【ストーカートラブル】ストーカー被害で心療内科に通った費用を請求できる?

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

本記事は、2026年10月時点の法令と一般的な裁判実務をもとに、ストーカー被害で生じた通院費の請求について整理したものです。実際に認められる範囲は事案ごとの事情によって変わりますので、目安としてお読みください。


つきまといや待ち伏せ、執拗な連絡が続くと、眠れない、外出が怖い、仕事に集中できないといった不調が出てくることがあります。心療内科や精神科に通い始めた方から「この通院費は相手に払ってもらえるのか」というご相談をいただくことは少なくありません。

 結論からいうと、ストーカー行為が原因で通院が必要になったといえる場合には、治療費や通院にかかった費用を損害として加害者に請求できる可能性があります。ただし、請求が認められるかどうかは、行為の立証、通院との結びつき、通院の必要性といった点に左右されます。本記事では、請求できる費用の範囲と、通院中から準備しておきたいことを順に整理します。

心療内科の通院費は「損害」として請求の対象になり得る

 ストーカー行為は、相手の平穏な生活を害する違法な行為であり、民法709条の不法行為にあたり得ます。不法行為によって生じた損害は、加害者に賠償を求めることができます。

 損害には、精神的な苦痛に対する慰謝料のほか、実際に支出した費用(財産的損害)が含まれます。心療内科の通院費は後者にあたり、慰謝料とは別の項目として組み立てるのが一般的です。主な項目は次のとおりです。

項目内容主な裏付け資料
治療費診察料・検査料・処方された薬代など領収書・診療明細書・調剤明細
通院交通費通院のための電車・バス代など通院日と経路のメモ・ICカードの利用履歴
文書料診断書や意見書の作成費用領収書
カウンセリング費用医療機関の内外で受けたカウンセリングの費用領収書・医師の指示の有無が分かる資料
慰謝料通院を要する不調が生じたことによる精神的苦痛診断書・通院の経過


 慰謝料と通院の関係については、通院を要するほどの不調が生じた事実が、金額を考えるうえでの事情の一つとして考慮されることがあります。慰謝料の考え方は【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで詳しく解説しています。

 なお、刑事事件の面でも、精神的な障害を生じさせた場合に傷害にあたるとした最高裁の判断(最高裁平成24年7月24日決定)があります。ストーカー行為の態様によっては、ストーカー規制法違反とは別に、傷害として扱われる余地が検討されることもあります。

請求が認められるかを分ける3つのポイント


ストーカー行為があったことを示せるか

 請求の出発点は、相手がどのような行為をしたかを示すことです。メッセージの画面、着信履歴、待ち伏せの日時と場所のメモ、防犯カメラの映像、警察への相談記録などが手がかりになります。相手が行為そのものを否定している場合には、ここが最初の争点になります。

通院とストーカー行為が結びついているか

 通院費を請求するには、ストーカー行為が原因で不調が生じ、通院が必要になったという結びつき(因果関係)を示す必要があります。行為が始まった時期と初診の時期が近いこと、受診の際に医師へ被害の内容を伝えていること、診断書に経緯が記載されていることなどが、結びつきを裏付ける材料になります。

 被害の前から同じような症状で通院していた場合には、悪化した部分に限って損害と評価されたり、もともとの体質や既往症を理由に賠償額が調整されたりすることがあります。以前の通院歴があっても請求ができなくなるわけではありませんが、被害の前後で症状や通院頻度がどう変わったかを整理しておくことが大切です。

通院の必要性と期間が相当といえるか

 通院が長期にわたる場合や、医療機関以外で受けたカウンセリングの費用を含める場合には、その必要性が争われやすくなります。医師から勧められて受けたカウンセリングであれば、その経緯を記録しておくと説明がしやすくなります。

通院中から揃えておきたい資料

 後になって資料を集め直すのは手間がかかるため、通院を始めた段階から次のものを保管しておくことをおすすめします。

  • 医療機関と薬局の領収書・明細書。
  • 通院日、交通手段、運賃を記したメモ。
  • 病名、初診日、症状の経過が分かる診断書。
  • 眠れない日や外出できなかった日など、体調の変化を書き留めた記録。
  • ストーカー行為の日時・内容と、それを裏付ける画面や映像。
  • 警察へ相談した日付と対応した部署の記録。


