【風俗トラブル】店と示談したのに、女の子本人から別に請求されることはある?

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法・刑法・刑事訴訟法・弁護士法にもとづいて書いています。不同意性交等罪の名称と公訴時効は、2023年7月施行の刑法・刑事訴訟法改正後の内容で記載しています。


店と話をつけて示談金も払ったのに、しばらくして女の子本人から「私は納得していない」と連絡が来た。風俗店の利用をめぐるご相談では、こうした二度目の請求を心配される方や、実際に受けてしまった方が一定数いらっしゃいます。反対に、店とは示談が済んでいるのだから、もう誰からも何も言われないはずだと考えている方もいます。

 「店と示談すれば終わり」という説明は、示談書の作り方によってはそのとおりです。ただ、示談の効力が誰にまで及ぶかは、書面に誰が当事者として載っているか、店が本人に代わって話をまとめる立場にあったかによって変わります。この点は、店から渡された紙を見ただけでは分かりにくいところです。弁護士ドットコムにも、店と示談をしたものの示談書に女性の名前がなく、女性から別に告訴や賠償請求をされないかという質問が寄せられています。

 この記事では、店との示談が女性本人の請求や被害届にどこまで影響するのかを整理し、本人から連絡が来たときの受け止め方と、これからできる備えをまとめます。示談書に入れる条項の詳細は風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないで、店がキャストに代わって交渉することの適法性は店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点で扱っています。

店との示談と女性本人の請求は、分けて考える

示談の効力は、書面の当事者の間に生じる

 示談は契約の一種で、その効力は合意した当事者の間に生じるのが原則です。店の責任者と客が署名した示談書であれば、そこで解決したのは「店と客の間の問題」ということになります。女性本人が当事者として加わっていない場合、本人が客に対して持つ損害賠償の請求権は、その書面だけでは当然には消えません。

 店が用意する示談書には、「甲乙間には本件に関し何らの債権債務がないことを確認する」という清算条項が入っていることがよくあります。この「甲」と「乙」が店と客であれば、確認されたのは店と客の間に債権債務がないことにとどまります。清算条項は署名した当事者どうしの請求を整理するものであり、署名していない女性本人の請求までは原則として整理できません。

店が求めるお金と、本人が求めるお金は中身が違う

 店が客に求めるお金は、規約違反の違約金や営業上の損害といった名目が中心です。これに対して女性本人が求めるのは、心身の被害に対する慰謝料、治療費、働けなかった期間の補償などです。請求する人も請求の根拠も異なるため、店に支払ったことで本人の請求がなくなるかどうかは、そのお金がどの名目で、誰の損害の分として支払われたのかとも関係してきます。

 また、本人が被害を受けたと主張している場面で、店が本人に代わって条件を示し、示談金を受け取る行為は、報酬を得る目的で行われていれば弁護士法72条が禁じる非弁行為と評価される可能性があります。店が窓口になっていたこと自体が、後で示談の位置づけをめぐる争いの原因になることもあります。

店との示談が本人にも及ぶのは、どのような場合か

本人が当事者として署名している

 最も分かりやすいのは、女性本人が示談書に当事者として署名している場合です。本人の名前で「今後一切の請求をしない」「刑事処罰を望まない」といった内容が書かれ、清算条項も本人と客の間で結ばれていれば、本人が改めて同じ件で請求する余地は小さくなります。本人・店・客の三者が一つの書面に署名する形も、この類型に入ります。

店が本人から任されて示談した場合

 店が本人から交渉と示談金の受け取りを任されていた、つまり代理権を与えられていた場合には、店が本人の代理人として結んだ示談の効力は本人にも及びます(民法99条1項)。反対に、任されていないのに店が本人の分まで話をまとめた場合は無権代理となり、本人が後から認めない限り、本人には効力が及びません(同法113条1項)。

 実際には「任されていたかどうか」が書面から読み取れないことが多く、ここが争いになりやすい部分です。本人が店から示談金の一部を受け取っていた、店の対応を了承するやり取りが残っているといった事情は、本人が店に任せていた、または後から認めた(追認、同法116条)ことを示す材料になり得ます。

