接見禁止がついて家族が会えない|解除に向けた動き
落とし物を拾ったものの、その日のうちに交番へ行けず、気づけば数日が過ぎていた。財布やスマートフォンが自宅に置かれたままになっていて、いまさら届け出てよいものか迷っている。そうしたご相談は珍しくありません。
調べてみると、「1週間以内に届けないと権利を失う」という説明と、「届けないままにしていると罪になる」という説明が並んで出てきます。ただ、この二つは同じことを言っているわけではありません。前者は遺失物法という手続を定めた法律の話であり、後者が指しているのは刑法の話です。
「届けなかった」という一つの事実は、遺失物法と刑法という目的の違う二つの法律から、別々に評価されます。そして遺失物法が届出の遅れた拾得者に用意しているのは、刑罰ではなく権利の喪失です。刑事責任があるかどうかは、日数とは別の物差しで判断されます。この記事では、その二つの物差しがどう違うのかを整理します。
この記事が想定している場面
次のような状況を念頭に置いています。
・落とし物を拾ったが、その日のうちに届け出られないまま日が過ぎた
・届けるつもりで持ち帰ったものの、そのまま忘れていた
・拾ってから時間が経ってしまい、いまさら届け出てよいのか判断がつかない
・職務質問や所持品検査で拾得物が出てきて、事情を尋ねられている
・拾った物にまだ手をつけていないが、罪になるのか気がかりだ
いずれも、拾った物を使ったり売ったりした場面ではなく、「届けていない」という状態そのものが問題になっている場面です。
遺失物法が求めているのは「誰に渡すか」と「いつまでに渡すか」
遺失物法は、落とし物の拾得と返還に関する手続を定めた法律です。第4条第1項は、拾得者は速やかに拾得した物件を遺失者に返還するか、警察署長に提出しなければならないと定めています。
渡す相手は、拾った場所によって変わります。
| 拾った場所 | 渡す相手 | 根拠 |
|---|---|---|
| 路上や公園など施設の外 | 落とし主本人、または警察署長(交番・駐在所を含む) | 第4条第1項 |
| 駅、店舗、ホテル、電車内など施設の中 | その施設の占有者(鉄道事業者、店の経営者など) | 第4条第2項 |
| 施設の占有者が交付を受けた後 | 落とし主本人、または警察署長 | 第13条第1項 |
施設の中で拾った場合に警察ではなく施設側へ渡すこととされているのは、その施設で物をなくした人は、まずその施設に問い合わせることが多いからです。警察庁が定めた解釈運用の基準でも、この規定の趣旨は物件の早期返還にあると説明されています。
「速やかに」とはどの程度を指すのか
条文は「速やかに」としか書いていません。この点について、警察庁の解釈運用の基準は、勤務上や私生活上の用務を中断してまで直ちに提出に赴くことまで求めるものではないとしたうえで、自ら遺失者に連絡して返還する意思がない場合において、提出に赴く時間的余裕があるときは、時間をおかずに提出しなければならないものと解されるとしています。
施設の中で拾った場合の「速やかに」は、これより短い期間を指すものと説明されています。同じ基準は、特段の事情のない限り直ちに施設の占有者に交付しなければならない、としています。
届出が遅れたときに遺失物法が定めているのは、権利の喪失
では、この義務を果たさなかったらどうなるのか。遺失物法第34条は、次の場合に拾得者が権利を失うと定めています。失うのは、提出や保管に要した費用を請求する権利、報労金を請求する権利、そして落とし主が現れなかったときに物の所有権を取得する権利です。
| 該当する場合 | 条文 |
|---|---|
| 拾得した物件を横領したことにより処罰された | 第34条第1号 |
| 拾得の日から1週間以内に警察署長へ提出しなかった | 第34条第2号 |
| 施設の中で拾い、拾得の時から24時間以内に施設の占有者へ交付しなかった | 第34条第3号 |
よく見かける「1週間」「24時間」という数字は、この条文から来ています。これは権利を失う期限であって、犯罪が成立する期限ではありません。期限を過ぎたからといって、その時点で自動的に罪名がつくという仕組みにはなっていないのです。
期間の数え方にも決まりがあります。前記の基準によれば、第2号の「拾得の日から」は、午前0時に拾った場合を除いて初日を算入しません。第3号の「拾得の時から24時間以内」は即時から数えますが、拾った日の翌日がその施設の休業日であるときは、その休業日は期間に算入しないものと解されています。
遺失物法の罰則は誰に向けられているのか
遺失物法にも罰則の章があります。第41条から第44条までがそれにあたり、公安委員会の指示に違反した場合、拾得者から求められた書面を交付しなかった場合、帳簿を備えなかった場合などが並んでいます。
