児童買春・児童ポルノ事件の初犯|罰金で済むのか
インターネット上に性的な画像や動画を上げたあとになって、それが刑法175条の問題になるのではないかと気づき、不安を抱えたまま調べ始める方は少なくありません。
この記事は、ネットへのアップロードが条文の上でどう整理されるのかを、頒布と公然陳列という二つの言葉に分けて説明するものです。個別の事案の結論をお示しするものではなく、ご自身の状況がどのあたりに位置しているのかをつかむための見取り図としてお読みください。
ここで扱うのは、上げた側の立場です。何が写っていたか、誰が写っていたかによって、刑法175条とは別の法律が前に出てくる場面もあります。その点は後半で触れます。
この記事が想定している場面
- 自分で撮影した性的な画像や動画を、SNSや動画投稿サイトに上げた。
- クラウドの共有リンクを発行し、そのURLを掲示板やグループに書き込んだ。
- 他の人が公開しているページのURLを、自分のアカウントや掲示板に貼った。
- 有料の配信サイトやコンテンツ販売サービスに動画を出していた。
- 数年前に上げたものが今も残っていることに気づいた。
この記事は、写っているのが成人であることを前提に、刑法175条の枠組みを中心に説明します。18歳未満が写っている場合や、相手の同意なく撮影されたものが含まれる場合は、別の法律が主役になり、見通しが変わります。すでに警察から連絡を受けている方は、一般的な解説よりも個別のご相談を優先してください。
同じ「アップロード」でも、条文は二つの言葉で見ている
刑法175条1項は、わいせつな記録媒体などを「頒布」する行為と、「公然と陳列」する行為を並べて定めています。さらに同じ項の後段で、電気通信の送信によってわいせつな電磁的記録を頒布する行為も同じように扱うと定めています。
この二つは、見ている場面が違います。公然陳列は、不特定または多数の人がその内容を認識できる状態に置いたかどうかを見ます。頒布は、不特定または多数の人の側に記録が渡ったかどうかを見ます。置いたのか、届いたのか、という違いです。
「アップロードした」という一つの操作が、この二つのどちらの枠で見られるかは、上げ方の形によって変わります。
| 上げ方の形 | 条文の上で近い枠 |
|---|---|
| 画面上で見られる状態にして公開した | 置いた状態を見る枠(公然陳列) |
| 閲覧者の操作でファイルを取得できる形にした | 記録が渡ったかを見る枠(頒布) |
| 特定の相手にだけ直接データを送った | 相手方の性質しだいで頒布を検討 |
| 公開前のデータを手元やサーバーに置いていた | 有償で配る目的があれば別の項の対象 |
ダウンロードさせる形も「頒布」と評価されることがある
利用者がダウンロードの操作をして初めてデータが移る仕組みであっても、その操作は送信のきっかけにすぎず、上げた側がデータを送信したものといえるとして、頒布に当たると判断した最高裁の例があります。
「自分は置いただけで、落としたのは相手だ」という説明が、そのまま結論につながるわけではない、ということです。上げる操作は一回でも、その後どういう形で人の手元に渡る仕組みだったのかが見られています。
「公然と」は人数を数えるための言葉ではない
条文には二つの言葉が並んでいる
解説では「不特定多数」という言い方がよく使われますが、条文や判例が用いているのは「不特定又は多数」という表現です。相手が特定されていない場合と、相手は絞られていても人数が多い場合とが、それぞれ別に並べられています。どちらか一方に当たれば足りるという構造です。
そのため、「知り合いにしか見せていない」という説明は人数の問題を残し、「人数は少ない」という説明は相手が絞られていたかどうかの問題を残します。片方だけを示しても、もう片方の観点からの検討は残ることになります。
実際に見た人がいたかどうか
公然陳列は、内容を認識できる状態に置いたかどうかを問題にします。閲覧数がゼロだった、人の少ない時間帯だった、数分で消した、といった事情は、その状態を作ったこと自体を消すものではありません。
もっとも、閲覧された範囲や公開されていた時間の長さは、処分を決めるうえで考慮される事情ではあります。成立するかどうかの話と、どのくらいの処分になるかの話は、分けて考える必要があります。
範囲を絞ったつもりでも、評価が変わりにくい場面
- 申請すればほぼ誰でも承認される非公開アカウントに上げた。
- 出入りが自由なグループやコミュニティで共有した。
- リンクを知っていれば誰でも開ける形式の共有URLを発行した。
- 会員登録や課金を経れば閲覧できるサイトに上げた。
これらは、閲覧できる人の範囲がどこまで開かれていたかという観点から見られます。制限をかけた形をとっていたこと自体は判断材料の一つになりますが、それだけで結論が決まるわけではありません。
自分でデータを置いていない場合
自分のサーバーやアカウントにデータを置かず、他の人が公開しているページのURLを書き込んだだけ、というご相談もあります。この場合についても、陳列に当たるとした裁判例があります。
判断にあたって考慮されているのは、次のような事情です。
- そのURLから実際に画像や動画にたどり着くまでに、どれだけの操作が必要か。
- 閲覧を積極的に促すような書き方や案内をしていたか。
- 自分でデータを置いた場合と同じように見てよい関係にあるか。
単に文字列を書き込んだかどうかではなく、閲覧できる状態を作り出したといえるかという観点から見られている、ということになります。
サーバーが海外にあるかどうかで結論は決まらない
