保釈保証金は何で決まるのか|返ってくる条件と返ってこない場合
生成AIで作った性的な画像について、「実在しない人物なら問題ない」という説明を目にすることがあります。短くまとまっていて分かりやすい一行ですが、これだけを持ち帰ると判断を誤ることがあります。
「実在しない」という言葉が指している中身は、一つではないからです。人物そのものが存在しない場合と、人物は実在するのにその姿だけが作られた場合とでは、関わってくる法律が変わります。そして法律の側にも、被写体が実在することを前提にしているものと、前提にしていないものがあります。
この記事は、処罰されない範囲を探すためのものではありません。AIで生成した画像について、いまどの法律がどこまで届いていると考えられているのかという位置関係を整理し、不安を抱えている方が次に何を確認すべきかを判断できるようにすることを目的としています。
この記事が想定している場面
次のような状況を念頭に置いています。
- 生成AIで作った性的な画像を、SNSや販売サイトに載せてよいのか判断がつかない。
- 実在しない人物のつもりで作った画像について、警察から連絡があった。
- 知人や有名人の写真をもとに加工した画像を、友人に送ってしまった。
- 自分の端末にある画像が児童ポルノに当たるのかどうかが分からない。
- 家族の端末からAIで作られた性的な画像が見つかり、どう対応すべきか迷っている。
あわせて、次の三点を前提としてお読みください。
- この記事は法律の一般的な考え方を整理したもので、個別の事件の見通しを示すものではありません。
- すでに逮捕や呼出しを受けている場合は、記事を読むことより先に弁護士へ相談することをおすすめします。
- AIをめぐる法律は動いている分野であり、内容は執筆時点で確認できた状況に基づいています。
「実在しない」には三つの意味がある
議論がかみ合わなくなる原因の多くは、「実在しない」という一語が、性質の異なる三つの状況をまとめて指してしまう点にあります。
人物そのものが存在しない場合
誰の写真も使わず、指示文だけで人物を生成した画像です。たまたま似ている実在の人物がいるという事情がない限り、描かれた人はどこにも存在しません。
人物は実在するが、その姿が存在しない場合
実在する人の着衣の写真をもとに、AIで裸の状態を描き加えたものです。顔や体つきはその人のものですが、描かれている姿そのものは現実には存在しません。近年「性的ディープフェイク」と呼ばれているものの多くは、ここに入ります。
実在する姿をもとに加工した場合
実在する人が実際に写っている画像に、構図や画質の手を加えたものです。元になった姿が現実に存在している点で、前の二つとは性質が異なります。
この三つは、どの法律がどこまで届くかという点で扱いが分かれます。まずは手元にある画像がどれに当たるのかを見分けることが、出発点になります。
| 区分 | 被写体となった人 | 描かれている姿 |
|---|---|---|
| 指示文だけで生成した | 存在しない | 存在しない |
| 着衣の写真から姿を作った | 存在する | 存在しない |
| 実在する姿を加工した | 存在する | 存在する |
刑法175条は被写体が実在するかを問うていない
わいせつな画像の扱いを定めているのが刑法175条です。この条文は、AIをめぐる話題のなかでしばしば登場します。
条文が名指ししているのは「渡す行為」
175条が挙げているのは、わいせつな図画や電磁的記録を頒布すること、公然と陳列すること、そして有償で頒布する目的で所持または保管することです。被写体が誰であるか、その人が実在するかどうかは、条文の要件になっていません。見られているのは、その表現物自体の性質と、それをどう扱ったかです。
実在しない人物でも摘発された例がある
2025年4月には、生成AIで作成した実在しない成人女性の裸に見える画像をポスターにし、ネットオークションで販売したとして、わいせつ図画頒布の疑いで複数名が逮捕されたと報じられました。生成AIを使ったわいせつ物の販売事件の摘発としては初のケースとされています。「実在しない人物だから」という説明が、この条文との関係では通用しにくいことを示す出来事でした。
修正の有無が実務で持つ意味
