交際中・夫婦間でも成立するのか|継続的関係と同意の推認
「相手も来たいと言っていた」「無理やり連れて行ったわけではない」。未成年者略取誘拐の疑いで警察から連絡を受けた方が、最初に口にされる説明として多いのがこの形です。ご本人の実感としては、まさにそのとおりだったのだと思います。
ただ、この説明は、そのままの形では手続の中でうまく働かないことがあります。理由は、刑法224条が何を守ろうとしている条文なのか、そして「同意」という言葉が刑事手続のどの段階で問題になるのかという、二つの構造にあります。
この記事では、未成年者略取誘拐において「本人が同意していた」という事情がどこまで意味を持ち、どこから先は別の説明が必要になるのかを、条文と判例に沿って整理します。連れ回しに伴って問題になりうる他の罪名の全体像については、別の記事で扱っています。
「同意していた」という説明が指しているもの
まず、ご相談の場面で「同意」と呼ばれているものが、実際には複数の異なる事柄を指していることを整理しておきます。次の三つは、法律上の扱いがそれぞれ違います。
・未成年者本人が、その場でついていくことを受け入れていたという事実
・保護者が、その未成年者と一緒に行動することを承知していたという事実
・本人が嫌がる様子を見せなかった、抵抗しなかったという状況
このうち、刑事手続で正面から重みを持つのは二つ目です。一つ目と三つ目は、まったく無意味というわけではないものの、それだけでは犯罪の成立を否定する説明になりにくいという扱いを受けます。
ご相談の初期段階では、この三つが一つの「同意していた」という言葉にまとめられてしまい、話が噛み合わなくなることがあります。何を指して同意と言っているのかを分けることが、出発点になります。
前提となる条文の骨格
刑法224条は、未成年者を略取し、または誘拐した者を処罰する規定です。条文の骨格は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 条文 | 刑法224条(未成年者略取及び誘拐) |
| 対象となる者 | 18歳未満の者(民法4条) |
| 法定刑 | 3月以上7年以下の拘禁刑 |
| 未遂 | 処罰される(刑法228条) |
| 告訴 | 告訴がなければ起訴できない(刑法229条) |
法定刑に罰金刑の定めがない点は、押さえておく必要があります。罰金で終わる形の手続が用意されていないため、起訴された場合の帰結は、実刑か執行猶予付きの判決かという幅になります。この点が、示談や告訴の取扱いが重く受け止められる背景にあります。
なお、拘禁刑という表記は、刑名を一本化した改正刑法が2025年6月1日に施行されたことによるものです。それ以前の行為については従前の刑名で処理されます。
本人の同意が成立を否定しにくい理由
なぜ本人が納得していても罪が成立しうるのか。この点は、条文が何を守ろうとしているかという議論に行き着きます。
224条について、判例と多数の学説は、拐取された本人の自由に加えて、保護者が子を監護している状態そのものも保護の対象に含まれると理解しています。学説上は本人の自由のみを保護法益とする考え方もありますが、実務は監護の利益も含める前提で運用されています。
この理解に立つと、本人が同意していても、保護者の監護から未成年者を引き離した以上、守られるべき利益の一方は侵害されたことになります。だからこそ、本人の同意だけでは足りず、保護者の同意の有無が問われるという整理になります。
裏を返せば、本人と保護者の双方が承知している場合には、そもそも侵害される利益がないという説明も成り立ちます。親族の子どもを預かって出かける、友人の子を送り迎えするといった日常の行為が問題にならないのは、この理由によります。
条文に「同意」という言葉がないことの意味
もう一つ、あまり触れられない点があります。それは、224条の条文に「同意」という語が出てこないことです。
たとえば不同意性交等罪や不同意わいせつ罪では、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にあったかどうかが、条文上の要件として書き込まれています。そのため、これらの罪では同意の有無が正面からの争点になります。
これに対して224条が定めているのは、略取または誘拐という手段によって、未成年者を従来の生活環境から離脱させ、自分または第三者の実力的支配下に移したかどうかです。同意の有無は、要件として書かれていません。
つまり「同意があった」という説明は、条文上の要件を直接否定する形になっていないということです。この構造を理解しないまま同意を繰り返し説明しても、捜査機関との間で議論が噛み合わないまま時間が過ぎることになりかねません。
