【風俗トラブル】店から「女の子が本番を強要されたと言っている」と電話が来たら、まず何をすればいい?
この記事は、2026年10月14日時点の刑法、民法、民事訴訟法、刑事訴訟法、個人情報の保護に関する法律の規定に基づいて書いています。刑罰の表記は、2025年6月1日に施行された改正刑法による「拘禁刑」に改めています。
「店の事務所で、誓約書に勤務先の名前と電話番号まで書いてしまった。会社に電話が来るのではないかと、仕事が手につかない」。「身分証の住所は今の部屋だが、念のためと言われて実家の住所も書いた。親のところに何か届くのではないか」。風俗店でトラブルになった後、このようなご相談をいただくことがあります。
インターネット上では、「書いた情報を使って会社や家族に連絡すれば恐喝になる」「弁護士に依頼すれば連絡は止まる」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、書いた情報が実際にどのような場面で使われ得るのか、そのうちどれが違法な使い方で、どれが手続として認められた使い方なのかまで分けて説明している情報は、多くないように思います。
この記事では、勤務先や実家の住所を書面に書いた後に起こり得ることを、起こりやすさと法的な位置づけに分けて整理し、今のうちに整えておけることをまとめます。署名した書面そのものの効力は脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで、実家への連絡に絞った備えは【風俗トラブル】実家の住所を知られていた|親に知らせると言われたときの備えで取り上げています。
書いた情報は、店の側でどう使われるのか
店が誓約書や念書に勤務先や実家の住所を書かせる目的は、多くの場合、客が連絡を絶ったときに追いかける手がかりを確保しておくことにあります。書いた情報は店にとって「連絡の手がかり」になりますが、それをどう使ってよいかは、書面とは別に法律で決まっています。まずは、使われ方を三つに分けて見ておきます。
請求や連絡の宛先として
最も多いのは、示談金や違約金の支払いを求める連絡の宛先として使われる場面です。本人の携帯電話がつながらない、支払いが止まったといった事情があると、書いてあった勤務先や実家の住所に連絡しようとする動きにつながることがあります。
書面の当事者を特定する情報として
住所や勤務先は、書面に署名したのが誰なのかを特定する情報としても扱われます。後になって「その書面を書いたのは自分ではない」と争うことが難しくなるという意味で、書面の重みを増す働きをします。
裁判手続の送り先として
店が支払いを求めて訴えを起こしたり、支払督促を申し立てたりする場合には、相手方の住所を書いて裁判所に提出します。裁判所からの書類は、原則として住所や居所に送られます(民事訴訟法103条1項)。これは法律が予定している使い方であり、それ自体を止めることはできません。
書いた後に起こり得ること|場面と法的な位置づけ
書いた後に起こり得ることを、起きやすい場面と法的な位置づけに分けると、次のようになります。
| 起こり得ること | 起きやすい場面 | 法的な位置づけ |
|---|---|---|
| 本人の携帯電話への連絡や請求が続く | 支払いを約束した、分割払いの途中、連絡を返していない | 請求すること自体は直ちに違法ではない。害悪の告知を伴えば恐喝(刑法249条)などの問題になる |
| 勤務先や実家に電話や郵便が届く | 本人と連絡がつかない、支払いが止まった | トラブルの内容を告げ回れば名誉毀損(刑法230条)やプライバシー侵害(民法709条、710条)、職場への執拗な電話は業務妨害(刑法233条、234条)の問題になり得る |
| 「会社や家族に知らせる」と告げられる | 金額の交渉中、支払いを渋ったとき | 支払わせる目的なら恐喝(刑法249条)、義務のないことをさせる目的なら強要(刑法223条)の問題になり得る |
| 勤務先や実家を訪ねて来られる | 請求額が大きい、交渉が長引いている | 退去を求めても居座れば不退去(刑法130条)の問題になる |
| 系列店や第三者に情報が渡る | 系列店がある、店の背後に別の人物がいる | 本人の同意のない第三者提供は個人情報保護法27条1項の問題になる |
| 警察に情報が伝わる | キャストや店が被害届を出した | 捜査機関からの照会(刑事訴訟法197条2項)への回答は「法令に基づく場合」として認められている(個人情報保護法27条1項1号) |
| 訴状や支払督促が届く | 店が裁判手続を選んだ | 法律に沿った手続であり、違法ではない(民事訴訟法103条、382条) |