この事件では、出品ページに載せた画像には修正が施され、実際に発送されたポスターは無修正だったと報じられています。実務上、性器などが修正されているかどうかは、わいせつ性の評価に影響する場面があります。ここで問われているのは、被写体が実在するかではなく、何がどう描かれ、どのように渡されたかです。
児童ポルノ禁止法は「実在する児童」を前提にしている
一方、18歳未満の描写については、児童買春・児童ポルノ禁止法が別の枠組みを用意しています。こちらでは実在性が正面から問題になります。
令和2年の最高裁の決定
最高裁は令和2年に、同法にいう児童ポルノとは実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法で描写したものをいい、実在しない児童の姿態を描写したものは含まないという考え方を示しました。この事件は、市販されていた写真集の写真をもとに、写真と見分けがつきにくいほど写実的なコンピュータグラフィックスを作成したという事案です。CGだから対象外とされたのではなく、元になった児童が実在したために対象になった、という関係にあります。
国会での説明
2025年4月の衆議院内閣委員会でも、AIで生成された性的な画像や動画について、具体的な証拠関係に照らして実在する児童の姿態を描写したものと認められるのであれば、児童ポルノに該当し得るという説明がなされています。判断の軸は生成の手段ではなく、描かれているのが実在する児童の姿態といえるかどうかに置かれています。
2026年6月の地裁判決が動かした部分
この線引きについて、2026年6月に名古屋地方裁判所が新しい判断を示しました。実在する女子児童の写真を生成AIで加工して作られた裸の画像を所持していた事案について、児童ポルノに当たると認めたものです。裁判所は、一般の人が見ればその児童の裸が実際に撮影されたものだと信じてしまうほど精巧である、と評価したと報じられています。性的ディープフェイクを児童ポルノと認めた司法判断としては初めてとみられています。
先に整理した三つの区分でいえば、これは人物は実在するが、その姿は存在しないという二番目の類型に当たります。従来は実在性が否定される方向で語られることの多かった領域について、裁判所が該当を認めた点に意味があります。
一つの地裁判決をどう受け止めるか
もっとも、これは一つの地方裁判所の判断であり、上級審を経て確定した先例ではありません。専門家からは、着衣の児童の画像に裸の部分を描き加えたものは従来の考え方では児童ポルノに当たらないという指摘や、現行法の解釈を広げるのではなく新しい立法によるべきだという意見も出ています。
ここから読み取れるのは、この分野の線引きがまだ固まっていないということです。裏を返せば、実在しない児童だけを描いた画像についても、「対象外だから心配はいらない」と単純に受け止めるのは適切ではありません。
届きにくいと考えられている法律と、その理由
性的な画像をめぐる法律は他にもありますが、生成物にはそのまま当てはまらないと考えられているものがあります。
リベンジポルノ防止法と性的姿態撮影等処罰法
リベンジポルノ防止法が対象とする「私事性的画像記録」は、撮影された画像であることが定義の前提になっています。そのため、絵やCGのように撮影以外の方法で描かれたものは含まれないとされています。ある人の顔と別の人の裸の画像を合成したものについても、顔だけが写っている人との関係では、その人の姿態が撮影されたものではないと整理されています。性的姿態撮影等処罰法も、撮影という行為やそれによって生まれた記録を出発点にしています。
名誉毀損罪
実在する人が性的な行為をしているように見せる画像を公開した場合、名誉毀損罪が問題になることがあります。ただし、画質が粗く一見して偽物と分かるものや、合成であると明記されたものについては、事実を示したとはいえないとして成立が否定され得るという指摘があります。また同罪は親告罪であるため、被害者が気づいて告訴しなければ事件になりません。被害を受けた側から見ると、この点は救済のすき間として問題視されています。
| 法律 | 被写体が実在することを前提としているか | 主に問題となる行為 |
|---|---|---|
| 刑法175条 | 前提としていない | 渡す・公然と示す・有償で渡す目的で持つ |
| 児童ポルノ禁止法 | 前提としていると解されている | 一定の目的での所持・提供・公然陳列・製造 |
| リベンジポルノ防止法 | 前提としている | 不特定または多数への提供・公然陳列 |
