【風俗トラブル】女性側から本番を持ちかけられたのに「強要された」と言われたら、反論できる?

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

この記事は、2026年10月時点の刑法(2023年改正後の不同意性交等罪、2025年6月施行の拘禁刑を反映)、刑事訴訟法、売春防止法、民法にもとづいて作成しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は弁護士にご相談ください。


「女性のほうから『プラスいくらでどうか』と持ちかけてきたのに、終わった後で店の人を呼ばれ、強要したことにされた」。風俗トラブルのご相談では、このような声をうかがうことが少なくありません。反対に、働く女性の側からは「お店の決まりだからと断ったのに押し切られた」という声もあり、同じ密室の出来事でも、双方の受け止め方は大きく食い違います。

 「女性から誘われたのなら同意があったのだから、罪にはならない」という説明は、それ自体が誤りというわけではありません。ただ、持ちかけられた事実があっても、その後のやり取りや行為の中身によっては同意の範囲が争われますし、反論の伝え方を誤ると、自分に不利な言葉だけが記録に残ってしまうこともあります。

 この記事では、「女性側から持ちかけられた」という事情が、刑事・民事・店との関係でそれぞれどのような意味を持つのかを整理し、反論を支える材料と伝え方に絞って解説します。罪名そのものの仕組みは【風俗トラブル】不同意性交等罪と言われた|風俗の場面で罪名が出たときの整理、同意の証明一般については「同意があった」を証明できるか|風俗トラブルの証拠と限界をご覧ください。

「強要された」という言葉は法的に何を指しているのか

店や女性が言う「本番強要」と刑法の罪名

 風俗の現場で使われる「本番強要」という言葉は、刑法の強要罪(刑法223条)を指しているわけではないのが通常です。問題にされているのは多くの場合、同意のない性交等を処罰する不同意性交等罪(刑法177条1項)で、法定刑は5年以上の有期拘禁刑と重く定められています。

 また、刑事事件として扱われない場合でも、同意のない行為は民事上の不法行為(民法709条、710条)にあたるとして、慰謝料を請求する根拠とされることがあります。

三つの場面に分けて考える

 「強要された」と言われたときには、刑事事件として捜査の対象になるかという場面、女性本人から損害賠償を求められる場面、店から規約違反を理由に「罰金」などを求められる場面の三つが重なっています。「持ちかけられた」という事情が持つ意味は、この三つで同じではありません。反論を考える前に、いま自分がどの場面の請求や連絡を受けているのかを切り分けることが出発点になります。

 店からの「罰金」については、そもそも私人である店が刑罰としての罰金を科すことはできません。考え方は「罰金」を請求された|私人が罰金を科すことはできないで詳しく扱っています。

「女性から持ちかけられた」はどこまで反論になるのか

持ちかけた事実は同意をうかがわせる大切な事情

 不同意性交等罪は、暴行や脅迫、アルコールの影響、拒否するいとまがない状況など、刑法176条1項に挙げられた事情やこれに類する事情によって、相手が同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態で性交等をしたときに成立します。

 女性の側から具体的な条件を示して行為を持ちかけたという事実は、少なくともその時点で、女性が自分の意思で判断できる状態にあったことをうかがわせるものです。誘いの有無は、同意があったかどうかを判断するうえで重要な事情として扱われます。

それでも持ちかけた事実だけでは決着しない理由

 一方で、持ちかけた事実があれば必ず同意が認められるというわけではありません。同意は行為の時点ごと、また行為の内容ごとに考えられるものだからです。次のような事情があると、誘いの存在とは別に、同意の範囲が争点になりやすくなります。

  • 誘いに対していったん断り、その後の流れで行為に至った。
  • 示された条件(避妊具の使用など)と異なる形で行為が行われた。
  • 行為の途中で、女性がやめてほしいと伝えていた。
  • 飲酒や体調の影響で、女性が判断しにくい状態にあった。


 また、「誘われたが断った。挿入もしていない」という場合には、争点は同意の有無ではなく、性交等にあたる行為があったかどうかに移ります。刑法177条1項の性交等には、陰茎を挿入する行為のほか、膣や肛門に指などを挿入するわいせつな行為も含まれますので、どのような接触があったのかを具体的に整理しておく必要があります。

追加料金を伴う誘いと売春防止法の関係

 対価を示した誘いは、売春防止法上の「売春」(同法2条)にかかわる話になります。同法は売春をすることやその相手方になることを禁じていますが(同法3条)、売春をした本人や客を処罰する規定は置いておらず、処罰の対象は公衆の目にふれる方法での勧誘、周旋、場所の提供などに限られています(同法5条、6条、11条)。

