風俗トラブルが原因の失職・懲戒|会社にバレる典型ルートと防止策
「お金を払って本番に至った。これは売春防止法違反になるのか」。性風俗の利用にまつわるご相談で、繰り返し出てくる質問のひとつです。
インターネット上では「違法だが罰則はない」「客は捕まらない」という説明をよく見かけます。この二つは似ているようで、指している中身が違います。前者は法律が禁止しているかどうかの話、後者は刑罰が定められているかどうかの話です。この記事では、売春防止法という一つの法律の中で、対価を払った客がどこに位置づけられているのかを、条文の並び順に沿って確認していきます。
この記事で扱う範囲
先に、どこまでを扱うかをはっきりさせておきます。
- 相手が18歳以上の成人であることを前提にします。相手が18歳未満の場合は、まったく別の法律が正面から働きます
- 売春防止法という一つの法律の中での位置づけに絞ります。同意の有無(刑法)、店との金銭トラブル、撮影、風営法上の問題は、それぞれ別の記事で扱っています
- すでに逮捕されている、警察から呼び出しを受けているという段階では、一般論だけで見通しは立ちません。個別にご相談ください
- 本番行為をすすめる趣旨の記事ではありません。処罰規定があるかどうかと、行為として問題がないかどうかは別の話です
売春防止法は、何を処罰するための法律か
出発点は第1条の目的規定です。売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰することなどによって売春の防止を図る、と書かれています。
名前は「売春防止法」ですが、条文の組み立ては「売春そのものを処罰する法律」ではなく、「売春を助長する行為を処罰する法律」です。この一点が、以下の話すべての土台になります。
2024年に法律の姿が一部変わっている
制定当初のこの法律には、第3章「補導処分」と第4章「保護更生」が置かれ、女性を対象とする保護更生の枠組みを持っていました。困難な問題を抱える女性への支援に関する法律の施行に伴い、2024年4月1日にこの2つの章は削除され、支援の枠組みは新しい法律へ移っています。
いまの売春防止法に残っているのは、主として禁止規定と、助長行為に対する刑罰の部分です。古い解説は保護更生の章が現存する前提で書かれていることがあるため、読むときには注意が必要です。
「売春」の定義に、客は入っているのか
第2条は、この法律でいう「売春」を、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること、と定義しています。三つの要素に分けると次のようになります。
| 要素 | 条文の言葉 | 誰の、何を指しているか |
|---|---|---|
| 対価 | 対償を受け、又は受ける約束で | 金銭などを受け取る側の行為 |
| 相手の範囲 | 不特定の相手方と | 受け取る側から見た相手の広がり |
| 行為 | 性交すること | 挿入を伴う性交を指すと解されている |
表にすると見えてきますが、第2条の主語は、対償を受け取る側です。この定義に当てはまるのは代金を受け取った側の行為であって、代金を払った客の行為が「売春」と呼ばれるわけではありません。客は、この定義の中には登場しないのです。
「不特定の相手方」は客側の事情ではない
自分は一人の相手としか会っていない、同じ人を指名し続けている、といった事情を気にされる方がいます。しかし「不特定」は、対償を受け取る側から見た相手方の広がりを指す言葉です。客側が誰と何回会ったかで決まる要素ではありません。
「性交」に含まれないサービス
現在の第2条の「性交」は、挿入を伴う性交を指すものと解されています。それ以外の性的サービスは、この定義には入りません。多くの業態が「売春」の定義に触れない形で営まれているのは、このためです。
ただし、定義の外にあることと、法的に何の問題もないこととは別です。風営法上の規制、刑法上の犯罪、自治体の条例は、それぞれ独自の線を引いています。
客が条文に登場するのは第3条
第3条は「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない」と定めています。ここでいう「その相手方」が、対価を払って応じた側、つまり客です。売春防止法の中で客が名宛人として登場するのは、この条文だけです。「何人も」とあるとおり、性別による区別もありません。
