詐欺で家族が逮捕された|勾留を止めるための動き
この記事は、2026年10月時点の民法・刑事訴訟法・刑法・動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)をもとに書いています。2025年6月施行の改正刑法により、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されています。賃貸借契約や公共料金の手続は、契約の内容や事業者によって異なります。
「一人暮らしの息子が逮捕された。部屋の家賃はどうなるのか、飼っている猫の世話は誰がするのか」「夫が勾留されている間に、電気やガスの請求書が届いた」。ご家族が逮捕されたというご相談では、事件の見通しと並んで、本人の生活に残された支払いや世話についてのご質問を多くお受けします。
逮捕されても家賃は発生し続け、滞納が続けば退去を求められることがある、という説明はよく見かけますし、それ自体は誤りではありません。ただ、実際にご家族が迷うのは「誰が、どの権限で、どの順番で手をつけるか」という部分です。本人の部屋や契約は本人のものであり、家族であっても了承なく動かすと、後から本人との間で行き違いが生じることがあります。
この記事では、逮捕された方が一人で暮らしていた場合を中心に、家賃・公共料金・郵便物・ペットについて家族が判断する順序を整理します。逮捕直後の全体的な動き方は家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやることで、子の逮捕をきっかけに家族全体の生活を守る準備は【親子問題】子の逮捕が報道されそう|家族の生活を守るためにで解説していますので、あわせてご覧ください。
最初に決めるのは「誰が、本人の了承を得て動くか」
部屋の中のことは、本人の財産と本人の契約
賃貸借契約、電気・ガス・水道の契約、携帯電話の契約は、いずれも契約者である本人と事業者との間のものです。部屋に置かれた家財やペットも本人の財産です。家族だからといって、当然に契約を解約したり、家財を処分したりできる立場にあるわけではありません。
逮捕された本人は、外に出られないだけで、契約の当事者であることに変わりはありません。そのため、家族が代わりに動く場合は、本人の了承を得たうえで、必要に応じて委任状をもらって進めるのが基本の形になります。了承を得ないまま解約や処分を進めると、釈放後に「勝手に部屋を引き払われた」「大事な物を捨てられた」という争いになることがあります。
本人の意向は面会や弁護人を通じて確かめる
接見禁止がついていなければ、警察署での面会の際に本人の意向を聞くことができます。ただ、一般の面会は時間が短く、警察官が立ち会うため、生活の細かい話をすべて済ませるのは難しいこともあります。手紙で確認する方法もあります。
接見禁止がついている場合でも、弁護人は本人と立会いなしで面会できます(刑事訴訟法39条1項)。家族から弁護人に「部屋の契約をどうしたいか」「ペットを誰に預けたいか」を本人に聞いてほしいと伝え、本人の意向や委任状を受け取ってもらう方法が考えられます。接見禁止の仕組みについては接見禁止がついて家族が会えない|解除に向けた動きをご覧ください。
なお、弁護人の本来の役割は刑事弁護であり、生活面の手配にどこまで協力できるかは弁護人によって異なります。依頼する際に、伝言や書類の受け渡しを頼めるかどうかを確認しておくとよいでしょう。
鍵の受け取りと、部屋に入る前の確認
部屋の鍵を本人が持ったまま逮捕された場合、鍵は留置施設で本人の所持品として保管されていることが多く、家族は面会の際などに受け取りを申し出る「宅下げ」という手続で受け取れることがあります。接見禁止で物の受け渡しまで禁じられている場合は、弁護人を通じた受け取りを検討します。差し入れや宅下げの実務は留置場への差し入れと手紙|家族ができる支援の実務で解説しています。
部屋に入る前には、捜索がすでに行われたか、捜査機関が押収していない物が事件に関係していないかを弁護人に確認しておくと安心です。事件に関係する可能性のある物は動かさず、生活に必要な最小限の対応にとどめることが、後で余計な疑いを招かないための基本です。
