【解決事例】わいせつ行為の疑惑により警察介入|示談交渉により不起訴処分の獲得と社内処分の回避を実現した事例
本記事は、2026年10月時点の道路交通法・自動車運転死傷処罰法などに基づいて作成しています。2025年6月1日施行の刑法改正により懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されたため、刑罰は拘禁刑で表記しています。また、2026年7月21日施行の自動車運転死傷処罰法の改正(危険運転致死傷罪への数値基準の導入)を反映しています。
「電動キックボードで歩行者と軽く接触し、その場では『大丈夫』と言われて別れたのに、数日後に警察から電話が来た」「自分も転んでけがをしたのに、事故の当事者として話を聞きたいと言われた」。電動キックボードの事故をめぐるご相談では、このように、思っていたよりも後になってから警察とのやり取りが始まる例が少なくありません。
電動キックボードの事故については、交通ルールや過失割合、損害賠償の考え方を解説した記事が多く見られます。いずれも誤りではありませんが、「警察に呼ばれた」という段階で何が起きていて、行く前に何を確かめておけばよいのかという点は、あまり整理されていないように思われます。
この記事では、電動キックボードの事故で警察から連絡を受けた方に向けて、呼ばれる理由、車体の区分の確認、問われうる責任、呼出しまでの準備、処分の見通しまでを順に整理します。過失割合や損害賠償額の算定は、保険会社や交通事故の民事を扱う専門家に委ねる部分が大きいため、本記事では刑事手続に関わる範囲で触れるにとどめます。
警察に呼ばれる理由は一つではない
「警察に呼ばれた」と聞くと、すぐに処罰されるのではないかと不安になる方も多いと思います。しかし、交通事故で警察から連絡が来る理由はいくつかあり、まずはどの目的で呼ばれているのかを確かめることが出発点になります。
実況見分・事情聴取・車体の確認
人がけがをした事故では、警察は事故の現場で当事者の説明を聞きながら位置関係や見通しなどを記録する「実況見分」を行い、そのうえで当事者から事情を聞いて供述調書を作成します。事故の直後に十分な時間がとれなかった場合や、相手方が後から医師の診断書を提出して人身事故として扱われることになった場合には、日を改めて呼ばれることがあります。
電動キックボードの場合は、これに加えて、事故を起こした車体が道路交通法上どの区分に当たるのかを確認するため、車体や購入時の書類について質問されることもあります。区分によって必要な免許や守るべきルールが変わるためです。
参考人として呼ばれたのか、被疑者として呼ばれたのか
事故の当事者であっても、呼出しの段階では立場がはっきりしないことがあります。電話を受けた際には、どの事故についての呼出しなのか、担当の部署と担当者の名前、当日の所要時間の目安、持参するものを確認しておくとよいでしょう。立場の違いについては『参考人』として呼ばれた|被疑者に切り替わる瞬間で詳しく説明しています。
日程は相談できることが多い
任意の呼出しであれば、仕事などの事情を伝えて日程を相談できることが多いです。ただし、連絡を返さないまま放置すると、捜査機関に不要な疑いを持たれるおそれがあります。呼出しを受けたら、応じる意思を伝えたうえで日程を調整するのが基本です。詳しくは警察からの呼出しの日程は調整できるのか|仕事との両立をご覧ください。
まず確かめたいのは「その車体が何に当たるのか」
電動キックボードの事故で特徴的なのは、同じ見た目の車両でも、道路交通法上の区分によって扱いが大きく変わる点です。警察に行く前に、ご自身が乗っていた車体がどの区分に当たるのかを確認しておくことをおすすめします。
「特定小型原動機付自転車」に当たるための基準
2023年7月1日から、一定の基準を満たす電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」として扱われ、16歳以上であれば運転免許なしで運転できるようになりました。主な基準は次のとおりです。
| 項目 | 主な基準 |
|---|---|
| 車体の大きさ | 長さ190cm以下、幅60cm以下 |
| 原動機 | 定格出力0.6kW以下の電動機 |
| 速度 | 時速20kmを超えて加速できない構造で、走行中に最高速度の設定を変えられないこと |
| 装置 | 最高速度表示灯(緑色の灯火)などを備えていること |
| 確認の目安 | 性能等確認済みシールが貼られていること |
さらに、最高速度を時速6km以下に切り替え、最高速度表示灯を点滅させている状態は「特例特定小型原動機付自転車」として扱われ、標識などで認められた歩道を通行できます。事故の時点でどちらの状態で走っていたのかも、通行してよい場所との関係で確認されることがあります。
基準から外れていた場合に起きること
速度の上限を超える設定ができる車体や、改造された車体は、特定小型原動機付自転車ではなく一般の原動機付自転車などとして扱われる可能性があります。その場合、運転には免許が必要となり、ヘルメットの着用も義務になります。