 そのため、「女性も違法なことを持ちかけたのだから、責任は相手にある」という主張は、刑事の場面ではあまり力を持ちません。他方で、追加料金のやり取りがあったこと自体を理由に客が処罰されることも通常はありません。対価のやり取りは、同意の存在をうかがわせる材料として、正確に整理しておくべき事実といえます。客の立場の詳しい整理は対価を払って本番に至った場合|売春防止法上、客はどう位置づけられるかをご覧ください。

反論を支える材料|何が残っていれば主張が通りやすいか

手元に残りやすい記録と、その意味

 「持ちかけられた」という主張は、言葉だけでは相手の説明と水掛け論になりがちです。主張を支える材料としては、次のようなものが考えられます。

材料示しうること扱いの注意
店のサイトやチャットでの事前のやり取り行為の前に女性側から条件が示されていたこと日時や相手の表示が分かる形で保存する
女性個人とのLINEなどのやり取り店を通さない誘いがあったこと気まずくても削除しない
追加料金の受け渡しの記録(ATMの利用明細など)対価を前提にした話があったこと受け渡しの経緯を時系列で書き出す
行為の前後の会話の録音誘いの言葉や、終了後の普段どおりの様子無断録音には別の論点がある
ホテルの入退室時刻や防犯カメラ終了後の様子や、申告までの時間の経過自分では取得できず、弁護士や捜査機関を通じた確認になる


 保存の方法はLINE・メール・録音データの保存と渡し方|消してはいけない理由、録音の扱いは録音はどこまで証拠になるか|風俗トラブルでの残し方で解説しています。

記録がない場合はその日の記憶を書き出す

 密室での出来事は、客観的な記録がほとんど残っていないことも多くあります。その場合でも、誰が、いつ、どのような言葉で持ちかけたのかを、できるだけ早く自分のメモに残しておくことには意味があります。

 記憶は時間とともに曖昧になり、後から細部を補っていくと、説明が途中で変わったと受け止められるおそれがあるためです。メモには、入室の時刻、誘いの言葉、それに対する自分の返事、行為の流れ、終了後の会話、店員が来るまでの経過を、覚えている範囲で書き出します。説明の変化がどう評価されるかは供述が途中で変わると不利になる理由|変遷の評価をご覧ください。

相手側の経過にも目を向ける

 反論を組み立てるときには、自分の側の記録だけでなく、相手側の経過も確認の対象になります。終了後すぐに申告されたのか、時間を置いてからだったのか、店員がどのくらいの時間で現れたのか、最初の段階でどのような金額が示されたのかといった事情は、申告の経緯を考えるうえでの手がかりになります。

 多くの申告は真剣な訴えであり、これらの事情だけで相手の説明を退けられるわけではありません。ただ、金銭の要求が先行している事案もあるため、支払いの前に経緯を落ち着いて確認しておくことが大切です。見極めの視点は美人局と正当な慰謝料請求の見分け方|払う前に確認すべきことで整理しています。

反論の伝え方|その場・店・警察で言葉を分ける

その場では曖昧な肯定をしない

 店員や警察官に事情を聞かれた場面で、動揺から「もしかしたら」「そうだったかもしれない」と答えてしまうと、その言葉が事実を認めたものとして扱われ、後の手続に影響することがあります。覚えていることは覚えている範囲で、分からないことは分からないと伝えることが大切です。

 取調べでは、自己の意思に反して供述しない権利があります(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)。作成された調書の内容が自分の説明と違う場合には、訂正を求めたり、署名押印を拒んだりすることもできます(同法198条4項、5項)。「誘われた」という一番伝えたい事実ほど、曖昧な言葉に埋もれさせないよう、言い方を決めてから話すことが重要です。取調べの注意点は「認める調書」を作られないために|風俗トラブルの取調べ対応の注意点で解説しています。

店に「誘われた」と伝えるときの注意

 店に対して「女性から持ちかけられた」と説明することは、裏返せば本番行為があったことを認める説明にもなります。店の規約違反を理由とする「罰金」や違約金を求められている場面では、その説明がどのように使われるかを考えてから伝える必要があります。

 違約金の合意があったとしても、金額や合意の経緯によっては無効とされる余地があります(民法90条)。その場で示談書や誓約書への署名を求められたときは、内容を確認しないまま応じないことが大切です。詳しくは誓約書の「罰金100万円」は本当に払う義務がある?法的効力を検証と店が用意した示談書にサインする危険性|宥恕条項・清算条項の落とし穴をご覧ください。

