「知らなかった」は通るのか|未必の故意と共謀の認定
家宅捜索や任意提出の後、手元に一枚の書面だけが残ることがあります。押収品目録交付書と呼ばれるもので、何が持ち出されたのかを示す、ただ一つの記録になることも少なくありません。
この書面は、単なる受取証ではありません。どの事件のどの疑いで押収されたのか、自分がどういう立場で記載されているのか、そして返還を求めるときに何を手がかりにすればよいのかが、この一枚に集まっています。
ここでは、押収品目録交付書に何が書かれているのかを欄ごとに整理したうえで、還付(返還)を求めるときの手順と、その過程で署名を求められる書面の意味について説明します。
押収品目録交付書とは何か
押収をした場合には、その目録を作り、所有者、所持者若しくは保管者又はこれらの者に代わるべき者に交付しなければならない、と定められています(刑事訴訟法120条)。この規定は、捜査機関が行う押収にも準用されます(同法222条1項)。捜索差押えでも任意提出でも、押収をした以上は目録を作って渡すことが求められている、という関係です。
実務では、この目録を渡すための書面が押収品目録交付書と呼ばれています。任意提出を受けて領置したときにも交付するものとされており(犯罪捜査規範109条1項)、こちら側から請求しなくても渡されるのが通常です。
令状は残らないが、目録は残る
捜索差押許可状は、処分を受ける者に示すこととされているだけで(同法110条)、写しを渡す手続は定められていません。そのため、捜索が終わった後に手元に残る書面は、押収品目録交付書だけということが多くなります。捜査機関が何を持ち出したのかを示す資料が、この一枚しかない場合があるということです。
名称や様式は一つではない
書面の名称は、作成する官公署や書式によって異なることがあります。検察庁の内部規程では押収品等目録提供書といった呼び方をする書面もあります。また、2026年5月21日に施行された刑事訴訟法の改正により、120条には項が設けられ、電磁的記録提供命令を受けた者も目録の交付を受ける相手方に加えられました。名称が手元の書面と一致しない場合でも、押収したものを列挙して渡す書面という点では同じものと考えて差し支えありません。
書面のどこに何が書かれているか
押収品目録には、被疑者の氏名、品名、数量、被差押人や差出人の住居・氏名、所有者の住居・氏名などが記載されるのが一般的です。欄ごとに読み取れることを整理すると、次のようになります。
| 記載欄 | そこから読み取れること |
|---|---|
| 被疑者の氏名・事件名(罪名) | どの事件について、どの疑いを前提に押収されたのか |
| 押収の年月日・場所 | いつ、どこから持ち出されたのか。経過した期間を数える起点にもなる |
| 品名・数量・符号 | 何がいくつ押収されたのか。符号は押収物ごとに付けられる整理番号で、返還を求めるときの特定に使う |
| 被差押人・差出人・所有者の住居氏名 | 自分が差し押さえられた側として書かれているのか、提出した側として書かれているのか |
| 作成した警察署・担当者の官職氏名 | 問い合わせや請求の窓口になる部署と担当者 |
差押えなのか領置なのかを見分ける
押収には入口が複数あります。令状による差押え(同法218条1項)、逮捕の現場での令状によらない差押え(同法220条1項2号)、そして遺留物や任意に提出された物を取得する領置(同法221条)です。目録の欄外や標題、対になる調書の種類(差押調書か領置調書か)から、どの入口で持ち出されたのかが分かることがあります。
ここで誤解が生じやすいのが領置です。自分から提出した物であっても、領置された時点で押収物として扱われます。「任意に出したのだから、返してほしいと言えばすぐ戻る」とは限らず、返還には後述する還付の手続を経ます。
書かれていないこともある
目録から読み取れることには限りがあります。次のような点は、書面を見ても分からないのが通常です。
- 端末の中身を複製したのかどうか、複製した範囲。
- いつ返してもらえるのかという見通し。
- 現在どこで保管されているのか、送致後に誰が管理しているのか。
- 押収された物が、証拠として使われる予定なのか、没収の対象として考えられているのか。
これらは、担当者への確認や弁護人を通じたやり取りで詰めていく事柄になります。
受け取った直後に確かめておきたいこと