 受診の際は、起きた出来事と今の症状を、医師にそのまま伝えることが大切です。被害を大きく見せようとする必要はありません。事実をそのまま伝えたうえでの記載のほうが、後の手続では信用されやすくなります。

受診をためらう方が気にしやすい点


通院歴が保険の加入に影響しないか

 生命保険や医療保険に新しく加入する際、告知の中で精神科や心療内科の通院歴を尋ねられることはあります。そのため受診をためらう方もいらっしゃいます。ただ、通院の記録がなければ、不調の程度や通院費を裏付けることは難しくなります。何より、体調を整えることを優先して、必要と感じたら受診を検討していただくのがよいと考えます。

健康保険を使ってよいか

 加害者のいる被害であっても、健康保険を使って受診することはできます。ただし、第三者の行為による傷病として、加入している保険者への届出を求められることがあります。扱いは保険者によって異なるため、受診前後に確認しておくと安心です。

自己負担を軽くする制度はあるか

 継続的な通院が必要な場合には、医療費の自己負担を軽くする自立支援医療(精神通院医療)を利用できることがあります。また、都道府県警察には、犯罪被害者のカウンセリング費用を公費で負担する制度があり、対象となる事件の範囲は地域によって異なります。こうした制度を使った場合、加害者に請求する通院費は、実際にご自身が負担した額を基準に考えることになります。

どのような方法で請求するか

 通院費を含む損害の請求には、主に次の方法があります。

  1. 書面で請求額と内訳を示し、支払いを求める方法。
  2. 刑事事件の示談交渉の中で、通院費を含めて賠償を取り決める方法。
  3. 相手が応じない場合に、民事訴訟を起こして請求する方法。


 加害者と直接やり取りをすることは、被害者にとって大きな負担になり、接触の機会を増やすおそれもあります。弁護士が窓口になれば、相手と顔を合わせずに請求や交渉を進めることができます。

 示談の場面で気をつけたいのは、通院がまだ続いている段階で合意する場合です。示談書には「この合意のほかに請求をしない」という清算条項を入れるのが通常のため、合意した後に生じた通院費を改めて請求することは難しくなるのが一般的です。将来の通院費をどう扱うかを条項で決めておく、ある程度症状が落ち着いてから金額を確定させるなどの工夫が考えられます。示談の条件の決め方は【ストーカートラブル】示談に入れる条件|接触禁止・転居・違約金もあわせてご覧ください。

 また、損害賠償の請求には期限があります。不法行為による請求は、損害と加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害する場合は5年)で時効にかかるとされています。精神的な不調がどちらにあたるかは議論の余地があるため、3年を目安に早めに動くほうが安全です。

よくあるご質問


被害から時間が経ってから通院を始めた場合でも請求できますか

 請求できる可能性はあります。ただし、行為から初診までの期間が空くほど、ほかの原因による不調ではないかと争われやすくなります。受診が遅れた事情(仕事を休めなかった、外出自体が怖かったなど)を説明できるようにしておくとよいでしょう。

加害者が刑事処分を受けていなくても請求できますか

 民事上の損害賠償は、刑事処分の有無とは別の手続です。警告や逮捕に至っていない場合や不起訴になった場合でも、ストーカー行為と損害を示すことができれば請求は可能です。ただし、刑事手続の記録が使えない分、ご自身で残した記録の重みが増します。

警察と弁護士のどちらに先に相談すればよいですか

 身の危険を感じている場合は、まず警察への相談を優先してください。そのうえで、通院費や慰謝料の請求、接触をやめさせる取り決めなど民事上の対応は弁護士が担います。順序の考え方は【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序で解説しています。

関連する解説記事



 ストーカー被害による心身の不調は、目に見えにくい分、ご本人が我慢を重ねてしまいがちです。通院費の請求は、まず体調を整えることを前提に、領収書や記録を残しておくことから始まります。請求できるか判断がつかない段階でも、手元の資料をもとに見通しを一緒に整理することができます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【ストーカートラブル】ストーカー被害で心療内科に通った費用を請求できる?

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