面があります。

 このコラムでは、風俗トラブルのご相談を一貫して客側の立場でお受けしている弁護士の視点から、「自由恋愛」という建前の法的な出どころと、利用する側が現実に負うことになるリスクを整理します。

1.「自由恋愛」という説明はどこから来たのか

 売春防止法の罰則は、当事者ではなく「周辺行為」に向けられている

 売春防止法は、売春を「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」と定義し(2条)、「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない」と定めています(3条)。

 ただし、この3条の禁止には罰則が置かれていません。処罰の対象とされているのは、当事者そのものではなく、その周辺で売春を成り立たせる行為です。

条文対象となる行為法定刑
5条公衆の目に触れる方法での勧誘・客待ち6月以下の拘禁刑または1万円以下の罰金
6条売春の周旋(あっせん)2年以下の拘禁刑または5万円以下の罰金
11条情を知って売春の場所を提供3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金(業とした場合は7年以下の拘禁刑及び30万円以下の罰金)
12条管理売春10年以下の拘禁刑及び30万円以下の罰金

風営法上のソープランドは「浴場業の個室で客に接触する役務」

 一方、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)では、ソープランドは「浴場業の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業」と定義されています(2条6項1号)。

 つまり法律上は、入浴に伴う役務を提供する営業として位置づけられているのであって、性交を提供する営業として許可を受けているわけではありません。

だから「店は関知していない」という説明が必要になる

 場所提供罪(11条)も管理売春罪(12条)も、店側が売春の事実を認識していることが前提になります。そこで「店が提供しているのは入浴に関する役務まで。その後に個室で何があったかは当事者どうしの個人的な関係であり、店は関知していない」という説明が組み立てられることになります。これが「自由恋愛」の建前の正体です。

 言い換えれば、この建前は店の刑事責任を切り離すための説明です。客の行為を適法にする効果も、客を保護する効果も、そこには含まれていません。

 そして、この建前が常に通用するわけでもありません。入浴料名目で受け取った金銭が実質的には性交の対償にあたると評価され、場所提供罪の成立が認められた裁判例もあります。「建前があるから摘発されない」という関係にはなっていない、というのが実情です。

2.客に罰則がないのは「建前」のおかげではない

 ここで、多くの方が混同しやすい点を整理しておきます。

 「ソープでは客が捕まらないのは、自由恋愛の建前があるからだ」と理解されている方がいらっしゃいますが、これは正確ではありません。客に売春防止法上の罰則がないのは、同法がもともと買う側に罰則規定を置いていないからです。建前があるからではありません。

 したがって、仮に店が場所提供罪等で摘発され、「自由恋愛」の説明が通らなかったとしても、それによって客の売春防止法上の立場が変わるわけではありません。

 逆にいえば、「建前があるから客側は安全」という理解も成り立たないということです。利用する側が現実に直面するリスクは、売春防止法とはまったく別のところに集中しています。

3.「自由恋愛」の建前が客を守らない5つの場面

(1)相手が18歳未満だった場合

 最も重いのがこの類型です。相手が18歳未満であれば、児童買春罪(児童買春・児童ポルノ禁止法4条、5年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)の問題になります。この罪は、相手の同意があったかどうかを問いません。

 「店が紹介した」「年齢確認は店がしているはずだ」といった事情も、当然に免責につながるものではありません。年齢を知らなかったという主張自体は可能ですが、その場合には、疑うべき事情がなかったか、確認の機会があったのに済ませなかったのではないかといった点が厳しく検討されることになります。

 この場面で「自由恋愛だった」という説明は、防御としてまったく機能しません。

(2)相手の同意がなかった、あるいは途中で拒まれた場合

 同意のない性交等は、不同意性交等罪(刑法177条)の問題になります。法定刑は5年以上の有期拘禁刑で、罰金刑がありません。2017年の改正で非親告罪となっているため、示談が成立すれば当然に不起訴になるという関係にもありません。

 ここで押さえておきたいのは、料金を支払ったこと、ソープランドという業態を選んだこと、個室に入ったこと自体は、いずれも性交についての同意を意味しないということです。

 むしろ「自由恋愛」の建前は、合意を店との契約からではなく当事者どうしの関係として位置づける建てつけです。であれば、その合意が本当にあったのかどうかは、店ではなく客個人の問題として問われることになります。建前を前提にするほど、この点は自分の責任に返ってくる構造だといえます。