押収品目録交付書は、後から作り直してもらえる性質の書面ではありません。受け取った時点で次の点を確認し、写真に撮るなどして保管しておくと、その後の手続で役立ちます。
- 品名と数量が、実際に持ち出された物と合っているか。
- 目録に載っていない物が持ち出されていないか。
- 記載が「書類一式」「段ボール1箱」のようにまとめられていて、中身が特定できない状態になっていないか。
- 押収の年月日・場所が事実と合っているか。
- 担当の警察署名、部署名、担当者の官職氏名が読み取れるか。
数量が多い事件では、一点ずつ記載されないまま持ち出され、後に何が押収されたのか分からなくなったことが争われた例もあります。その場で細かく指摘するのが難しい場合でも、気づいた点は日付とともにメモに残しておくとよいでしょう。
還付と仮還付はどう違うのか
押収物で留置の必要がないものは、事件の終結を待たずに還付しなければならないとされています(同法123条1項)。また、所有者・所持者・保管者・差出人の請求により、仮に還付することもできます(同条2項)。いずれも捜査機関の押収に準用されます(同法222条1項)。
還付は、返してそれで終わりにする処分です。仮還付は、留置の必要がすべてなくなったわけではないものの、一時的に返しておいても支障がないと判断された場合の処分で、後に再び提出を求められることがあります。生活や仕事にすぐ必要な物については、まず仮還付を求めるという組み立てもあり得ます。
判断の分かれ目は、その物に「留置の必要」が残っているかどうかです。証拠として使う可能性があるか、没収の対象になり得るかといった点から判断されるため、捜査が動いている段階ほど必要性が広く見られる傾向があります。事件が起訴された後は、検察官がどの物を証拠として請求するかが見えてくるため、必要性を検討しやすくなります。
起訴後の扱い
公訴の提起後については、被告人と弁護人が訴訟の準備をするにあたってなるべく押収物を利用できるようにするため、検察官は還付・仮還付の規定の活用を考慮しなければならないとされています(刑事訴訟規則178条の11)。また、起訴後に裁判所が還付や仮還付の決定をするときは、検察官と被告人または弁護人の意見を聴くことになっています(刑事訴訟法123条4項)。防御の準備に必要だという事情は、この段階で正面から述べる意味があります。
還付請求の手順
還付や仮還付は、捜査機関の側から行われることもありますが、こちらから請求することもできます。手順は次のように整理できます。
- 押収品目録交付書で、返還を求める物を符号・品名・数量によって特定する。
- 現在どこが持っているかを確かめる。送致前であれば警察、送致後は事件を担当する検察官が窓口になる。
- 還付請求書または仮還付請求書を作成し、担当部署に提出する。事件名、被疑者名、押収年月日、対象物の符号と品名数量、請求者と押収物との関係、請求の理由を記載する。
- なぜその物が今必要なのかを、生活上・業務上の具体的な支障として説明する。
- 全部の返還が難しい場合に備え、一部の返還や、原本の代わりに複製を受け取る形が可能かどうかも併せて相談する。
- 返還を受けるときは、受領の書面を求められるため、目録と照らして品名・数量を確認してから受け取る。
請求の理由は、抽象的に「困っている」と書くよりも、いつまでに何のために必要なのかを書いたほうが検討されやすくなります。代替が利かない事情があるときは、その裏づけとなる資料を添えることも考えられます。
請求しても動きがないとき
請求に対して明確な回答がないまま時間が過ぎることもあります。押収や押収物の還付に関する処分に不服がある者は、検察官・検察事務官の処分については対応する裁判所に、司法警察職員の処分については職務執行地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所に、その取消しまたは変更を請求することができます(同法430条1項・2項)。これを準抗告といいます。過去には、請求に対して応答がないまま放置された事案について、事実上の却下処分があったものとして準抗告が認められた例もあります。
所有権放棄書に署名を求められたとき
押収の場面や取調べの際に、所有権放棄書への署名を求められることがあります。任意提出を受けて領置した物について、所有者が所有権を放棄する意思を示したときは、任意提出書にその旨を記載させるか、所有権放棄書の提出を求めるものとされています(犯罪捜査規範109条2項)。検察庁でも、所有権放棄の申立てがあるときは所有権放棄書を作成する取扱いになっています。