店に払ったお金が本人への支払いとして扱われるか

 本人の損害分として店に支払ったお金が、本人への支払いとして扱われるかどうかも問題になります。店に受け取る権限がなかった場合でも、受け取る権限があるように見え、客がそう信じたことに落ち度がなかったときは、本人への支払いとして有効と扱われる余地があります(民法478条)。ただ、これは事情次第で判断が分かれる部分で、店の説明をそのまま信じて支払ったというだけで認められるとは限りません。

 示談書の状態ごとの見通しを大まかに整理すると、次のとおりです。

示談書の状態女性本人から別に請求される可能性
本人が当事者として署名し、清算条項・宥恕条項がある改めて請求される余地は小さい
店が本人から委任を受けたことが書面で確認できる本人にも効力が及ぶと考えやすい
店と客だけが署名し、本人の名前がない本人の請求が残っている可能性がある
示談書がなく、口頭の約束や手書きのメモだけ合意の範囲そのものが争いになりやすい


 表はあくまで目安で、実際には書面の文言や支払いの経緯を一つずつ確認して判断します。

刑事手続は、店との合意だけでは止まらない

被害を申告するかどうかは本人が決める

 店が「警察には行かせない」「この件は外に出さない」と約束していても、被害を申告するかどうかは本人が決めることで、店が本人に代わって約束できる性質のものではありません。また、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪は、被害者の告訴がなくても起訴できる罪です。本人との示談で処罰を望まない意思(宥恕)が示されていれば、検察官が処分を決めるうえで考慮される事情にはなりますが、店との示談だけではその効果は期待しにくいといえます。

 店との示談は、店と客の金銭の問題を整理するものであり、女性本人の被害申告をとどめる効力までは持たない点に注意が必要です。示談金を支払った後に被害届が出された場合の流れは、【風俗トラブル】示談金を払ったのに被害届を出された|合意の効果と刑事手続で解説しています。

時間が経ってから動き出すこともある

 刑事手続には公訴時効があり、不同意性交等罪は15年、不同意わいせつ罪は12年とされています(刑事訴訟法250条3項)。民事の損害賠償請求も、損害と加害者を知った時から3年(生命・身体を害する場合は5年)、行為の時から20年という期間が定められています(民法724条、724条の2)。

 店との示談から数か月、場合によっては数年たってから本人が動き出すこともあり得るため、示談書や支払いの記録はすぐに処分せず、一定期間は保管しておくことをおすすめします。

女性本人から連絡が来たときに確かめること

相手が本当に本人なのかを確かめる

 まず確かめたいのは、連絡してきた人が本当にそのときの女性本人なのかという点です。本人を名乗る別人や、本人の交際相手・知人を名乗る男性から連絡が来ることもあります。名前やアカウントだけでは本人と判断できないことが多く、本人確認をしないまま支払うと、後で別人だったと分かることもあります。

 この点については、【風俗トラブル】支払った後に相手が別人だと分かった|本人確認をしない示談の危うさと【風俗トラブル】キャストの交際相手・知人を名乗る男性から連絡が来たもあわせてご覧ください。

店との示談書と、支払いの記録をそろえる

 次に、店との間で何を約束し、いくらを何の名目で支払ったのかを確認します。手元にそろえておきたいのは、次のような資料です。

  • 店と交わした示談書・念書・誓約書の控え。
  • 示談金の振込記録や、現金で渡した場合の受領書。
  • 店の責任者とのLINE・メール・通話の録音。
  • 店が「本人にも渡す」「本人も納得している」と説明していた記録。


 示談書の原本を店だけが持っていて手元に控えがない場合は、【風俗トラブル】示談書の原本を店しか持っていない|控えを求めるべき理由で控えの求め方を整理しています。

その場で支払う約束や、会う約束をしない

 本人から個人のLINEやSNSで連絡が来ると、早く終わらせたい気持ちから、その場で金額に応じたり、会って話そうとしたりする方がいます。しかし、店にすでに支払った分がどう扱われるのかが整理されないまま本人にも支払うと、同じ件で二重に支払う形になりかねません。事実関係を認める内容を文字で送ることも、後の交渉や刑事手続に影響することがあります。

 本人からの請求には正当な部分が含まれている可能性もあるため、無視するのでも、言われるままに払うのでもなく、店との示談の内容を踏まえて対応を決めることが大切です。店を通さない連絡への向き合い方は【風俗トラブル】キャスト本人から個人のLINEで連絡が来た|店を通さない請求の扱いで、示談後に重ねて請求された場合の考え方は示談したのに再度請求された|清算条項と蒸し返しへの対応で解説しています。

