【刑事事件】逮捕された家族から「弁護士はいらない」と言われた

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

この記事は、刑事訴訟法(30条・36条・37条の2・39条・289条)と弁護士職務基本規程をもとに、2026年10月時点の内容で解説しています。拘禁刑の導入(2025年6月施行)後の条文の表記に合わせています。成人の事件を前提としており、少年事件の手続には触れていません。


ご家族が逮捕された方からは、「面会に行ったら『弁護士はいらない、お金をかけないでくれ』と言われた」というご相談をいただきます。一方で、事件が一段落した後に、ご本人から「家族に迷惑をかけたくなくて断ったが、本当は不安だった」という話を聞くこともあります。

 家族も本人とは別に弁護人を選べる、という説明は各所で目にします。法律の説明としては正しいのですが、本人がはっきり断っているときに家族がそれをどう受け止め、どこまで動けるのかは、条文だけでは見えにくいところです。

 この記事では、逮捕されたご本人が「弁護士はいらない」と言っている場面に絞って、断る理由の分け方、家族が選任できる範囲と本人の意思との関係、本人の考えを確かめる方法を整理します。逮捕直後の全体の動きは家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやること、国選と私選の違いは国選と私選はどう違う|途中で切り替えられるのかで扱っています。

「いらない」の背景にある理由を分けて考える

 「弁護士はいらない」という言葉は同じでも、その理由は人によって違います。理由によって家族が取れる対応も変わるため、まずはどの理由に近いのかを考えてみることが出発点になります。

費用や家族への負担を気にしている

 もっとも多いのは、弁護士費用を家族に負担させたくないという理由です。弁護士をつけると必ず高額の費用がかかると考えている方もいます。この場合、費用のかからない当番弁護士や、資力の要件を満たせば利用できる国選弁護人の仕組みを本人が知らないだけ、ということも少なくありません。

「認めているから必要ない」「すぐに出られる」と考えている

 事実を認めているので争うことはない、数日で釈放されるはずだ、と考えて断る方もいます。ただ、事実を認めている事件でも、勾留されるかどうか、被害者との示談が成立するかどうかで、処分の見通しが変わることがあります。本人の見立てが、手続の実際と合っているとは限りません。

知られたくない・すでに弁護士がついている

 事件の内容を家族に知られたくない、家族が選んだ弁護士を通じて家族に話が伝わるのが嫌だ、という理由もあります。また、すでに当番弁護士や国選弁護人と話をしていて、「家族が別の弁護士を頼む必要はない」という意味で断っている場合もあります。「弁護士そのものが不要」なのか「家族が頼む私選の弁護士が不要」なのかで、意味は大きく異なります。

家族は本人の意思と別に弁護人を選べるのか

 本人が断っている場合でも、家族が弁護人を選ぶこと自体は法律上できます。ただし、実際に弁護活動を進めるうえでは、本人の意思が大きな意味を持ちます。

刑事訴訟法30条2項の「独立して」の意味

 刑事訴訟法は、被疑者本人が弁護人を選任できることに加えて、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹が「独立して」弁護人を選任できると定めています(刑事訴訟法30条2項)。この「独立して」とは、本人の意思にかかわらず選任できるという意味と理解されています。父母や子、祖父母、配偶者、きょうだいであれば、本人の同意を得ていなくても弁護人を選任できる立場にあります。なお、内縁の配偶者や交際相手、おじ・おばなどは、この規定には含まれていません。

それでも実務では本人の意思が軸になる

 弁護人の活動は、本人と接見して事情を聞き、取調べへの対応を一緒に考え、方針を決めていくことが中心です。本人が弁護人と話すことを拒んでいれば、こうした活動はほとんど進みません。弁護士職務基本規程も、依頼者の意思を尊重して職務を行うことを求めています(弁護士職務基本規程22条1項)。家族が選任できる権利があることと、本人の意思に反して弁護活動を進められることは、別の問題として考える必要があります。そのため、家族から依頼を受けた弁護士も、まずは本人に会い、本人の考えを確かめるところから始めるのが通常です。

家族が依頼した場合でも、守るのは本人の利益

 家族が費用を負担して依頼した場合でも、弁護人が守るのは被疑者である本人の権利と利益です(弁護士職務基本規程46条)。本人が家族に伝えないでほしいと希望した事柄を、弁護人が家族に伝えることは基本的にありません。家族が依頼するときは、この構造をあらかじめ知っておくと、後で戸惑うことが少なくなります。