ペットは最初の数日のうちに預け先を決める
留置施設はペットを預からない
警察署の留置施設は本人の身柄を収容するための施設であり、部屋に残されたペットを引き取って世話をしてくれる仕組みはありません。逮捕の際に警察官がペットの有無を尋ねることもありますが、必ずそうなるとは限りません。
水や餌が限られた状態で長く置かれると、ペットの健康に関わります。家賃や公共料金の判断は数日から数週間の幅で考えられますが、ペットについては、逮捕を知った時点で最初に手配する事項と考えておくのが現実的です。
預け先の選択肢と費用の考え方
預け先としては、次のような選択肢が考えられます。
- 家族や親族、本人の知人が一時的に引き取る。
- ペットシッターに本人の部屋へ通ってもらう。
- ペットホテルや動物病院の預かりサービスを利用する。
- 本人が以前から利用していた動物病院やトリミング店に相談する。
身柄の拘束がどのくらい続くかによって、費用の総額は大きく変わります。逮捕から起訴・不起訴の判断までは最長で23日間程度ですが、起訴されると拘束がさらに続くこともあります。費用を誰が負担するかも含め、本人の意向を確認しながら決めていくことになります。
手放すかどうかは本人が判断する
ペットの所有者には、動物の健康と安全を守るよう適正に飼養する責務があり(動物愛護法7条1項)、その動物が命を終えるまで適切に飼養するよう努める責務も定められています(同法7条4項)。また、愛護動物を遺棄することは罰則の対象です(同法44条3項)。
長期の拘束が見込まれる場合、知人に譲る、新しい飼い主を探すといった選択も出てきますが、ペットは本人の財産であるため、手放すかどうかは本人が決めることです。都道府県などの動物愛護センターによる引取りの制度もありますが(同法35条1項)、引取りが認められる条件や引取り後の扱いは自治体によって異なるため、事前に問い合わせて確認してください。
公共料金と郵便物は「止める順序」を考える
電気・ガス・水道は契約者の手続が基本
電気・ガス・水道は、部屋を使っていなくても基本料金などが発生し続けます。口座振替やクレジットカード払いにしている場合、残高や利用枠があるうちは引き落とされますが、拘束が長引くと支払いが滞り、供給が止まることがあります。
使用の停止や解約は、契約者である本人が申し込むのが原則です。事業者によっては家族からの連絡で手続できる場合もあれば、本人の委任状を求められる場合もあります。お客様番号や契約者名義が分かる請求書・検針票を手元にそろえてから問い合わせると、話が進みやすくなります。
ペットや冷蔵庫の中身がある間は電気を止めない
支出を抑えようとして、真っ先に電気を止めてしまうと、部屋に残ったペットの暑さ寒さ対策ができなくなったり、冷蔵庫の中身が傷んで部屋の衛生状態が悪くなったりすることがあります。部屋が傷めば、退去の際の原状回復の費用にも影響しかねません。
ペットの預け先が決まり、冷蔵庫の中身を片づけてから電気を止めるという順序を意識すると、後の負担を減らせます。ガスは安全のため早めに止める、水道は退去時の清掃まで残すなど、部屋の状況に合わせて順序を考えてください。
郵便物の受け取りと、開封してよいかの判断
郵便受けがあふれると、不在が周囲に知られるだけでなく、重要な書類を見落とすおそれもあります。家族が部屋に出入りして郵便物を回収しておくことは、本人の了承があれば問題になりにくいでしょう。
一方で、本人あての封書を開けることについては、正当な理由なく封をした信書を開けると信書開封罪にあたる可能性があるため(刑法133条)、開封してよいかどうかも本人に確認しておくのが安全です。この点は他人あての郵便物を開けた|信書開封罪と住居侵入の重なりで詳しく解説しています。裁判所からの通知、税金や保険料の督促、カード会社からの書面など、期限のありそうなものは、差出人と届いた日付を弁護人に伝えておくと対応を相談しやすくなります。
家賃は、身柄拘束の見通しによって判断が分かれる
拘束されていても家賃は発生し続ける
賃貸借契約は、本人が部屋に住めない状態になっても自動的に終わるものではありません。家賃は毎月発生し続け、支払いが遅れれば、契約で定めた率(定めがなければ法定利率)による遅延損害金が加わることがあります。
