引用リポスト・いいねは名誉毀損になるのか|拡散行為の責任

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

X(旧ツイッター)で見かけた投稿を、コメントを付けずにリポストした。一言添えて引用リポストした。あるいは「いいね」を押しただけ――自分で文章を書いたわけではない行為について、後日「名誉毀損だ」として連絡や請求が届くことがあります。

実際に、コメントを付けずにリポストした人や「いいね」を押した人に損害賠償を命じた裁判例が出ています。一方で、同じ事案で一審と控訴審の結論が逆になった例もあり、どこまでが責任の範囲なのかは固まりきっていません。ここでは、拡散する行為がどのような理屈で責任につながるのか、引用リポスト・コメントなしのリポスト・「いいね」で何が違うのか、請求を受けたときに何を整理しておくとよいのかを、公表されている裁判例に沿って整理します。

自分で書いていない投稿でも責任が問われる三つの場面


拡散する行為として問題になりやすいのは、次の三つです。表示のされ方も、裁判で争われてきた中身も異なります。

行為画面上の表示のされ方裁判で問題になった点
引用リポスト自分のコメントと元の投稿が並んで表示されるコメントの内容と、元の投稿を広めたことの両方
コメントなしのリポスト元の投稿がそのまま自分のフォロワーに表示される元の投稿に賛同したといえるか/広めたこと自体をどう見るか
いいね押した事実が第三者から確認でき、フォロワーの画面に表示される場合もある侮辱的な投稿への賛意を示したといえるか


いずれについても、これまで判断が示されてきたのは民事の損害賠償請求の場面が中心です。

引用リポストは自分の投稿として扱われる


引用リポストは、自分のアカウント名義で、自分のコメントを付けて発信する形式です。書いたコメントの部分は、通常の投稿と同じように評価されます。

注意したいのは、コメント部分だけが判断の対象になるわけではない点です。引用リポストでは元の投稿の内容も一体として表示されますから、その内容を自分のフォロワーに届けたという側面が残ります。コメント自体は短い感想であっても、投稿全体として何を伝えたと読めるかが問われます。

「〜らしいです」「これは本当なのでしょうか」といった伝聞や疑問の形をとっていても、それだけで責任を免れるわけではありません。投稿全体を一般の読者の普通の注意と読み方を基準に見たときに、特定の人についての具体的な事実を示していると読めるのであれば、事実を示したものとして扱われる余地があります。元の投稿を批判する趣旨で引用した場合には、投稿全体からその趣旨が読み取れる形になっていたかが争点になります。

コメントを付けないリポストでも責任が認められている


自分の言葉をいっさい加えないリポストについても、賠償を命じた裁判例があります。

ひとつは、自治体の首長を務めた経験のある人物について、その人が職員を自殺に追い込んだという趣旨の投稿を、フォロワー十八万人超のジャーナリストがコメントなしでリポストした事案です。一審(大阪地裁令和元年9月12日判決)はリポストした側に三十三万円の賠償を命じ、控訴審(大阪高裁令和2年6月23日判決)もこれを維持しました。この事案では、リポストした側は訴訟が起こされるまでに投稿を削除していましたが、責任は認められています。

もうひとつは、性被害を公表したジャーナリストに関する風刺的なイラストを含む投稿をめぐる事案です。一審(東京地裁令和3年11月30日判決)は、元の投稿をした人に八十八万円、コメントを付けずにリポストした二名にそれぞれ十一万円の賠償を命じました。控訴審(東京高裁令和4年11月10日判決)は、一審判決が出た後にも同じ内容をリポストした行為について、追加の賠償を命じています。

拡散した側の責任額は元の投稿をした人と同じ水準ではないとしても、ゼロにはならない場合がある、ということです。

責任を認める理屈は一つではなく、言えることも変わる


コメントなしのリポストについて、裁判所の説明の仕方は分かれています。この違いは、拡散した側がどこまで事情を説明できるかに直結します。

考え方どう説明されているか拡散した側の説明が届くか
賛同を示す表現とみる特段の事情がない限り、元の投稿の内容に賛同する意思を示す表現行為とみる前後の投稿などから賛同ではないと読み取れる事情があれば、争う余地が残る
広めたこと自体をみる元の投稿の内容を自分のフォロワーが読める状態に置いたと認識していれば、違法性や責任を否定する事由がない限り責任を負う経緯・意図・目的・動機は問われないため、「情報提供のつもりだった」という説明は届きにくい