免許を持たずにこうした車体を運転して人にけがをさせた場合は、無免許であることにより刑が重くなる規定が適用されることがあります。無免許で過失運転致傷にあたる行為をした場合、罰金刑の定めがなく、10年以下の拘禁刑とされています(自動車運転死傷処罰法6条4項)。「免許はいらないと思っていた」という場合でも、車体の性能によって評価が変わりうるため、購入時の説明や販売店の表示などの資料を手元に集めておくことが大切です。
シェアリングサービスの車両だった場合
シェアリングサービスの車両は、事業者が基準に適合した車両を用意し、自賠責保険にも加入しているのが一般的です。ただし、事故の報告や保険の手続は利用者側からの連絡が前提となっていることが多いため、利用規約や事業者への事故報告の方法を確認し、警察とのやり取りと並行して進めておくとよいでしょう。
事故の内容によって問われうる責任
電動キックボードは、特定小型原動機付自転車であっても法律上は「車両」であり、原動機付自転車の一種です。そのため、事故を起こしたときの刑事上の扱いは、自動車やバイクと共通する部分が多くあります。事故の内容ごとの主な整理は次のとおりです。
| 事故の内容 | 問題になりうる規定 | 主な扱い |
|---|---|---|
| 物の損壊だけの事故 | 信号無視などの道路交通法違反 | 反則行為は交通反則通告制度で処理(物を壊したこと自体は、建造物の損壊など一部を除き刑事罰の対象外) |
| 人にけがをさせた事故 | 過失運転致傷(自動車運転死傷処罰法5条) | 刑事手続の対象 |
| その場を離れた | 救護義務・報告義務の違反(道路交通法72条1項) | 刑事手続の対象 |
| 飲酒していた | 酒気帯び運転・酒酔い運転(同法65条1項)、危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条) | 刑事手続の対象 |
人にけがをさせた場合の過失運転致傷
運転上必要な注意を怠って人にけがをさせた場合には、過失運転致傷罪が問題になります。法定刑は7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(自動車運転死傷処罰法5条)。同条には、けがが軽いときは情状により刑を免除できるという定めもあり、けがの程度や事故の態様、相手方との話し合いの状況などが処分の判断に影響します。
その場を離れてしまった場合
事故を起こした運転者には、けが人を救護し、警察に事故を報告する義務があります(道路交通法72条1項)。相手が「大丈夫」と言った場合でも、この義務がなくなるわけではありません。後から相手方の体調が悪化して届け出がなされ、防犯カメラの映像などから運転者が特定されることもあります。特定の仕組みについては防犯カメラ・交通系ICの履歴|後日に特定される仕組み、時間が経ってから連絡が来た場合の考え方については【刑事事件】事件から時間が経ってから連絡が来た|捜査が動く時期の読み方も参考になります。
飲酒していた場合
特定小型原動機付自転車でも飲酒運転は禁止されており、刑事罰の対象です。また、2026年7月21日施行の改正により、呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で人を死傷させた場合には、危険運転致死傷罪の対象となることが明確にされました。基準に満たない場合でも、正常な運転が困難な状態であったと判断されれば同罪が適用されうる点にも注意が必要です。
なお、特定小型原動機付自転車で交通違反をしても、原則として運転免許の違反点数は加算されないとされています。ただし、運転免許を持っている方が酒気帯び運転などの危険な違反をした場合には、免許の停止などの処分が検討されることがあります。また、反則行為の対象となる危険な違反を3年以内に繰り返した場合には、特定小型原動機付自転車の運転者講習の受講を命じられることがあります。
呼出しまでに準備しておくこと
事故の記憶は、時間が経つほど曖昧になります。呼出しの日までに、当日の事実関係と手元の資料を整理しておくと、聴取の場で落ち着いて説明しやすくなります。
事故当日の経過を書き出す
次のような点を、思い出せる範囲で時系列に書き出しておきましょう。
- 事故の日時と場所、周囲の明るさや天候。
- 走っていた場所(車道・自転車道・歩道)と、時速6km以下のモードに切り替えていたかどうか。
- おおよその速度、信号や一時停止の状況。
- 相手方を最初に認識した位置と、ブレーキや回避の操作。
- 事故後に相手方と交わした会話、連絡先の交換の有無。
分からないことは「分からない」と書いておき、推測で埋めないことが大切です。
手元の資料を集める
車体の購入記録や取扱説明書、性能等確認済みシールの有無、ナンバープレートと自賠責保険の証明書、シェアリングサービスであれば利用履歴の画面などを確認しておきます。事故直後に撮影した写真があれば、消さずに保存しておきましょう。
実況見分と供述調書で気をつけたい点
実況見分では、当事者が「ここで相手に気づいた」「ここでブレーキをかけた」といった位置を指し示し、それが図面に記録されます。記憶があいまいな点を、その場の流れで断定的に示さないように注意が必要です。