もっとも、第3条には罰則が置かれていません。禁止規定であって、処罰規定ではないのです。よく見る「違法だが罰則はない」という説明は、この構造を指しています。
「罰則がない」が意味しないこと
ここは誤解が生まれやすいところなので、意味しないことを並べておきます。
- 「してよい行為」という意味ではありません。法律は第3条で、売春をすることも、その相手方となることも禁止しています
- 「同意があった」ことの証明にはなりません。同意の有無は、刑法の別の条文の要件として、あらためて判断されます
- 「民事でも守られる」という意味ではありません。支払ったお金の扱いや店との関係は、民事のルールで別に決まります
- 「他の法律でも問題にならない」という意味ではありません。相手の年齢、場所、撮影、相手の状態は、それぞれ別の法律の話です
罰則は、誰に向けられているか
では、罰則はどこに置かれているのか。主なものを並べます。
| 条文 | 規制されている行為 | 想定されている立場 |
|---|---|---|
| 5条 | 売春をする目的での勧誘・立ちふさがり・客待ち・誘引 | 売春をしようとする側 |
| 6条 | 売春の周旋(仲介) | 仲介する側 |
| 7条 | 困惑させるなどして売春をさせる行為 | させる側 |
| 10条 | 売春をさせることを内容とする契約 | させる側 |
| 11条 | 情を知って場所を提供する行為 | 場所を提供する側 |
| 12条 | 管理売春(管理下に置いて売春をさせる) | 管理する側 |
| 13条 | 売春を行う場所の提供などのための資金等の提供 | 資金を出す側 |
並べてみると、名宛人は「売春をしようとする側」か「それを助ける・させる側」に限られています。買う側、つまり相手方を名宛人とした処罰規定は置かれていません。
第5条は「男性だから対象外」なのではない
立ちんぼの摘発報道などから、第5条を女性向けの条文と受け取っている方がいます。しかし条文は性別で線を引いていません。「売春をする目的で」という要件で線を引いています。客側の声かけがこの条文に当たらないのは、男性だからではなく、売春をする目的がないからです。
罰則の数字の表記がぶれる理由
第5条の罰金について、解説記事によって「1万円以下」と「2万円以下」に分かれています。条文の文言は1万円以下ですが、罰金等臨時措置法により実務上は2万円以下として扱われるためです。また、2025年6月1日に懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されているため、古い記事には「懲役」表記が残っています。各条文の法定刑の詳細は、逐条解説の記事をご覧ください。
なぜ買う側に罰則がないのか
この点は国会でも取り上げられています。2025年の衆参両院の委員会での質疑に対し、政府側からは次のような趣旨の説明がされたと報じられています。
- 第3条で売春をすることもその相手方となることも禁止しているが、これらの行為そのものは処罰の対象としていない
- 処罰の対象としているのは、売春を助長する行為、すなわち周旋や場所の提供などである
- これは、私生活上の行為にとどまらず売春を蔓延させる可能性があるといった、法律制定当時のさまざまな議論を踏まえた結果である
- 成年に対する買春を処罰するとした場合、保護法益をどう考えるか、処罰の対象を明確に過不足なく定められるかについて、慎重な検討が必要である
整理すると、客に罰則がないのは「客が保護されているから」ではなく、この法律が助長行為の処罰という組み立てを採ったからです。組み立ての問題である以上、組み立てが変われば結論も変わり得ます。
客であっても売春防止法が問題になり得る場面
一般に、法律が一方の側の行為だけに罰則を置いている場合、その相手方となる行為は、原則として共犯としても処罰されないと説明されます。ただしこれは、あくまで「相手方」の立場にとどまっている場合の話です。次のように助長する側に回れば、別の条文の問題になります。
- 知人のために相手を紹介し、引き合わせた(周旋)
- 事情を知りながら、自分の部屋や自分が借りた部屋を提供した(場所の提供)
- 場所の提供などのために資金を出した