前者は大阪地裁令和元年9月12日判決や東京地裁令和3年11月30日判決の立て方で、後者は大阪高裁令和2年6月23日判決の立て方です。大阪高裁は、投稿を行った経緯や意図、目的、動機のいかんを問わず責任を負うという整理を示しました。

同じ「リポストしただけ」でも、前者の枠組みなら「賛同ではない」と説明する余地が残り、後者の枠組みではその説明はあまり意味を持ちません。この点を統一する最高裁の判断はまだ示されておらず、下級審の判断は分かれた状態が続いています。

「いいね」を押す行為はどう判断されたか


ボタンを押すだけの「いいね」についても、不法行為にあたるとされた裁判例があります。国会議員が、性被害を公表した女性を揶揄・中傷する内容の投稿二十五件に「いいね」を押した行為が争われた事案です。

一審(東京地裁令和4年3月25日判決)は、「いいね」を非常に抽象的で多義的な表現行為であるとして請求を退けました。これに対し控訴審(東京高裁令和4年10月20日判決)は結論を変え、慰謝料五十万円と弁護士費用五万円の合計五十五万円の支払いを命じています。この控訴審判決は、令和6年2月に上告が退けられて確定しました。

控訴審の判断は二段階に分かれています。第一段階では、その「いいね」が対象の投稿のどの部分に好意的・肯定的な評価を示したものと理解できるかを、次の点から検討しています。

・対象となった投稿の記載内容
・「いいね」を押した人と、投稿で取り上げられた人との関係
・「いいね」が押されるまでの経緯

第二段階では、それが社会通念上許される限度を超える侮辱行為にあたるかを検討します。この事案では、押した回数が二十五回に及んでいたこと、それ以前から同じ相手への揶揄や批判を繰り返していたこと、批判的な投稿には「いいね」を押していなかったこと、約十一万人のフォロワーがいたこと、国会議員として影響力のある立場だったことが考慮されました。

名誉感情を侵害するといえるだけでは足りず、限度を超えるかどうかが別に検討される構造です。この判決は具体的な事情が重なった事案についての判断であり、一回の「いいね」がただちに違法になると述べたものではありません。もっとも、押した行為そのものだけでなく、その人のこれまでの言動全体が評価の対象に含まれた点は、押す側にとって意味のある指摘といえます。

刑事の責任はどう考えられているか


刑法230条1項は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合に、三年以下の拘禁刑または五十万円以下の罰金を定めています。理屈のうえでは、リポストによって不特定または多数の人が読める状態に置くことも、事実を示す行為にあたる余地があります。

もっとも、公表されている裁判例を見るかぎり、リポストという行為だけを取り上げて刑事責任が問われたものは見当たりません。実際に争われてきたのは民事の損害賠償請求です。ただし、刑事の問題になりようがないという意味ではなく、内容や態様によっては捜査の対象となる可能性は残ります。

なお、名誉毀損罪も侮辱罪も親告罪で、告訴は犯人を知った日から六か月以内にする必要があります。公訴時効はいずれも三年です。事実を示さずに人を侮辱する内容の投稿を広めた場合には、侮辱罪の領域で問題になり得ます。

削除しても、それだけで責任がなくなるわけではない


指摘を受けて投稿を消したとしても、それまでに生じた損害が消えるわけではありません。先に挙げた大阪の事案でも、リポストした側は訴訟の前に削除していましたが、賠償が命じられています。相手方がすでに画面を保存していることも少なくありません。

東京の事案では、一審判決の後に同じ内容をリポストした行為が新たに問題とされ、追加の賠償につながりました。削除後に同じ内容を投稿し直したり、言い換えて発信したりすることは、経緯として不利に働きやすい行動です。

一方で、削除には損害の広がりを止める意味があり、その後の話し合いで評価される場面もあります。削除する場合でも、自分の投稿の日時や内容、元の投稿との前後関係が分かる記録は手元に残してください。アカウントごと消してしまうと、自分の側の説明材料まで失われることがあります。