誘拐の型では、同意があること自体が珍しくない
さらに踏み込むと、誘拐という類型では、本人が同意しているのがむしろ通常の姿だという点にも注意が必要です。
略取と誘拐は、同じ条文の中で手段によって区別されます。略取は暴行や脅迫といった強制的な手段による場合、誘拐は欺罔や誘惑といった非強制的な手段による場合です。
このうち誘拐は、相手をだましたり、うまく誘い込んだりして支配下に移す行為を指します。誘い込みが働いた結果、本人は自分の意思でついていくことになります。したがって、本人が同意していたという事実は、誘拐という型を否定するどころか、その型に当てはまる場面でこそ生じやすいという関係にあります。
「無理やりではなかった」という説明は、略取ではなかったという主張としては意味を持ちます。しかし、それは誘拐ではなかったという主張にはなりません。ここを分けずに説明を続けると、意図と逆の受け止められ方をすることがあります。
同意という言葉ではなく、そもそも欺罔や誘惑と評価されるような働きかけがあったのか、生活環境からの離脱と評価できる状態が生じたのか。争うとすれば、そちらの事実関係が中心になります。
同意はどの場面で意味を持つのか
では、本人の同意はまったく考慮されないのかというと、そうではありません。段階を分けると、意味を持つ場面と持ちにくい場面が見えてきます。
| 場面 | 「同意があった」という事情の扱い |
|---|---|
| 犯罪の成否 | 本人の同意だけでは成立を否定しにくい。保護者の監護から離脱させたかが見られる |
| 違法性の判断 | 家族間の行為など、社会通念上許容される枠内かという評価の中で考慮されることがある |
| 告訴・示談 | 保護者の処罰を求める気持ちに影響しうる。告訴の取消しは起訴の可否に直結する |
| 量刑 | 手段の強制性が低いことなどとあわせ、量刑上の事情として考慮されることがある |
この表で伝えたいのは、同意という事情の置き場所です。犯罪の成否の段階で持ち出しても働きにくいものが、違法性の判断や告訴・量刑の段階では意味を持ちうる。同じ事実でも、どの段階の話として整理するかで扱いが変わります。
保護者の同意があったという場合
保護者の同意があったと考えている場合でも、その同意の中身が問われることがあります。実際に問題になりやすいのは次のような場面です。
・保護者が事実と異なる説明を受けたうえで承知していた場合
・親権者が二人いるのに、一方からしか承知を得ていない場合
・保護者を名乗る人物と連絡を取っていたが、実際には保護者でなかった場合
・出かけた後になって、保護者から事後的に了解を得た場合
・保護者がどこへ行くかを知らないまま、外出そのものだけを許していた場合
このうち、誤解に基づく同意は注意が必要です。行き先や目的について事実と異なる説明をしたうえで得られた同意は、保護者が本当の意味で監護の判断をしたとは評価されにくく、有効な同意として扱われないことがあります。
また、事後の了解については、行為の時点で保護者の監護から離脱させたという評価そのものが後から消えるわけではありません。ただし、その後の経過として、告訴や示談の場面に影響することはあります。
出発時の同意と、その後の経過
同意には、時点の問題もあります。出発する時点では本人も保護者も納得していたとしても、その後の経過によって評価が変わる場面があります。
たとえば、途中で本人が帰りたいと言い始めたのに帰らせなかった、保護者から連絡が入ったのに応じなかった、当初伝えていた場所とは別の場所に長く滞在した、といった経過です。
このような場合、当初の承知の範囲を超えて支配下に置いた状態が続いていると評価されることがあり、状況によっては監禁罪など別の罪名が問題になる場面もあります。「最初に同意を得ている」という説明が、その後の時間帯すべてをカバーするわけではないという点は、押さえておく必要があります。
親が自分の子を連れ戻した場合
同意をめぐる議論がはっきりした形で現れるのが、別居中の親が自分の子を連れて行ったという場面です。
最高裁は、母の実家で監護されて生活していた2歳の子を、別居中の共同親権者である父が有形力を用いて連れ去った事案について、略取罪の成立を認めています(最決平成17年12月6日)。決定は、子の監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められず、親権者による行為であっても正当とはいえないとしたうえで、行為態様が粗暴で強引であったこと、子が自分の生活環境について判断する能力を備えていない年齢であったこと、連れ去った後の監護について確たる見通しがあったとも認めにくいことなどを挙げ、家族間の行為として社会通念上許容される枠内にとどまるとも評価できないとしています。なお、この決定には裁判官1名の反対意見が付されています。