家賃を続けて払うか、解約に向けて動くかは、拘束がどのくらい続く見込みかによって判断が分かれます。手続の段階ごとの目安は、次のとおりです。
| 段階 | 拘束の期間の目安 | 家賃についての考え方 |
|---|---|---|
| 逮捕から勾留の満期まで | 最長で23日間程度(刑事訴訟法203条〜205条、208条) | 1か月分程度の家賃であれば、まず支払いを維持して処分の見通しを待つことが多い |
| 起訴されて勾留が続く | 起訴後の勾留は2か月で、その後は必要に応じて1か月ごとに更新される(同法60条2項)。保釈されれば帰宅できる | 保釈の見込みや判決までの期間を弁護人に確認し、支払いを続けるか解約するかを本人と検討する |
| 実刑判決が見込まれる | 判決の確定後、刑の執行に移る | 長期の不在が見込まれるため、解約と荷物の移動を本人と具体的に話し合うことが多い |
どの段階にあるかを把握するには、逮捕から解決までの流れ【フローチャート】|今どの段階かがわかるも参考になります。起訴後は留置場から拘置所へ移されることがあり、面会や物の受け渡しの窓口も変わるため、留置場と拘置所は何が違うのか|移送の時期と生活の変化もあわせてご確認ください。
滞納が続くと、契約を解除されることがある
家賃の滞納があっても、1回の遅れですぐに契約が解除されるわけではありません。裁判例では、貸主と借主との間の信頼関係が損なわれたといえるかどうかという観点から、解除が認められるかが判断されてきました。一般には、数か月分の滞納が続くと、解除が認められやすくなるといわれています。
契約書に「逮捕されたとき」「一定以上の刑に処せられたとき」に解除できるという条項が入っていることもあります。ただ、条項があるからといって、直ちに解除が有効になるとは限らず、やはり信頼関係が損なわれたかどうかという観点から判断されます。逮捕されたことよりも、家賃の支払いが続いているかどうかが、契約を維持するうえで大きな意味を持つと考えておくとよいでしょう。
貸主が無断で荷物を処分することは認められていない
家賃の滞納が続いても、貸主や管理会社が借主に無断で部屋に入り、荷物を運び出して処分することは、法的な手続によらない実力行使として原則として認められません。最高裁判所も、家賃保証会社の契約条項のうち、一定の条件を満たせば借主が部屋を明け渡したものとみなし、残された荷物の処分を認める内容の条項について、消費者契約法に反し無効と判断しています(最高裁令和4年12月12日判決)。
管理会社が、留置施設にいる本人のもとを訪ねて、荷物の処分を任せる旨の書面への署名を求めることもあります。署名する前に、家族や弁護人と内容を確認するよう本人に伝えておくと安心です。
解約に向けて動く場合の手順
本人が解約を選んだ場合、家族が代わりに手続を進めるときは、おおむね次の順で進めることになります。
- 本人から解約の意向と、家族に手続を任せる旨の委任状を得る。
- 管理会社や貸主に、家族が代理で解約手続を行うことを連絡し、解約の予告期間と退去日を確認する。
- 家財の引取り先(実家、トランクルームなど)と、処分してよい物の範囲を本人と決める。
- 退去の立会いを行い、鍵を返却して、敷金の精算方法を確認する。
解約には通常1か月程度の予告期間が定められているため、解約を申し入れてもすぐに家賃の負担がなくなるわけではありません。拘束が長引くと見込まれる場合は、早めに方針を決めることが、結果として本人の負担を軽くすることにつながります。
家族が払うべきか|立て替えと保証を分けて考える
連帯保証人でなければ、家族に支払う義務はない
家賃や公共料金を支払う義務を負うのは、契約者である本人です。親や配偶者、きょうだいであっても、保証人になっていなければ、本人の家賃を支払う法的な義務はありません。管理会社から家族に連絡が来ることはありますが、それは支払いの相談や本人との連絡の仲介を求めるものであることが多く、家族が当然に支払いを引き受けることにはなりません。
一方、家族が賃貸借契約の連帯保証人になっている場合は、本人に代わって滞納分を請求されることがあります。2020年4月以降に結ばれた個人の保証契約では、保証の上限額(極度額)を定めなければ効力を生じないとされています(民法465条の2)。保証人として請求を受けた場合の考え方は、家族・身元保証人に請求が来た|どこまで払う義務があるかをご覧ください。