- 勧誘や客待ちそのものに加わった
また、店が摘発された場合、客の立場は多くの場面で参考人ですが、顧客名簿や予約履歴から利用の事実が把握され、連絡が来ることはあります。この点は摘発時の対応を扱った記事で詳しく触れています。
「対価を払った」という事実は、法律ごとに逆向きに働く
この記事でいちばんお伝えしたいのはここです。同じ「お金を払った」という一つの事実が、どの法律の話をしているかによって、まったく違う働き方をします。
- 売春防止法では、対償は第2条の定義の要素ですが、払った側に処罰規定はありません
- 児童買春・児童ポルノ禁止法では、相手が18歳未満の場合、対償を供与し、又はその供与の約束をして性交等をすることが、そのまま処罰の要件になります。売春防止法では処罰に結びつかない対価が、ここでは処罰の中心に置かれています
- 刑法の不同意性交等罪などでは、対価は条文の要件のどこにも出てきません。料金を払ったことは、相手が同意していたことの証明にはなりません
- 民事では、支払ったお金を返してほしいという場面で、何の対価として払ったのかが問われ、事情によっては返還を求めにくくなる方向に働くことがあります
- 店との関係では、規約に反したことを理由とする金銭請求が、売春防止法とは別の、契約上の問題として立てられます
「売春防止法では罰則がない」を根拠に、他の場面まで大丈夫だと考えると、この点でかみ合わなくなります。
いま議論されていること
法務省に「売買春に係る規制の在り方検討会」が設けられています。2026年2月に設置が公表され、3月24日に初会合、5月29日の第4回で論点が取りまとめられ、7月16日の第7回まで会議が開かれています。主な論点は、買う側の処罰規定を設けるかどうかと、売春として禁止する行為の範囲(現在の定義が性交に限られている点)です。この記事の公開時点で結論は出ていません。
検討会では諸外国の制度も示されています。売る側と買う側の双方の勧誘を処罰する国もあれば、売る側を処罰せず買う行為とその勧誘のみを処罰する国もあり、方向は一つではありません。
仮に改正されても、過去にさかのぼって処罰されることはない
行為の時点で罰則がなかった行為を、後からできた罰則で処罰することはできません(憲法39条、刑法6条)。改正の議論を理由に、過去の利用について刑事責任を心配する必要はありません。ただし、年齢や同意、民事上の責任といった別のレイヤーの問題は、改正とは関係なく現在も生じ得ます。
記事や説明を読むときに確認したい3点
- 「違法」という言葉が、禁止に反するという意味か、罰則があるという意味か、民事上無効という意味か。同じ記事の中で混ざっていることがあります
- 「罰則がない」が、どの法律についての話か。売春防止法の話と、刑法や児童買春・児童ポルノ禁止法の話が混ざっていないか
- 条文の版と数字。拘禁刑への一本化(2025年6月1日)前の「懲役」表記、第5条の罰金額の表記のぶれ、法改正の議論の進み具合が古いままになっていないか
まとめ
- 売春防止法は、売春そのものではなく、売春を助長する行為を処罰することを目的として組み立てられています
- 第2条の「売春」の定義は、対償を受け取る側の行為を定めたもので、払った側の行為をそう呼ぶわけではありません
- 客が条文に登場するのは第3条の「その相手方」で、売る側も買う側も禁止されていますが、第3条に罰則はありません
- 罰則規定の名宛人は、売春をしようとする側と、助長・管理する側です
- 罰則がないことは、適法である、同意があった、民事で守られる、のいずれも意味しません
- 相手方の立場を超えて紹介や場所の提供に関われば、客であっても別の条文の問題になります
- 同じ「対価を払った」という事実でも、児童買春では処罰の中心に、刑法では要件の外に、民事では返還を求めにくくする方向にと、働き方が変わります
- 買う側の処罰と定義の見直しは議論の途中で、前提が動く可能性があります
実際のご相談で問題になるのは、売春防止法上の位置づけそのものよりも、相手の年齢、同意の有無、店からの金銭請求といった別のレイヤーであることがほとんどです。早く相談すれば必ずよい結果になるというものではありませんが、いま起きていることがどのレイヤーの話なのかを切り分ける段階で、時系列と手元に残っているやり取りを整理しておくと、話が早く進みます。