所有権を放棄すると、その物について返還を求める前提が失われます。放棄されて所有者がいなくなった物は、廃棄されることもあります。手続を早く終わらせたい気持ちから署名してしまい、後になって返してほしいと申し出ても、応じてもらえないという流れになりかねません。
署名を求められた場面で押さえておきたいのは、次の点です。
- 返してもらう必要がない物かどうかを、品目ごとに分けて考える。
- その場で判断がつかないときは、保留にして持ち帰る旨を伝える。
- 署名した書面の内容と日付を控えておく。
- 弁護人がついている場合は、署名の前に相談する。
なお、事件の性質上、返還が想定されない物について放棄を求められることもあります。その場合でも、どの物について求められているのかを目録と突き合わせて確認しておくことに意味があります。
返ってこない場合とその後の扱い
押収されたものが元の持ち主に戻らない場合もあります。代表的なのは次の三つです。
一つ目は、被害者に還付される場合です。押収した盗品等で留置の必要がないものは、被害者に還付すべき理由が明らかなときに限り、被害者に還付されます(刑事訴訟法124条1項)。この場合でも、利害関係人が民事訴訟の手続で権利を主張することは妨げられません(同条2項)。
二つ目は、没収の対象となる物や、そもそも適法に所持できない物です。判決で没収の言渡しがあった物は返還されません。
三つ目は、還付を受けるべき人の所在が分からないなどの理由で、還付をすることができない場合です。この場合は公告が行われ、公告をした日から6か月以内に還付の請求がないときは、その物は国庫に帰属します(同法499条2項・3項)。この期間内でも、価値のない物は廃棄されることがあります(同条4項)。引っ越しなどで連絡先が変わったときに、担当部署へ伝えておく意味はここにあります。
弁護士に相談する意味
押収された物の返還は、書面を出せば自動的に進むものではなく、留置の必要をどう見るかという捜査機関の判断が関わります。弁護人がつくと、事件の見通しを踏まえたうえで、どの物から返還を求めるのが現実的か、仮還付と還付のどちらで求めるか、複製で足りる場面はないかといった組み立てができます。担当検察官との窓口を弁護人が担うことで、本人が直接やり取りする負担も減ります。
もっとも、返還の時期や可否をお約束できるものではありません。それでも、目録を手元に置いて早い段階で相談しておくと、返還を求める順序や、署名を求められた書面への対応を落ち着いて判断できます。
当事務所では、初回のご相談を無料でお受けしており、24時間体制でご相談を受け付けています。身柄が拘束されている場合の接見にも対応しています。
まとめ
- 押収品目録交付書は、押収をしたときに作られる目録を渡す書面で、請求がなくても交付されるのが通常である(刑事訴訟法120条・222条1項)。
- 令状の写しは手元に残らないため、捜索の後に残る書面はこの一枚だけということが多い。
- 罪名、押収の年月日・場所、品名・数量・符号、担当部署などから、事件の枠組みと請求の窓口が読み取れる。任意に提出した物も押収物であり、返還には還付の手続が必要になる。
- 留置の必要がない押収物は事件の終結を待たずに還付され、請求により仮還付を受けられることもある(同法123条1項・2項)。
- 還付請求は目録で対象を特定して書面で行い、応答がないときは準抗告という手段がある(同法430条)。
- 所有権放棄書に署名すると、返還を求める前提が失われるため、品目ごとに分けて判断する。
押収品の返還でお困りの方へ
押収品目録交付書を受け取ったものの、何が持ち出されたのか、いつ返るのかが分からないまま時間が過ぎてしまうことは珍しくありません。仕事で使う端末や帳簿など、生活に欠かせない物が含まれている場合は、早い段階で見通しを立てておくことが、その後の負担を軽くします。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件のご相談を池袋・新橋の事務所でお受けしています。押収された物の返還を求めたい方、所有権放棄書への署名を求められて迷っている方は、お手元の押収品目録交付書をご用意のうえ、ご相談ください。