供述調書は、内容を読み聞かせてもらったうえで、記憶と違う部分があれば訂正を求めることができ、署名押印を拒むこともできます(刑事訴訟法198条4項・5項)。調書以外にどのような書面が作られるのかについては、取調べで作られる書面は調書だけではない|供述書・上申書・捜査報告書の違いで詳しく説明しています。
相手方にけががある場合の示談と処分の見通し
人身事故として扱われる場合、刑事手続と、相手方への賠償という民事の問題が並行して進みます。両者は別の手続ですが、相手方との話し合いの状況は刑事処分の判断にも影響します。
保険で対応できる範囲を確認する
特定小型原動機付自転車にも自賠責保険への加入義務があり、相手方のけがについては自賠責保険から一定の範囲で支払いを受けられます。ただし、自賠責保険は人身損害に限られ、支払いにも上限があります。任意保険に加入していない場合や、ご自身の個人賠償責任保険が原動機付きの車両による事故を補償の対象外としている場合には、不足分をどう手当てするかが問題になります。保険の契約内容は早めに確認しておきましょう。
示談を申し入れる時期
相手方が通院を続けている間は、損害額が確定していないため、示談の内容を固めにくいことがあります。一方で、謝罪やお見舞いの意思を示すことは早い段階から考えられます。示談の時期と内容は、刑事処分の見通しと相手方の状況の両方を踏まえて判断することが大切です。考え方については相手がまだ通院している|傷害事件で示談を申し入れる時期の決め方も参考になります。
処分が決まるまでの流れ
電動キックボードの事故では、逮捕されずに在宅のまま捜査が進むことが多く、警察の捜査を経て書類が検察庁に送られ、検察官が処分を決めます。けがの程度が軽く、相手方への賠償の見通しが立っている場合には、起訴されずに終わることもあります。一方で、略式手続による罰金となった場合には前科として扱われます。在宅事件の進み方は在宅事件になった場合|見えない時間の進み方、処分までの期間は書類送検されてから処分が決まるまでの期間、罰金の手続は略式命令が届いた|罰金の納付と正式裁判の申立て、前科と前歴の違いは前科と前歴はどう違い、どこに残るのか|期間と照会される場面で、それぞれ詳しく説明しています。
よくあるご質問
相手が「大丈夫」と言ったので、警察に届けずに別れてしまいました。今から連絡すべきですか。
事故の報告義務は、相手方の言葉によってなくなるものではありません。今からでも、事故があった場所を管轄する警察署に連絡することを検討してください。ご自身から申告したという経緯は、その後の処分の判断において考慮されることがあります。連絡の前に、当日の経過を書き出しておくと説明がしやすくなります。
自分も転倒してけがをしています。それでも加害者として扱われるのですか。
交通事故では、双方が当事者として事情を聞かれます。どちらの運転上の注意義務違反が事故の原因になったのかは、事故の状況によって判断され、ご自身のけがについても診断書を取得しておけば記録として残ります。相手方にも落ち度があると考える場合には、その根拠となる事実を具体的に説明できるよう整理しておきましょう。
運転免許を持っていますが、違反点数は加算されますか。
特定小型原動機付自転車に当たる車体での違反であれば、原則として運転免許の違反点数は加算されないとされています。ただし、酒気帯び運転などの危険な違反では、免許の停止などの処分が検討されることがあります。また、乗っていた車体が基準を満たさず一般の原動機付自転車として扱われる場合には、違反点数の対象になりうる点に注意が必要です。
まとめ
- 警察からの呼出しは、実況見分・事情聴取・車体の確認など目的がさまざまであり、まず呼出しの目的と自分の立場を確認する。
- 特定小型原動機付自転車に当たるかどうかは、大きさ・定格出力・最高速度・表示灯などの基準で判断され、外れていれば無免許運転などの問題が生じうる(自動車運転死傷処罰法6条4項)。
- 人にけがをさせた場合は過失運転致傷罪が問題となり、法定刑は7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金である(同法5条)。
- 相手が「大丈夫」と言っても、救護義務と報告義務はなくならない(道路交通法72条1項)。
- 飲酒していた場合は刑事罰の対象となり、2026年7月21日施行の改正で危険運転致死傷罪に数値基準が設けられた(自動車運転死傷処罰法2条)。
- 供述調書は内容を確認し、記憶と違う部分は訂正を求めることができる(刑事訴訟法198条4項・5項)。
- 自賠責保険で補える範囲を確認したうえで、示談の時期と内容を刑事処分の見通しと合わせて検討する。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。電動キックボードの事故で警察から連絡を受けた段階でも、呼出しへの臨み方や相手方との話し合いの進め方について、事故の状況に即してご一緒に整理することができます。
運転していたご本人はもちろん、ご家族が事故の当事者となり、どう支えればよいか迷っている方からのご相談もお受けしています。一人で抱え込まず、早めにご相談ください。