この判断の枠組みは、逆に読むこともできます。監護の必要性がある場合や、家族間の行為として社会通念上許容される範囲にとどまる場合には、違法性が例外的に阻却される余地があるということです。行為態様、子の年齢と判断能力、連れて行った後の監護の見通しといった事情が、その評価を左右します。
親権者であるという立場は、それ自体で結論を決めるものではなく、違法性の判断において考慮される事情の一つと位置づけられています(最決平成15年3月18日参照)。
「同意していた」と「年齢を知らなかった」は別の話
もう一点、混ざりやすいのが年齢の認識です。同意の話と年齢の話は、法律上まったく別の問題として扱われます。
224条が成立するには、相手が18歳未満であることの認識、すなわち故意が必要です。ここでいう認識には、18歳未満かもしれないという程度の認識も含まれるとされており、その可能性を思いながら行動していた場合には故意が認められる方向に働きます。
したがって、年齢について明確に確かめないまま行動していた場合、「知らなかった」という説明は通りにくくなります。身分証を見せてもらったが偽造されていたといった事情があれば別ですが、外見や言動、持ち物、通っている学校の話などから未成年者だとうかがえる状況であれば、認識がなかったという説明は受け入れられにくくなります。
同意があったかどうかと、年齢を知っていたかどうかは、それぞれ独立した論点です。片方の説明でもう片方を補うことはできません。
本人が同意していても告訴はされうる
224条は、告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法229条)。この点だけを見て、本人が同意していたなら告訴されないはずだと考える方がおられますが、告訴の構造はもう少し複雑です。
告訴ができるのは、被害者本人のほか、法定代理人である親権者や後見人です(刑事訴訟法230条、231条)。つまり、本人が処罰を求めていなくても、親権者が独立して告訴することができます。事実上の監護をしている保護者について告訴権を認めた裁判例もあります。
さらに、告訴権者が複数いる場合、告訴期間は各自について別々に進みます(刑事訴訟法236条)。親告罪の告訴期間は犯人を知った日から6か月ですが(刑事訴訟法235条1項)、一方の告訴権者について期間が過ぎていても、他方の告訴権者はなお告訴できるという構造です。
また、告訴がなければ起訴できないというだけで、告訴前でも捜査は行われます。捜査が動いていないように見えても、それが告訴がないことを意味するとは限りません。
連絡を受けた段階で整理しておくこと
警察から連絡があった段階では、次のような点を時系列で整理しておくと、弁護士との相談が進めやすくなります。
・相手方と知り合った経緯と、やり取りの手段
・相手の年齢について、いつ、どのような情報に接していたか
・一緒に行動することになった経緯と、そのときに交わした具体的な言葉
・保護者への連絡の有無と、連絡した場合はその内容
・どこで、どれくらいの時間を過ごしたか
・途中で相手が帰りたいと言ったことがあったか、その際どう対応したか
・保護者や捜査機関から最初に連絡が来た時点の状況
やり取りの記録を消したり、関係者に口裏合わせを求めたりすることは、それ自体が新たな問題を生みます。整理は、事実を残したまま行う必要があります。
まとめ
未成年者略取誘拐における「本人が同意していた」という説明について、この記事で整理した点は次のとおりです。
・同意という言葉には、本人の同意、保護者の同意、抵抗がなかったという状況が混ざっている
・224条は本人の自由に加えて保護者の監護も守る条文と理解されており、本人の同意だけでは成立を否定しにくい
・条文に「同意」という語はなく、要件は手段と実力的支配への移転である
・誘拐の型では、本人が同意していること自体は珍しくない
・同意は、違法性の判断や告訴・量刑の場面では意味を持ちうる
・保護者の同意については、その中身や与えられた前提が問われる
・出発時の同意は、その後の経過すべてをカバーするわけではない
・年齢の認識は同意とは別の論点として判断される
・本人が処罰を求めていなくても、親権者は独立して告訴できる
「同意していた」という実感そのものを否定する必要はありません。ただ、その事実がどの段階の議論として意味を持つのかを整理しないまま説明を続けると、伝えたい内容が届かないまま手続が進んでしまうことがあります。事実関係を時系列で整理したうえで、早い段階で弁護士にご相談いただくことをおすすめします。