本人の考えを確かめる方法

 本人が断っていると聞いても、その言葉だけで判断せず、本人の考えを確かめる機会をつくることができます。家族から頼める手段と、頼めない手段があるため、整理しておきます。

選択肢家族から頼めるか費用利用できる時期
当番弁護士弁護士会に申し込める初回の接見は無料逮捕直後から
国選弁護人頼めない(本人の請求による)原則として国が負担(有罪判決の際に負担を命じられる場合がある)勾留の請求後から
私選弁護士の初回接見のみ頼める事務所の定める接見費用逮捕直後から
私選弁護人としての選任頼める(刑事訴訟法30条2項)着手金・報酬金など契約の定めによるいつでも


正式な依頼の前に「接見だけ」を頼むという選択

 刑事訴訟法は、身体を拘束されている被疑者が、弁護人だけでなく、弁護人を選任できる者の依頼により「弁護人となろうとする者」とも、立会人なしで接見できると定めています(刑事訴訟法39条1項)。つまり、家族が弁護人の選任まで決めていなくても、弁護士に接見だけを依頼し、本人と会ってもらうことができます。本人が断っている場合には、いきなり選任するよりも、この形で本人の考えを確かめる方が、本人にとっても受け入れやすいことがあります。接見で弁護士が何をするのかは「接見」で弁護士は何をするのか|依頼から面会までの流れで詳しく解説しています。

接見で弁護士が本人に伝えること

 接見では、弁護士が本人に対し、弁護人をつけるかどうかは本人が決められること、費用について家族がどう考えているか、当番弁護士や国選弁護人という選択肢があること、取調べで気を付ける点などを説明します。そのうえで、本人が改めて「必要ない」と判断すれば、弁護士はその判断を尊重します。本人の了解が得られた範囲で、接見の結果を家族に伝えることになります。

家族が会えない場合も、弁護士は接見できる

 逮捕から勾留が決まるまでの間は、家族が本人と面会することは通常できません。また、勾留後も接見禁止がついていれば、家族との面会は制限されます。こうした場面でも、弁護士や弁護人となろうとする者の接見は制限されません。本人の「いらない」という言葉を警察官などから伝え聞いただけで、直接確かめられないときにも、この方法が使えます。接見禁止については接見禁止がついて家族が会えない|解除に向けた動きもご覧ください。

弁護士がいないまま手続が進んだ場合に起きやすいこと

 本人が最終的に弁護士をつけないと判断することもあります。その判断を尊重するとしても、弁護士がいないまま進んだ場合にどのような場面があるのかは、家族として知っておいてよい情報です。

取調べと供述調書への対応

 取調べでは、本人の話をもとに供述調書が作られます。調書の内容に納得できない場合には訂正を求めたり、署名押印を断ったりできますが、そうした対応を一人で判断するのは容易ではありません。弁護士が接見していれば、取調べで何を話すか、何に注意するかを事前に相談できます。

勾留や釈放の判断に意見を届ける人がいない

 逮捕後、検察官が勾留を請求し、裁判官が勾留するかどうかを判断します。弁護人がいれば、身元引受人がいることや生活の状況を示して、勾留の必要がないという意見を出すことができます。弁護人がいない場合、こうした事情が判断の場に届きにくくなることがあります。

被害者との示談の窓口がない

 被害者のいる事件では、示談が処分の判断に影響することがあります。しかし、捜査機関が被害者の連絡先を本人や家族に直接伝えることは、通常ありません。示談を進めるには、弁護人を通じて被害者側の意向を確かめるのが一般的です。本人が「すぐ出られる」と考えていても、示談の機会を逃すと、処分の見通しが変わる場合があります。弁護人に依頼する時期の考え方は弁護人を頼むタイミング|捜査段階で差がつく理由で整理しています。