ただし、これらの規定が名宛人としているのは、施設の占有者や特例施設占有者です。落とし物を拾った個人が期限内に届け出なかったことについて、遺失物法は刑罰を用意していません。届出の遅れそのものを処罰する条文は、この法律のどこにも置かれていないのです。
「届けなかっただけで罪になるのか」という問いに対する遺失物法側の答えは、ここまでで出ています。刑事責任があるかどうかは、ここから先の刑法の側の問題になります。
刑法の側で問題になるのは第254条
落とし物を自分の物にした場合に問題になるのは、刑法第254条の遺失物等横領罪です。占有離脱物横領罪とも呼ばれます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 条文 | 刑法第254条 |
| 行為 | 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領すること |
| 法定刑 | 1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金もしくは科料 |
| 公訴時効 | 3年 |
法定刑の表記は、2025年6月1日から懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されたことに伴って改められました。改正前の表記が残っている解説も見かけますが、刑の重さの枠組みそのものが変わったわけではありません。
なお、落とし主の支配がまだ及んでいたと評価される状況であれば、刑法第235条の窃盗罪の問題になります。置き忘れてから間もない場面がこれにあたりますが、どこで分かれるのかは占有の有無という別の論点なので、ここでは立ち入りません。
「横領」とは何をしたことを指すのか
第254条が処罰の対象としているのは「横領」です。届け出なかったことではありません。
判例は、横領とは自己に領得する意思を外部に発現する行為をいうと解しています(最高裁昭和27年10月17日判決)。他人の物であるにもかかわらず、所有者でなければできないような扱いをした、その行為が問われるという整理です。
そのため、判断の中心になるのは次のような点になります。
・落とし物だと分かったうえで手元に置いていたのか
・自分の物として扱ったといえる行為があったのか
・届け出るつもりがあったといえる事情があるのか
日数が基準になっているわけではない
「何日で犯罪になるのか」という形で説明されることがありますが、条文にそうした期限は書かれていません。1週間や24時間という数字は遺失物法の権利喪失の期限であって、刑法の側の線引きとして置かれたものではないのです。
もっとも、日数がまったく無関係というわけでもありません。届け出る機会がいくらでもあったのに長く手元に置き続けていたという事実は、自分の物にするつもりだったという評価を支える事情として働き得ます。日数それ自体が基準なのではなく、日数が意思を推し量る材料になる、という関係です。
届けるつもりだったが遅れてしまった場合
拾った時点で届け出る意思があり、事情があって遅れたにすぎないのであれば、領得の意思を外部に発現する行為があったとは言いにくくなります。先に触れた解釈運用の基準が、用務を中断してまで直ちに赴くことまでは求めないとしているのも、届出には現実の時間的な制約が伴うことを前提にしているからです。
問題になりやすいのは、次のような経過をたどった場合です。
・拾った当初は届けるつもりだったが、途中で気が変わって手元に置くことにした
・持ち帰ったまま存在を忘れ、思い出した後も動かずにいた
・家族に見つかって指摘されたが、そのままにしていた
このうち、後から気が変わった場合には、気が変わった後の行動が評価の対象になります。忘れていた場合には、忘れていたという説明を裏づける事情があるかどうかが問われます。いずれにしても、経過を後から言葉だけで説明するのは簡単ではありません。
そもそも「拾った」ことになっているのか
遺失物法第2条第2項は、拾得とは物件の占有を始めることをいうと定めています。ただし、埋蔵物と他人の置き去った物については、これを発見することが拾得にあたるとされています。
この違いは、期間の起算点に影響します。解釈運用の基準は、置き去られた物については、自己の故意や過失によらず既にその占有下にあるため、第34条の1週間や24時間は発見した時から数えることになると説明しています。
