【親子問題】統合失調症の子の症状で家族が困っている、相談先は?
親が亡くなった後も、今の家に子が住み続けられるようにしておきたい。けれども、家そのものを誰に渡すかまでは決めきれない。そうした事情から、遺言に「長男は自宅に住み続けてよい」とだけ書いておこうと考える親御さんがいらっしゃいます。ひきこもりの状態にある子や、収入が安定しない子と同居しているご家庭では、とくに切実な問題です。
結論から申し上げると、そのような一文を遺言に書くこと自体はできます。ただし、その一文がどのような法的効力を持つかは、文言や遺言書全体の記載によって変わり、思っていたほど子の住まいを守れないことがあります。この記事では、「住み続けてよい」とだけ書いた場合に起こりうることと、住まいを残したいときの書き方の選択肢を整理します。
本記事は、2026年11月時点の民法(2018年の相続法改正後の規定)に基づいて解説しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、実際に遺言を作成される際は専門家にご確認ください。
遺言に「書けること」と「効力が生じること」は別
遺言は、民法が定める方式に従って作成しなければならず(民法960条)、そのうえで法的な効力が生じるのは、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈、遺言執行者の指定など、法律が定めた事項に限られます。それ以外の記載は「付言事項」と呼ばれ、家族への思いや財産の分け方の理由を伝える意味はありますが、相続人を法的に拘束するものではありません。
「自宅に住み続けてよい」という一文は、家の所有者を決める記載ではありません。そのため、相続が始まった後、この一文がどのような意味で読まれるかがまず問題になります。考えられる読まれ方は、おおむね次の3つです。
- 相続人に向けた希望(付言事項)として読まれ、法的な拘束力はないとされる場合。
- 家に無償で住む権利をその子に与える遺贈として読まれる場合。
- 遺言書全体の記載から、その子に家を取得させる趣旨と読まれる場合。
遺言の解釈では、文言を形式的に読むだけでなく、遺言書全体の記載や作成当時の事情も踏まえて遺言者の真意を探るべきだとされています(最高裁昭和58年3月18日判決)。とはいえ、どの読み方になるかは相続人間の話し合いや、最終的には裁判所の判断に委ねられることになり、親御さんが望んだ形になるとは限りません。
配偶者居住権は子には使えない
「住む権利だけを残す」仕組みとして、2020年4月から配偶者居住権が設けられています。遺言(遺贈)や遺産分割によって、亡くなった方の配偶者が、相続開始時に住んでいた建物に原則として終身、無償で住み続けられる権利です(民法1028条)。また、配偶者には、遺産分割が終わるまでなど一定期間住み続けられる配偶者短期居住権もあります(民法1037条)。
しかし、これらはいずれも配偶者のための制度で、子には使えません。子について同じような権利を法律が直接用意しているわけではないため、「住み続けてよい」と書くだけでは、配偶者居住権のような安定した権利にはならない点に注意が必要です。
「住み続けてよい」とだけ書いた場合に起こりうること
家の持ち主は遺産分割で決めることになる
家を誰に相続させるかが書かれていなければ、家は遺産分割の対象となり、相続人全員の話し合いで取得する人を決めることになります。住み続けたい子が取得を希望しても、ほかの相続人との相続分の調整として代償金の支払いを求められることがあり、手元に資金がなければ取得が難しくなる場合があります。話し合いがまとまらなければ家庭裁判所の調停や審判に進み、家を売却して代金を分ける結論になることもあります。
遺産分割が終わるまでは住めることが多い
親と同居していた相続人については、遺産分割で家の帰属が決まるまでの間、無償で住み続けることを認める合意があったと推認されるという最高裁判例があります(最高裁平成8年12月17日判決)。そのため、相続が始まってすぐに家を出なければならない事態はそれほど多くありません。ただ、これはあくまで遺産分割が終わるまでの話で、その先の住まいを保障するものではありません。
住む権利と読まれても、守りにくい場面がある
仮に「住み続けてよい」が無償で住む権利(使用借権)の遺贈と読まれた場合でも、この権利は登記ができず、家が第三者に売却されると、新しい所有者に対して住む権利を主張することは難しいと考えられています。また、期間や使用の目的を定めていない使用貸借は、貸主側から解除できるとされており(民法598条2項)、借主である子が亡くなれば終了します(民法597条3項)。「いつまで、どのような条件で住めるのか」が書かれていない遺言は、こうした点で争いのきっかけになりやすいといえます。
固定資産税や修繕費の負担で対立することがある
家の所有者になった相続人は、固定資産税や修繕費を負担しながら、住んでいる子からは家賃を受け取れない状態になります。この状態が長く続くと所有者側の不満が高まり、明渡しをめぐる対立に発展することがあります。費用の分担が遺言で決められていないことも、対立の原因になりやすい点です。
住まいを残したいときの書き方の選択肢
子の住まいを確実に残したい場合は、「住み続けてよい」という希望を、法的な効力が生じる形に置き換えて書く必要があります。主な選択肢は次のとおりです。
| 方法 | 内容 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 住む子に家を相続させる | 住む子が家の所有者になる | ほかの子から遺留分侵害額を請求されることがある。管理や税金の負担が子にかかる |
| ほかの子に家を相続させ、住まわせる負担を付ける | 所有者は別の子で、住む子はその負担として住まわせてもらう | 負担が守られないときの対応を考えておく必要がある |
| 住む権利を遺贈する | 所有とは別に、無償で住む権利を与える | 期間や条件を明記しないと解釈が分かれやすく、第三者への売却に弱い |
| 遺言で信託を設定する | 受託者が家を管理し、子は受益者として住む | 受託者の確保と設計に手間と費用がかかる |