海外の事業者が運営するサイトに上げた場合や、データが海外のサーバーに保存されている場合について、日本の法律は関係ないのではないかと考える方がいます。しかし、国外に置いた配信の仕組みであっても、国内から操作して国内の利用者に向けて配信していた事案について、日本国内で行われた行為として扱った最高裁の判断があります。
サービスの所在地や運営会社の国籍は、それだけで結論を分けるものではありません。どこから操作していたか、誰に向けられていたかが見られています。
上げる前の段階を捉えている条文
刑法175条2項は、有償で頒布する目的で、わいせつ物を所持したり、電磁的記録を保管したりする行為も対象にしています。まだ公開していない段階のデータであっても、有償で配る目的があったと見られる場合には、この枠が問題になります。
逆に言えば、頒布の目的がない保管や、無償で配る目的にとどまる保管は、この項の対象としては書かれていません。また、持っていた数量そのものが要件になっているわけでもありません。ただし、数量や小分けの状態、価格の案内、決済の準備といった事情は、目的を推し量る材料として見られることがあります。
削除で変わる部分と、変わらない部分
投稿を消せばなかったことになるのか、というご質問はよくいただきます。公然陳列は、認識できる状態に置いた時点を捉える枠組みですから、後から削除したことによって、いったん生じた評価がさかのぼって消えるわけではありません。
一方で、削除にはまったく別の問題があります。すでに捜査が始まっている場面での削除は、証拠を隠す動きと受け取られ、身柄の扱いに影響することがあります。転載されていれば、手元の削除では追いつかない部分も残ります。
消すかどうか、いつ消すかは、公開が続いていることによる影響と、削除がどう受け取られるかの兼ね合いで答えが変わるところです。自己判断で動く前に、弁護士に状況を伝えてから決めることをおすすめします。
写っているものによって、前に出る法律が変わる
刑法175条が守っているのは、性秩序や健全な性風俗という社会全体の利益だと理解されています。そのため、何が写っているかによって、個人を守るための別の法律が前に出てくる場面があります。
- 相手に無断で撮影されたものが含まれる場合は、性的な姿態の撮影を処罰する法律に、提供や公然陳列の規定が置かれています。
- 同意を得て撮影したものでも、相手を特定できる形で公表した場合は、私事性的画像の規制に関する法律が問題になります。
- 18歳未満が写っている場合は、児童ポルノに関する法律が前に出て、規制の範囲が広くなります。
- 他人が制作した作品を上げた場合は、著作権の問題が重なります。
これらの法律には、刑法175条とは違って、守られている個人がいます。そのため、被害弁償や示談が課題として出てくることもあります。どの法律の枠で見られている事案なのかによって、取るべき対応は変わります。
刑法175条に「示談の相手」が見当たらないという構造
刑法175条が守っているのが社会全体の利益だと理解されていることから、この条文だけを見ると、示談すべき特定の被害者を思い浮かべにくい構造になっています。
ただ、それは傷ついた人がいないという意味ではありません。前の章のとおり、写っている人がいる事案では、別の法律の枠でその方が被害者として現れます。示談という手段が使えるかどうかも、どの枠で見られているかによって変わります。
記録はどこに残るか
- 投稿先のサービスに残るアップロードの履歴とログ。
- 端末やクラウドに残る元データと編集の履歴。
- 決済サービスや口座の入出金の記録。
- 他の利用者による転載や保存。
- やり取りをしていたメッセージの履歴。
なお、この罪の公訴時効は3年です。数年前の投稿であっても、どの時点の行為として整理されるかによって扱いが変わりますので、日付の分かる材料は残しておいてください。
相談の前に整理しておきたいこと
- いつ、どのサービスに、どのような形で上げたか。
- 公開の範囲をどのように設定していたか。
- 何が写っていて、写っている人が誰か。
- 金銭のやり取りがあったかどうか。
- 現在も公開された状態が続いているか。
一方で、避けておきたい対応もあります。
- 警察からの連絡を放置する。
- 状況を確かめないまま、端末やアカウントのデータを消す。
- 関係者に直接連絡を取り、自分だけで収拾を図ろうとする。
まとめ
- 刑法175条は、頒布と公然陳列という二つの行為を並べて定めている。
- 公然陳列は「認識できる状態に置いたか」、頒布は「相手の側に記録が渡ったか」を見る。
- 利用者のダウンロード操作を介する形でも、頒布に当たると判断された例がある。
- 条文は「不特定又は多数」と二つの言葉を並べており、どちらか一方に当たれば足りる。
- 実際に閲覧した人がいたかどうかは、公然陳列の要件そのものではない。
- 他人が公開している画像のURLを示す行為も、陳列に当たるとされた裁判例がある。
- サーバーや運営会社が海外にあることは、それだけで結論を分けるものではない。
- 有償で配る目的の保管については、公開前の段階を捉える定めが別に置かれている。
- 削除は成立の評価をさかのぼって消すものではなく、時期によっては別の問題を生む。
- 写っているものによって、撮影を処罰する法律や児童ポルノに関する法律が前に出る。
早い段階で弁護士に相談したからといって、望ましい結果が約束されるわけではありません。ただ、ご自身の事案がどの枠で見られているのかを早めに把握できれば、削除の判断や説明の仕方など、その後の対応を落ち着いて選びやすくなります。ご不安をお持ちの方は、一人で抱え込まずにご相談ください。