警察から連絡が来たとき

 警察から任意の事情聴取の連絡が来た場合は、出頭の前に事実関係を整理しておくことをおすすめします。誘いの言葉、行為の内容、終了後の様子は、取調べで具体的に尋ねられやすい項目です。一度目の説明で正確に伝えられるよう、弁護士と事前に確認しておくと、説明の食い違いを避けやすくなります。聞かれやすい項目は風俗事件の取調べで聞かれること|供述が争点に直結する項目にまとめています。

反論しながら示談を検討するという選択

否認と示談は両立しうる

 「誘われたのだから支払う理由はない」と考えるのは自然なことです。ただ、不同意性交等罪は法定刑が重く、被害届が受理されれば、逮捕や勾留に至る可能性も否定できません。

 事実関係を争いながら、行為を認める内容を含まない形で解決金を支払い、被害届を出さないことや取り下げることを合意するという解決の仕方もあります。反論することと早期の解決を図ることは、どちらか一方しか選べないものではありません。どちらに重心を置くかは、残っている材料、仕事や家族への影響、相手方の姿勢を踏まえて判断することになります。

店との合意と女性本人との合意は別に考える

 店と話がまとまっても、女性本人が被害の申告や損害賠償の請求をする権利は、当然には消えません。合意をするときは、誰と誰の間の合意なのか、女性本人の意思が反映されているのか、刑事処罰を求めない旨や清算の範囲がどう書かれているのかを確認する必要があります。

 なお、弁護士でない者が報酬を得る目的で他人の法律事件について示談交渉をすることは、弁護士法72条との関係で問題になりえます。店が女性に代わって交渉に出てきた場合も、その立場を確認しておくとよいでしょう。示談書に入れるべき条項は風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないで解説しています。

よくあるご質問

追加料金を払っていたことを話すと、かえって不利になりませんか。

 追加料金を支払ったこと自体を理由に、客が売春防止法で処罰されることは通常ありません。対価を前提にした話があったことは、むしろ同意をうかがわせる事情の一つになります。ただし、店との関係では規約違反の説明にもなりえますので、誰に対してどのように伝えるかは、事前に整理しておくことをおすすめします。

誘われたけれど断ったのに、強要されたと言われています。何を争うことになりますか。

 この場合、中心になるのは同意の有無ではなく、性交等にあたる行為があったかどうかです。どのような体勢で、どのような接触があったのかを具体的に整理し、曖昧な言葉で認めてしまわないよう注意する必要があります。誘いを断った経緯は、その後の行為に及ぶつもりがなかったことを示す事情として意味を持つことがあります。

時間が経ってから「強要だった」と連絡が来ました。今からでも反論できますか。

 反論は可能です。不同意性交等罪の公訴時効は15年と長く(刑事訴訟法250条3項2号)、時間が経ってからの申告もありえます。記憶が薄れている部分は無理に補わず、当時の記録や利用明細などを手がかりに事実を整理していきます。時間が経ってからの連絡への向き合い方は【風俗トラブル】数か月前の利用について突然連絡が来た|時間が経ってからの請求もご覧ください。

まとめ


  1. 風俗の現場でいう「本番強要」は、多くの場合、不同意性交等罪(刑法177条1項)や民事上の不法行為(民法709条、710条)の主張を指している。
  2. 女性側から持ちかけられた事実は、同意をうかがわせる重要な事情になるが、それだけで同意の範囲がすべて決まるわけではない(刑法176条1項、177条1項)。
  3. 誘いを断った場合には、同意ではなく、性交等にあたる行為があったかどうかが争点になる。
  4. 売春防止法は売春をした本人や客を処罰しておらず、追加料金のやり取りは同意の材料として正確に整理すべき事実である(同法3条、5条)。
  5. その場では曖昧な肯定をせず、黙秘権や調書の訂正・署名拒否の権利を踏まえて話す(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項・5項)。
  6. 店への説明は本番行為の自認にもなるため、違約金の請求を受けているときは伝え方を整理してから話す(民法90条)。
  7. 否認と示談は両立しうるため、残っている材料と生活への影響を踏まえて方針を決める。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。女性側から持ちかけられたのに「強要された」と言われ、店からの請求や警察からの連絡に不安を感じている方は、やり取りの記録を消さずに手元に残したうえでご相談ください。
事実関係を一緒に整理し、反論すべき点と、早期の解決に向けた道筋を検討します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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