| 付言事項で思いを伝える | ほかの家族に理由や希望を伝える | 法的な拘束力はなく、ほかの方法と組み合わせて使う |
住む子に家を「相続させる」
最も分かりやすいのは、住み続けてほしい子に家そのものを相続させる方法です。「遺言者は、次の不動産を長男○○に相続させる」と、登記事項証明書の記載どおりに不動産を特定して書いておけば、その子は相続開始と同時に家を取得し(特定財産承継遺言、民法1014条2項)、単独で相続登記を申請できます。
一方で、ほかの子には法定相続分の2分の1にあたる遺留分があり(民法1042条)、家の価値が大きいと、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求められることがあります(民法1046条)。また、所有者になれば固定資産税や修繕の負担も子が担うことになるため、子自身にその管理ができるかも考えておく必要があります。
ほかの子に相続させ、住まわせる負担を付ける
住む子に家の管理を任せるのが難しい場合には、家は別の子に相続させ、その代わりに「長男が生存している間は、長男を自宅に無償で住まわせること」といった負担を付ける方法があります。負担付遺贈と呼ばれる形で、受け取った側は、受け取った財産の価額を超えない範囲で負担を履行する責任を負います(民法1002条1項)。
負担が守られない場合、ほかの相続人は相当の期間を定めて履行を求め、それでも履行されないときは家庭裁判所に遺言の取消しを請求できます(民法1027条)。ただ、取消しまで進むと家の帰属がかえって不安定になることもあるため、負担の内容はできるだけ具体的にし、遺言執行者を指定しておくなど、守られやすい形を整えておくことが大切です。
住む権利を遺贈する
家の所有者は別に決めたうえで、住み続けてほしい子に無償で住む権利を遺贈する方法も考えられます。この場合は「長男が死亡するまで」「固定資産税は所有者が負担し、光熱費と通常の修繕費は長男が負担する」など、期間と条件を具体的に書くことが欠かせません。ただし、先に触れたとおり、この権利は登記ができず第三者への売却に弱いため、所有者となる相続人に負担を付ける方法と組み合わせて検討することが多いでしょう。
遺言で信託を設定する
遺言によって信託を設定し(信託法3条2号)、信頼できる親族などを受託者として家の管理を任せ、住み続けてほしい子を受益者として住まわせる方法もあります。子が亡くなった後の家の帰属先まで決めておける点に特徴がありますが、受託者を引き受けてくれる人がいるか、信託の内容をどう設計するかなど、準備に手間と費用がかかります。
付言事項で思いを伝える
付言事項に法的な拘束力はありませんが、なぜその子に住まいを残したいのか、ほかの子にどう協力してほしいのかを書いておくことで、相続人が遺言の内容を受け止めやすくなることがあります。単独で使うのではなく、ほかの方法を補う役割として使うのが現実的です。
遺言を書く前に決めておきたいこと
「住み続けてよい」という希望を実際に機能させるには、次の点をあらかじめ決めておくと、遺言の内容がぶれにくくなります。
- 家の所有者を誰にするか(住む子本人か、別の相続人か)。
- 住み続けられる期間(子が亡くなるまでか、一定の年数か)。
- 固定資産税・修繕費・光熱費を誰が負担するか。
- 子が施設に入るなどして住まなくなった場合に、家をどう扱うか。
- ほかの子の遺留分に配慮した財産の配分になっているか。
- 遺言の内容を実現する遺言執行者を誰にするか(民法1006条)。
また、形式の不備や解釈をめぐる争いを避けるため、公証人が関与する公正証書遺言で作成しておくことも選択肢になります。
ひきこもりや自立の途中にある子がいるご家庭では
当事務所には、成人した子のひきこもりや家庭内暴力、金銭の無心に悩む親御さんからのご相談が寄せられます。そのなかで、「自分たちが亡くなった後も、せめて住む場所だけは残してやりたい」という声を伺うことは少なくありません。
ただ、住まいだけを残しても、固定資産税や光熱費を払う収入がなければ、生活が続かなくなるおそれがあります。家の維持をきょうだいに頼る形にすれば、きょうだいの負担が重くなり、関係がこじれることもあります。住まいの残し方は、子の収入の確保や金銭管理、見守りの体制とあわせて考えることが大切です。親亡き後の生活全体の設計については、【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかもあわせてご覧ください。
よくあるご質問
自筆で「長男はこの家に住み続けてよい」とだけ書いた遺言は無効になりますか
全文・日付・氏名を自書して押印するなど、自筆証書遺言の方式(民法968条)を満たしていれば、遺言そのものが無効になるわけではありません。問題になるのは、その一文にどのような効力が認められるかで、希望を述べた付言事項として扱われる可能性もあります。すでにこのような遺言を書いている場合は、内容を見直しておくと安心です。
家を相続した別の子が、住んでいる子に出ていくよう求めることはありますか
遺言に住む権利がはっきり書かれていない場合、所有者となった相続人が、使用貸借の終了などを理由に明渡しを求めることは考えられます。ただし、同居してきた経緯や遺言の趣旨によって判断は分かれ、直ちに退去しなければならないとは限りません。住んでいる子に家から出てもらう場面の法的な整理は、【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで解説しています。
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住まいの残し方に迷ったら
「住み続けてよい」という一文に込めた思いを形にするには、家の所有者、住む期間、費用の負担、ほかの子への配慮まで含めて遺言を組み立てる必要があります。当事務所では、成人した子の自立に向けた支援とあわせて、親亡き後の住まいや生活への備えについてもご相談をお受けしています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