本人と家族の考えが分かれたときに家族ができること

 本人の考えを確かめた結果、家族の思いと本人の判断が分かれることもあります。その場合でも、家族として関われる部分は残っています。

本人がすでに国選弁護人をつけている場合

 本人がすでに国選弁護人と話をしていて、そのうえで家族の頼む弁護士は不要と言っているのであれば、本人の弁護人はすでにいる状態です。家族は国選弁護人に連絡を取り、身元引受や差し入れなど家族の協力が必要な点を確認できます。国選から私選に切り替えるかどうかは、本人が国選弁護人との関係をどう感じているかによって考えることになります。弁護人との方針の違いについては【刑事事件】弁護人と方針が合わない|途中で変更する場合の実務も参考になります。

本人が弁護士そのものを断った場合

 本人が弁護士との話も含めて断った場合、家族ができるのは、本人が判断し直すための材料を届けることです。手紙で費用の心配は不要であることや、家族が本人を支えたいと考えていることを伝えたり、身元引受人になる準備を進めたりすることができます。差し入れや手紙のやり方は留置場への差し入れと手紙|家族ができる支援の実務、身元引受書の書き方は身元引受書は誰が何を書くのか|記載事項と文例で解説しています。勾留が延長された時点や、起訴が見えてきた時点で、本人の考えが変わることもあります。

家族だけで相談することもできる

 本人が弁護士を断っていても、家族が弁護士に相談すること自体は自由です。今の手続がどの段階にあり、これから何が起きうるのかを知るだけでも、家族の判断は落ち着いたものになります。本人が事実を認めない、家族と話そうとしないといった場面での相談の範囲は、本人が事実を認めない・家族と話さない|家族が相談できる範囲で整理しています。

よくあるご質問

家族が依頼した後に本人が断った場合、費用はどうなりますか。

 費用の扱いは、弁護士との契約の内容によって決まります。初回の接見だけを依頼した場合は、その接見の費用の範囲で区切られるのが一般的です。弁護人としての選任まで契約した後に本人が断った場合の着手金の扱いは、契約書の定めによります。依頼する前に「本人が断ったときにどうなるか」を確認しておくと安心です。費用の清算については解任した場合の費用清算|着手金は返ってくるのかも参考になります。

本人が断った理由を、弁護士から聞くことはできますか。

 接見での会話は、立会人なしで行われ(刑事訴訟法39条1項)、弁護士には守秘義務があります。そのため、本人が家族に伝えないでほしいと希望した内容は、家族にも伝えられません。実際には、弁護士が本人に「家族にどこまで伝えてよいか」を確認し、その範囲で接見の結果を伝えることが多いです。

本人が断ったまま起訴された場合、弁護人なしで裁判になるのですか。

 死刑、無期拘禁刑、長期3年を超える拘禁刑にあたる事件などは、弁護人がいなければ審理を開くことができないため、本人が選任しなければ裁判所が国選弁護人を選任します(刑事訴訟法289条1項・2項)。それ以外の事件でも、起訴後に本人が国選弁護人の選任を請求することはできます(同法36条)。起訴をきっかけに、改めて弁護人について考え直す方もいます。

まとめ


  1. 「弁護士はいらない」の理由が、費用への遠慮か、事件への見立てか、家族に知られたくない気持ちかで、家族の取れる対応は変わる。
  2. 配偶者・直系の親族・きょうだいは、本人の意思にかかわらず弁護人を選任できる(刑事訴訟法30条2項)。
  3. ただし弁護活動は本人と話をして進めるものであり、実務では本人の意思を確かめることが前提になる(弁護士職務基本規程22条1項)。
  4. 家族の依頼で「弁護人となろうとする者」として弁護士が接見し、本人の考えを確かめることができる(刑事訴訟法39条1項)。
  5. 国選弁護人は本人の請求によるもので家族からは頼めないが、当番弁護士は家族から弁護士会に申し込める(同法37条の2)。
  6. 本人が断った場合でも、手紙や身元引受の準備を通じて、本人が判断し直すための材料を届けることができる。
  7. 一定の重さの事件は、起訴後に弁護人がいなければ裁判所が国選弁護人を選任する(同法289条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。逮捕されたご家族が「弁護士はいらない」と言っていると聞き、どう動けばよいか迷っている方は、ご本人の意向がはっきりしない段階でもご相談いただけます。

ご本人を支えたいと考えている方も、ご本人の判断をどこまで尊重すべきか悩んでいる方も、一人で抱え込まずにご相談ください。今の手続の段階と、ご家族として取れる手段を一緒に整理します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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