これから示談する方・示談を終えた方ができる備え

これから示談するなら、本人を当事者に入れる

 これから示談をする場合は、女性本人を示談書の当事者に入れ、本人の署名を得ることが、後の請求を防ぐうえで基本になります。店・本人・客の三者で一つの合意書を作り、本人の請求と店の請求をまとめて清算する形にすれば、誰の請求がどこまで終わったのかが書面上はっきりします。

 本人確認の方法、宥恕条項・清算条項の入れ方、個人情報の破棄といった点もあわせて整えておく必要があります。三者で示談が成立した例として、【解決事例】風俗店で「警察に行く」と告げられた本番行為トラブル|解決金30万円で三者示談が成立した事例もご参照ください。

店とだけ示談を終えているなら

 すでに店とだけ示談を終えている場合、取れる方法としては、店を通じて本人が示談金を受け取ったことの確認書をもらう、弁護士から本人または本人の代理人に連絡し、店に支払った分を前提とした合意書を作る、といったものが考えられます。

 一方で、こちらから動くことで話が蒸し返されるのではないかと心配される方もいます。動くかどうかは、示談書の文言、店に支払った金額、本人に示談金が渡ったかどうか、店からの説明の内容などを見て判断することになります。どちらがよいかを一人で決めにくい場合は、手元の書面を持って弁護士に相談し、見通しを確認してから決めるのが現実的です。

よくあるご質問

店から「女の子にもちゃんと渡して納得させた」と言われました。それでも本人から請求されることはありますか?

 店の口頭の説明だけでは、本人が示談金を受け取り、内容に納得したことの裏付けにはなりません。本人の署名入りの受領書や、本人が当事者になった合意書がない場合には、本人から別に請求される可能性は残ります。店の説明があった事実は、やり取りの記録として残しておくとよいでしょう。

店にすでに支払った分は、本人への支払いから差し引けますか?

 店に支払ったお金の名目や、店が本人の分を受け取る立場にあったかどうかによって扱いが変わります。本人の損害分として支払い、実際に本人に渡っていたことが分かれば、その分を考慮するよう交渉する材料になります。示談書に「本人の慰謝料を含む」といった記載があるかどうかも確認したい点です。

本人から請求された場合、店に払ったお金を店から返してもらえますか?

 店が本人の分として示談金を受け取りながら本人に渡していなかった場合などには、店に対して返還を求める余地があります(民法703条)。ただ、店が交渉に応じない、すでに閉店しているなど、実際の回収が難しい場面もあります。示談後に店が閉店・改名した場合の考え方は、【風俗トラブル】示談の後に店が閉店・名前を変えた|合意は誰に対して有効かで解説しています。

まとめ


  1. 示談は契約の一種で、効力は書面の当事者の間に生じるのが原則であり、店と客だけの示談書では女性本人の請求は当然には消えない。
  2. 清算条項が整理するのは署名した当事者どうしの請求で、本人の請求まで整理するには本人を当事者に入れる必要がある。
  3. 店が本人から任されていれば示談の効力は本人にも及ぶが(民法99条1項)、任されていなければ本人が追認しない限り及ばない(同法113条1項・116条)。
  4. 店に支払ったお金が本人への支払いと扱われるかは、店に受け取る権限があるように見えたか等の事情によって判断が分かれる(民法478条)。
  5. 不同意性交等罪は告訴がなくても起訴でき、公訴時効は15年とされており、店との示談だけでは本人の被害申告はとどまらない(刑事訴訟法250条3項)。
  6. 民事の損害賠償請求にも期間の定めがあるため、示談書や支払いの記録は一定期間保管しておく(民法724条・724条の2)。
  7. 本人から連絡が来たら、本人確認・記録の整理を先に行い、その場で支払いや面会の約束をしない。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店の利用をめぐるトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。店と交わした示談書の内容から、女性本人の請求がどこまで残っているかを確認し、必要に応じて本人や本人の代理人との窓口をお引き受けします。

店とは示談を終えたものの不安が残っている方も、女性本人から連絡が来て返事に迷っている方も、お一人で対応を決める前にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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