もう一つ、手を伸ばした覚えがないのに拾得者の立場に立っている場面があります。同じ基準は、間違えて持ち帰った他人の傘や履き違えた他人の靴を、「誤って占有した他人の物」の例として挙げています。取り違えに気づいた後、そのまま自分の物として使い続ければ、拾って持ち帰った場合と変わらない評価を受けることになります。
逆に、廃棄された物であると客観的に認められる物は、持ち主のいない物として扱われ、遺失物法の対象にはなりません。ただし、捨てられているように見えるかどうかは外観だけで決まるものではないため、この判断を自分だけで下してしまうことには危うさがあります。
勤務先で拾った場合は立場が変わる
施設の中で、そこで働いている人が落とし物を見つけた場合、拾得者はその従業員本人ではなく施設の占有者、つまり店や事業者になるとされています(第2条第3項)。店員として拾った物をそのまま私的に持ち帰れば、施設に渡されるべき物を持ち出したという見え方になり得ます。
また、施設の中で拾った人が、その施設を通さずに直接交番へ持参した場合について、解釈運用の基準は、施設の占有者の同意が得られたときは第4条第2項の交付があったものとみなして取り扱うとしています。同意が得られないまま拾得の時から24時間が経過すれば、拾得者の権利は失われます。
落とし主に返さず、警察に出すことになる物
第4条第1項にはただし書があり、法令によってその所持が禁止されている物と、犯罪の犯人が占有していたと認められる物については、落とし主に返還せず、速やかに警察署長に提出しなければならないとされています。解釈運用の基準は、前者の例として爆発物、銃砲刀剣類、麻薬、火薬類、覚醒剤などを挙げています。
これらの物を拾って手元に置き続けた場合には、遺失物等横領罪とは別に、その物の所持を規制する法律の問題が生じます。心当たりがあるときは、手元に置いたまま時間を空けない対応が求められます。
犬や猫については、動物の愛護及び管理に関する法律に基づく引取りを都道府県等に求めた拾得者には、第4条第1項と第2項は適用されません(第4条第3項)。なお、野良犬や野良猫は他人が占有していた物ではないため、そもそも遺失物にはあたらないと説明されています。
時間が経ってしまった場合にどう考えるか
拾ってから日が経っている場合、いま届け出ると自分の立場が悪くなるのではないかと考える方がいます。ただ、届け出ないままにしても、物が手元にある状態は続きます。防犯カメラの映像や落とし主が出した遺失届から拾得の事実が判明することもあり、そのときには「なぜ手元にあるのか」を説明する場面のほうが先に来ます。
届け出るときには、拾った日時と場所、持ち帰った経緯、これまで届け出なかった理由を、思い出せる範囲で整理しておくと説明がしやすくなります。記憶があいまいなまま断定的に話してしまうと、後から訂正が必要になることがあります。
いま整理しておくとよいこと
1 拾った物がいまどこにあるか。開封や使用をしていないか
2 拾った日時と場所、そのときの状況
3 施設の中で拾ったのか、施設の外で拾ったのか
4 持ち帰った理由と、届け出られなかった経緯
5 中身を確認したかどうか、確認したとすればどの範囲か
6 落とし主や施設、警察から連絡を受けているかどうか
まとめ
・遺失物法は拾得者に返還または提出の義務を課しているが、届出の遅れそのものを処罰する規定は置いていない
・遺失物法の罰則(第41条から第44条)は、施設の占有者や特例施設占有者に向けられたものである
・「1週間」「24時間」は第34条の権利喪失の期限であり、犯罪が成立する期限ではない
・刑事責任は刑法第254条の遺失物等横領罪の問題で、法定刑は1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金もしくは科料、公訴時効は3年
・第254条が処罰するのは「横領」、すなわち領得の意思を外部に発現する行為であって、届け出なかったこと自体ではない
・日数は基準ではないが、長く手元に置いた事実は意思を推し量る材料として働き得る
・施設の中で拾った場合は渡す相手が施設の占有者になり、そこで働く人が見つけた場合は施設が拾得者となる
・所持が禁止されている物は、落とし主に返さず警察署長に提出することとされている
「届けなかった」という一つの事実が、手続上の問題にとどまるのか、刑事責任の問題になるのかは、外から見ただけでは分かりません。手元にある物の性質、拾った場所、経過した時間、これまでの行動をどう説明できるかによって、見え方は変わります。判断に迷う段階で状況を整理しておくことが、後の説明の負担を軽くします。弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件の経験を持つ弁護士が、事実関係の整理から今後の対応の道筋まで、ご相談を承っています。