| 性的姿態撮影等処罰法 | 前提としている | 撮影・提供・公然陳列 |
| 名誉毀損罪 | 前提としている | 公然と事実を示して評価を下げる |
条例という別の物差しがある
国の法律だけを見て判断できない点にも注意が必要です。鳥取県は2025年に青少年健全育成条例を改正し、生成AIなどを使って青少年の容貌の画像を加工して作られた姿態を描写したものを、条例上の「児童ポルノ等」に含めることを明記しました。その青少年の容貌を忠実に描写したものと認識できる場合に限る、という限定が付いています。
同じ改正のなかで、作成・製造・提供が禁止され、廃棄や削除を命じる仕組み、命令に従わない場合の氏名の公表、過料の定めも設けられました。青少年に関する条例は都道府県ごとに内容が異なるため、どこで行われたかによって扱いが変わる余地があります。
法律以外に効いている三つの物差し
刑事責任の話とは別に、実際の場面では次の三つが強く働きます。
- プラットフォームの利用規約。投稿の削除やアカウントの停止は、刑事責任の有無とは別の基準で行われます。
- 決済事業者やカード会社の方針。取扱いを認めない方針が示されれば、販売そのものを続けられなくなります。
- 民事上の責任。実在する人に似た画像であれば、肖像権やプライバシー、名誉感情の侵害として、損害賠償や削除の請求を受けることがあります。
「作っただけ」と「渡した」の間にある段階
同じ画像でも、どの段階まで進んだかによって関わる条文が変わります。
- 生成する。
- 自分の端末に保存する。
- 特定の一人に送る。
- グループなど閉じた範囲で共有する。
- 誰でも見られる場所に置く、または販売する。
刑法175条が主に向き合っているのは、四番目から五番目の段階と、有償で渡す目的での保管です。これに対して児童ポルノ禁止法は、作ることや一定の目的で持っていることにも及びます。「まだ誰にも渡していない」という事情がどの法律との関係で意味を持つかは、一様ではありません。
ネット上の説明を読むときの注意点
この分野は情報が入れ替わりやすく、説明の質にも差があります。
- 「実在しないから問題ない」という一行だけの説明は、どの法律について述べているのかが書かれていないことが少なくありません。
- 更新が止まっている記事は、2025年以降の摘発例や2026年の裁判所の判断を反映していません。
- 海外の法制度を前提にした説明が混ざっていることがあります。国によっては、作成そのものを処罰の対象としている例もあります。
- 個別の逮捕報道は、その事案の事情に基づくものです。自分の状況にそのまま当てはめることはできません。
相談の前に整理しておきたいこと
弁護士に相談する際は、次の点を思い出せる範囲でまとめておくと話が早く進みます。
- その画像を何をもとに作ったか。指示文だけか、誰かの写真を使ったか。
- 写真を使った場合、その人が誰で、当時何歳だったか。
- 画像をどこに置き、誰に渡したか。対価を受け取ったか。
- いつからいつまでの出来事か。
- 端末・クラウド・アカウントのうち、どこにデータが残っているか。
一方で、次の対応は避けたほうがよいと考えられます。
- 自己判断でデータを消すこと。証拠を隠したと受け取られたり、必要な説明の裏づけを失ったりすることがあります。
- 相手方や通報者に直接連絡すること。
- 記憶があいまいな部分を推測で埋めて説明すること。
まとめ
- 「実在しない」という言葉には、人物が存在しない場合、人物は実在するが姿が存在しない場合、実在する姿を加工した場合という三つの中身があります。
- 刑法175条は被写体が実在するかを要件にしておらず、実在しない人物の画像を販売した事案でも摘発されています。
- 児童ポルノ禁止法については、実在する児童の姿態であることが必要だという考え方が最高裁で示されています。
- 2026年6月には、実在する児童の写真をAIで加工した画像を児童ポルノと認めた地裁の判断が出ましたが、確定した先例ではなく異論もあります。
- リベンジポルノ防止法や性的姿態撮影等処罰法は撮影を前提にしているため、生成物には届きにくいと考えられています。
- 条例やプラットフォームの規約、民事上の責任という別の物差しも、同時に働いています。
- 早い段階で相談することで選べる手段は増えますが、それによって望ましい結果が約束されるわけではありません。