 また、店のルール上想定されていない行為(避妊具を外すなど)についても、合意の範囲を超えたとして民事上の損害賠償が問題になり得ます。

(3)店のルール違反を理由とする違約金・「罰金」請求

 多くのソープランドは、規約や誓約書のうえでは本番行為を禁止しています。禁止していなければ、店自身が売春を認識していたことになってしまうためです。

 そして、この禁止規定を根拠に、後から違約金や迷惑料が請求されることがあります。ここに現れるのが二重構造です。性的な部分については「個人間の自由な関係だから店は関知しない」と言いながら、金銭を請求する場面では「店の規約に違反した」と主張してくる——利用者側から見れば、都合よく使い分けられているように映る場面です。

 ただし、請求されたからといって、その金額をそのまま支払う義務が生じるわけではありません。事前に有効な合意があったのか、金額が相当といえるのか、その場の状況で任意に応じたといえるのかが個別に検討されます。

(4)店が摘発されたとき、客が完全に無関係でいられるとは限らない

 摘発の対象は、原則として店側です。客が売春防止法違反で立件されることは想定されていません。

 もっとも、捜査の過程では顧客名簿、予約履歴、防犯カメラの映像などから利用の事実が把握され、参考人として事情を聴かれる立場になることがあります。氏名や連絡先が記録に残ることもあります。

 刑事責任を問われないこととは別に、呼び出しを受けること自体が、勤務先や家族に対して説明のつきにくい事態を招くことがあるという点は、現実的なリスクとして意識しておく必要があります。

(5)ルール違反を理由とした高額請求・情報を握られることによる圧力

 「本番をした」「規約違反だ」といった理由で、その場で高額の支払いを求められる、身分証を撮影される、勤務先や家族構成を告げさせられるといったご相談もあります。

 請求の態様によっては、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(同249条)の問題になり得ます。もちろん、店側の請求がすべて違法になるわけではありませんので、その場で結論を出さず、内容を持ち帰って検討することが重要です。

4.「関知しない」という建前は、客側の主張も通しにくくする

 見落とされがちですが、この建前は客側が何かを主張したい場面でも障害になります。

 サービス内容が事前の説明と違った、途中で打ち切られた、返金してほしい——こうしたとき、店側は「個室で何があったかは関知していない」という立場を取りやすくなります。建前は店を守る方向にだけ働き、客の側の権利主張を支えてはくれない、というのが実務上の感覚です。

5.前提そのものが動く可能性があること

 現在、この分野では法改正に向けた検討が進んでいます。

 法務省は2026年3月24日、「売買春に係る規制の在り方検討会」(座長・北川佳世子早稲田大学教授)の初会合を開きました。同年5月29日の第4回会議では改正に向けた論点が取りまとめられ、買う側への処罰規定を導入するかどうか、および売春として禁止する行為の範囲(現行法上の「性交」は挿入を伴う行為に限られると解されています)が検討項目として整理されています。

 議論は継続中であり、結論は出ていません。改正の内容や時期を予測して不安を煽ることは適切ではありませんが、「客には罰則がない」という現在の前提が、将来にわたって固定されたものではないという点は、知っておいてよいと思われます。

6.トラブルになったときに気をつけたいこと

避けたいこと

  • その場の勢いで請求額を支払う
  • 内容を確認しないまま示談書・誓約書にサインする
  • 身分証を渡す、コピーや撮影をさせる
  • 相手方本人に直接連絡して謝罪や交渉をしようとする
  • やり取りの記録(LINE、メール、通話履歴)を消す
  • 何も言わずに立ち去る、連絡を絶つ

とりたい対応

  • 身の危険を感じる状況であれば、まず安全の確保を優先する
  • やり取りを記録として残しておく
  • 請求内容を「誰が・何を根拠に・いくらを・いつまでに」の形で書面で確認する
  • 連絡窓口を一本化し、早い段階で弁護士に相談する

 その場で結論を出さないこと、単独で交渉しないこと。この2点だけでも、後の選択肢は大きく変わります。

まとめ

  • 「自由恋愛」は、店が売春防止法上の責任を切り離すために組み立てられた説明であり、客を守るための理屈ではない
  • 客に売春防止法上の罰則がないのは建前のおかげではなく、同法がもともと買う側に罰則を置いていないため
  • 利用する側の実質的なリスクは、相手の年齢、同意の有無、金銭請求、捜査への巻き込まれ、個人情報を握られることに集中している
  • 買う側の処罰を含む法改正の議論が進行中で、前提が動く可能性がある

 トラブルが起きたとき、店の建前は利用者の側に立ってはくれません。請求を受けている、警察から連絡があった、相手の年齢に不安がある——そうした段階で、ご自身で判断せずにご相談いただくことをおすすめします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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