多いのは、本人への連絡が続く形
私の事務所でお受けするご相談では、書いた直後に勤務先や実家へ連絡が入るよりも、まず本人の携帯電話に連絡や請求が続く形が多い傾向にあります。勤務先や実家への連絡が問題になるのは、本人との連絡が途絶えた後や、約束した支払いが止まった後が中心です。言い換えると、本人とのやり取りがどう推移するかが、その後の展開を左右しやすいということです。
警察や裁判手続で使われる場面もある
表の下の二つは、違法な使い方ではありません。キャストや店が被害届を出した場合、店が把握している客の情報は捜査の過程で警察に伝わることがあり、その後に警察から本人へ連絡が来ることがあります。警察から連絡が来たときの考え方は「警察から電話が来た」|折り返す前に確認したい3つのことで整理しています。
店が「法的措置」を予告してきた場合に、実際に裁判手続に進むのかどうかの見極めは、【風俗トラブル】店から届いた請求書面に「法的措置」と書いてある|本当に訴えられるのかで取り上げています。
勤務先と実家とで、事情が異なる点
同じ「書いた情報」でも、勤務先と実家とでは、連絡が届いたときに起きることが異なります。
勤務先の場合
勤務先への電話は、多くの場合、代表番号や受付を通じて入ります。用件をはっきり告げずに本人の在籍を確かめる電話であっても、繰り返されれば周囲に不審に思われることがあります。他方で、職場に事情を告げ回る行為や、業務に支障が出るほど電話をかけ続ける行為は、前の表のとおり刑事上の問題にもなり得る行為です。
なお、裁判所からの書類が勤務先に送られるのは、住所や居所が分からない場合や、そこに送ることに支障がある場合に限られています(民事訴訟法103条2項)。店が現在の住所を把握しているのであれば、書類はまず住所に送られるのが通常です。会社に伝わる経路の全体像は勤務先に伝わる経路|通知制度と事実上の伝達を分けるで整理しています。
実家の場合
実家への連絡は、本人ではなく家族が受け取ることになります。電話や郵便を受けた家族が、本人の代わりに支払いを約束してしまうことのないよう、あらかじめ「本人のことは答えない」「郵便は開けずに保管する」といった応対を共有しておくことが考えられます。家族には、本人の示談金や違約金を支払う義務はありません。配偶者宛ての郵便を予告された場合については【風俗トラブル】配偶者宛てに郵便を送ると言われた|家族に届く前にできることで取り上げています。
書いたことで、何かを約束したことになるのか
勤務先や実家の住所を書いたことを、「連絡されても仕方がないことを認めた」と受け止めてしまう方もいらっしゃいます。しかし、住所や勤務先を書いたからといって、そこへ連絡することを認めたことにはなりません。
連絡先を書くことと、連絡を受け入れる約束とは別のもの
書面に勤務先や実家の住所を書くことは、通常、署名した人を特定するための記載にとどまります。仮に書面に「勤務先に連絡することに異議を述べない」といった文言があったとしても、その文言が、職場に事情を告げ回ることや、支払わせるために家族への連絡をちらつかせることまで正当にするわけではありません。
一緒に署名した書面の効力は、内容と作成の状況で決まる
住所を書いた書面に、金額や違約金の定めが含まれていることも少なくありません。その効力は、書かれた内容が妥当か、どのような状況で書かされたかによって判断されます。退出できない状況で署名を求められた場合などには、強迫による意思表示として取り消せる余地があります(民法96条1項)。条項ごとの考え方は店が示す誓約書の条項別チェック|どこが効き、どこが効かないかで整理しています。
情報の扱いをやめるよう求める道もある
店は、客の個人情報を扱う事業者として個人情報保護法の規律を受けます。不当な行為を助長するおそれのある方法での利用は禁じられており(個人情報保護法19条)、そうした扱いがされている場合や、同意なく第三者に提供されている場合には、利用の停止や消去、第三者への提供の停止を求めることができます(同法35条1項、3項)。実際の解決の場面では、示談の条件として、書面の原本や身分証の写しの返還・破棄を取り決めておくことが多くなります。示談書に入れておきたい条項は風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないで取り上げています。
書いた後、今のうちに整えておくこと
連絡がまだ来ていない段階でも、整えておけることがあります。
何をどこまで書いたかを書き出す
まず、店に渡した情報の範囲を書き出しておきます。記憶が新しいうちにまとめておくと、後で連絡が来たときに、相手がどこまで把握しているのかを確かめる材料になります。