責任を争う余地はどこにあるか


拡散した側として検討することになるのは、主に次の点です。

・元の投稿の内容が、そもそも特定の人の社会的評価を低下させるものといえるか
・投稿を読んだ人が、対象となった人物を特定できる形になっていたか
・示されている内容が、公共の利害に関する事実にあたる場面かどうか
・投稿全体から、批判や疑問を投げかける趣旨が読み取れる形になっていたか
・その投稿がすでに広く知られていたか、自分の発信によってどの程度広がったか

最後の点については、影響力の大きいアカウントによる拡散と、フォロワーの少ない個人による拡散とを同列には論じにくいという見方も示されています。ただし責任を否定する決まった基準ではなく、事案ごとの判断材料のひとつです。

請求や連絡を受けたときに整理しておきたいこと


弁護士に相談する際は、次の情報がそろっていると見通しを立てやすくなります。

・自分がリポスト・引用リポスト・「いいね」をした日時と、その画面の記録
・元の投稿の内容と投稿者、元の投稿が現在も残っているかどうか
・自分のフォロワー数と、その投稿がどの程度表示されたか
・その相手について、自分が過去にどのような投稿をしていたか
・相手方から届いた書面やメッセージの原本
・発信者情報の開示に関する意見照会書が届いている場合は、その回答期限

過去の投稿の履歴は見落とされがちですが、「いいね」の事案で言動全体が考慮されたことからも分かるとおり、後から評価に影響する材料になります。

控えたほうがよい対応


初期対応を誤ると、選べる解決の幅が狭くなります。次のような対応は避けてください。

・意見照会書や内容証明を放置し、期限を過ぎてしまうこと
・相手のアカウントに直接連絡し、その場でやり取りを続けること
・同じ内容を言い換えて投稿し直すこと
・元の投稿者と口裏を合わせようとすること
・請求額をそのまま受け入れ、内容を確認せずに合意書に署名すること

よくあるご質問


Q.鍵アカウントや限られた範囲へのリポストでも問題になりますか。

公開範囲を限定していても、読める人の数や関係性によっては、内容が広まりうる状態とみられることがあります。範囲を絞っていたことは判断材料のひとつになりますが、それだけで問題にならなくなるとは限りません。

Q.元の投稿をした人がいるのに、なぜ拡散した側まで責任を負うのですか。

拡散する行為は、元の投稿とは別個の行為として評価されるためです。裁判例でも、元の投稿をした人と拡散した人の双方に賠償が命じられた例があります。ただし金額は同じとは限らず、先に挙げた事案では拡散した側のほうが低額でした。

Q.「いいね」を取り消せば、話は終わりますか。

取り消しは、状況を悪化させないという意味では意味があります。ただし押した事実が記録されている場合には、それだけで責任の有無が変わるわけではありません。回数や経緯を含めて全体で評価されます。

まとめ


・引用リポストは自分名義の投稿として扱われ、コメントの内容と元の投稿を広めたことの両方が評価される
・コメントを付けないリポストについても、賠償を命じた裁判例がある(大阪地裁令和元年9月12日判決、東京地裁令和3年11月30日判決など)
・責任を認める理屈には、賛同を示す表現とみる立て方と、広めたこと自体をみる立て方があり、下級審の判断は分かれている
・後者では、経緯や意図、目的、動機を問わずに責任が認められる整理が示されている
・「いいね」についても、名誉感情を侵害し、かつ社会通念上許される限度を超える場合には不法行為とされた例がある(東京高裁令和4年10月20日判決、令和6年2月確定)
・削除しただけで責任がなくなるわけではなく、削除後の再投稿は不利に働きやすい
・実際に争われてきたのは民事の損害賠償が中心だが、内容によっては刑事の問題となる余地も残る
・請求や意見照会を受けた場合は、期限を確認したうえで記録を保存し、早めに相談すること

若井綜合法律事務所では、SNS上の投稿や拡散をめぐるトラブルについて、無料でご相談をお受けしています。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 引用リポスト・いいねは名誉毀損になるのか|拡散行為の責任

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