立て替えるなら、お金の出どころと記録を整える
支払う義務がなくても、本人の住まいを守るために家族が家賃を立て替えることはできます。その場合も、まず本人自身のお金で払えないかを確認し、家族が立て替えた分は記録に残しておくことが大切です。
本人の預金口座から家族が引き出すことは、本人の了承や金融機関の手続がない限りできません。本人が留置施設に持ち込んだ現金については、宅下げの手続で家族が受け取れることがあります。家族が立て替えた場合は、振込の控えや、本人と交わした返済の約束のメモを残しておくと、後に本人との間でお金の話をするときの行き違いを防げます。
車・駐車場・携帯電話の扱い
本人が車を持っている場合は、駐車場代やローン、任意保険の支払いも続きます。携帯電話は押収されていることもありますが、契約は続いているため、料金の支払いが残ります。いずれも家賃と同じように、本人の意向を確認したうえで、維持するか解約するかを判断していくことになります。
よくあるご質問
国選弁護人に、ペットの世話や部屋の片づけを頼むことはできますか。
弁護人の役割は刑事弁護であり、ペットの世話や部屋の片づけを引き受ける義務はありません。弁護人が本人の部屋に立ち入ることは、後で物の紛失などをめぐる疑いを招くおそれもあるため、慎重に考えるのが一般的です。ただ、本人の意向を確認したり、委任状を受け取ったりすることについては、相談に応じてもらえることが多いでしょう。国選弁護人と私選弁護人の違いは国選と私選はどう違う|途中で切り替えられるのかで解説しています。
同棲していた交際相手が逮捕されました。部屋の名義は相手です。家賃を払わなければなりませんか。
部屋の契約者が相手で、ご自身が保証人になっていなければ、家賃を支払う法的な義務は原則としてありません。ただ、住み続けるのであれば、管理会社との関係をどうするかを相手と話し合う必要があります。部屋を出る場合は、自分の荷物を持ち出し、相手の荷物には手をつけないようにして、鍵の扱いを管理会社や相手の弁護人と確認しておくと、後の行き違いを防げます。
本人と連絡が取れず、意向が分からないまま家賃の期日が来てしまいます。
本人の意向が分からない段階では、解約や家財の処分のように元に戻せない手続は避け、管理会社に事情を伝えて支払いの猶予を相談する、家族が1か月分を立て替えるといった、後から調整できる対応にとどめるのが無難です。弁護人が決まっていない場合は、まず弁護人を通じて本人と連絡が取れる状態をつくることが先決です。
まとめ
- 部屋の契約や家財、ペットは本人のものであり、家族が動く場合は本人の了承と、必要に応じて委任状を得て進める。
- 接見禁止中でも弁護人は本人と立会いなしで面会できるため(刑事訴訟法39条1項)、本人の意向は弁護人を通じて確かめられる。
- ペットは留置施設では預からないため最初に手配し、手放すかどうかは本人が判断する(動物愛護法7条・35条・44条3項)。
- 電気はペットの預け先と冷蔵庫の片づけが済んでから止めるなど、公共料金は止める順序を考える。
- 本人あての封書は、本人の了承を得てから開ける(刑法133条)。
- 家賃は拘束中も発生し続け、拘束の見通し(勾留満期まで最長23日間程度、起訴後は勾留が更新される)によって、維持か解約かの判断が分かれる。
- 連帯保証人でなければ家族に支払う義務はなく、保証人の場合も2020年4月以降の個人保証には極度額の定めが必要となる(民法465条の2)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ご家族が逮捕された場合のご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方にお住まいの方からのご相談にも対応しています。
事件の弁護だけでなく、身柄の拘束が続く間に本人の部屋や支払いをどう扱うか、本人の意向をどう確認するかについても、ご家族の事情を伺いながら一緒に整理します。ご家族だけで判断に迷われたときは、早めにご相談ください。