- 書いた項目(勤務先の名称・部署・電話番号、実家の住所、家族の名前や連絡先など)。
- 書面の表題(「誓約書」「念書」「示談書」など)と、金額や支払期限の記載の有無。
- 書面の控えや写真が手元にあるかどうか。
- 身分証や名刺を撮影されたかどうか。
- 書かされたときの場所、時間、同席者の人数、退出できる状況だったか。
書面の写真が手元にない場合の確かめ方は、【風俗トラブル】店の事務所で書かされた紙の写真を撮っていない|内容を後から確かめる方法で詳しく取り上げています。
しないほうがよい対応
不安が強いと、連絡を止めてもらうために自分から動きたくなることがあります。ただ、次のような対応は、かえって状況を複雑にすることがあります。
- 勤務先や実家に連絡しないでほしいと頼む代わりに、追加の金銭を渡すこと。
- 同じ趣旨の新しい書面に、求められるまま署名すること。
- 勤務先や家族に先回りして、事実と異なる説明をしておくこと。
- 店からの連絡を、内容を確かめないまますべて削除してしまうこと。
連絡の窓口を弁護士に移す
弁護士が依頼を受けると、店やキャストに対して受任を知らせる通知を送り、今後の連絡は弁護士にするよう、本人や家族、勤務先へは連絡しないよう求めます。通知の働きについては受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるかで解説しています。
通知を送れば必ず連絡が止まるというものではありませんが、窓口が明確になることで、本人が一人で電話や呼び出しに応じる場面は少なくなります。通知の後も勤務先や実家への連絡が続く場合には、前の表で見た刑事上・民事上の手段を検討することになります。
よくあるご質問
書いた勤務先をすでに辞めている場合や、実家に誰も住んでいない場合はどうなりますか?
その場合、書いた情報を使った連絡は本人に届かない可能性があります。ただし、相手が弁護士に依頼した場合には、弁護士会照会などの手続を通じて現在の住所がたどられることもあります。仕組みについては弁護士会照会とは|風俗トラブルで相手方を特定する仕組みで解説しています。
まだ何の連絡も来ていません。このまま待っていてよいですか?
心当たりが乏しく、金額の提示もない場合などには、記録を整えたうえで待つことも一つの選択です。他方で、勤務先や実家の住所を店に把握されている場合には、連絡が来たときの窓口だけでも先に決めておくと、慌てずに済みます。待ち方の選び方は【風俗トラブル】「被害届を出すかもしれない」と言われたまま連絡が途絶えたら、どうしておく?で取り上げています。
勤務先に連絡が入ったら、会社から処分を受けることになりますか?
勤務時間外の私生活上の出来事について、会社が懲戒処分を行える場面は限られています。ただし、会社の信用や業務との関わり方によっては、事情の説明を求められることがあります。会社への影響を抑える考え方は風俗トラブルが原因の失職・懲戒|会社にバレる典型ルートと防止策で整理しています。
まとめ
- 勤務先や実家の住所は、請求の宛先、書面の当事者の特定、裁判手続の送り先として使われ得る(民事訴訟法103条1項)。
- 多いのは本人への連絡が続く形であり、勤務先や実家への連絡は、本人との連絡が途絶えた後や支払いが止まった後に問題になりやすい。
- 支払わせるために勤務先や家族への連絡をちらつかせれば、恐喝(刑法249条)や強要(刑法223条)の問題になり得る。
- 職場や家族に事情を告げ回れば名誉毀損(刑法230条)やプライバシー侵害(民法709条、710条)、執拗な電話は業務妨害(刑法233条、234条)の問題になり得る。
- 警察の照会への回答や、裁判所を通じた書類の送付は、法律に沿った使い方である(刑事訴訟法197条2項、個人情報保護法27条1項1号)。
- 住所を書いたことは、そこへ連絡することを認めたことにはならず、不当な利用には停止や消去を求める道もある(個人情報保護法19条、35条)。
- 書いた内容の範囲を書き出し、家族との応対を決め、必要に応じて連絡の窓口を弁護士に移しておく。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。勤務先や実家の住所を書いてしまい、この先の連絡を心配されている方も、すでに会社や実家に電話や郵便が届いてしまった方も、書いた内容と現在の状況を伺ったうえで、今できる備えを一緒に整理します。
ご相談の内容が勤務先やご家族に伝わらないよう、連絡方法や書面の送付先にも配慮します。一人で店とやり取りを続ける前に、一度ご相談ください。


